未完成のカレンダー

「人生をデザインしませんか?」
こんな求人広告を街角で見つけたことがある。

大学を卒業しても就職が決まらず、
その日暮らしのバイト生活にすっかり疲れきっていた俺は、
あまりにも高額な給料に思わず視線を持っていかれたんだ。

もっとも、それより興味をひかれた理由がさ、
「簡単なノルマを達成さえすれば勤務時間は自由!」
という待遇の素敵なことよ。

載せられている電話番号をすんなり入力したけど、
怪しい匂いがプンプンするだろ?

でもさ、疲弊しきった人間って、楽を求めてなんでもするもんだ。
気づくまもなく緑色に光るボタンを押したのは言うまでもない。



しばらくして、丁寧な物言いと優しそうな声の女が社名を名乗った。
安心感と同時に不安も訪れる感覚は、
自分を変えたくてテニスサークルに入った時と少し似てたね。

こういう時はだいたい不安が的中するもんだけど、
実際やっている本人は気づかないことの方が多いよね。
無駄にポジティブな「失敗してもなんとかなる」ってやつが
俺を今まで何度も苦しめてきたってのに。

面接があるらしく当日までの指示を出されたが、
俺はなりふり構わず受ける旨を伝えた。

指示ってのは、なかなかおかしなもので、
まず最初の指示は「面接の前日は断食すること」だった。
普通は怪しいと思うんだろうけど、当時の俺にはどうでもよかった。

2つ目の指示は、「好きな色にある意味を調べること」だ。
さすがにワケがわからないもんだから、理由を聞いてみた。
口調を変えずに答える女は、「実務に必須になるからです」と答えた。

最後の指示も不可解だ。
「当日までに気になる人を見つけ、名前を把握すること」なんだ。
興味のわくような人であれば、誰でもいいらしい。
これには正直、びびったね。そんな対話術なんて持ちあわせちゃいない。

でも俺は全部素直にやり遂げた。
どうしても楽になりたかったからね。
この時ばかりは、自分の力に心底酔いしれたよ。
俺はやればできるんだ、ってね。なんなら別の方向に活かしたかった。



でさ、面白いことに当の面接は案外何事もなく終わったんだよ。
「電話をしてくる時点で条件はクリアしていますから」
と、これからコマとして使われる気がしなくもなかったが、
彼女の言うとおり最初から受かったも同然だったみたいだ。

その後早速オリエンテーションが行われたんだけど、
びっくりしたね。指示の意味がわかって、俺は自分を疑った。

未完成のカレンダー

未完成のカレンダー

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-12

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