a twinkle star ~one day story~

本編を読んでから読むことを推奨しています。
この作品からでも多分読めます。

revez doucement  理×悠李

三月上旬、ついにその日はやってきた。
「受かったー」
大学からの合格通知を幸村に自慢しに行くと「良かったな」と淡々と返された。
「反応薄い・・・」
「いや、受かるだろうよ。俺も勉強見たし予備校にも通ってたし」
幸村は何か勉強をしていたのかそちらに意識を戻してしまった。
「冷たくない!?」
「知るか」
ガン無視である。
「光、お友達が来たわよー」
玄関からそんな声がして部屋の扉が開いた。
「お邪魔してます」
「あら、悠李くん。合格おめでとう」
何故もう知っているのか。そんな疑問を感じ取ったのか幸村の母親は口を開いた。
「だって受験番号知ってるから光ってば合格発表の時間にパソコンで調べてたのよ」
道理で反応が薄いはずである。
「余計なことを吹き込むなって」
幸村が怒った。
「ありがとー。付き合い長いけど初めて感動した。」
「おい」
そこで存在を忘れられかけていた来訪者が口を開く。
「お取り込み中なら出直します、よ?」
その声に振り返ると小柄な彼女が立っていた。
「野々、宮?」
髪の毛は伸び今は高い位置で一つにまとめられていた。ピンクベージュのコートがよく似合っている。
「・・・はい、そうですよ」
ふっと微笑んだ彼女の顔は大人びていた。
「合格したと幸村くんから聞いたので藍さんに此処に寄ってもらいました」
「・・・そっか」
久し振りすぎて何を話していいかさっぱり分からない。
「・・・ほら、帰れ。野々宮さん、悠李持って帰って」
ケッと幸村が吐き出した。
「幸村、お前いいやつだったんだな」
「・・・お前は黙れ」
意外と照れ屋らしい幼馴染は言葉とは裏腹に口元が緩んでいた。
「今日、うちでお祝いするから来いよ」
そう言うと彼は弾かれたようにこっちを見た。
「お礼」
そう言うと彼は口をパクパクさせた。
「いつから・・・!?」
「かなり前?」
首を傾げて見せる。
「お邪魔しましたー」
物が飛ぶ前に撤退する。彼女は後ろをついてきた。
「合格、おめでとうございます」
「・・・ありがとう」
彼女は何か思い出したように鞄の中を漁って箱らしきものを取り出した。
「一応お土産、です。良かったら幸村くんとでも食べて」
中を見るとクッキーのようだった。
「ありがとう」
「いえいえ。たいしたものじゃないから」
以前に比べて少し大人びてしっかりしているように見えた。彼女もまた離れている期間に色んなことを乗り越えたのだろう。
「四月からまたよろしくね」
「まあ学部違ったらそう会うことは無いですけどね」
彼女は淡々としていた。
「野々宮さん・・・」
「事実です。というか三回生からキャンパス違いますよね」
「嘘!?」
驚いた。
「知らなかったんですか」
呆れたような視線に何も言い返せなかった。
「・・・う」
どう弁解すべきか悩んでいると小さな悲鳴が聞こえて彼女が少しバランスを崩した。
「危ない」
その手を掴んで引き寄せた。そしていいことを思いつく。
「理」
「・・・急に何ですか?」
彼女が狼狽していた。
「そう呼んでもいい?」
「・・・・・・お好きに!!」
彼女が手を振り払って先を歩く。
「照れてるの?」
「うるさいです」
「仲良くしようねー」
その言葉は鮮やかに無視された。
「じゃ、またね」
車を待たせてあるのか戻っていく彼女にそう声を掛ける。
「次は学校で」
振り返ってそう言う彼女の笑顔は純粋な笑顔に見えて参った。
「うーわー・・・」


もうすぐまた一緒に過ごせるなんて。
幸せな少し先の未来を思い描いた。

revez doucement (甘く夢見て)   ―完―

a twinkle star ~one day story~

a twinkle star ~one day story~

「a twinkle star」完結記念の番外編になります。 時々短編を更新していきます。

  • 小説
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-19

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