陰喰師

あらすじ

昔々の平安の世、まだ陰陽師たちが存在しているこの時代に、ある種の鬼が増えつつあった。
その鬼たちは『心の鬼』と呼ばれ、陰陽師たちは苦戦を強いられていた。
そんなある日、一人の陰陽師が前代未聞の方法で効率的に心の鬼たちを倒していった。
その技術や呼び名は、弟子たちに引き継がれることとなる。
その名を陰喰師。
影を喰らう者という意味から、いつしか彼等はそう呼ばれるようになっていた。
――――――――――そして時は現代。
初代と同じく不老である青年が、一人の少年と出会ったことにより、運命の歯車は廻りはじめた――――――――――

序章 逃避

「僕じゃない...僕じゃない...やったのは全部彼女だ」
少年はそう呟いていた。
彼を追っているのは警察や自警団組織だ。

つまり彼は重要参考人或いは容疑者の可能性があった。
相当な距離を走っていたのだろう。
次第に遅くなっていく体に限界を感じたのか少年は路地裏へと逃げ込んだ。
そこで出会ったのは自分にそっくりな青年だった。

第一心 邂逅

「...ひっく...ひっく...なんでこんなことに」
路地裏に逃げた少年。
禊 蒼雲は泣いていた。
「全部...全部彼女がやったに決まってる」
そうは言っても蒼雲の体は血塗れだ。
何が起きたのかは知らないが他人の所為にしたくなるような事態だったのだろうか。
蒼雲が路地裏にあるゴミ箱の後ろに体育座りでしゃがみこみ、
泣いていると生ぬるい風が頬をなぜた。
同時に人の声がした。
「よっと...さぁ~て今度の世界はっ...と?」
陽気な声に警戒する蒼雲
その表情は酷く怯えてていた。
青年は蒼雲に気付くと近付き声をかけた。

「あっれ~? 君、こんなところで何してるのかな?」
その表情は蒼雲を見て一目で何故ここにいるのがわかったかのような笑顔が浮かんでいた。
「え……あ、アナタには関係ないでしょう」
普段ならこんな口調にならないはずの蒼雲が珍しく他人に素っ気ない態度を取った。
この青年にだけは弱味を見せてはいけないと本能的に悟ったらしい。
しかしその表情はバツが悪そうという表現がしっくりくるような表情で、蒼雲が嘘をつけない人柄であることを
明確に表していた。
「まぁ、それもそうだね」
青年は特に気にした風でもなくその場を立ち去ろうとした。
蒼雲は彼が立ち去るのを睨みつけながら待っていた。
しかし――――――――――――
彼は蒼雲の前まで来ると立ち止まった。
そしてこう言ったのである。

”君には鬼が憑いているよ”と

第二心 鬼雪

「え?」
まさに意表を突かれたのような表情で蒼雲は青年 蒼樹 敇青<あおき しせい>を見た。
「しかも、かなり昔からの付き合いみたいだね」
コノヒトはナニヲイッテイル?
見られたくない部分を見られているようで、蒼雲の中の何かがカチャリと音を立てて崩れ去った。

「意外と早いお出ましだったね、はじめまして」
蒼雲の纏う雰囲気が変わり始めても敇青は笑を崩さない。
一方蒼雲は意識を失ったかのようにぐったりとうなだれると次の瞬間にはその手に包丁が握られていた。
「随分と凶暴……いや、本人格くんを慕っているみたいだけど、君のお名前は?」

「お前のような輩に名乗る名前などない」
「そうか、名無しなんだね可哀想に☆」
その言動は明らかに様子のオカシイ蒼雲を煽るかのような発言だった。
「禊……蒼雲だ…」
相手は青筋を浮かべながらも、敇青が言ったとおりこの体の主である少年
蒼雲の名を名乗った。
「違う違う、君の名前だよ、”君”のね」
そう言うと敇青は蒼雲の胸を指差した。
(コイツ気づいてる。アタシの存在に)
その時初めて蒼雲に動揺にも似た困惑の表情が浮かんだ。
「鬼……雪<き……せつ>」
鬼雪と名乗った人格は、とても悔しそうに顔を歪めた。
最初に名乗る相手は別の相手が良かったとでも言うかのように……。

「鬼雪ねぇ……鬼名を持つって事はそれなりに経験を積んだってことだよねぇ」
独り言のようにつぶやく敇青を他所に
鬼雪と名乗った人格は沈黙を保っている。
「君さ、消滅するのと、この少年蒼雲くんだっけ? の元にずっといるのとどっちがいい?
 彼の人生をねじ曲げる勇気があるんなら僕は優しいから”特別に”選ばせてあげるよ」
その言葉にはかなりの説得力があった。
実際、鬼雪は蒼雲の人生に何か大きな影響を与えたのだろう。
敇青はこの鬼雪が消滅してでも蒼雲を守ると言うならば本気で消しにかかる気で居た。
しかし、彼いや彼女の口から出たのは蒼雲と共に在りたいという答えだった。

第三心 対面

「わかった。ただ、蒼雲くんには何が起こったのか理解してもらう必要があるから、君の姿は見せるけどいいね?」
先程まで殺意しかなかった瞳からは気配が消え、敇青が蒼雲の頭に手をかざすと
蒼雲から分離するようにショートヘアーの短い丈の着物を着た女性が現れたのだった。
見た目だけならばかなり美人の部類に入るだろう。
「…う。」
「蒼雲」
先程までの凶暴さはどこへやら、謎の女性 鬼雪が蒼雲を見つめる瞳は恋する乙女のそれと違わぬ視線であった。
「え、き、君は?」
鬼雪が蒼雲の体を乗っ取り、敇青と話していた間の記憶は蒼雲にはない。
それに、彼女と面と向かって会うのはこれが初めてだった。
「アタシは鬼雪。ずっとアナタの傍にいた」
感極まったのか鬼雪は蒼雲を抱きしめた。
「え、えぇ!?////////」
蒼雲からすれば今出会ったばかりの美人さんがいきなり自分を抱きしめているのだから
照れるものの、混乱するものの
そんな二人を敇青はニヤニヤと見ている。
ようやく蒼雲が敇青に見られていることに気づいたときには、警察の追っ手が路地裏まで捜査し始めている頃だった。

「ここじゃゆっくり話もできないな~ 仕方ない二人共付いて来てくれるかな?」
蒼雲は知らない人に着いて行ってはいけないしと躊躇したが、鬼雪が強引に蒼雲の手を引き
「わかった」
敇青の後に着いて行く。
「え!? あのちょっと!!」
一人話についていけない蒼雲は混乱するばかりだった。

第四心 陰喰師と呼ばれるもの(仮)

敇青に付き従い一行がたどり着いたのはさっきと同じ場所だった。
「え?」
移動したはずなのに同じ場所に付くとはどういうことか、蒼雲の混乱は増すばかりだ。
「さて、と。それじゃあ、状況を説明しようか」
相変わらず胡散臭い笑のまま先頭に立っていた敇青が振り向き
二人に向かって話し始めた。

陰喰師

陰喰師

以前公開していた陰喰師の初回修正版です。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-18

CC BY-NC
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CC BY-NC
  1. あらすじ
  2. 序章 逃避
  3. 第一心 邂逅
  4. 第二心 鬼雪
  5. 第三心 対面
  6. 第四心 陰喰師と呼ばれるもの(仮)