風の恋人


彼は風
掴むことができず、わたしの指をすりぬけていってしまう
彼は…風


「陛下、ジタン殿をご存じですか?」
そう聞かれてダガーは書類の山から顔を上げた。
「あら…見かけてないけど?」
「またですか…まったく、仮にも一国の王であるというのに城をぬけだすなど…」
やれやれ、と言ったようにベアトリクスはため息をついた。
「そうね。本当にしょうがない人だわ」
そう言ってダガーが窓を開けると、風が入り込みカーテンといっしょに彼女の漆黒の髪を舞い上げた。
ダガーはくすぐったそうに、くすくすと笑った。


彼は風
とどまることを知らない
彼は風
そうそれはまるで形はあるがつかまえることのできない雲のように
わたしの指をすりぬけていってしまう

彼の自由を願ったのはわたし
彼には風であってほしいから、いつまでも待とうと決めたの
彼のいつか帰るところでありたいから


「…ベアトリクス、行った?」
窓からジタンがひょっこりと現れた。
「ジタン!どうしたの?」
「貴族の顔と名前全部覚えろなんて無理だっての。なあダガー、今から街に行かないか?」
「あなたがサボりたいだけでしょ。観念して戻りなさい」
子供をなだめるかのようにダガーは彼の背中を押した。
「ハイハイ、わかりました」

「…明日、行きましょ」
ジタンが行こうとしたそのとき、聞こえるかどうかの声でダガーが呟いた。
「え?」
「一緒に街へ」
「ああ、約束な!」


彼は風
だけどわたしのもとにかならず帰ってきてくれる
だから闇夜に浮かぶ船を港へと導く灯台のように
彼が迷わないように照らしてあげるの
わたしはここにいるよ、ずっと待ってるからって

彼は風

風の恋人

風の恋人

ファイナルファンタジー9のジタンとダガーのカップリング小説です。 ED後のアレクサンドリア城での日常のある一コマ。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-19

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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