もう一つの終焉

「魔法少女まどか☆マギカ」のほむら中心の話です

私が彼女の運命を縛り付けていた。

「ほむら、君が時間を繰り返すたび、まどかは強くなっていったんじゃないかな?」

あいつはそういった。確かにそうだった。私が何度も時間を繰り返す中で違ったのは、『まどか』だった。
徐々に強くなっていって、キュウべえの彼女に対する執着も強くなっていった。

「君がまどかを最強の魔法少女に育ててくれたんだ」

いいえ、まだ魔法少女じゃない。魔法少女になんかさせない。

キュウべえが部屋から立ち去った後、その場から動けずにいた。
憎むべき詐欺師が言った真実。
本当のことだったから何も言えなかった。言い返すことができなかった。その場で撃ち殺せば少しは溜飲が下がったかもしれない。それもできなかった。
それくらい私は動揺していた。

――私が、まどかを?

守りたいと思った。
彼女との約束を守りたい。ただその一心で、ここにたどり着いた。それなのに、大事なことを見落としていた。キュウべえをまどかに近づかせないようにすることしか考えていなくて、彼女の変化に気付けなかった。
悔しかった。
守ると決めたのに。魔法少女なんかにさせないって、約束して、あの後私は――


まどかを殺した。この手で。


この手にあまる武骨な銃。手が震えて、口から心臓が飛び出しそうで、それでも魔女になる前に彼女の願いを叶えてあげたくて、引き金を引いた。
たった一発の銃声が永遠に思えた。
絶え間なく降り続ける雨。座り込む地面に溜まった雨水。それを徐々に赤く染めていく紛れもない彼女の血液。彼女の生きていた証。彼女の灯。


まどかを殺した。


「……そう」
誰もいない室内に、震えるため息とともに声が漏れた。
私はもう何度、彼女が死ぬところを見てきたのだろう?

ワルプルギスと戦って。
まどかが魔女になって。
私がまどかを殺して。

そうだ、私は何度も彼女を殺してきたんだ。
守ると誓って、まだ一度も守れてない。
時間をさかのぼるたび、彼女との距離は開いていって、これ以上拒絶されるのが怖くて声をかけることさえ怖かった。

また、まどかが死ぬ。
私がまどかを殺す。
殺してきたんだ。
繰り返すほど、何度も、何度でも!

力を込めた引き金。
それが最後の力であるかのように跳ね上がる彼女の体。だけども目が開くことはない。
銃の威力は強く、弾は容易に貫通した。
血があふれて、流れて止まらない!
確かに、今まで、まどかは生きていたのに!!



「――――――――――――っ!!」


言葉では形容しがたい叫びが夜の街に響いた。



   * * *


「時間観測者、暁美ほむら」
インキュベーターは高いところが好きだ。
街を見下ろして楽しいわけではない。
傍観者のそれのような優越感があるわけではない。
感情というものがないから、高所にいる時の気持ち良さがなんなのか理解することはできない。
だけど、いつものように高所に登っては街の様子をうかがっていた。
魔女の様子、使い魔の様子、魔法少女たちの様子、魔法少女に向いていそうな少女たち。
「せっかく説明してあげたのに、理解できなかったみたいだね? まどかは因果の糸に捕われて、その糸が幾重にも束ねられ縄のようになることで魔法少女としての素質が上がって行った」
その叫び声は、建設途中のビルに設置されたクレーンの端まで届いた。
「ほむら、君自身は何度も時間を繰り返してきた。体はリセットされても記憶、感情はリセットされない。それは時間を繰り返すたびに感情を上乗せしていったということだ」
叫び声が止んだかと思うや否や、見下ろす街から立ち上る真っ黒な光の柱。
例え今が夜でもありありとみることができる、絶望の奔流。
「繰り返した回数分の感情を君はため込んでいたんだ。君自身、時間を巻き戻すたびに自分が魔法少女として強くなっていることに気付かなかったのかい? たぶん、経験の積み重ねや、結果をあらかじめ知っていることで魔女に勝てたそう勘違いしていたんだろうね」
パトカーや消防車、救急車の音で騒がしくなる街。光で無理やり起こされる地上。
「僕の役目はあくまでも、魔法少女を生み出すこと。だから君のことは特に気にしていなかったんだけど、ずっと思っていたよ」
空を覆い隠す黒い雲が渦巻き、地上で絶望が具現化していく。

「暁美ほむら、君は最悪の魔女になるだろうってね。」

再び湧き上がる悲鳴。
それが生まれようとする魔女の産声なのか? 突然の出来事に戸惑う人々の叫びなのか? 聞き分けることはまずできないだろう。
「君は時間を司る。ここにいて、そしてここにはいない存在。絶望のまま力を暴走させ、どこまでも時間をさかのぼり過去に具現化するだろう。次元を超えることも可能かもしれない。これほどの魔女を目にするのは僕も初めてだ。その行く末を見守れるかどうかちょっと怪しいけれどね。」
インキュベーターは尻尾を一度大きくくねらせると立ち上がり、その場を立ち去ろうと歩き出す。
「そういえば」と、一度だけ名残惜しそうに具現化していく魔女に向かって独白する。「君は未来へ行くことはできなかったね。過去を壊すことができても、未来を壊すことはできないってわけだ。」

過去にさかのぼった魔女は完全に具現したのだろうか? 今この瞬間、世界が壊れようとしているのを、ずっとこの星を見守ってきたインキュベーターが察知する。

「君が魔女になったことで僕のエネルギィ回収ノルマは達成されたけど、――希望って言うんだっけ? これだけの力を分けてもらったんだ、見捨てるのは忍びない。その希望とやらは残してあげるよ。」


具現化した魔女からそらした視線。
この真っ暗な空や変わりゆく世界に唖然としている少女の姿が赤い瞳に映し出される。


――鹿目まどか、君はどんな願いで魔法少女になるんだい?

もう一つの終焉

総集編のほうの映画を観終わって、次の劇場版の予告を見た時に「ハッピーエンドなはずがない」と思うと同時に浮かんできた話です。

もう一つの終焉

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-17

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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