創造

「普通」に憧れた「異常」な物語。
間に語られる言葉の意味とは?

序章

 「あれ?やっぱり最近勝手に増えてる、こんなことありえないのに」
「確かにおかしいな、お前以外の奴が増やせるなんてのは」
最近おかしなことが起こる、なので先輩に相談した。
後ろから大きく乱暴な声が聞こえる。
「おいなんだよ!俺の仕事増えるだけじゃねぇか!!早く消しちまおうぜ」
先輩はすぐ言葉通りに行動するそいつを止めるために言った。
「そう簡単な問題じゃないことぐらい分かるだろ、それに消しちまったらヒントが消える」
「面倒ですねぇ、誰かがやっているか、もしくは女将が」

「それはないだろ」
先輩と乱暴者に口をそろえて否定された。

数日後、部屋に突如現れたものがいた。
本当に突然だった、驚きはしなかった、そろそろだとなんとなく分かっていた。
それに何者かはすぐに分かった。
おろおろしながらその人が、
「今いるのって何個目の世界なんですかね」と尋ねてきたからだ。
真相がわかりそうなので、先輩と一緒にその人の話を聞くことにした。



自分が何者なのかはもうわからない、だって何度も渡ったから。
でも少し誇らしい気分でもある、僕は不死身なのだから。
なにかルールを、大事なルールを犯した気もするけど、もういいやとも思ってる。
なにがあったか?今から話しますよ。
「あなたはあなたの世界が好きですか?」

雪の積もった家までの道、またこんな考え事をしていた。
こんな世の中に大きな意味なんてない、全部上手くいく。
周りのように努力しなくても、気にしなくても、いつも真ん中でいられる。
自分の言う真ん中は中心のことではない、平均のことだ。
学力、運動神経、友の数、すべて平均、いや少し高い位だ。
これを聞いた人は自意識過剰というだろうか。
でも事実なんだ、誰にも文句は言ってほしくない。
そうだこれは自分で創りあげてきたんだからだから。

家柄はいい方ではない、最悪なわけでもない。
母子家庭だった。
両親は自分が幼い頃に離婚した、兄と共に母に連れられ小さなアパートに越した。
幼いが故にこんな悲しい現実の意味もろくに理解していなかった。
単身赴任や出張の多かった父の記憶など片手で数えられるほどで顔もうまく思い出せない。
元から存在してなかったのと変わらない、そんな存在だった。
一人の時間が多く、時計の秒針を見つめるのが好きだった。
こんなつまらない日々が、大嫌いだった。

昔から考え事が好きだった。
同じような考え事を繰り返して、完全に一人の世界に入っていた。
自分自身が心配だったのかもしれない。
自分の存在、設定を確かめているような、考え事。

電信柱に激突して、やっと我に返った。
家からかなり離れていた。
なにも考えないように気を付けて引き返した。
外がかなり暗くなってから家についた、でもおかえりが聞こえることはない。
いつものことだ、週に6日はおかえりが聞けない。
仕事やバイト、学校が家族を引き離す。
みんな仕事か、そう思いながらスマートフォンの電源を入れた。
家に居るとき以外は電源を消す癖があった。
画面をみて少なくない驚きを覚える。
着信 兄 50件
おびただしい数の着信履歴。
ただならぬ事態だと判断し、折り返し電話を掛けた。

病院についた時、兄の顔は白かった。
電話に出た瞬間兄は号泣していた、最初はよくわからなかった。
落ち着いて、とおそらく13回は言った。
母が癌で倒れた、末期の肺癌だそうだ。
医者はすぐに手術の契約書をだしてきた、サインを求められた。
気に食わなかった、何もかも、誰も悪いことはしていないけど。
無意識のうちに医者の胸倉を思い切りつかんでいた。
兄に止められ、床に膝をついた。

母は入院、それからは兄との二人暮らしになった。
生活のため兄はバイトをかなり増やした。
以前より一人の時間が多くなり、なんだか心に穴ができたようだった。
平気そうな兄でも、自分より大きな穴があるように思えた。
ほとんど家を離れ、それに加え毎日見舞いをしていたそうだ。
どんどん痩せていく兄を見ていられなかった。
家事はできるだけやったが不器用で上手くいかなかった。
バイトから帰って来た兄は微笑みながらこう言った。
「大丈夫俺が全部やるよ」
兄の言葉はあまりにも重く、耐え難かった。

特になにもない日曜日、昼まで寝ようと思っていたのに電話が鳴った。
それは悪魔、いや死神からの連絡だった。
一本の電話で、世界の意味が消えた。
なにも考えず、何も持たず走り出していた。
真っ先に、兄のバイト先に行った。
止まらない涙で、なにも言えなかった。
どうにか説明して兄を連れ出した。
鉛のような足取りと空気の中で病院に向かった。

病室に着いた時、母の顔は、微笑んでいた。
死に際に会えなかった俺たちを、待っていたように。
決していい母ではなかった。
それでも生きる意味は、産んでくれた、育ててくれた、あんただった。
誰も悪くない、仇討ができない虚しさで、胸が引き裂かれた。
兄と二人で泣き崩れ、そのまま眠っていた。

創造

創造

こんな世界嫌いだ、なんて考えていませんか? この小説の主人公がまさにその一人。 世界を嫌い、異なる形で幸せを手に入れた主人公の未知の物語。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-13

Copyrighted
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