気付いてよ...バカ -8-

8です。
約1ヶ月放置してしまいました...
本当に申し訳ないです(> <;)

<登場人物>
*岡野 夢空(おかの むく)
*井上 奏哉(いのうえ そうや)
*椎名 由仁(しいな ゆに)
*黄瀬 悠夜(きせ ゆうや)
*井上 奏司(いのうえ そうし)

...その他

夢空は俺に…

-8-

予想外の出来事に少し混乱している。
この数時間で、いろんなことがありすぎた。

俺には幼なじみが2人いる。
岡野夢空と椎名由仁。
2人とも女だけど、
そういう関係になったことはなくて、
ちょうどいい距離を保っていた。
男女の友情って成立するんだと思ってた。
...思ってたんだ。

「まさか...夢空が俺のこと好きだなんて...」

確かに夢空の恋愛話は聞いたことなかった。
それどころか、
夢空は臨時教師の藤池翔太が
好きなんだと思ってた。
研究室での会話を聞いてしまって、
夢空自身に確認しようと考えたけど
出来なかった。
いくら幼なじみでも
介入するべきじゃないと思ってたから。
でも、それと同時に
“分かってた”で流した藤池に
夢空を任せたくないと思った。
夢空には傷ついてほしくなかった。
でも、結果的には
俺が夢空を傷つけた。

「あっ、奏哉発見!!」
「...悠夜」

藤池と話したあと、
そのままベンチに座ってた俺の横に
悠夜は腰掛けた。

「まったく、呼び出されてから
1時間以上帰ってこなかったら心配するだろ。」
「なんの心配だよ。」
「そんなの、俺の口からはとても...」
「...」
「おい、突っ込めよ。」
「...」
「奏哉??なんかあったのか??」
「...告白されたんだ。」
「なんだよ、自慢か??
そりゃ、呼び出されたんだから
告白される確率高いだろ。」
「そうじゃなくて...」
「...奏哉??」
「確かに、浦上さんには告白されたよ。
なんとなく分かってもいた。
でも、俺が言いたいのは
浦上さんのことじゃなくて...」

“夢空のことだよ”
そう言おうとした瞬間...

「奏哉!!」

向こうから由仁が来て、俺を呼んだ。

「悠夜...」
「由仁??」

お互いに少し驚いてる。
まぁ、お互いいること知らなかったもんな。

「どうしたの、悠夜。」
「俺は奏哉を探してた。由仁は??」
「ちょっと奏哉に用があって。」
「俺いても平気??」
「...」
「席、外そうか??」
「うん...ありがとう。」
「うん。」

そう言って悠夜は由仁の頭を撫でて
席を外した。

「...奏哉。」
「ん??」
「夢空のことだけど。」
「...」
「今日は私と一緒に帰るから。」
「...あぁ。」

驚いた。
正直、殴られるのは覚悟していた。

「...なに??」
「いや...」
「...別に奏哉が誰を振ろうと
私には関係ない。
そりゃ、少し腹立つけど...
無理に夢空のこと
好きになれとは言わないわよ。」
「...見透かされてたか。」
「当たり前でしょ。」

由仁を見ると、寂しい顔をしていた。
それを見てると申し訳なくなって
俺は由仁から目をそらした。

「...」
「...じゃあ、私行くね。」
「うん...ありがとう。」
「じゃあね。」
「...由仁。」
「ん??」
「...いや、なんでもない。」
「そう。」

振った俺が“夢空を頼む”なんて
言えるわけない。

しばらくそのままベンチに座っていた。
このあとも授業はあるが
単位はまだ大丈夫だからサボることにした。

「サボりか、奏哉。」
「...あぁ。」

悠夜が両手に炭酸を抱えて、
俺の横に座った。

「ほら。」
「サンキュー。」
「...」
「...」

何も話さない俺と悠夜。
俺から話すべきなのに言葉が出ない。

「...奏哉。」
「ん??」
「悪ぃ...由仁から少し聞いた。」
「...なんで謝るんだよ。
俺から話すべきだったよな。」
「...さっきの話、
夢空ちゃんのことだったんだな。」
「...あぁ。」

俺は悠夜に告白された経緯を話した。

「...そっか。
てか、本当に気付いてなかったんだな...」
「...」

正直、好かれてるとは思ってた。
でもそれは、男友達として
...幼なじみとしてで
“一人の男”としてではないと思ってた。

「...悠夜はいつから知ってた??」
「初めて会ったときから。」
「はっ!?」
「気付いてないの奏哉だけだって。
あんなに夢空ちゃん
分かりやすかったのに。」
「だから俺は...」
「言い訳か??」
「...いや、そういうわけじゃねぇけど。」
「まぁ...上手くは言えねぇけど
無理に付き合って傷つけるよりは
はっきりと振った方が良いに決まってる。」
「...」
「たぶん、由仁と夢空ちゃんには
まだ理解しがたいと思うけど、
少なくとも俺は、そう思ってる。」
「...ありがとう。」

俺が礼を言うと、
悠夜は少し満足そうに笑った。

「でも、俺は付き合うと思ってた。」
「...」
「あっ、別に責めてるわけじゃねぇよ??」
「分かってるよ。」
「なんで...夢空ちゃんじゃダメなんだ??」
「...分かんねぇ。」
「奏哉??」
「他の人よりも夢空とは長くいるし、
俺のこと、ちゃんと理解してくれてると思う。
だけど...」

それは幼なじみだから
俺はそう思う。
もし夢空と付き合うことになって、
今までと変わらずに一緒にいれるのか...
何年間も幼なじみでいた俺たちが
恋人同士になって、
それなりのことをしても...
今みたいにお互いを
想い合うことが出来るのか...

「...奏哉??」
「俺さ、怖いんだと思う。」
「怖い??」
「夢空に全て知られるのが怖い。」
「...??」
「もし夢空と付き合うことになって、
今まで夢空に
隠し続けてきてた俺を知られたら
幻滅されるんじゃないかって...
今まで好きだって言ってきた人みたいに
“そんな人だと思わなかった”って
夢空に言われるのが、
離れられるのが...怖いんだ。」

さっきだって、
俺が浦上さんからの告白を
断っていたところを見られてた。
あの時、夢空は少し震えてた。

「よくわかんねぇけど、
要は...夢空ちゃんの前では
“優しい奏ちゃん”で
いたいってことなんだろ??」
「...まぁ。
てか、お前が奏ちゃん言うなよ。」
「ふーん。」
「...聞いてるのか??」
「奏哉。」
「ん??」
「お前、バカだな。」
「はぁ!?」
「俺から言えば
バカというより不器用??」
「わけわかんねぇ。」
「まぁ、悩め。」
「...」

悠夜が何を思って、悩めと言ったのか...
俺には分からなかった。

「それで奏哉。」
「ん??」
「...明日からどうするんだ??」
「どうするって...」
「夢空ちゃんのこと。」
「...」

振った俺が友達でいたいと思うのは
我が儘だろうか...

「いつも通りに接してあげたら??」
「...それで正しいのか??」
「さぁな。
でも、俺が夢空ちゃんだったら
そうしてほしいかな。」
「...」
「仮に振られたとしても、
何年間と一緒にいたやつがさ、
急に素っ気なくなんのって寂しくね??」
「...そうだな。」

悠夜は適当そうに見えて、
本当は人のことを考えられる
真面目なやつ。
決して重い空気にするわけでもなく
だからと言って軽すぎるわけでもない。
その人に合った温度で慰める。

「...奏哉、
俺そんなに見つめられたら照れる。」

バカだけど。

「見つめてねぇよ。
でも...ありがとな、悠夜。」

俺がそう言うと、
一瞬びっくりした顔をして
それから笑った。

「さて、帰るかー。」
「授業は??」
「んー、サボる!!
このあとバイトあるし。」
「そっか。」

俺たちは鞄を取りに行って、
学校を出た。

「あっ、そういえば奏哉。」
「ん??」
「バイトしねぇ??」
「バイト??」
「そう、バイト。
俺のバイト先、
奏哉の兄ちゃんの店さ
今3人風邪で休んでて
人手が足りないんだよ。」
「あぁ、そんなようなこと
昨日聞いた気がするな...」
「んでだ、奏哉。」
「...なに??」
「俺のバイト、
サービス業じゃん??」
「らしいな。」
「一応、外見大事じゃん??」
「...」

こいつ遠回しに
自分かっこいいって言ったよな...

「奏哉、頼む!!
短期でいいから少しの間だけ、
バイト手伝ってほしい。」
「...」
「やっぱ、無理??」

人と関わるのは苦手だ。
でも、今日のことで世話になったし...

「...いいよ。」
「本当か!?」
「あぁ。でも、その3人の中で2人が
戻ってくるまでの間だけなら。」
「助かるよ、奏哉。」
「でも、勝手に決めていいのか??」
「平気、平気。
お前の兄ちゃんには許可取ってある。」
「...」

なんとなく、
悠夜と兄貴にはめられた気がした。

「じゃあ、今から行こうぜ。」
「はっ、今から??」
「善は急げだ。」
「急がば回れって言うだろ。」
「まぁまぁ。
ほら、レッツゴー!!」

そう言って、
走り出してしまった悠夜。
俺は悠夜を追いかける。

「そういえば...」
「んー??」
「お前のバイト先って、
なにやってんの??」
「あぁ...まぁ、喫茶店的な??」
「ふーん。」

兄貴はちょいちょい店を開くから
いちいち聞いたりしていない。

「大丈夫、奏哉なら上手く出来る。」
「俺、バイトとか
したことないんだけど...」
「大丈夫、大丈夫。もう絶対!!
さぁ、行くぞー。」
「おい...はぁ...」

さっきよりスピードを上げて走る悠夜。
俺もスピードを上げて走った。

のちのち後悔する
...もっと詳しく話を
ちゃんと聞いとくんだったって。

「到着。」
「...ここは??」
「俺たちのバイト先。」
「...帰る。」
「待て待てー。」
「悠夜...お前、
俺に喫茶店って言ったよな??」
「おぅ。喫茶店だろ??」
「...」

悠夜の潔さに言葉が出なかった。

「そんな怖い顔すんなよ。」
「...誰のせいだよ。」
「えっ、俺??」
「他にいないだろ。」
「もー、なに怒ってんだよ。
ちゃんと言っただろ??」
「確かに、喫茶店とは言ったな。」
「だろ??」
「でもお前、ここって...」

おかしいと思ってたんだよ。
カフェじゃなく喫茶店って言ったことに。

「執事喫茶です♪」
「です♪じゃねぇよ。
ふざけるなよ、ちゃんと言えよ。」
「言ったら奏哉、絶対来ないじゃん。」
「当たり前だろ。
お前、よくここでやろうと思ったな...」
「俺だって最初は知らなかったって。
でも、やってみると
思ってる以上に楽しいんだよ。」
「あっそう。」
「まぁ、とりあえず入れよ。
お前のお兄さんには
俺から電話しといたからさ。」
「はっ、いつ!?」
「さっき??」
「あやふやだな...」
「まぁ、気にすんなよ。どーぞ。」
「どーぞって...」

中に入ってしまった悠夜。
そこに立ち尽くしていても仕方ない。
俺は諦めて悠夜の後に続いた。

「おはよーございまーす。」
「おぅ、はよー。」
「...」
「おっ、奏哉ー!!」
「バカ...やめろ、来るな。」

俺の兄貴はちょっと...いや、だいぶ変。
なにかと俺に抱きつこうとしてくる。

「なんだよ。」
「ムッとすんなよ。
何度も言うが
可愛くもなんともないからな。」
「はぁ...可愛くない弟。」
「はいはい。」

こんな会話、日常茶飯事。

井上奏司(いのうえ そうし)。
俺の兄貴で、この店の店長です。

「まぁ、いいや。
とりあえず悠夜は着替えてこい。」
「はーい。」
「んで、奏哉はこっち。」
「...」
「返事。」
「...おぅ。」

兄貴の後を追って、
事務室みたいなところに行った。

「じゃあ、とりあえず
これ来てみて。」
「...本当にやんの??」
「お前がやるって言ったんだろ??」
「あれは、こんな店だなんて
聞いてなくて...」
「なんかあったのか??」
「えっ??」
「仕事内容がどうであれ、
お前がバイトし始めるなんて。
しかも接客、俺の店で。」
「...」
「まぁ、無理に聞く気はない。
今日はとりあえず、
制服のサイズチェックして
軽くマニュアル読んだら終わり。」
「それだけ??」
「俺は今日、結婚記念日だから
店を早く上がらせる。
どうせ帰る家同じなんだし、
送っててやるよ。
とりあえず、これ来てこい。」
「...どこで??」
「悠夜が入っていった部屋分かるか??
そこ使え。更衣室だ。」

俺は部屋を出て、更衣室のドアを開けた。

「おっ、来たな。」
「...意外に似合うな。」
「まぁな。
ん、俺の横空いてるから使えよ。」
「なんでよりにもよって
お前の横なんだよ。」
「文句言うなよー。
さっき必死に片付けたんだから。」
「...」
「なんだよ、早く着替えろよー。」
「はいはい。」
「分かんなかったら聞けよー。」

執事の格好って、
やっぱスーツっぽいんだな...

「...」
「どうかしたか??」
「...サイズ、ぴったりだ。」
「おっ、さすが兄弟。」
「...」
「奏哉??」
「兄貴さ...
ちゃんと俺のこと見てるんだな。」
「はい??」
「さっきも“なんかあったのか??”って。
俺なにも言ってねぇのに。」
「優しいよな、お前のお兄さん。」
「変人だけどな。」

なんだかんだ言っても
尊敬してる部分もあったりする。

悠夜とそんな話をしながらも、
なんとか着替えた。
ちょうど着替え終わった
そのタイミングで
ノックなしに扉が開いた。

「着替えたか??」
「まぁ。
てか、ノックくらい...」
「奏哉、お前...」
「ん??」
「本当にかっこいいな!!」
「だから、抱きつこうとするなって!!」
「予想通り...いや、予想以上!!
ん、でも...ちゃんとズボン短いか??」
「まぁ、ちゃんとな。」
「んー...足長いからな。
ちょっと待ってろ。」
「ん。」

兄貴が持ってきたズボンは
本当にぴったりだった。

それからまた事務室に移動して
マニュアルを読んだ。
さすがに接客業なことだけあって
細かいことがぎっしりだっあ。

「よし、じゃあ終わり。
シフトは基本、悠夜と同じでいいよ。
教育係も悠夜な。」
「...そんなんで良いのか??
人手足りてないんじゃねぇの??」
「まぁ、あまりに大変だったら呼ぶさ。」
「...」
「それと、もう1つ。」
「ん??」
「俺の弟だって、公表するか??」
「別にしてもいいけど??」
「ふーん。
じゃあ、ここでは俺に敬語を使え。」
「あぁ...」
「上司だからな。
それくらいの礼儀は持たないとな。」
「分かった。」
「ん??」
「...分かりました。」
「ん、合格。
じゃあ、今日は終わり。お疲れ様。」
「お疲れ様でした。」
「じゃあ、着替えといで。」
「はい。」

事務室を出て更衣室に入ると
私服の悠夜がいた。

「お疲れ。」
「悠夜、なにしてんの??」
「何って...待ってたんじゃん。
帰ろーぜ??」
「あぁ、悪ぃ。
兄貴が送ってってくれるって。」
「えー!!」
「冷たいなー、奏哉は。
悠夜も送ってくよ。」
「本当ですか!?」
「うん。
ほら、奏哉は早く着替える。」
「おぅ...あっ、はい。」
「仕事はもう終わったんだし、
もう敬語は良いよ。」

そう言って兄貴は出ていった。
俺は着替えて、
悠夜と一緒に駐車場に行き、
兄貴の車で悠夜の家に向かった。

「ありがとうございました。」
「いえいえ。
明日は来なくて、次は明後日だったか??」
「明後日の17時からですね。」
「じゃあ、奏哉もその時間な。」
「おぉ。」
「じゃあ、お疲れ。」
「お疲れ様でしたー。」

車から降りて、
悠夜が家に入ったのを確認して
兄貴は車を出した。

「奏哉。」
「ん??」
「基本、悠夜と同じシフトだけと
用事があった日とかぶったら
連絡さえしてくれれば休んでいいぞ。」
「えっ??」
「あっ、ずる休みとかはなしな。」
「なんで...」
「勘違いするな。
別に弟だからじゃない。
臨時で来てもらってるから、その優遇だ。」
「...ありがとう。
でも、優遇しすぎじゃね??」
「まぁ、俺の愛??」
「...」
「あっ、奏哉くん。
それは俗に言うスルーですか!?」
「いや...あっ、うん。」
「はぁー、本当に冷たい弟だ。...ん??」
「どうかした??」
「夢空ちゃんがいる。」
「えっ!?」

家が見えてきた頃、人影があった。
車のライトで
それは夢空だと分かった。

「夢空ちゃん、こんばんは。」
「奏司さん、お久しぶりです。」
「こんな時間にどうしたの??」
「あっ、奏ちゃんにちょっと。」
「ふーん。だってよ、奏哉。」
「...行ってくる。」
「はーい。」

正直、動揺した。
夢空がいたことに驚いたし、
しかも俺に用事があるだなんて...

もう夜は遅いし
少し躊躇いはあったけれど、
俺と夢空は近くの公園に移動した。

一体、夢空は俺に何を話すんだろうか...

気付いてよ...バカ -8-

まえがきでもお伝えした通り
約1ヶ月も放置してしまいました...

今回は奏ちゃん目線で
書いてみました。
男の子の口調って...難しいですね。

次は夢空ちゃん目線に
戻す予定です。
是非、読んでください!!

気付いてよ...バカ -8-

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-16

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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