赤いリボン

赤いリボン

あれは、私がまだ小学生のときのことです。


私には、3つ下の弟がいます。
田舎でしたし、遊ぶ物なんてなんてありませんでした。
学校から帰ると、毎日家の裏にある山で二人で遊ぶのが日課でした。

もちろん、急いで宿題を終わらせてから。

その日、いつものように二人で遊びに行ったんです。
そして、いつものようにおままごとをしていました、


ふと後ろを見ると、見知らぬ男の子が立っていました。



「だあれ」


弟が尋ねると、その男の子は


「しょうきち」


と、答えました。


その日から、私達としょうきちは一緒に遊ぶようになりました。


しょうきちはとても物知りでした。

さくらんぼや野いちごのある場所に連れて行ってくれたり。
時には、一面に赤や黄色の花が咲いた花畑にも連れて行ってくれました。
花輪の作り方も教えてくれました。

小道を進んだところに秘密基地を作ったこともありました。
喉が渇くと、美味しい湧き水のでるところにも行きました。


私達としょうきちは、毎日飽きることなく遊びました。
だって、毎日違うところに連れて行ってくれるんですもの。



いつだったか、お母さんに可愛らしい赤のリボンを貰いました。
嬉しくて、三つ編みをリボンで結んでいつもの場所に遊びに行きました。

おままごとをしていると、しょうきちがじっと私を見ているんです。



「可愛いでしょう、お母さんにもらったの」



リボンを指して私は言いました。
ふと思いたって、片方のリボンを外ししょうきちの手首に蝶々結びをしました。



「あげる。お揃いだね。」



そう言うと、しょうきちは嬉しそうにうなずきました。




しょうきちと出会って2年が過ぎた頃、私達はお父さんの転勤で引っ越すことになりました。

最後の日、しょうきちは寂しそうに笑いながら、



「また、遊ぼうね。」



と言いました。



引っ越してだいぶたち、中学生になり、高校生になり、いつのまにか就職もしました。
その頃には、しょうきちと遊んだ記憶も忘れかけていました。



先日、一人暮らしをしていた私の家に弟が遊びに来ました。
その晩、二人でお酒を飲みながら昔の思い出を話していたとき、ふとしょうきちの事を思い出しました。

1度思い出すと、懐かしい思い出が溢れるほど出てきます。
それと同時に、急にあの裏山に行きたくなったんです。


その週の休み、私は何十年かぶりに幼少期を過ごした懐かしい田舎に訪ねてみました。
昔住んでいたその家には、見知らぬ夫婦が住んでいました。

いつも駄菓子を買いに走った、優しいおばあちゃんのお店があった場所は、可愛らしい家が建っていました。
しかめっ面のおじさんがいた本屋は、空き地になっていました。


裏山に着いて周りを見渡すと、一面草に覆われていました。



《この道はね、昔よく人が通ってたから草が生えにくいんだよ》



しょうきちの言葉を思い出し、おぼろげな記憶を頼りに進むと、他より少しばかり草のない道を見つけました。
その道を進むと、しょうきちと遊んだ懐かしい場所が、昔と変わらず私を待っていてくれました。

三人で遊んでいた、その広い場所はあの頃に比べると少し狭く感じました。


しばらくすると、何かに呼ばれた気がしました。
足の向くままに歩いていると、今まで来たことのない場所に着きました。

少し開けたその場所は、草が一面に生えていて最近人が入った形跡はありません。
ふと横を見ると、狐の形をした石が建っていました。

近づいてみると、だいぶ古い石像のようでした。




「えっ」




誰もいない空間に私の声が響きました。

その狐の前足には古びて汚れた赤いリボンが結んであったんです。

赤いリボン

赤いリボン

いつも弟と二人で遊びに行っていた裏山。 幼い頃の出会い。 大人になって変わった風景。 懐かしい思い出を辿っていくと…

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-12

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