抽選会

俺は今日交通事故で死んだ。どうも居眠り運転をしていたトラックに引かれたようだ。
気がつくと、どこだか分からない場所で何故か長蛇の列に並んでいた。
そこは周りを見渡しても何もない一つの空間で、先も、最後尾も見えない列だけだ。
俺は前に並ぶ60代後半の男性に声をかけた。

「あの、ここって一体どこ?」

「あ?ここはどこってあんた、抽選場だよ。」

「抽選場?どういうことだよ。俺は確か仕事帰りにトラックに引かれて・・・・。これは夢か。」

「夢でもなんでもないよ。あんたはトラックに引かれて死んだんや。災難やったなー、見たところ若そうやのに。」

この男性の言っていることは俺には全然理解できなかった。

「夢じゃないって。じゃあ一体なんなんだこの状況は!こんなところに見覚えはないし、死んだのに俺は現にこうして生きているじゃないか!」

「いいや、あんたは死んどる。わしだって死んどる。もっと言えばここにいる全員死んどるんや。ここは死んだ奴が集められとんや。」

ここにいる全員が死んでいる?こいつはさっきから何を言っているんだ。まったく理解できない。しかし、この人が冗談を言っていないことは表情から伝わってはいた。

「死んだ人が集められているってここはまさか、天国?」

「ここは、天国じゃねえ。抽選場やって言っとるやろ。あんたさっきの説明会欠席したんか?それともあれか、飛び入りか。ここの運営は適当やからなあ。」

「説明会?そんなもの知らねーよ。気がついたらここにいたんだ俺は!」

どうやら今この状況を理解していないのは周りで俺だけだということは薄々気づいていた。これほどの長蛇の列に人が並んでいるのに取り乱す人は一人もおらず、たまに列が動くたびに足を動かすだけだったからだ。どうやら、俺は何らかの理由で説明を受けるという工程を省かれてしまったのだろう。それを汲み取ってくれたのか男性は俺に説明を始めだした。

「ここは死んだものが今後どういう立場につくのかを決める為の場所や。本当なら死んだら説明会場に集められて説明を受けるんやが、お前さんはどうやらタイミングとかが悪くて、説明会場に送る段階を飛ばされてこの列に入れられたんやろな。なに、よくある話や。運営もこんだけ多くの人数を毎日扱っていたら適当になるのもしょうがないってもんよ。」

「な、なるほど・・・・。それで、さっき抽選場だと言ったよな?この列はなんのための列なんだ。」

「そう、ここは抽選場。今からくじを引くんや。天国に行くも地獄へ落ちるもくじ次第!まあ最後の運試しってところやな。ガッハッハッハ。」

陽気に笑う男をよそに俺は状況を飲み込むのに精一杯だった。
どうやら、この列はそのくじを引く為にできたものであって、おとぎ話で呼んだことのある天国だの地獄だのの行き先を決めるくじがあるということらしい。こんな話信じられるわけはなかった。俺は再びこれは夢なのじゃないかと疑いをかけた。

「な、なんだよそれ!そんな滅茶苦茶な。そもそも天国だの地獄だのが存在するもんか!これは夢だ俺は騙されないぞ。」

「嘘なことあるかい。現にわしはわしになる前にもここに来た。そして当たりくじを引いて今のわしになったんや。」

このおっさんはまたわけのわからないことを言い出した。頭がおかしいのかもしれない。しかし、他の人は騒いでいる自分を避けるように顔を下に向けまったく話そうとしてくれなかった。今なにも分かっていない俺はこのおっさんにいろいろと教えてもらうしかないのだ。

「どういうことだよおっさん。ここに来るのは初めてじゃないのか?」

「そうや、わしは随分前に一度ここに来てくじを引いている。そのときに引いたくじが「生き返り」や。これは相当な当たりくじでな、今ここに大体3000人ほどおるんやがその中でも生き返れるのは10分の1程度といわれとる。他にも「天国行き」もええくじと言われとるな。いわゆるわしらが想像する楽園のイメージそのまんまらしいわ。まあ、わしは現世が一番おもろいと思っとるんやけどな。逆に「地獄行き」ってゆうのはえらいきっついらしいで。まあこれも聞いた話やから話半分に聞いといたほうがええけど、毎日延々と労働作業をやらされるらしい。このくじは絶対引きたないもんやな。」

おっさんはすらすらとこの抽選会場について語りだした。たとえこれが嘘だとしたら、前もって台本が用意されたかのようにどんどんと話が広がっていった。最早俺の中でこのおっさんを疑う心はなくなっていた。

「なあ、その生き返りってくじを引けば、またもとの生活に戻れるってのか?」

「いやいや、元のお前には戻られへん。ただ、現世に命を授かることができるんや。もちろん前世の記憶は無い。やけど、ここに戻ってきたらここで行われたくじのこととかは思い出すことはできたから仕組みはよくわからへんなあ。」

輪廻転生とはよく聞くがまさか死んだその後はくじで決まるだなんて衝撃的だ。じゃあ前世人間で来世も人間になれる人間なんてほとんどいないってことかよ。と俺は自分の中で人生というものの理不尽さを問うた。思えば自分の人生ついていなかった。貧乏の家庭に生まれ、親父は酒に溺れ、母親は俺が中学生の時に死んでいった。それから勉強ができるわけでもない俺は、工場勤務で贅沢な暮らしなど一度もしたことなかった。もう一度生まれ変わってやり直せるなら、と何度思ったことだろうか。そのチャンスが今回ってきたということなのか。

気づけば、あれほど長く先が見えなくなっていた列だったが、後数百人で自分の番だというほどになっていた。
すると、先頭からわっと歓声が聞こえた。

「どうやら誰か生き返りを引いたようやな。そろそろわしらの番や緊張するで。」

おっさんの言うとおりなんだかすごい緊張感があった。まさか人生最後の最後にこんな運試しが待っているなんて。絶対生き返りを引いてやる。その気持ちはどんどん強くなっていた。
そして、列はどんどん進んで行きおっさんの番になった。

「じゃあ、兄ちゃん先に引かしてもらうわ。」

おっさんは係りの人間が出した箱に手を入れた。あの中から一枚のくじを取り出すらしい。商店街の抽選会でももうちょっと豪華にするものだが、随分とチープなものだなと思った。
くじを引く時のおっさんの手は震えていた。
しかし、覚悟をきめたらしいおっさんは、勢いよく手を引き抜いて手の中にあるくじを急いで開けた。

「天国行き」

くじにはそう書かれていた。

「いよおおしゃあああああ。生き返りとまではいかんかったが天国行きやああ。わしはやっぱりついとるでええええ。」

おっさんは喜びの雄たけびをあげ、俺のほうを振りかえりガッツポーズを見せた。
次は俺の番だ。

「では、どうぞ。」
係員は無機質な声でくじの入った箱を差し出した。
俺は右手を額にあて、生き返りをだしてくれと願い、箱の中に手を伸ばした。その手はやはり震えていた。

箱の中は思ったより狭くいくつもの紙があった。何枚も同時に引いてやろうなどとよからぬ考えがよぎったがそんなことをしては運は自分に向いてこないと思いやめた。しばらくの間、中のくじを探っていたが途中でこんなものは直感だと自分に言い聞かせ、ひとつのくじを選びしっかりと握り締めた。
これだ!これは生き返りの文字の書いてあるくじだ!俺は生き返ってあの糞みたいな人生とは別の人生を歩むんだ!

そして俺は勢いよく、くじを抜き取った。

「幽霊」

くじにはそう書かれていた。


「あちゃちゃー。また難儀なもん引いたなー。現世には残れるものの幽霊として残るだなんて。あんさんやっぱり災難やなー。」
おっさんは俺の引いたくじを覗き込みこう言った。

抽選会

抽選会

死んだ人間が集められる抽選会場。くじによってその後を決められるというが・・・・

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-14

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