放課後学習クラブ
全てが自分の思う通りに進んでいる、こんなつまらない世界は大嫌いだった。
だから、自分から不幸を呼び寄せようと思った。
大人にしてはいけないと言われていることを積極的にやってしまおうと。
学校で、何を学ぶのか。学ぶことなんかない。
大人は、心が育っていない子供だから。
心が育ってしまった自分が楽しめることをしよう。
教えられるのではなく・・・。
逆に、教えてみようと思った。
誰か、奇想天外な話を教えてくれないか。
問1
「うわっ、おれまた居残りだ・・・」
「よっしゃ!居残りから開放されたぁ!!」
落胆の声と歓喜の声が上がる。
クラスのやつはみな、黒板にはられている紙に釘付けだ。
あの紙には定期テストで、いわゆる赤点をとった者の名前が書かれている。
名前をかかれたら、1ヶ月は、放課後に居残りをし、先生に個別指導をされる。
この学校独特の制度。
個別指導をうけたくなければ、いい点数をとれ。
学校からの、無言のメッセージだ。
生徒にとっては、地獄の時間帯である。
「赤崎、お前やっぱり、居残りなしか。つまんねーの」
突然うしろから、照宮が抱きついてくる。
「なに、お前また居残りか?こりねぇな」
「別に、なりたくてなったわけじゃねぇし。というか、赤碕、頼むから今日おれが終わるまでまっててくれよ。お前、成績優秀だからな。うらやましい・・・」
「はいはい・・・」
照宮とおれは、家が近いため、昔からよく遊んでいた、いわゆる幼なじみだ。
不思議なことに、幼稚園から、小学校、中学校と、クラスがいつも同じという、すごい腐れ縁である。
そして、喧嘩も全くしたことがない。
いつもくだらない話をしては、道草しながら一緒に帰っていた。
だから居残りの照宮を待つのには、もう慣れている。
でも、やはり待っているだけというのは、つまらない。
なにか暇つぶしができることは、ないだろうか。
放課後になった。
居残りではない生徒たちはみな、そそくさと帰っていく。
残っているのは、照宮と及川の二人だけだった。
「うわ・・・やっぱなんかさ、地獄だよ」
「確かにね、あんたと2人っきりなんて、地獄だよ」
照宮と限界まで遠い席に座って、及川は溜息とともにこぼす。
「はぁ?なにそのひどい発言は」
「ほんとのこと言ってるだけでしょ。誰だってそう思うって。」
・・・始まった。
廊下の壁にもたれて、日課のように聞き耳をたてる。
毎日お決まりの台詞。照宮と及川あかねは、相性がいいのではないかと思うほどだ。
「そういうことじゃなくて、言っていいことと、悪いことがあるだろって意味だ」
「言っちゃ悪いことを言った覚えはないんだけど」
「お前、本当に性格悪・・・」
コメディのようにとんとん拍子で進んでいく会話・・・曰く、口喧嘩。
素直になればいいのにな、お互いに。
その間にも、口喧嘩は激化していた。
「そんなんだから、友達少ないのよ。赤崎くんに頼ってばっかりじゃない。べたべたしてさ、赤崎くん可哀想。」
「友達少ないって、お前に言われたくないよ。それに、赤崎は親友なんだからいいだろ。」
話のネタにされるのは少し困るな。
そろそろ物が飛んでもおかしくない空気になって来た。
限界かな。
「・・・はいはい、そこまで。・・・この地獄の時間を共に過ごす仲間だろ。仲良くやれよ。」
たまりかねて教室に入ると、照宮がと潤んだ瞳で自分を見ていた。
「え・・・な、何?照宮」
「赤崎、お前、俺のこと迷惑か?そうなのか?違うよな?」
「い・・・いや、別に。もう慣れたし。」
あきれて言う。なんか、この光景も、毎月見ているような気がする。
「何、照宮。あんた、赤碕くんに待っててもらってたんだ。一人で帰れないんでちゅかぁ?」
「うわ、きもいぞ、及川」
全く・・・いくら止めてもきりがない。
まぁ、いいか。
このくらい元気がある方がいいな。
丁度いい暇つぶしになりそうだ。
作戦を開始するとしよう。
問2 作戦開始。
4時ちょうど。
担任が2階の階段を上ってくるのが、窓から見えた。
そろそろ頃合いか。
「おい、照宮、及川。耳、ふさいでろよ」
「へ?何で。」
「いいから。」
何かただならぬものを感じ取ったのか、照宮は耳を塞ぐ。
及川もそれに倣い、手で塞いだ。
上手くいくかどうかはわからないけれど。
ポケットに隠し持っていたスイッチを取り出す。
これから起こることへの期待と不安と興奮で、手が震えていた。
きっと誰かが自分の今の表情を見たら、不気味がるだろうな。
そう思いながらも、僕はためらうことはなく、
スイッチの電源を押した。
『ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ』
照宮も及川も、少し叫んでいた。
それでも、耳を塞ぐ手を放そうとはしない。
「なんだ、なにが起こった?」
と、言いながら階段にいた教師たちは階段を下りていく。
放課後学習クラブ