呪いのボタン

先日、トイレの便器を掃除しようとして
便器の裏に手を回したら違和感。
頭をつっこんで見てみたら2センチ四方ぐらいの四角く赤いスイッチがあった。
はて。これはなんぞ?
3秒ほど迷って押してみた。
何の反応もなし。どこからか、どすんと音がしたぐらい。
部屋を見回ったけど、何も変化なし。

その夕、テレビのチャンネルを変えようとリモコンを手にしたら
リモコンの裏に何かある。出っ張ってる。
裏返したら、また赤いスイッチが。
はは。またあったよ。いつの間にこんなスイッチが。
迷わず押した。
やっぱり何もありません。
またどこからかどすん、と音がしただけ。
ああ、これは、このスイッチはまだあるね。どすんボタン。
そう思って立ち上がり部屋中を探した。ちょっと楽しかったし。
あったよあった。
本棚の本を抜いたらその奥にスイッチ。オン。どすん。
じゅうたんをめくったらスイッチ。踏んだ。踏んでやった。どすん。ほほ。
飲み終わったビールの缶を覗いたら、底に。割り箸でオン。どすーん。
パソコンを開いたら“enter”が赤に。オーン!どっすーん。
もしかして、と思って携帯を開いたけどボタン部分に何もなくがっくり。でも
よく見たら液晶画面にタッチパネル形式のどすんボタン。うひゃあ。
他、額縁の裏・靴底・引き出しの奥・冷凍庫の製氷器
植木鉢の下・DVDケースの真ん中のぶよぶよした所など。
私は押しまくった。
時計を見ると夜11時。
いい加減近所迷惑なので今日はもうやめることにした。

翌日、朝、マンションエントランスで住人たちが数人集まっていた。
昨夜のどすんどすんの苦情でも言われると困るので
くのいちみたいに気配を消して通り過ぎようとしたけれどダメだった。
呼び止められた。へへ、と愛想笑い。
一人の女性に
「昨日お宅はどうだった?」
と聞かれた。
「へ?」
彼らの話によると、昨日昼から夜にかけて
部屋中の本棚やら箪笥が突然倒れるという怪現象が続発したとのこと。
げげ。どすんボタンにはそのような効果があったのか。
調子に乗って押しまくったことを後悔しながら部屋に戻った。
ドアを開け玄関に入ると右足に違和感。
上げてみると、そこに赤いボタンが。
また押してしまった。
そして室内奥からぱちぱちぱちぱち、という音が。
慌てて入ってみると、開きっぱなしのノートパソコンのキーボード、
キーが外れてばらばらに飛び散っている。
いやーーーーん。
床に飛び散ったキーを拾い集め、元の位置に収めようとパソコンをみると
3つだけキーが残ってた。
左に“A”、中央に“H”、その右斜め上辺りに“O”。
あほ。

今、私は元通りにキーを収められず
自分の名前を入力したつもりなのに
kうえいdjんs、みたいな文字が画面に表示されるようなことになっている。
この文章を入力するのに8時間半かかった。
あほだ。

呪いのボタン

呪いのボタン

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-07-29

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