チカ
チカは橋を渡る。
星の眠る谷へ架かる橋だ。
キイ、キイ。
星の寝言を靴で踏む。
ギイ。
チカは橋のまんなかでしゃがみ、
チカチカ光る目で谷を覗く。
青く黒い谷底で、
暗い星がうなされている。
チカはまばたきで光を落とし、
暗い星の夢をきらめかせようと試みる。
*
チカは落とし穴の底から空を見あげた。
黒雲と晴天。
ちょうど半分のまるい窓。
天使と悪魔とどっちが掘った穴ですか。
ドキドキしながらチカは待つ。
暗い底でチカチカと目を光らせて。
またたく光に気づいてくれるのは、
天使と悪魔とどっちだろう。
*
チカは眠りへ落ちる最後の瞬間にいつも思う。
チカチカと点滅する光。
白と黒の鍵盤を正しく奏でようとする大きな手。
聞こえない音。
誤る指の可憐さ。
その音を、手を、間近で。
点滅する思いは夢へ吸いこまれ、
目覚めたときにはどこにもない記憶。
残るのは、チカチカと光るなにか。
*
チカの目がチカチカ光るのは、
消えては現れるピカピカの、
ラッキースターを見てばかりいたから。
消えたまんまのラッキースターは、
くもった氷の向こう。
溶けない氷のあっち側。
チカは目を点滅させて光をこぼす。
そのときチカの目から落ちるのは、
ちいさなかわいいラッキースター。
*
チカチカ
チカチカ
チカチカ
チカチカ
チカチカ
チカチカ
チカチカ
チカチカ
チカチカ
チカチカ
チカチカ
チカチカ
……チカ。
*
チカは目覚めると星の上へいた。
たくさんの星が落とし穴を埋めて、
チカを地上へ押しあげていた。
太陽を受けてチカチカ輝く星の寝台。
チカの胸には暗い星のかけらがひとつ。
耳へあてると、
ギイ、
声が聞こえる気がした。
星のかけらをポケットへしまって、
チカはまた歩き始める。
森を抜けて。
西へ。
光を溶かす太陽を追って。
チカはまっすぐ前を向く。
チカ