ホトトギス

ホトトギス

ホトトギスと言うのは、特徴のある声で鳴くのはオスだけらしく、求愛活動であるとの説が濃厚ですが、
昔の人は母親を呼ぶ声では無いかと哀愁を感じていたそうです、また、托卵と言って、ウグイスやカッコウなどの
巣から卵を蹴落として、自分の卵を産み、元々の巣の持ち主に子供を育てさせる習性で有名です、
まあそんなことはどうでもいいので置いておいて、毎晩毎夜、夜鳴きで睡眠を妨げられるので、
ホトトギスさんを擬人化して酷い目にあってもらいました、割とキツめにお仕置きです。

春が終わり、夏の陽気が顔を覗かせる頃、

私は窓辺で物思いに耽っていた、


別に何かに不満があるわけじゃない、

お母さんも、お父さんも居ないけど、お姉ちゃんは優しい、

料理も上手だし、お裁縫も、お掃除も私よりずっと上手、

綺麗な鶯色(うぐいすいろ)の髪を靡かせて、美しい声で歌う、

私なんか何も出来ない、いつもお姉ちゃんに助けてもらってばかりの駄目な子だ、


ふとした時に、私の本当のお姉ちゃんなのかなと思ってしまうことがある、

私の髪は汚い灰色、服も地味なモノばかり、自分に自信が無い、

お姉ちゃんの髪は綺麗な鶯色、白いワンピースがとてもよく似合う、

私もお姉ちゃんみたいになれたら良いのに、何時でもそう思ってた、


お母さんは私が物心付く前に、病気で亡くなってしまったらしい、

だから写真でしか顔を見たことが無い、お姉ちゃんと同じ長い鶯色の髪を手で梳いて

にっこりと笑ってた、お姉ちゃんもお母さんと同じようににっこりと私に微笑みかける、

私は、何一つ似ているところが無い、子供の頃からの懐疑心、

そんなこと聞いちゃいけないと思う自分と、

笑って「そんなわけないよ」と言ってもらえる期待、

どちらも同じくらい強いから、何時でも心が苦しい、

空を見上げ、流れる雲を、ただ、ただ、眺めていた、


そんな私の様子が気になったのか、お姉ちゃんが後ろから話しかけてきた、

「どうしたの?、そんなに難しい顔して」

何時もの優しい顔、心がスーッと落ち着いてくる、

「ううん、ちょっとね、考え事・・・」

「お姉ちゃん、難しいことはよく分からないけど、話は聞いてあげられるよ?

一人で悩まないで、一緒に考えよう?」

「ありがと、私ね、昔からずっと心のどこかで思ってた事があるの」

お姉ちゃんは私の目をずっと見て、ただ頷く、

「どうして私はお姉ちゃんに何処も似てないのかなって、あはは、おかしいよね・・・」

「うーん、そっかあ、どうしてだろうね?」

ゆっくりと私に近づき、椅子に座っている私と同じ目線になって、微笑む、




「どうしてだと思う?」




突然私の襟首を強い力で引っつかんで、お互いの息がかかる位の距離に引き寄せて、目を覗き込み、もう一度言った、

「どうしてだと思う!?」

「あ、うぁ、あ・・・」

何が起こったか分からずに声が出ない、一生懸命ひねり出そうとしても息を吐き出す声しか出なかった、

顔は笑ったままなのに、目が私を逃がしてくれない、

「貴女の本当の母親はね、貴女と同じ汚い髪の色をした最低の女だった、

私には本当の妹が居たはずだったの、でも貴女の母親は、子供を育てるのが嫌で

病院で貴女と本当の妹をすり替えたの、私の妹はどうなったと思う?」

「どう、なったの・・・?」

ようやく出た、声にならない声で聞き返した

「その女はね、貴女をお母さんが育てざるを得ないようにね、殺したの、

病院の屋上から放り投げてね、私はまだ小さかったけど、はっきり覚えてる、

ばらばらになってイチゴジャムみたいに影も形も無かった、

誰にも見せられなくて、誰にも言わずに3人でお葬式したの、それから

お母さんはおかしくなった、自分の子でもない、ましてや仇の娘である貴女を、

自分の子なんだ、自分が育てなきゃって、毎日毎日そう言ってた、

お父さんは厭になって家を出て行った、お母さんはね、貴女にミルクを飲ませたり、

オムツを変えたりするたびに、泣きながら笑ってた、完全に壊れちゃったの、

だから私がお母さんを助けてあげなきゃ、私がお母さんの代わりにならなきゃって思った、

でもお母さんは、私が小学校に入学した日の晩に、妹が生まれた病院の屋上から飛び降りて自殺した、

封筒の中にありったけのお金と、「ゆ る し て」ってぐしゃぐしゃに書かれたメモを残してね」


「はぁ、は、はっ、あ、うぁ、はっ」

過呼吸で息が苦しい、脳と肺が酸素で満たされ焼かれていく、

一生懸命に言葉をつなぎ合わせるが、頭の中が真っ白で何も出てこない、

それでも聞かなければならない事があると思った、

「私の、本当の、お母さんは、何処にいるの・・・?」

「知らない、でもニュースでは海外に男と二人で逃げたらしいって言ってた、

他人の子供を殺してまで、自分は遊びたかったんだろうね」

最低だ、自分が聞いていても吐き気がこみ上げてくる

「私の事、憎くて憎くて、殺してやりたいと思われてもしょうがないのに、

どうして今まで私に優しくしてくれたの・・・?」

「それはね、それが私の"復讐"だから、貴女に優しくすれば優しくするたびに、

貴女は疎外感や形の無い罪悪感に苦しむの、これからもずっと貴女の優しいお姉ちゃんでいてあげる、

私は貴女を本当に愛しているわ、みすぼらしくて、汚くて、臆病で、我侭で、不器用で、愛おしくて堪らないの、

ご飯も一緒に食べるし、買い物も一緒に行く、例え貴女が何処へ行ったって、何処に逃げたって、

絶対に逃がさない、生まれる前から罪人の貴女は、たとえ死んだって罪は赦されない、赦さない」


そうか、初めから私は生まれてきてはいけなかったんだ、だから毎日こんなに息苦しくて、

どこか寂しかったんだ、ようやく理由が分かった、なら私は、どうしたらいいんだろう、

やっぱり死ぬしかないのかな、虚ろな瞳でお姉ちゃんの顔を見ると、くしゃくしゃになった襟首を離して、

何時もと同じ様に、にっこりとこう言った、


「今晩のお夕飯、ハンバーグだよ」


そして台所へと向かっていった、


私は立ち上がることすら出来ずに、ただ虚を見つめていた、



どうやって死ぬか、ただ其れだけを考えて。

ホトトギス

ホトトギス

ホトトギス擬人化、時鳥妹と鶯姉の話

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-15

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