街灯が照る
街灯が照る
暗闇を照る
時間を遡れば
遠く遠い街並みが
河のように
あの刻の無数の悲鳴のような
諦めのような、打ちのめす洪水が
心を包み沈める
あの時僕は幸せだった
何回も見たドラマのように、
色あせた写真にうつるような艶の
膜に覆ったせいもあるが
街灯はそれでも僕に痕をつけた
女々しさに悶え泣き、這いつくばるような
抉れ痕を
心に、打ち込んだ
毎夏連れて行かれたかの土地は
朱い土の、熱い国
黄昏時が過ぎ冷えた足元を
照らす灯火はだいだいで
僕はかえりたくて、かなしくて
街灯が照らすその夜は
ひどくひどく、きらってしまう
今僕に見える窓越しの
鋼鉄の骨組みから漏れる灯が
僕から呼び起こす
僕の居場所
僕の居る場所
いえのないばしょ
いえじゃないばしょ
ともだちもいない、てれびもない、
おもちゃもない、ほんもない、いえがない
いえじゃない
異国。
祖国。
それが今、僕のいる場所。
悲しみは底が尽きるのに三年かかった。
いつからか、あの絶望が理解できなくなった。
でも、それでも故郷は襲いかかる
時も、土地も、人さえも、
僕の故郷につながっていない。
流された故郷
呑まれ消えた故郷
ここがいまはぼくのいえ
ここがいまじゃ僕のいえ
街灯が、白青い空にてらされはじめ
ふ、とみあげひろがる郷の顔が
あたりまえのことであると、
この夜明けは君のこころであると
ねむたそうにつぶやいて説く
蒼く染まる街灯が
日に白く照りながら
僕もまた
明日をみたいと想えるように
この街の名を
くちずさむ。
街灯が照る
故郷とは、失ったものからすればそれは人であり、時代であり、思い出なのです。触れることも、語り合うことも叶わないということと向き合うには、人はあまりに弱くありませんでしょうか?克服や諦めは答えではなく、それにどうすればいいか、どうもしないほうがいいかなども当分わからないまま生きていくのでしょう。
故郷はないのです。
住む場所はあります。
住む場所が、あります。
それだけでも、人は心を休めることができるのです。
幸せです。