戸松ほむら 私はアイドルになれるかしら

 高校卒業するまでに、私はアイドルになる。戸松ほむらの青春ものがたり。時は23世紀、現代とは環境も違う。世界人口が急激に減った21世紀中頃、日本は先進国のまま理想郷となったが、そこには、とても厳しい規則がある。ちょっとでも人格に問題があればカムチャッカ半島で、とても寒いところで石器時代と同じ体験をしなければならない。それでも更生のみこみがなければ中東やアフリカへ一生ボランティアをするように強制移住させられる。そこでは殺人や性犯罪が多く、犯罪者の脳を取り出す事業が行われる。脳からは、強烈な幸福感を生み出す物質がある。それに記憶中枢が生きているうちに、その人の人生の記憶をコンピューターに記録させる。あらゆる不道徳な行為が立体映像で見られる。個人のプライバシーは全世界の人がネットで見ることが可能となった。

 それに従えなければ、アフリカや中東の貧しい地域で、ボランティア活動という名目で、一生住むことを命じられる。終身刑で刑務所にいるよりも辛い。
 開発途上国では殺人鬼、性犯罪者、誘拐魔が多くいるし、とくに多くの精神病質・サイコパスが送り込まれる。サイコパスとわかれば、そのまま更生のみこみなしということで、アフリカへ脳事業の人たちに生きたまま脳を取り出されたり、脳に針を埋め込まされる。生きたまま脳をとりだし幸福物質を取り出す。人間の脳ほど良質な幸福物質は作れない。人工的に作ることは至難の業。


何が原因で悪事に染まったのか理解できる。

厳しい管理者会には強いストレスがつきものであり、私はみんなのストレスを緩和させる事業としてアイドルになることを夢見る。

23世紀の未来、アイドルになる少女の物語

「私はアイドルになる!」と決めて、アキバ支援のアイドル女学院に補欠試験を受けた。でも、即決で落とされた。

 それでもくじけず、中学時代をダンススクールと音楽教室に通い続けて、アイドルになる夢を持ち続けた。

 アイドルは未来社会でも女の子の憧れ。社会的ステータスが高い。
 アイドルは熾烈な競争社会。そして、私は公立中学校から私立高校へと進学し、部活で念願のアイドルになるが・・・。

二次募集試験 即決で落とされた


 試験がはじめる40分前、私、戸松ほむらは、アイドルになることを夢見て、学院の補欠試験の会場に入る。寮生活も厳しいし学院ではダンスのレッスンとか歌のレッスンなどもあり、それと同時に他の中学生や高校生と同じ勉強をしなければならない。当然、偏差値が高いので授業が難しい。当然、脱落する子もいる。

 5月、すぐに脱落した子がでたので、補欠試験の知らせを見て、私はそれを受けた。でも・・・

意外な展開。私はショックを受けた

「すみません、このたび補欠試験を受ける、戸松ほむらです」
「戸松さんですね。今回の応募は二人だけで、入学できるのは一人だけです。大丈夫ですか」
 私は中学校の学生服で試験を受けることになる。40分前、余裕持って行く。
「試験は午前9時からです。もうひとりの子は、まだ来ていないですね」
「そうですか」

 私が、この学院に入る確率は高いと思った。そして、9時ちょっと前、3分前にギリギリに、補欠試験に受ける子が来た。派手な普段着に茶色くとても長い髪。甘えたような喋り方で言った。
「すみません。おそくなって」
こんな子が学院に入れるの。これで、私は補欠試験が受けられる。補欠試験でも学力試験、体力試験もある。そして中学校の内申書に、どのくらい学力があるか担任の先生からの報告書も書類で送られる。これで、私は入学できる。

「では補欠試験を・・・」
 若い女性の教師が言った。
「ねえ、戸松さん。ごめんなさい。アイドルになるには、この学院でなくても、別の音楽学校とかダンススクールなど通うという方法があるの」
 補欠試験を行う職員室にいる事務の女性が言った。
「南先生、それはこの子に酷ですよ。やる気ありそうなのに」
「だから、やる気ある子が入ると・・・、でも、もうひとりの受験生、石岡さんでしたね。これから入学手続きをこれからしますから。で、戸松さん、ここまで来た交通費を書類に請求してください」

 何なの、この学院のいい加減さは。私は悲しい気持ちを通り越して怒りの気持ちがこみ上げた。
「なんで、なんで。試験もしないで、いきなり私のことをバッサリ、切るの。理不尽だわ。私、ほんとうにアイドルになりたいの」
「だからね、その本気があれば、別の学校を受ければいいでしょう」
 南先生は答えた。

「で、石岡さん、これから入学手続きです。今日は試験をしません。中学校から送られた成績書、内申書、試験の偏差値が送られて大丈夫だと確信しました。私立の学院ですから偏差値は高いです。それに全寮制ですから、みんなと協調できますか。集団生活ですから」
「はい」
 私は彼女に強い嫉妬を感じた。

「ごめんなさい。うちの学院には、この子を入れる意味があるの。学院の方針があるの。あなたは、別の学校を受けなさい。きっと立派なアイドルになれる。自分を信じて。自信を持って」
 そんなこといわれても、私の怒りの気持ちは収まらない。
 私は、あの南先生という若い教師を睨みつけた。
 南先生は、とても悲しそうな表情をした。泣くのを耐えた。

「戸松さん。うちの学院には、それなりのやり方があるの。他のアイドル養成の音楽学校とかダンススクール、ファッションスクールなど紹介するわ」
「もう、いいわ。大人は信用できない」
 南先生は、とても辛そうだった。

公立中学にて

「不良撲滅キャンペンとしてシュベリア・カムチャッカ半島での石器時代体験合宿をします。偏差値が低い子、不良になりそうな子、家庭に問題がある子は、それに参加する義務があります。なお夏休み前に期末試験をしますので、みなさん試験は満点をとるつもりで頑張ってください」
 とても寒いところ。8月でも氷点下、なにもないところで石器時代と同じ暮らしをする。
 25人で一つのチームを作る。2週間、放置させる。みんなが仲よくしないと命に支障をきたす。特に不良になりそうな子たちが選らばれる。
 偏差値70で内申書にも問題がない。だから、シュベリア送りにならないと思う。でも、油断は大敵。少しでも校則を破れば、シュベリア送りになる。

 公立中学校では、教師もシュベリア送りの対象となっている。教師としてやる気ない、倫理観がかけていればシュベリア送り。それでも、更生のみこみがなければ、アフリカへ生涯ボランティアとして一生を捧げることになる。飢餓がある地域に送られる。そこでは、頻繁に殺人事件も起きるし病気になれば病院に行けない。平均寿命が23歳という状態である。

 究極のスパルタ教育である。

私は軽音部に入り

私は軽音部に入り、音楽の勉強をする。最近のアイドルは英国のUKBに影響され、作詞作曲ができないとダメ。楽器も演奏できないとダメ。ただ、かわいいだけでは、ながくアイドルとして続けられない。

「では、これからシュベリアとアフリカの映像をこれから見ます」
 シュベリアでは石器時代の人たちのように、動物の皮でできた服を何枚も重ねて着る。当然、美味しいものは皆無。数日もたつとネズミとかウサギなどが、ご馳走に見える。口に入れらるものを食べないと2週間も持たない。
 25人でひとつのチーム、いや村社会を作る。それによって組織というものを体で覚える。一人だけでは生きていられない。みんなが協調性をもたないと途中で餓死してしまう。とても厳しい状態である。
 帰国しても、不良とみなされたら、そのままアフリカや中東のとても貧しい地域へ生涯ボランティアとして一生を過ごさなければならない。

 みんな、良い子でいるのは、そんな厳しい環境で生活したくないから。
 それに、『便利』という言葉が死語となった時代、すべてのことはロボットやアンドロイドが人間の代わりにやってくれる。

 ぬるま湯につかりきった未成年の若者が、いきなり何もない石器時代の生活を送るなんて、無理がある。でも、サバイバルを学ぶ必要もある。日本列島では巨大地震がいつ起きてもおかしくない。
 311地震以来、何度も巨大地震が起きた。あの南トラフ大震災では、津波被害は甚大だった。名古屋も大阪も津波でやられた。四国の南側も大きな被害を受けた。311地震の被害の20倍。これで日本は終わったと思ったが、日本には潜在的なお金が無尽蔵にあり、他の国々の義援金なしで立ち直った。

 それから200年、日本から貧困が撲滅してから、犯罪がほとんどなくなった。工場では万能ヒューマノイドロボットが仕事を24時間してもらう。人間が行うことは人間そのものを監視することである。
 だから、治安がよくなり犯罪がなくなっても警察は縮小するどころか拡大している。

応募した女学院からパンフレットが届けられても


 私は公立中学校から帰り、学校の授業の復習をしようとした。
 授業中に書きとったノートを他のノートに清書する。清書した文章をパソコンのデーターベースに入力する。
 
 そうやっているうちにある程度、授業の内容を覚えることができる。
「ほむら。学院から郵便物が」
 今どき郵便がくるとは、ローテクだと思う。今は23世紀、郵便宅配ロボットから私宛の郵便物が来る。
「お母さん、いまどき郵便物なんて珍しい」
「もしかして爆弾。開けると爆発するとか」
「そんなことないわ」
 しばらく押入れの中に入っていたロボットを出した。使用歴80年のレトロなヒューマノイドロボットを連れて行った。いつ壊れてもいいようなおんぼろロボット。電源を久しぶりに入れた。
 近くには誰もいない。多摩川の水は、飲めるほど泳げるほど、きれいになった。私は多摩川が好きだ。近くには、もう何十年、いや200年近くも使われていない古い橋がある。夏は水泳をして、それ以外の季節には魚とりをする。

 都内の人口が急激に減り、緑に覆われている。誰もいないのを確認した。
「私、最先端機器は苦手なの。ねえC2055。長いあいだ、ありがとう」
「どういたしまして。で、この郵便物の上部を破るのですか。中身を確認するために。重量を計測しましたが爆発物の可能性はほぼ皆無。中身は紙でできたものです。X線でスキャンしました」
「そうなの」
 片側8輪走行の家庭用ロボット・C2055。ロボット博物館に入れてもおかしくないほど古い。当時でも廉価なロボット、普及機として売り出された。大事に使いつづけて80年。

「ごめんね。C2055、私が郵便物を開けるから」
 私は郵便物を開けると、中にあるのは他の音楽学校や歌唱学校、アイドル育成スクールなどのパンフレットがたくさんはいっていた。アイドル育成学院関係のデーター用ディスクも入っている。この時代では、古臭いやりかた。
 

 そして、手書きの手紙が入っていた。丁寧な文字で書いている。
『この間は、ごめんなさい。私たちの学院は、本来なら、あなたのような、本気でアイドルになりたい子を喜んで入学させたいのですが、あえて、やる気のない子、他の子と違った考えを持った子を入れていました。それは、みんなの結束を強めるだけでなく、忍耐を学んでもらうためです。なお、これらのパンフレットの学院に通う意志があれば、私が責任を取って、お勧めいたします。相談することがありましたら私にいつでも連絡してください。是非、みんなから愛されるアイドルになれますように遠くから応援します。ダンス・ファッション科担任 南ひろみより』

 この郵便物を見て、私の苛立ちが少し軽くなった。私のことを応援している人がいることを知った。

もうじき夏休み・緊張の連続


 超ハイテクファッションとは、太陽電池で稼働し有機ELで服の色を変えられる。マイクロエアコンがあるので、四季に影響されない。
 でも、私の家ではお金に限界がある。所詮、庶民だから。

 それに、もうじき期末試験。勉強に集中しなければならない。部活が終わったらすぐに勉強。なぜならカムチャッカ半島送りにされるから。
 そこに行けば8月でも寒い。周囲は森林ばかり。石器時代とおなじ暮らしを2週間もおくる。挫折すればアフリカの奥地へ永住させられる。また、不良とみなされたり、人格に問題があってもアフリカ送り。数世紀も進歩しないところは進歩しない。飢餓、政治の腐敗、弾圧、因習など、多くの不幸の原因がある。逆に多くの志願ボランティアが、その地域の生活を向上させようと頑張ってもテロリストに殺されることが多々ある。

「偏差値70。試験は全部満点を取るつもりで」
 私は軽音部で楽器演奏の練習をした。キーボードの演奏ができる。楽器が使えなければ、作曲もできない。そして、作詞をするには語彙が豊富でなければならない。言葉の表現力が必要。
「ほむら、夕食ができたよ」
「いただきます」
「おねえちゃん、試験の成績が悪いとカムチャッカ半島いきだよ」
「わかっているわ」
「そんな、まだ成長期の中学生を送るなんて。いくら不良撲滅でも、それはひどいよ」
「でも、そうしないと私たちの社会は平和にならない。金銭の奴隷、拝金主義の根源は公立学校の教育から」
「で、ほんとうにお金があれば、私立の学校に送りたいのに」
「それで、お母さん。お願いだけど、この間、関東女学院の補欠試験に落ちたけど」
「でも、寮の生活費におこづかい。それに学費を考えれば」
「私、アイドルになりたいの」
「アイドルは女性では最も高いステータス。でも、補欠試験は学費は入学金免除の特待生ということでしょう」
「そうなの。それが、ばっさり落とされて悔しいの」
「仕方ないわ。他にいろんな方法があるでしょう」
「そうだね」

 私は夜6時の夕食を食べ、午後9時に寝るまで学校の試験問題をした。

午前4時、早朝の勉強


 この時代、人間よりもロボットのほうが多い。21世紀中期から世界人口は徐々に減り始めた。先進国でも人間が宇宙に行く必要がないという考えがひろまる。また、ロボットアレルギーのパソコンマニアがロボット研究所やベンチャー企業を襲うことが多かった。

 ロボットが実用化し始めたのが、今から100年前、22世紀の中期から。
 本来ならロボットアレルギーがなければ、ロボット技術は2世紀も進歩した。また、世界の貧困問題がなければ宇宙開発は3世紀も進歩していた。

 世界共産主義革命ですべての人が、限られたパイを分かち合う社会になって、科学が爆発的に進歩して、私たち庶民は目が回る。次から次へと新製品がでる。宇宙エレベーターは世界の先進国を結束を強めた。

 だがいい話には必ず裏がある。

 とても厳しい規則が。午前4時、外は明るくなった頃起き、それから、シャワーを浴び、長い髪を洗う。自分の部屋にもどり、ショートパンツとTシャツを着て、昨日勉強したところをもう一度、復習する。
「今日は朝7時半に中学校に行かないと。それに遅刻は厳禁。でも、私の家は周囲が緑に覆われているのに、家が小さすぎ」
 外は紺色の淡い空が見える。もうじき朝になる。
「間違えても夏休みを、とても寒いカムチャッカ半島やシュベリアで不良たちと一緒に過ごしたくない」
 私を突き動かしているのは、とても厳しい規則。それを破れば、かなり辛い思いをする。

朝食、そして公立中学校へ

 たいてい悪いことを覚えさせられるのは公立小学校の高学年。親は子供のことを知ってりつもりが全然知らない。思っているよりもワルになっていることを。そんなの子が大人になれば、いろんな人たちを泣かせる。人生を狂わせる。

 有名な格言「ワルになるには二十歳(ハタチ)をすぎてから」

 勉強ができれば、国家公務員、地方公務員、政治家、官僚になれる。多くの人の人生に影響を与える仕事に付ける。ある人の人生を台無しにできる。自分中心の生き方をする。永遠の刑罰、無間地獄に落とされると口で宗教家が脅しても、人を苦しめ人生を台無しにすることほど、強烈な快感はない。

 あとは性犯罪である。若い女の人を強姦すれば、脳内に強烈な報酬が得られる。それに、いじめである。集団で弱いものいじめをすれば、自分は世界の勝ち組になれた気持ちになれる。いやスーパーマン、それとも全能の神になった気分になれる。脳内にひじょうに多くのドーパミンが生成される。そうなると生きたまま『臨死体験』ができ、脳が大量のドーパミンで破壊され、それで、重度の統合失調症になり、躁うつ病になる。

 その意味で、人類の歴史では宗教倫理が支配し続けて、人間の暴走を食い止めた。宗教倫理がなければ人類は既に滅んでいたのは確実である。

 こうして無事23世紀を迎えた。とても厳しい規則のもとで。

 人間が人間を監視する義務がある。それは21世紀中期から常識となった。相互監視、あらゆるところに監視カメラの設置。プライバシーを覗く機器の開発が急激に進歩した。人間の考えを読み取る機械、夢さえもビデオに録画できる。思ったことが立体的に表示できる。そんな機械は既に22世紀末から、ごく普通に使われた。

 『麻薬の原料は悪人の脳から』というので、悪いことしたばかりの人間を殺したら、すぐにその人の頭から脳を取り出せば、良質の麻薬が取れる。
 警察では、人間のストレスを軽減させる薬を作るために犯罪者を殺す権利が拡大された。「射殺したら5分以内に脳を取り出せ」脳を取り出し、多くの幸福物質が取り出せる。屠殺場で殺した家畜、1万頭分の幸福物質がとりだせる。良質なので、とても幸福な気持ちになれる。

 午前5時、朝食を食べる。
「お母さん。おはよう」
「おはよう。ほむら」
「おねえちゃん、おはよう」
「で、なんで私の家はひと里離れているの」
「そうね・・・、家賃が安いから。それに老後のために貯金をしないと」
「お母さん、私、アイドルになるから」
「そうだよね。アイドルとかローラーボールなど、厳しい規則の社会では必要なの。ストレスの軽減になるし、みんな夢を持てるし」
「ぼくも、応援するから」
「で、あの南先生から手紙をもらったのだね」
「うん」
 南先生は、なんらかの理由で、やる気なさそうな子を選んだ。でも、他の音楽学校、アイドル育成スクールのパンフレットやデーターディスクを渡してくれた。
「あの先生は、いつでも相談にのってくれるから」
「優しい先生だね」
「でも、見た目は18歳から20歳くらいだけど」
「いやね・・・、実年齢は倍なの。もう40を超えている」
「そうなの」
 私は驚いた。当然、アンチエイチング技術が確立すれば、これは全世界で大きなビジネスになる。だれだって、いつまでも若くいたい。
「若くってきれいで美人のまま永遠に生きられるのが、人類の女性の共通の夢なの」
「そう思う。でも、みんな美人だと、アイドルの価値が下がるのではないの」
「だから、良い歌を歌ってみんなを元気付けるのがアイドルなの。見た目だけはもう古い」

 午前7時半、早めに教室の中に入る。カードを使って、暗証番号を入力する。声帯認識と指紋認識、そして角膜認識をして、複雑なパスワードが一致すればいつでも中学校に入れる。
 午前7時40分、だれもいない静かな教室で、今日の授業の予習をする。

 床から私が座るイスと机、机には画面で操作できるコンピューターがついている。これからオンラインさせ、予習をする。

人間の脳からとれる物質は最も良質な薬になる


 1時限目、地理の授業。
「人間の脳は、この惑星、地球のあらゆる生物の中で最も良質な物質が生成できることが近年の脳医学で発見されました。その原理は今でも謎です」
 殺人、性犯罪からタバコを吸うことで、脳内に強烈な幸福物質が生成される。人間ほど幸福物質が生成する生き物は、この地球上にはいない。
「で、アフリカおよび中東において近年、増加する殺人事件の犯人を捕まえ、生きたまま脳を取り出すという事業が始まっています」
 私は、その話を聞いて気持ち悪くなった。
「戸松さん、どうしたのですか。気分が悪いですよ」
「生きたまま人間の脳を取り出すのですか」
「そうです。死んだらすぐに幸福物質の質が落ちますから。生きたまま捕まえて人間の脳を取り出し、そのまま幸福物質をとりだします。なお、タバコは一生やめられないのは、脳内に強烈な幸福感をあたえるからで、タバコをやめたために、ひどいうつ病にかかった人がいるので、禁煙を強いることは人道上問題となりました」
 

 私たちが、とても幸福な生活しているが地球の裏側では悲惨な生活を送っている人たちがいる。何人かの人たちが、その環境を少しでも良くしようとしているが、一向に改善されない。むしろ絶滅するまで悪化する。
「で、政府には65歳以下の人にタバコの販売を禁止しています。タバコは覚せい剤の一つだと解ったからです」
「では、私たちは幸福な生活をして、より生活に余裕がる人たちは太陽系のいたるところに冒険に出るようになりました。それに人類の人口よりも、万能ヒューマノイドロボットやアンドロイドの方が多いです。私たちは単調な仕事から解放され、大部分が警察や警備会社、それに家宅捜査会社、資産監視会社に就職しています。昔の人から見れば極限的な管理社会です」
「あら、住めば都。むかしは自分で自分の命を絶つほど不幸な人もいました。猟奇殺人事件も多発していたし、道徳も退廃していました。で、昔の人よりもはるかに幸福ではありませんか。現代社会のどこがおかしいのですか」
「わかりません。規則が厳しすぎます」
「そうね。アフリカにいってみなさい。とても悲惨な状態だから。今でも人身売買もある。性犯罪も多発している。その性犯罪者の脳を生きたままとりだすことで生計を立てている人もいるのです」
「それでは、その事業が亡くならない限り永久に開発途上国では悲惨な状態が続くのではないでしょうか」


「全人類を統一するのは難しいです。こんな小さい惑星なのに」
「で、話が違うのですが人間は生きたまま『臨死体験』ができるのですか」
「できます。悪いことすれば脳に強い報酬を与えます。人間の脳は、どの動物よりも発達していますから、その分、脳に報酬を与えないと、生きる活力を与えません。今は性犯罪をしなくても、誘拐された人に麻酔なしで頭の皮をはがし、電極を埋め込んでわざと臨死体験をさせます。強い幸福物質が生成されるので、それを吸い取るのです。死ぬまで」
「それは残酷です」
 私は気分が悪くなった。

脳、人間の体の中にある小宇宙。私は人間の脳から取り出した薬で臨死体験を

「ご、ごめんなさい。戸松さん、大丈夫ですか」
「だ、大丈夫です。気分がすぐれないので、保健室で休ませてください」
 私は、アフリカで人間の脳を生きたまま取り出すという話を聞いて、それがトラウマになった。
 それが15分後、まだ授業中だけど、地理の先生が保健室に入ってきた。
「戸松さん、ごめんなさい。さっきの授業のことを忘れるように、薬を持ってきたの。とても高価だけど」
 教師は生徒を傷つけてはいけない規則がある。
「まあ、今回の件で今年のボーナスがなくなってもいいから。ねえ、この薬を飲みなさい」
 水と一緒に、生徒の心が傷ついた時に飲ませる薬、それが、人間の脳から取り出した幸福物質。うまく精製しないと、強烈な依存性がある危険な薬品。他の薬品と一緒に飲む。依存性が強い。強烈な快感、幸福感を感じる。
 私は他の薬も飲む。近くには保険医と薬剤師がいる。
「ごめんね。地理の授業で変なこと言って。戸松さん。他の生徒にも悪影響ないか。緊急検査することになったの」
 私は薬を飲んで、数分後、とてお幸せな気持ちになった。自分の身体から魂が抜けたように感じ、天井に私の魂がいる。ベットで寝ている私が見える。3人の女性の先生たちが見える。
『とても幸せ。これが臨死体験なの。私は死んだの。それとも生きているの。夢とは違う。意識がはっきりしている』
 私の魂を先生たちの近くへと下ろした。足元に感触がない。立った気持ちがしない。『先生、先生』私の魂が先生たちの体をすり抜ける。先生の身体の中に入ることができる。その時、先生の心の中が読める。
『ほんとうに、今日はへんな授業をしてしまった。責任重大。他の子にトラウマを与えていなるかも。どうしよう』
 そのとき私の目の前に先生の子供時代の風景も見える。先生の目線で保健室がダブって見える。
『はじめて・・・。言葉では表現できない。これが臨死体験。でも機嫌がいい。なにもかも許せそう。私、このまま死にたくなった』
 そのとき、急に暗いトンネルを猛スピードで通り抜け、思い出が走馬灯のように巡る。
『お父さん。なんで死んだの。もし、私がそのまま死んだらどうなるの』
 周囲は真っ暗で風がない。猛スピードを感じる。そして徐々に遠くに光が見える。
『なんなの天使様』
 私は天使なのか神様なのか知らないけど、人間の人智を超えた存在を感じた。頭の中で、どこの国の言葉でもない思考のみが入った。
『あなたには人々のために、励ます義務があります』
 その声、いや考えが入ったとき、私は死んだお父さんと会った。
『お父さん。迎えに来たの』
 そのほか祖母、祖父、見知らぬ人々も来ていた。
『お父さん・・・』
 お父さんは笑顔で私をみつめた。身体に重さを感じない。遠くに川が流れている。そこをお父さんたちと渡ったら、私は、あの世に行く。
『みんなを元気つけなさい。純粋な気持ちを忘れるな。じゃあ、しばらく会えないけど、お母さんによろしく』

 気がついたとき、私は病院のベットで寝ていた。
「先生、気がつきました」
 看護師が言う。
「おはよう。どうして、ここで寝ていたの。今朝、亡くなった、お父さんとあった夢を見た」
 看護師と医師は、安堵の表情を浮かべた。

 部屋の時計を見た。2時を指している。
「今は午後2時ですか」
「いや午前2時。昨日のことは何も覚えていないだろう」
「えっ」
「よかった。地理の富士宮先生は、大きなミスを犯した。夏休みカムチャッカ半島に生徒たちと行く予定。責任を感じて」
「なんなの。いつも来ているパジャマじゃない。どうして、ここにいるの」
「なにも覚えてないのね。今は火曜日の午前2時。しばらく休みなさい」
 看護師に言われた。

 それから2時間後、窓から青い光が入った。すがすがしい朝。

早朝、多摩川の水の中へ水着で入って


 午前3時50分、私はなんだか知らないけど、とても楽しい気持ちになっている。とてもハイになっている。
「紺色の空、夜明け前、とても幸せ」
「戸松さん。大丈夫ですか。今日は公立中学校の授業は中止です。病院の付近で、のんびり過ごしてください」
「はーい」
 私は気分がハイになっている。ここから歩いて30分のところに多摩川がある。60年前に使われなくなった道路と橋があり、近くには廃墟になったトラック基地。運送会社の跡地がある。緑に廃墟が覆われている。
 看護師さんに言った。
「私、多摩川で泳ぎたくなった」
「でも、まだ午前4時ちょっと前ですよ」
「いいから。いいから」
 私は人間の脳から取り出した『幸福物質』の影響で気分が爽快。とても幸せな気持ちだった。月曜日のことは全然、覚えていない。地理の授業のとき、私にトラウマを与えるようなこと言ったことに責任を感じた先生から薬を飲まされたと聞いた。トラウマを与えるような話をしたことに責任を取ることになった。他のクラスメイトにもトラウマになっていないか、すぐに精神の検査診断がはじまったらしい。「らしい」というのは、私が看護師から聞いた言葉。

 私は、気持ちが大胆になった。そして薄地の布地のレオタード状の水着を選んで、警護ロボットと一緒に一人で多摩川へ向かう。空色の水着がきれいに感じた。

 周囲は深い森に囲まれている。徐々に下り坂を下りつづける。私はとても楽しい気持ちで大きな声で歌を歌う。
「お嬢さん。早朝に大きな声で歌ってもいいのですか。でも、歌のメロディは正確です。音の高さ早さが音符とほぼ一致しています。歌の才能があります。今のは特別なフォルダに録音させて保存します」
「ありがとう。褒めてくれて。あなたにも、音楽がわかるの」
「人間とは違って、音楽の良さはわかりません。感性とかイメージが理解できませんから」
「そうね。ロボットだから。でも、人間よりも音の高さがわかるでしょう。絶対音感みたいなものが」
「そうです」
 私は水着のまま、薄い布地の水着をきたまま、早朝、多摩川へ向かう。
 かつては東京には1000万人もの人たちが住んでいた。今はこの辺に多くの人が住んでいるのは、横田基地だった、横田空港の周囲のみ。

 100年前、都内の再開発のため、地下に航空へリニアモーターカーが開通した。周囲には国際色が強い町がある。いろんな国の人たちが住んでいる。鉄道路線の近くに、私が転入しようと考えた「関東女学院」がある。

 その近くには高層住宅もたくさんあるが家賃が高い。そこから、東を見ると、都心に超高層ビルがたくさん見える。ほとんどが、クラウドのデーターを保存するために建てられたビル。わずか10年でビル一杯分のデーターで満杯になる。

 私は足を傷つけないように、サンダルを履き。朝食と飲み物を入れたバックを持ったまま、水着姿で多摩川へ向かう。私の脚もとに涼しい風を感じる。露出度が高い水着を着ている。

 今は6月、昼間の時間が最も長い時期。午前4時半、私は多摩川についた。信号機がないから、歩くのを遮るものがない。

 胸元が広く背中を大きく露出した水着を着て、多摩川の中で泳ぐ。一人だけだけど、とても楽しい。自然の音が聞こえる。虫の音、草が風でなびく音。木の枝の音。川の水の流れる音。とても、素晴らしい旋律。自然が作り出した天然のメロディ。気分は最高。私は機嫌が良くなっているのは、昨日、飲まされた薬の影響である。人間のストレスを緩和させる薬。これと同じことができるのは、脳にナノマシンを埋め込み脳細胞に刺激を与えることである。脳細胞に刺激を与えると、強い幸福感を感じる。何も薬がなくてもナノマシンを注射器で入れればいいけど、そうなると人間そのものがコンピューターの一部になる。本人の承諾が必要。必要性がある人間だけが審査を受けてナノマシンを埋め込む。

 強い磁力には弱い。電磁波、放射線で簡単に破壊されてしまう。そうなると単なるゴミになる。血管の中にゴミがあれば脳梗塞になる危険性がある。まだ成長期である12歳の私は、脳の中にナノマシンを入れる資格がない。


 足元に多摩川の冷たい水を感じる。
「冷たい。でも、気持ちいい」
 私は警護ロボットに見守れながら、川の中で泳ぎ、魚たちと一緒になる。

 午前6時、バックに入った朝食を食べる。
「美味しい。人間だから美味しいものが食べられるの。でもロボットだとお腹空くという感覚はないでしょう」
「そうです。私たちロボットには食べ物を食べる必要がありません。この『お腹すく』とか『美味しい』という感覚が、私には理解できません」
「そうね。ロボットも理解できない感覚がたくさんあるのね。難しい関数の計算は瞬時にできるのに」
「ここから、あなたを月へロケットの軌道計算と、それに必要なさまざまな分野の費用と人数の計算は、わずか1000分の1秒できます。同時に、それらに、かかわる人たちへの人件費。燃料の重量、酸素の量、水の量なども同時に計算できます」
「そのへんが人間の頭脳を超えているのね。ロボットは」
「でも、人間に常に忠実であるように性能はリミットされています。人間を騙す方法が全然思いつきません。あなたを不愉快にする言葉が思いつきません。だから、私はあなたのことを裏切れませんし、あなたのこことを攻撃できないです。ロボットは人を殺したり傷つけたりできないようにできているのです。ただ、自分を守る時のみリミッターが解除されます」
「そうなの。よくできているのね」
「ロボットが社会に受け入れられてから、まだ200年。年々進化していますが、人間に反抗できないように工夫されています」
 私は朝食を食べ終わり、喉をお茶で潤してから、水着のまま歌を歌った。
「ねえ、上手く歌えた。とても楽しい。しあわせ、ねえ、ちゃんと録画した」
「はい。遠隔操作でディスクに録画したものを記録させました。よい思い出の記念になります」
「ありがとう」

 私は、夕方まで多摩川の水の中で泳ぎ続けた。午後には近くの子供たちも遊びに来た。お昼と夕食は、他のロボットやアンドロイドが持ってきた。

 夜7時、女性型アンドロイドが来て、長い髪を触りながら私に言う。
「戸松ほむらさん。お母様との連絡しました。明日も中学校は休校です」
「そうなの。なんだか、徐々に気持ちが落ち着いてきたの。いつもの気分に戻った。早朝からハイな気分で、とても疲れたわ」
「では、どうしますか」
 女性型アンドロイドは、本物の人間のように感じた。あの警護ロボットのようにメカメカしくない。スマートで美しい。そして、私に上着を着せた。
「ねえキャンプしたい」
「わかりました。近くにヘビがいないか確認します。私が害虫や爬虫類から一晩中、守りますから。それではキャンプ用品を送るように連絡します」
 
 午後8時、テントができ、私は送られたショートパンツとタンクトップに着替えた。寝袋にくるまり、空星を見た。多くの星が見える。宇宙のすばらしさを実感した。私も大人になったら宇宙に行こうと思う。
 
 そして、いつの間にか寝た。

人類の技術の進歩。のんびりした1日・アンドロイドにも悩みがあるのか

 私は夜中の3時に目が覚めた。気分は昨日のようにハイではないし、少し気持ちが落ち着いている。
「おはようございます。睡眠時間は6時間43分23秒、レム睡眠は、それから夢を見た回数は」
「いいわ。おはよう。なんだが、一人でのんびりできたわ。ゆっくり、はなしあいましょう」
「健康状態は良いです。それから、この薬を5日間、ちゃんと飲んでください。脳がおかされて、躁うつ病になる危険性がありますから」
「わかりした」
 私は、とても苦い薬を飲んだ。
「でも、月曜日のことは全然覚えていない。気がついたら私立病院の中にいて、ベットの中だった。いつもと違うパジャマだった。でも、夢の中で、亡くなったお父さんとあったの。で、お父さんも『みんなを励ますように。お母さんによろしくと伝えて』といって」
「それは臨死体験の記憶だと思います。人間は強烈な幸福感を感じると、臨死体験ができます。私はアンドロイドですから、全て論理的に科学的にしか説明できませんけど、人間が死んだあと、魂だけは未知の領域へ旅たつと思います。それは非論理的ですか」
「いいえ。人間らしい答え。アンドロイドも人間に似ているから、そんなことが答えられるのね」
「そう思います」
「ねえ、アンドロイドだから悩んだことはあるの」
 私は、興味深い質問をした。しばらく女性型アンドロイドは考えた。数秒の沈黙がある。
「あります。ヒューマノイドロボットと違って、私たちアンドロイドは人間に似せて作ったから」
「では宗教を信じる自由があるの」
「人間に似ているから、人間が理解できないものに畏敬の念を感じます。だから神の存在を信じられます」
「でも、美味しいものが食べられない。死んだらどうなるかという悩みはないの」
「あります。それが、私たちアンドロイドの悩みです。でも、人間を傷つけないように、悪知恵が思いつきません。そのような思いはプログラムで削除されます。私もアンドロイドに生まれて悩むことがあります。私には人間のように、赤ちゃんから幼児期。そして成長期を迎えることなく、いきなり成人の女性として生まれます。それに子供を産むことができません。性欲という概念もありません。だから、悩むのです」
「そうなの。宗教を信じていいの」
「難しい質問です。でも、アンドロイドはアンドロイドであって決して人間ではありません。所詮、複雑なプログラムでしかないのです。でも、私に自我があるでしょうか。将来、あなたが電脳化したとき、きっと、私に自我があるかどうかわかるでしょう」
「そうね。難しいことを質問して。ねえ、近代文明が停滞したのは」
「貧困と宗教上の争いです。それに新しい技術に対する恐れです」
「そうなの」
「宇宙開発では、スペースシャトルで2度の事故があり、資金不足にNASAの意欲喪失、貧困が広まる社会に福祉の必要性が優先されて、しばらく有人飛行計画が停滞しました。2100年代までです。それにロボットに対する恐れがありヒューマノイドロボットよりも無人戦車や無人戦闘機だけが爆発的に進化しましたが、実生活に使うロボットは社会が認めませんでした。むかしは『輝かしい21世紀』という言葉がありますが、科学技術はコンピューターを除いて20世紀のままでした」
「そうなの。でも世界は二つに分断され。私たちのように進歩した世界で暮らす人たちと、地球の裏側では、中世の暗黒時代のように電気も何もない社会で暮らしている人たちに分かれているの。たしか文明の衝突論で、2120年に『ホメイニイ条約』が執行され、宗教法によって近代文明の使用が禁じられたけど、でも銃器とかミサイルなどの武器は近代的なもの。だからビックブラザーも、もう手出しできなくなって、世界政府は永久凍結したわ」
「その通りですね」

 徐々に空が明るくなる。アンドロイドと会話すると相手は機械とかプログラムという感覚がない。

 のんびりした1日を過ごし、昨日の泳いだ分、疲れを取るために、延々と横になった。空が青い。雲が見える。川の流れがの音が聞こえる。

 午後3時、わたちたちはテントをたたんで、自分の家に帰るしたくをした。

女学院の南先生から音楽学校とダンススクールを紹介されて

 今日も私が通う中学校は休校。その代わり、夏休みはその日数分減らされる。今はムラ社会のように、市内の人たちの情報が瞬時にわかる。昨夜、午後8時頃、これから弟と一緒に部屋に入るとき、アイドル育成の関東女学院から連絡が入った。

 今日は休校になって3日目、今日と明日、関東女学院の南先生と一緒に音楽学校とダンススクールを見学し、もし良かったら入学の手続きをする。
「このあいだの転入試験のとき、ごめんなさい。うちの学院の方針なの。わざとみんなと違う子を入れないと、みんなの結束と忍耐力が育たないから。それに寛容さも」
 私は、まだ中学1年生で12歳、南先生の言っていることがよく理解できない。
「でも、みんな熱意ある人たちが集まればいいのではないでしょうか」
「そうなると個性がなくなる。アイドル育成は軍人を育てる場所ではないの。みんな同じような顔のアイドルでは、つまらないでしょう。あえて、今回の場合、本気ではない子、やるきなさそうな子を入れたの。ほんとう、不愉快なおもいをさせてごめんね」
「いいです。良くわからないけど、南さんが、私にそこまで気を遣って」
「でも、公立中学校でも良い子が多すぎるじゃないの。あえて高校を出たら、中東やアフリカに永住して、そこに暮らす人たちのために、一生涯ボランティアにいくことを選択するのよ。あそこに行くのはサイコパスという罪悪感を感じない人たちが行くところ。とても性格が悪い人に、他の宗教を一切認めないガチガチな戒律主義者ばかり。食糧不足に水不足、広がる砂漠化でどうにもならないのに」
「私、怖いの。この社会が。でも、みんなを励ますのも仕事だと思うの。でも、南さんは教師として立派だと思います」

 
 私はスマートフォンから南先生の個人情報が自動的に入力される。
『血液型A型+ 身長167センチ 体重42キロ 年齢42歳と10ヶ月 年収・・・住所・・・』
「南さんは42歳にみえない。まだ22歳に見える。今流行りのホログラムで化けていないし。ホログラムで変装しても、街中にある監視カメラで本当の顔がわかる。それに、個人情報が誰でも自由に調べられる」
「そうね。情報がありすぎて、みんな頭の中にいちいち覚えていられない。誰の過去も本人の承諾なしで知ることができる。誰が何を買ったものとか収入がどのくらいなのかわかる。だからいちいち頭に入れるのがめんどうだから、覚えないの」
「そうよね。私たち子供は、みんなのことは、ある程度を覚えられるけど、大人になると頭の中がパンクするわね」


 私たちは一緒にレストランで食事をした。南先生のロボットカーが自動的に、音楽学校とダンススクールに移動させてくれる。
「南さんは、若いし、でもちょっと子供っぽい顔している。えーと」
「ああ・・彼氏がいるか、ということでしょう」
「何で、これから質問することがわかるの」
「直感よ」
「で、仕事が忙しいからですか」
「そうね・・・、今の仕事はとても楽しい。つい本気出すから気がつけば夜中になることがある。いつも『残業ばかりして』と叱られるのよ」
「南さん、なんで」
「そうね・・・ロボットのことでしょう。なるべく機械に頼りたくないの。自分の力で、どこまでがんばれるか試してみたいの。でも、教師の仕事も面白いし、やりがいがあるわ」
「そうですか。でも南さんは頭の回転がとても早い。そんな大人に憧れます」
「今日は年休扱いにしてもらっているの。有給休暇なの。だって年間40日とる義務があるから日本でも、夏にはまとめて取って子供たちと一緒に、バカンスを過ごす家族が多いのよ」
「そうですか」

 私たちの前に料理が来た。
「ねえ、これば私のおごりだから遠慮しないで」
「ありがとうございます。いただきます」
「彼氏の話だけど、何人かつきあったことがあるわ。でも、どうしても仕事のほうが優先になって。で、多少、できが悪い能力がなくてもいいから私のことを理解してくれる人がいればいいけど、みんな警視庁やその下部組織、警備会社、人材管理会社、資産監視会社などで一生懸命、働いているのよ。それに家事はロボットやアンドロイドがやってくれるし」
「主夫というのを、やってくれる男性がなかなかいないということですね」
「そうなの。私の悩みは、子供を産んで育てたいけど、もう歳だから、そのことで、とても悩んでいるの」
「そうですか。きっと、どこかに南さんにふさわしい人がいますよ」
「ありがとう。で、何か他に欲しいものは」
「だ、大丈夫です」
「ねえ遠慮しないで」
「では、アイスパフェを」
「私も」


 午後、私たちはダンススクールを見学した。先生の話を聞き、私のことを喜んで受け入れた。
「それでは入学の手続きを」
「いいですか。あとは音楽学校」
「はい」

 同じように音楽学校も見学して、入学の手続きをした。

 明日は金曜日、どうせなら一週間、休みにすることにした。そのかわり夏休みが5日も短縮する。あの富士宮先生の失言で、中学校は大問題になった。

 生きた人間の脳を取り出し、それから『幸福物質』を取り出し精製する話は、他の子にもトラウマになった。

 来週から忙しくなる。放課後にはクラブ活動のほか、空いている時間に学習塾に音楽学校とダンススクールに通う。

地理の先生が、丸坊主頭で

「みなさん。私の失言で、ご迷惑かけて申し訳ないです。今後、十分、授業の内容を気をつけます」
「先生、なんで丸坊主頭なの」
 私は大きな声で、富士宮先生に質問した。
「それは、教師は生徒を決して傷つけてはいけない規則があります。でも、みんな、とても良い子に育ちました。将来、とても厳しい環境の地球の裏側に永住して、地元の人たちのために一生を捧げる子が何人かいます。私は精神病質の疑いがある子たちと一緒にキャンプに参加します。更生のみこみがないのか、それを調べるために夏休みカムチャッカ半島で石器時代サバイバルキャンプに参加します」
「先生、そこまで責任を取らないで」
 他の女子生徒もいった。
「先生、とてもつらいキャンプだわ。やめて、耐えられないわ」
「でも、そうしないと、私の気がすまない」


 月曜日の朝、公立中学校の体育館で、地理の富士宮先生の謝罪が行われた。


 私は、あの幸福物質を飲んで、臨死体験をしたらしい。強烈な幸福感で、生きたまま魂が身体から離れたらしい。というのは、月曜日のことは全然、覚えていない。火曜日は臨時休校なので、水着を着たままのんびりした。

 その後、幸福物質の後遺症、重度の統合失調症とか、躁うつ病にならないため、ちゃんと5日間、精神を正常にする薬を飲むように指導された。そうしないと、気分障害が周期的に起きる。ひどく気が落ち込んだり、とてもハイになって全く眠れなくなる。全然、眠れないから体力を消耗する。自分で自分が制御できなくなる。前頭葉に障害も起きる、怒りっぽくなる。最悪、人格が変わる。

 月に2度、私は精神科の診療所で精密検査を受ける義務がある。

 2時限後から普通通りの授業が始まる。富士宮先生の地理の授業。
「先生、私、地球の裏側に悲惨な生活を送っている人たちがいるけど、その人たちのために一生を捧げます」
「でも、まだ12歳でしょう。よく考えて」
「ネットで見たけど、ひどい貧困に残忍な犯罪が多い。それに社会全体の管理ができていない。宗教家だけが贅沢な生活をしてる。科学技術は私たちの国よりも2世紀も遅れている。たった半世紀でも大きな違いがあるのよ」
「ねえ、みんな聞いて。それをしたいことは、尊重します。ビックブラザーも中東やアフリカを支援しましたが、眠っている資源はそのまま。多くは奴隷商売とか特殊な薬品で生計をたてています。想像以上にひどい環境です」
「でも、私、神様から大事な使命があるの」
「そうですか。わかりました。その国の文化と言葉を学びなさい」


 とても私には考えられないこと。こんな良い子が日本列島にいれば、もっと良い社会になるのに。なんだか、とてもおしいきがする。貧困もない社会、とても安定した社会。安定した社会だから心に余裕が生まれる。みんなが優しすぎる。

16号通りのアラビア語学校

 金曜日、横田国際空港の西側にアラビア語学校がある。私は敬虔な信仰をもっている女の子に関心を持ち、ミニロボット・タクシーで16号通りにあるアラビア語学校に行く。

 長ズボンに長袖のシャツを着る。スカーフを被り髪の毛が目立たないようにする。公立中学校では金曜日は半日で授業が終わる。その代わり土曜日が午前と午後に授業がある。
「ねえ、なんで地球の裏側にある悲惨な地域に行くの」
「だって、私たちだけが幸せで地球の裏側に住んでいる人は年々、生活状態が悪くなっているから。それはおかしくない。地球の裏側では電気もないし、あるのは奴隷制度に貧困。そんな状況を良くしようと先進国の人たちは、支援しているの」
「でも、200年以上も支援活動しているけど、一向に改善されない。それに、多くのボランティアが殺される。誘拐もあるし・・・」
「そうね・・・。言いにくいけど、脳を取り出すのを・・・、やめましょう・・・トラウマになるから。戸松さんに悪影響を与えるから」

 昔は国道16号線とよばれたが、拝島駅のところで寸断されている。拝島駅から青梅までモノレールが走っている。青梅から御嶽まで鉄道路線が残存している。拝島駅は横田国際航空のターミナル駅。燃料補給の線路が400年以上も存続している。拝島駅の下には、横田国際空港のリニアモーターカーの地下路線がある。羽田空港ゆきと、成田空港ゆきのリニアモーターカーで接続している。


 それぞれの空港には、わずか30分以内で到着できる。地下を猛スピードで相互の空港を連絡している。



 拝島から小平まで私鉄路線が残っている。とても古い路線。小川駅から先は地下を通る。小川駅に南先生が勤めている女学院の寮がある。玉川上水駅の近くに私立の「関東女学院」がある。近年、都内の人口が急激に減った。

 空港の西側の国道16線通りには、外国人の街がありいろんな国の人たちが住んでいる。周囲は森林に囲まれている。廃墟も多い。

「ねえ、私、小学生の時、人格検査を何度も受けたの。善良さにおいてはAクラス。この日本列島に永住する権利があるの。で、人格検査で問題ある子たちは、北海道の北端にある研修所に2週間も泊まり込みで人格検査を受けるの」
「そうなの。たしか残酷な描写の映像を見て、動揺するかどうか確認するのね」
「そう。小学校高学年から悪いことを、どんどん覚えるから。当然、公立小学校の教師たちも一緒に8年間も北海道の最北端の研修所で暮らすのよ」
「最近は北海道も開けてきたし、逆に東京は、どんどん人口が減ってきて」
「北海道には陸路も鉄道も未発達。外部にいくには飛行機しかないの。空港があって、その周囲に大きめの町があるの。でも、寒いし閉鎖された場所だから」


 要するに、人間の頭をゴルフのアイアンでものすごい力で打つ。目に見えないほどの速さ。それを見せる。脳と眼球が飛び出す。それで、なんとも思わないのは人格に問題がある。その他、いろんな酷い場面を見せる。動物をどのように扱うか、脳を観察する。動物をいじめて快感に感じれば、人格に問題がある。

 そのまま北海道の最北端へ送られる。高校を卒業するまで更生施設に入れられる。



 7月と8月に山奥に入りサバイバルキャンプを2ヶ月受ける。限られた資材で魚をとり飢えをしのぐ。それに、わざと一人だけ性格が優しいけど、頭が弱そうな子、力が弱そうな子も参加させる。そのような特別な子にどんなしうちをするか、衛星から、密かに隠している監視カメラで観察する。

 いじめをすれば、そのまま中東へ送られる。強制的に環境が劣悪なところへ永住を命じられる。
 
 性格が悪い人間は悪いことをすれば強烈な快感を得る。脳内に麻薬の1万倍もする強烈な薬品が作れる。生きたまま脳を摘出される。本人は自分が死んだことに気がつかない。摘出された脳から、生前の記録をコンピューターに記録する。無数の思い出がコンピューターの記録装置に入力される。

 
「戸松さんは知らないほうがいいことがたくさんあるわ。このあいだのようにトラウマになる危険性があるから。戸松さんの人格だと、とてもデリケートだから」
「そうなの。ときには知らないということも重要だわ。だって、今の時代は、情報量が多すぎる。だから、すぐに忘れるようにできてしまって」
「でも、大人になるともっと忘れるようになるわ」
 
 彼女は、高校を卒業したら一生永住してボランティアを受けるのか。それは、とても悲惨な状況の人たちを助けたいだけ。

 
 人間の脳は、いろんな成分の麻薬が作れる。それも高密度で大量に作れる。
 犯罪を起こしてた直後、頭をメスで切りつけると、頭から噴水のように幸福物質が吹き出す。

 人間は常に生きる活力が必要である。それが、足りないと、重度のうつ病になる。パーキンソン病という病気になり自分の体が思うように動かせなくなる。

語学学習の薬・こうして悪人たちの人生、プライバシーがいくらでも見られる

国道16号通りにモスクがある。肌を露出してはいけない。中東と北アフリカでは、宗教法によりイスラム教以外の宗教を信仰してはいけない。クラスメイトの女の子は、将来、イスラムに改宗して北アフリカで一生ボランティアをする。貧しい子供たちのために、文字を教えたり算数を教える。食事なども提供する。
「ねえ、ちゃんと髪の毛を隠して。スカーフを深くかぶって」
「はい」
「でも、あとで後悔するかもしれないわ。永住することになるわ」
「そうかも。でも、どんなにつらくても神様がついているから」
「ご両親はどう思っているの」
「反対している。まだ12だし、でも、考える期間は、まだ6年もある。それから、私もカムチャッカ半島の石器時代サバイバル訓練に参加するわ」
「やめて。とても辛いと思う。もう少したってもいいじゃない。まだ12歳の女の子には無理だわ。命を落とすかも」


 私はコンタクトレンズ状のコンピューターを目に装着した。
 目をつぶると、殺される人の瞬間の映像が立体的に見える。でも、痛みは感じない。恐怖もない。それは、私の脳は電脳化していないから。

「なんなの。この映像は。うす暗い」
 それから、臨死体験の映像が見える。思い出が走馬灯のように駆け巡る。そして、親族も迎えに来ていない。うす暗い霧に包まれている。両側に大きな崖がある。ひじょうに深い谷を歩く。うす暗い。電気がない夜のような暗さ。
 そこを歩き続ける。霧がある。私は不気味な気持ちを感じる。そして、はるか向こうに川がある。船をひとりで乗る。川を渡る。そして、私の映像がとぎれた。真っ暗になった。

「これが悪いことした人の臨死体験なの」
「そうなの。とても孤独で暗いの」
「きれいなお花畑があると思ったのに」
「そうね、彼は地獄に落ちたと思う」
「そう」

「ねえ、こうやってネット回線で自由に人間の心の中の映像、それに人それぞれの記憶をみることはプライバシーの侵害じゃないの」
「でも、これらは中東にあるクラウドビルからコピーしたものなの。数千万人分の脳内の記憶が保管されているの。なんで、あの人が悪に染まったのか、研究するために、全ての人にオープンしたの」
「ねえ、そんなことしたら、みんな悪人の記憶に影響されるわ。性格がわるくなるわ」
「でも、それを未然に阻止するために、悪人の思考を研究している。ある程度パタンが決まっている。大人になれば、次の行動が誰でも予測できるようになるの」
「じゃあ、あの関東女学院の南さんも、誰が何を言うか次の行動も予測できるのね。まるで予知能力だわ」
「でも、人間の心はランダムだから、予知というのは変だわ。予測するが正解」

 私たちの行動は、監視されているだけではなく、次の行動が予測されている。この日本列島で犯罪るす直前に警察につかまる。

 

南先生も来た。すぐ、その場を離れるように注意された

 私の心は、とてもデリケート。北海道の最北端の学園都市で人格検査を行われる。そして、さまざまなむごたらしい映像をみさせられる。動揺すれば合格。動揺しなければ人格が異常。

「戸松さん。やはり、ここにいたののね」
 アイドル育成の関東女学院の南さんは、やはり私の行動を予測した。
「ねえ、変なこと興味をもたないで。中東の深刻な状況を上映する映画は見なかった」
「まだ」
 子供っぽい優しい顔の南さんは険しい表情から安堵の表情へと変わった。
「よかった・・・」
 南さんは、とても40歳をすぎている女性に見えない。
 
 こどもっぽく、かわいい顔をしているので、そのままアイドルになってもいいような雰囲気がある。なんで彼氏ができないのか不思議である。

「ねえ。今日は計画的に有給休暇を取ったの。あなたがとんでもないことに興味を持つと思って。私の予測だとアラビア語学校だとおもって。予測があたってよかった」
「南さん。この子が貧しい地域の子供たちのためにボランティアをしたいというから」
「その気持ちは十分、尊重しないと。でも、戸松さんの精神では耐えられないの。戸松さんは、どんなにつらいダンスの訓練でも耐えられるけど、残酷なものには、とても弱いの。人それぞれ耐性が異なるから」
「気をつけます」

 私は南さんと一緒に、臨時で精神科の診療所で精密検査を受けた。
「これ以上、薬を飲ませられない。かと言って、脳内にナノマシンを埋め込むことは年齢的に早すぎる」
「先生、どうしますか」
「まあ簡単だ。余計なことをしないように、忙しくさせればいい。高校を卒業するまで。で、15歳から自由に働く権利がある。高校を通いながら芸能界で仕事する権利があるが、それだと、アイドルになるのは狹い門を通ることになる」
「そうですか。では、もう一軒、音楽学校にいれますか」
「そうすると戸松さんの家庭に負担がかかる。では、もっと偏差値が高い高校に入れるしかない」
「わかりました。どうもありがとうございます」
 私も2時間ばかり精神科で精密検査を受けたのでお礼をした。
「ありがとうございます」


「南さん。なんで・・・」
「わかっているわ。何で、このアラビア語学校に来たのか。大人になると直感で、予知できるの」
「予知。まるで超能力者みたい。SFの世界」
「でも、それは訓練をするしかないの。けっしてオカルトではないのよ」

「で、実は幸福な社会は、どちらだと思う」
「それは私たちが暮らしている日本列島」
「ちがいます」
「え!」
「実は幸福という概念だけなら、北アフリカや中東のほうが幸せなんです。だって、人間の脳から大量の幸福物質が日本に輸入されます。ストレスの緩和作用があり、うつ病の特効薬だから。それに、悪人ほどストレスを感じない。見た目が惨めに見えても、自分が不幸という実感がないのよ。だから幸福指数だけでいえば中東のほうがはるかに高いのよ」
「だって奴隷制度に人身売買。殺人事件は頻繁に起きるし、文明も未発達、いや退化している。どうして、そんな社会のほうが幸せなの・・・」

 私は南さんの意見が、理解できない。

「私たちの社会とちがって管理社会じゃない。自分の身は自分で守る。それが中東の宗教全体主義社会なの。ある意味では、誰からも監視されない。でも、幸福な社会と、完成度が高い社会は別なの。私たちは後者なの」

 私は中学1年なので、南さんの言うことがよく理解できない。

北海道・ロシアにある学園都市

 北海道には280もの学園都市がある。空港の周囲に学園があり学生寮と教師のアパートがある。商店街やスーパーマーケットもある。さまざまな人たちが暮らす。大部分が学生が住むけど、学園都市は「外地」と呼ばれている。

 どうしようもない不良少年のグループもあり、私たちが住む東京と違って、厳重に管理されていない。最初から管理されていたら、ズルして善良な人を演じる。当然、北海道の学園都市は治外法権。日本とは、別の法律が執行されている。自治共和制なので、280もの学園都市から選挙で大統領が選ばれる。

 日本の中には大阪自治区と北海道自治共和国があり、そこは国の中の国と言われている。日本本土とは通貨も異なる。でも民主的な自治共和制なので、人々は厳重に監視されない。その中でさまざまな産業を行うことで、大金持ちになることもできる。


 小学生5年生で、家庭に問題ありの子供たちは教師と一緒に8年間、そこに暮らす義務がある。当然、いじめもあり、いじめると高校卒業後に、中東や北アフリカへ強制移住させられる。

 深刻な病気は、学園都市では、躁うつ病患者が多い。福祉に力を入れている。『内地』から多くの善良な人たちが、介護の勉強をして、『外地』の、ひどいうつ病の人たちに「おむつ」を取り替える。ひどいうつ病だと、トイレにいくのもめんどくさくなる。食事をするのも嫌になる。うつ状態が終わると、躁状態になる。


 躁状態になると数日感も寝ずに過ごせる。気分が最高になる。そんな状態で「幸福物質」を飲むと、そのまま目が天井を向き、恍惚な表情のまま、あの世に行く。

 躁うつ病になると60歳までは生きられない。躁状態になると老化した身体が持たない。心臓に大きな負担をきたす。たいていの場合、躁鬱病や統合失調症が重くなれば、異常なほど糖分を取る習慣がある。だから糖尿病になる。どんなに医学が進歩しても、人類から病気はなくせない。


 日本の中の自治共和国に住みたい人が多い。そこは自由だから。公共機関から常に監視されない。不良学生や倫理観が崩壊した教師、重度の精神障害者を相手に商売すればいいのである。軽度の精神障害者のための雇用も生み出されている。小さな民主主義国家が北海道の中にあるようなものである。


 近年、自由を求め、日本の中にある自治共和国へ移住希望者が増加している。ロシア沿岸州周辺にも数千もの学園都市がある。陸路がほとんど発達してない陸の孤島がたくさんある。空港や港でしか外部へ移動できない。

蒸し暑いわ 南先生 水着同然の服装になる

 子供っぽい顔、きれいな肌でスタイルが良い南先生は、42歳になるが、見た目は22歳くらいで、大学に出たばかりに見える。
「蒸し暑いわ。ちょっと脱ぐから」
 南先生は大きなバックを持ち、すぐに髪の毛を隠すスカーフを外した。南先生は、ロングスカートのワンピースにその下には肌を一切出さないためにレギンスで足元の肌を隠している。長袖のロングのワンピースには大きな襟があり、腰のくびれが見えないようにジャケットを着ている。
「ちょっと女子トイレに行くから。この季節だと蒸し暑いし」
「南さんは、洋服にエアコンがついているハイテクのワンピースを着ていると思いました」
「あれは、いろんな機械がついているしネットに接続しているから、重いのよ。それにコンピューターに囲まれるのも嫌だし。でも、ほんとうに何でもかんでもネットで接続なんて嫌な時代」
 
 それから、10分後、大きな紙バックをもった南先生は、ホットパンツにタンクトップという服装で出てきた。胸元を広く露出し、とても細い肩ひも。背中が丸見え。ホットパンツもお尻の丸みが見える。
「ちょっと露出が激しいかしら」
「南さん、これでは水着と変わらないわ」
 紙バックから、半袖のジャケットを着た。

「でも、私たちの言動は常に監視されている。でも、その枠の範囲なら何をしてもいいの」
「そうなの。だからドレスコードもないから服装は自由なの」
「南さんは、子どもっぽい顔で肌がきれい。なんで」
「アンチエイチングなの。ナノマシンで老化を抑えているけど、体力の衰えは、どうにもならない。見た目だけが若いのよ」
「そうなの。私のお母さんよりも若くみえる」

「さっき話した中東や北アフリカの人たちのほうが幸せだというのは」
 私は、疑問になることを質問した。
「この社会は、相互監視することで秩序を保っている。日本列島にはいくつかの自治共和国、自治区がある。誰でも自治共和国に永住する自由があるけど、犯罪もあるし、人権も侵害される危険性がある。でも、良い人を演じる必要がないし、個人の人格の自由がある。だから性格が悪い人も多いけど、監視されない。中東だと宗教法のもとで、ある程度保護されている。まあ、弱肉強食だけど、強い人は殺人をしても、お金があれば何十人殺しても殺人罪にならない。なんというか、この日本列島では得られない喜びと幸福感が得られるのよ。あの『幸福物質』も人殺しさえすれば、タダで強烈な幸福物質がえられる。セックスの200倍の快感なのよ」
「その幸福物質は中毒性があるでしょう」
「そうなの。でも、不完全で年々、社会が悪化しているけど、そこに暮らす人たちは、私たちよりも幸せ」
「そう。でも、今の話、もう聞かれているわ。問題発言ではないの」
「大丈夫よ。全体主義だからこそ、自由に意見が言える。政府は決して言論に屈しない自信があるから。もし嫌なら自治区や自治共和国に引っ越せばいいだけなの」
「自治区と自治共和国は、道路が左側通行以外は、ほとんど法律が違うのでしょう」
「そうなの。でも、引っ越せば政府から保護されない。あそこも弱肉強食だから。だからホームレスもいるのよ」
「いまどきホームレス。そんなの絶滅したと思ったのに」
「地球の地表70%はアキバが支配してい地域には、ホームレスはいない」


 人間の幸せは相対的なものだと悟った。みためが惨めで悲惨に思える社会でも、そこに適応すれば、幸せな人生が送れる。では「幸福」とは何だろうか?

 この社会では、鬱憤がたまる。それを発散させるためにローラーボールとか、アイドルでストレスを軽減させている。規則が厳しすぎる。週に一度は、医療、IT、精神、経済のカウンセリングを受けなければならない。病気も怪我もほとんどない。とても快適な社会だと言われた。でも、徐々にくすぶっているのが、民主化運動。

 アキバという政党の解体。政党の分割化と競争化。企業の分割と競争化。過剰な管理社会の廃止。確かに福祉も充実している。過度の不満分子でなければ、更生施設に入れられない。でもアキバという企業と政党は、世論に決して屈しない自信がある。不満に思うなら、「どうぞ出ていってください」というように、近くにある「自治区・自治共和国」に引越しをすればいいけど、あとは自己責任で自分の身を守らなければならない。

「南さん、自治共和国にもアイドルがいるのですか」
「います。この日本列島本土よりも、アイドルになるのは簡単ですけど、何を要求されるかわかりません。ヌードモデルをすることも要求されますよ」
「それは、嫌だわ」
「でも、この本土よりも、敷居は低いです。羞恥心がなければいいのですから」
「私、からだに自信があっても、そこまでできない」
「まだ12歳。自治共和国でも法律では、15歳未満のヌードは禁じられています」
「そうなの。でも私、この本土でアイドルになる。だから、本格的にダンスができて、そして、作詞作曲ができるボーカリストになる」
「がんばって。応援するから」

 23世紀の日本には、日本の中に自治共和国という半分独立国みたいな国がある。北海道と大阪にある。そこに行けば自由があるけど、社会は保護してくれない。

北アフリカ殺人レースが開催されている

 毎月、北アフリカでは殺人レースが開催されている。
 エジプトのカイロから、モロッコのカサブランカまで、どれだけ人を殺したか競争する。

 機関銃で人を殺す。殺された人たちの脳を摘出する。そこから臨死体験をした人の脳から「幸福物質」を取り出す。

 年間、数千人もの人たちが自動車で轢き殺される。機関銃で蜂の巣になる。
 老弱男女関係なく、いきなり殺される。レースは予告なく開催される。合法的な殺人ができる。

 人類の人口の80%は中東や北アフリカに人口が集中している。でも一般人が電気と自動車の使用を禁じられている。大部分が文字が読めない。学校で教育を受ける機会がほとんどない。飢餓も年々拡大している。
 近代文明は宗教家だけが独占し、宗教家だけが政治支配をしている。貧富の差が激しいし、それに見かねて多くの善良な人たちがボランティアとして世界中から来るが、ほとんどが5年以内に誘拐されて奴隷にされるか、殺される。

 電気も機械もない社会で、宗教的な因習が根強いけど、私たちが暮らしている日本列島よりも幸せ。病院も不足しているし、娯楽が禁じられている。
 
 一般庶民でもストレスを軽減させる脳内チップを入れられたり、脳にストレスを遮断する薬を飲まされる。奴隷のように扱われても、自分が悲惨な人生を送っているとは思っていない。そして、奴隷としての価値がなくなれば、麻酔なしで生きたまま頭の皮をはがされ、頭蓋骨に穴を開けられ、生きたまま脳を摘出する。

 脳に幸福感を司る部分に電気で刺激すると、ものすごい量の幸福物質が生成される。脳から純度が高い麻薬やモルヒネがとれる。脳からものすごい勢いで、さまざまな幸福物質や麻薬が吹き出す。

 生きたまま脳を摘出された本人は、脳を取り出された時点で、意識はない。自分が死んでいることに気がつかない。

 中東や北アフリカでは、重度の統合失調症や、躁うつ病の患者が多い。社会生活ができなくなれば、生きたまま脳を摘出される。幸福物質は、中東や北アフリカでは安く手に入る。当然、日本から多くのサイコパスといわれる良心の呵責を全く感じない人間がたくさん来る。

 悪人は決して不幸にならない。善良な人間だから悩みという概念がある。

南先生も「臨死体験」と「幽体離脱」をした

 23世紀、先進国世界からは、ほぼ貧困と差別、犯罪がなくなった。人々の価値観は富ではなく、いかにしたら楽しく仕事をするかへと変化した。でも、相互監視で精神的に疲れる。情報が多すぎて、頭が疲れる。隣の人がどんなことを考えているか解る。そんな多くの情報をいちいち覚えていられない。

「私、幽体離脱とか臨死体験をしことはあるわ。臨死体験は、とても幸せな気持ちなれる。臨死体験をすれば人生観が変わる。人に優しくできるようになれるの。物質的なものでなく精神的なものに価値観が変わるの」
「南さん。私、臨死体験をしたけど全然覚えていないです。夢の中でお父さんとであって」
「そうなの。でも、月曜日のことは、絶対に思い出そうとしないほうがいいわ。富士宮先生の好意を踏みにじることになるから。それだけはやめなさい」
「南さん、どうやって臨死体験ができたの」
「ちょっと自治区に遊びに行ったときだわ。今から20年前、まだ若い時。本土では違法な娯楽も自治区では、合法のところがあって、時間が5分という条件で貯金を使って体験したの。興味があって」
「そうなの。でも犯罪になるのではないの」
 
 これは危険な遊びではないかと思う。



「それが別の法律で『精神的に進化させるものに限り、これを禁じない』と書かれていて、私は自治区で臨死体験をしたわ。科学では証明できないのよ。なくなったおじいさんや、おばあさんとあった。川の近くで」
「なんだか夢に似ている」
「永遠に忘れられない幸せな時だった。幸せすぎて、すぐにおじいさんたちがいる世界に行きたくなった。それから、22歳までの思い出が走馬灯のように見えて、楽しいことしか思い出せない。憎しみ、嫉妬というネガティブな感情が私の心からなくなった。あの臨死体験から」
「そうなの。確かに私も臨死体験をした。あの脳内物質で作れる薬で。合法の薬品は高価だし」
「そうなの。私は既に電脳化しているから、幸福感を司る部分をナノマシンで刺激する。ひじょうに大量の幸福物質が吹き出す。頭が破裂する危険性あるので、緊急処置で医師を呼んで、私の頭にチューブを入れた。そこから未知の薬品の原料が作れる。だから、非常に高い臨死体験の料金は、逆にお釣りでなく、収入として戻ってきたの」
「そうなの」
 

 私はうなずく。臨死体験とは人間が死ぬ直前の体験。ものすごく強い幸福感を感じる。それに影響されると、たいていの人は人生観が変わる。
「たった5分で、宗教生活5万年分の経験が得られたと思うの。人生5万年分の経験に匹敵するわ」
「5万年分の人生経験。すごい表現。想像できないわ。南さんは人格レベルはA+ですね。優しすぎる性格と出ています」
「そうなの。だから教師の仕事をすると、キリがないの。手抜きができないの。だから自分の時間がなくて。でも、私は幸せ。夢を与えるアイドルを育てられるから」

 そのあと、南先生は幽体離脱もしたと言う。科学的に魂の存在は実証できない。同時にあの世はどこに、あるのかさえも、この23世紀の科学が発達した時代では謎のままである。

夏休みのはじまり・自然が多い都内・人口の減少

 人類の大部分は、中東と北アフリカに集中しているが、中世の暗黒時代を思わせるような文明の退化がつづく。

 先進国諸国では、貧困も犯罪も戦争もない社会が200年も続いた。全体主義体制のもとで。もう民主主義というものは古臭い。

 都内の人口が急激に減り、自然が帰ってきた。

 戸松ほむらは、公立中学校の夏休みが8月直前から始まる。ある地理の教師の失言により、臨時休校となった。その分、夏休みは短くなった。

 多摩川、かつては汚水だらけで魚がとれても食べられない。でも、東京都内が過疎化して、泳げるまでに水がきれいになった。当然、魚を釣って食べることも可能。周囲は廃墟だらけ。都内の繁栄の面影がない。東京は、小さい街になり横田米軍基地があった場所の周辺にだけ人々が住む。それ以外のところは広い森林がある。
「今日から夏休み」
 体育館で、地理の富士宮先生が丸坊主のまま、これからカムチャッカ半島での石器時代サバイバルキャンプに行く。
「みなさん。不良になると石器時代サバイバルキャンプに参加する義務が生じます。市内から数名の不良教師と不良少年少女たちと一緒にキャンプに参加します」
 教師になると、下手なことは言えない。暴言など言えば、即刻、カムチャッカ半島いき。
「戸松さん。ごめんなさい。変なことを言って」
 私は全然覚えていない。たしかに幸福物質を精製した薬を飲んで、臨死体験をしたと思う。でも、2日間、私はロボットやアンドロイドと楽しく過ごせた。

 23世紀、中東から輸入されるものは資源よりも、人間の脳からとれる麻薬や幸福物質である。それを上手に精製すれば、うつ病の特効薬になるし、ストレスを軽減できる薬が作れる。23世紀になると人体の謎が増える。人体こそ新しい人類のフロンティア。脳から猛烈な勢いで、快楽物質、幸福物質、麻薬、覚せい剤の原料が噴水のように吹き出す。そのような物質が手に入る。そのためには生きたまま麻酔なしで人間の脳を取り出さなければならない。

 中東や北アフリカでは人権という概念がない。一部のアジアの国、ユーラシア大陸の奥地でも、まだ人権という概念がない。先進国以外のところから、多くの新薬が輸入される。


 『生きた人間の脳を取り出す=殺人』なので、国際条約としては禁じられているが、国際法は無視された。生きている人間の脳から精製される未知の物質がとれる。人間の脳から噴出するものを人工的に作ることは難しい。それだけ人間の脳には未知の部分が多くある。
「富士宮先生、幸福物質は飲まないのですか。辛くなった時に」
「飲みません」
「でも、不良たちは、脳に影響を与える薬を飲み放題だし」
「それを飲むと廃人になります。自立できなくなり施設で一生を過ごします」
「でも、動画サイトをみたら彼らは人生を謳歌しています」
「それは一時的、いずれ脳が壊れます」
 
 カムチャッカ半島サバイバルキャンプでは、一人だけ気が弱そうな子を入れる。いじめたらレットカードが渡される。レットカードがたくさんあれば更生不可能と言い渡され、中東へ強制移住させる規則がある。宗教戒律で雁字搦め。この社会よりも自由がない。当然、ストレスを軽減させるために頻繁に殺人を行う。精神病質の人間は、最終的には強い敵に負けて殺される。麻酔なしで頭の皮をはがされる。頭蓋骨を切り抜き脳を生きたまま取り出すだろう。

 脳には未知の物質がたくさんある。

 これを上手く生成すれば、新しい薬がつくれる。

 中世の暗黒時代のように電気も水道もない中東では、23世紀の科学でも作れない薬品が簡単に手に入る。そのために殺人事件を起こしてもお咎めなし。既に中東諸国や北アフリカ諸国では警察は存在しない。宗教警察だけしか存在しない。

 娯楽もなにもない社会では、薬物で自分が不幸だという気持ちをなくせる。自分が奴隷にされても、薬物や電脳化で感情をコントロールされる。長時間働いても疲労も眠たさも感じない。
 自分が幸せとか不幸というのは、脳が決める。それを外部からコントロールされたら、どんなにひどい環境でも自分が不幸だと思えない。


 強烈な幸福感を感じると、臨死体験や幽体離脱をする。科学的に解明できない。

人は何故、暗黒と死を恐るのか

 悪人の死後の世界とは、暗黒の場所。悪霊たちが住む世界かもしれない。それを地獄と呼ぶ。キリスト教で言えば永遠の刑罰と呼ぶ。

 幽霊=地獄からの使いと考えられるから、人は幽霊を見ると怖く感じる。

 だから暗闇を恐れる。

 自分が死んだあと天国に行きたい。だから正しい生活をしようと潜在的に考える。それが人格に影響を与える。すなわち良い人になる。

 臨死体験とは肉体から魂が抜け出した状態。

 暗闇につつまれた墓場を歩いても恐ろしく感じないのは、周囲に天使に守られていると考えるから怖くないが、人は神様のことを忘れると死を恐る。

 天使と悪霊の存在、これは永遠の謎。どんなに科学が進歩しても解明できないだろう。それと同じことが幽体離脱。
「脳の側面に電気的な刺激を与えると、自分の体から自分の意識が抜き出す現象を体験します」
「それを幽体離脱というの」
「そうです。でも、数世紀たっても、このことについては謎なんです」
「幽体離脱したことがあるのですか」
「電脳化すれば、あるプログラムを使えば幽体離脱できます。それを体験すれば肉体的な価値観よりも、精神的な価値観に重きを置くようになります。でも、特定の宗教に依存しないから、臨死体験や幽体離脱をしても他の宗教に改宗することはほとんどありません。無神論の人がキリスト教や仏教に改宗したという事例はほとんどありません。ただ人格がとても穏やかで優しくなります」

 私はコンタクトレンズ型のコンピューターを外したことを忘れた。
「あら、コンピューターを目にはめこんでいるのね」
 なんで南先生がそれがコンタクトレンズ状のコンピューターを付けぱなしにしていることを事前に予知した。南先生は、私の瞳を見た。南先生もコンタクトレンズ状のコンピューターをつける。
「ねえ、私もつきあうから」
 そして、目をつぶった。誰かに殺される瞬間が立体的に見える。楽しそうな表情、邪悪な顔つきの若い男性たちに押さえつけられ、刃物を握っている手が見える。そして、これから殺されようとする人が目をつぶると何も見えない。「おちついて。では、この人の過去に遡ります」
 南先生は電脳化しているので、クラウドに保存それている悪人たちの思い出にアクセスした。
「南さん、雪が多いのが見えます。空が曇っています。夜中みたいです。近くに空港が見えます」
「それは学園都市なの」
「そうですか。ガラが悪そうな男の人たちが見えます」
「ねえ、右下に日付が記入しているでしょう」
「いまから30年前と5ヶ月4日前の夜中です」
「それから手にウイスキーのビンを持つわ」
「ビンを持っている人たちの手が見えます」
「何か頭に強い衝撃を受けて。目の前に星のようなものが見える。それから走馬灯が見えます。目の前が真っ暗になりました」
「そう。これが悪人の思い出に、はじめてアクセスしたの」
「これは人間の思い出なの」
「そうなの」

 悪人の心とは、とても愉快なことの連続。いじめをして相手が悲しい顔をすれば快感になる。脳内に強い刺激を受け幸福物質が生成される。
 脳がそれを学習する。そして、気がついたとき、重度の統合失調症になる。幻覚が見えるようになる。そして、さらに快感を求め覚せい剤をもとめるようになる。

 それから空港で飛行機に乗せられるところが見える。とても大きな飛行機。エンジンが4機ある。一度に数百人が乗れる。

 私の目には中東の都市の風景が見える。クラウドから地図の情報がおくられる。右の片隅に中東のどの地域にいるのか解る。

 さらに記憶をすすめると、人を殺そうするところが見える。片手に刃物を持っているのが見える。それを見たスカーフをかぶった女性が怯えている。恐怖でひきつっている。女性や子供を刃物で切り刻もうとするところで突然、映像が見えなくなった。
「やめましょう。この映像を見たらトラウマになるわ」
「そう思うわ。最後はとても怖かった」
「でも、鮮明が画像が見られたわね。コンタクトレンズ状の端末を外して」
「はい」
 私は目薬でコンタクトレンズ状のコンピューターを外して、コンタクトレンズを入れる容器に入れた。

「戸松さん。まだ多感な12歳だから、知らないほうがいいことがたくさんあるの。いまの風景は年齢制限がかかる。自動的に見えなくなるのよ。アクセスを拒否されるの」
「で、南さんは影響されないのですか」
「影響されないわ。悪人の最後はみんな悲惨だから。とても恐ろしいところいいくから。選択を間違えないように」
 私は今後一切、悪いことをしないように自分に言い聞かせた。

悪人の脳は、幸福物質を送る回路が異なる

 私は家に帰ってからタブレット端末でゆっくりと、悪人たちの思い出を見ようと思った。超高層ビルのほとんどがクラウドになっていて、膨大の量の情報量が保存している。全世界の人たちの思い出が保存している。

「中東に行った日本人の思い出を。殺人事件の犯人の思い出を」
 音声で入力するとタブレット端末から返事が来た。
「戸松ほむらさん。あなたは、まだ12歳。トラウマになるような情報があります。アクセスはできません」
「では、つい最近、亡くなった殺人犯の臨死体験を」
「わかりました。見ても時間の無駄ですがいいのですか」
「でも、私興味があるの」
「みんな同じような動画です」
「お願い」
「わかりました」

 タブレット端末の画面からはうす暗い霧の映像だけが延々と見える。次第に暗くなる。そして、人が歩いているように、画像が揺れる。

 どこか深い谷を歩いているみたい。岩場だらけ。草木が一本もない。
 見ているだけで気が落ち込みそうになる。
「少し早送りを」
「はい3時間後の映像です。ここで変化が始まります」
 私はタブレット端末から、川が見える。この世とあの世を隔てるものがある。誰も迎に来ない。とても孤独に感じる。
 船に乗り込むところで、映像が途切れた。
「これで終わりです。人間が死ぬ直前の記録です」
「そうなの」
「ほむらさん。あなたは忙しいです。今日は土曜日。午後の授業が終わったあと、ダンススクールに歌唱スクールです。悪人の思い出を見ても意味がありません」
「わかりました。もう満足です。私には早すぎました」
「その通りです。では、ダンススクールの準備してください。ネット接続したレオタードを忘れないよう」
「はい」

 私は買ったばかりのレオタードを手にした。
「はじめまして。あなたがユーザーですか。身体に合うか試着してください。それからスマホ端末でユーザー登録を行います」
 人工知能が搭載しているレオタードから話しかけられた。レオタードは色が変わるだけでなく、映像も表示する。柄も自由に変えられる。
 私はレオタードを試着した。
「ほぼ身体に合っています。それではユーザー登録を」
「氏名、戸松ほむら。中学1年生・・・偏差値70・・・、身長152センチ、今日のスケジュールは・・・、ではユーザー認識は終了しました」 
「ありがとう。これからも、よろしく」
「よろしくお願いします。午後5時30分からダンススクールです。では外出着に着替えてください」
「はい」

 私はミニロボット・タクシーに乗る。ミニロボット・タクシーが既に私の家の前で待機していた。
「これから、ダンススクールに行くのですね。到着時間は15分後になります」
「お願いします」
「で、忘れ物は。ネット接続していないものとICタグで登録されていない古典的なものは認識できません。バックの中を確認お願いします」
 私はロボット・タクシーの言うとおりバックの中を確認した。
「忘れ物はありません」
「それではダンススクールに行きます」
 この時代、すでに自転車は存在しない。自転車を作られていないし、自転車やバイクなどの二輪車は存在しない。主な交通機関はロボットカーとロボットタクシー。
 私のバックが話しかけられた。
「ほむらさん。あなたは忘れ物をしたことない。しっかりものです。では、今日は最初のレッスンですから頑張ってください」
「バックさん。ありがとう」 


 小さい車体のミニロボット・タクシーは一人乗り。どこかに行こうとすれば、事前に家の前にいる。私たちの行動は監視だけでなく予知されている。

 まるで神様に管理されているみたいな社会。それが23世紀の先進国の未来社会。

私たちのクラスに婦警さんが来るようになった


 日よう日は、とても忙しかった。朝からダンスの訓練。そしてダンススクールで知り合った子たちとお弁当を食べた。午後、学習塾に音楽学校に通い、家に帰ったのが夜7時。
「12時間もアイドルになるための特訓を毎週受けないと」
「ほむら、夕食は」
「友達と一緒に食べた。ファーストフードのお店で、軽いものを食べたの」
「そうなの」
「ちょっと、学校の勉強をするわ。それから明日から、私のクラスに婦警さんが来るの」
「なんだが外地の公立学校みたい。外地では小学生高学年から悪いことを覚えるから教室には、いじめ防止のため警察官が常駐しているの。で、クラスメイトは宗教関係者なんだね」
「そうなの」
「と言うことは、アラビア語学校に行った子」
「そうなの。宗教法人法で決められて。宗教テロをおこさないか警察官がつくけど。でも、あの子、そんなことをする子にはみえない。宗教に対する締めつけは厳しすぎるわ」
「でも、婦警さんたちは優しい人たちだわ。今は警察官が余っているから」
「そうね」
「ねえ、婦警さんたちと仲良くしたら」
「うん。これから私、学校の勉強をしないと。100点をとるつもりで勉強をしないと」
「そうね」

 私は1時間ほど勉強をした。身体が疲れている。集中し、そして、お風呂に入り体を洗う。パジャマを着て寝る。夜8時に寝てしまった。

 早朝4時に起きて、中学校の授業の予習をし、朝食を食べ、そのまま朝7時に誰もいない中学校に入る。

 「網膜検査完了。指紋認識完了。では、カードを通して、パスワードを入れてください」
 中学校の門に入るとき、いちいち個人認識をする。

 遠くからパトカーが来た。
 女性が二人、パトカーから降りる。婦警さんとアラビア語学校に行った子が二人いた。
「おはよう」
「おはよう。ほむら」
 アラビア語学校に通っているので、スカーフをかぶり、この蒸し暑い季節なのに長袖のブレザーにロングスカートを履いている。私はミニスカートの半袖のセーラー服を着ている。全然違う服装。
「ねえ、毎日、婦警さんと一緒に学校に通うの」
「そうなの。宗教法人法で決められているから。私がテロを起こさないか厳しくチェックされるの」
「でも・・・」
「おはよう。私、東京西地区の警察署の桜井です。よろしく」
 そのとき、私のセーラー服に婦警さんのデーターが入力された。わかりやすいように、私のタブレット端末やスマートフォンにも婦警さんの個人データーが入力される。タブレットを見た。
「はじめまして。桜井さん。婦警の仕事は5年目ですね」
「そうなの。大学出ても就職先は警察しかなくて。でも国家公務員だから待遇はいいし、仕事は楽だし」
「そうですか。年収も」
「あら・・・」
 婦警の桜井さんは照れた。
「今月が誕生日ですね」
「そうです。歳をとってもアンチエイチングを使えば、いつまでも若く見られるし」
「私、これから教室で授業の予習をするの」
「えらいわね」
「だって、試験の点数は90点以下は許されないから」
「賢いわ。私、一生懸命、勉強したけど50点くらいで。それで何になろうか迷ったら、そく警視庁へ就職」
「でも、警視庁に就職したくても、できない人も多いじゃないの」
「そうです。だって、警視庁の下部組織とか、または警察の下請け企業に就職する人もいるし」

「あら、もう7時20分、ちょっと教室に入って、掃除して、それから授業の予習を」
「では、今日からよろしくお願いします」
 婦警さんは警察官に思えない。警察官は市民と仲良くならないといけない規則がある。威圧感を与えてはいけない。

今日から婦警さんたちが教室に常駐する

「アラビア語学校に通うだけで、警察官が教室に常駐することになるの」
 クラスメイトの女子の声が聞こえる。

 午前8時30分、月曜日のロングホームルームが始まる。担任の富士宮先生は坊主頭である。
「宗教法人法により、今日から婦警さんや警察官が教室に常駐するようになりました。みなさんの良き味方、市民の安全を守る人たちです。気さくで優しい警察官ですから安心してください」
「自己紹介します。私は東京西地区の警察署から派遣された桜井です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「木村さんが、16号通りのアラビア語学校に通い、将来、ムスリマになることを決意しました。将来、中東や北アフリカでボランティアを考えています」
 みんなと服装が違う木村さんが担任の先生の隣にいる。
「木村さんなにかありますか」
「私は、信じている宗教と違いますが、マザーテレサを尊敬します。貧しい人たちのために、私の人生を捧げたいです」
 クラスメイトのみんなの拍手があった。
「宗教法人法の関係で、将来、ムスリマ、ムスリムになる人とは、警察官がつきそう規則があります。なお、影響されて警察官でもムスリムやムスリマになる人もいます」
「でも、宗教の戒律が厳しくないですか」
「大丈夫です。私は個人的な欲望に支配されたくないです」
 他のクラスメイトの声があった。
「私、木村さんの意思を尊重します。木村さん、困ったこと悩みがあったら、いつでも相談して」
「はい。婦警の桜井さんや、交代でこれから来る婦警さんやおまわりさんは、みんな優し人です」

 坊主頭の富士宮先生は次の話題に入った。
「もうじき夏休みです。ネットで人間の思い出が自由に見られる時代になりました。人生というものほどリアルなものはありませんが、それを見る時間があるなら、自分の精神を向上させるものを勉強してください」
 中東や外地では、いじめの動画が発信されている。いじめの動画をみて、そのまま北海道の最北端の学園都市へ連れて行かれた子もいる。
「いじめの動画を見て、愉快な気分になれますが、それは一時的です。また、電脳化した大人が、それを追体験したために、人格が崩壊して、そのまま中東の無法地帯へと追放されました。すぐに精神病質の人にリンチを受けて殺されました。あなたたちは未成年ですから、大人の思い出に絶対にアクセスできません」

 いじめをすれば自分が強い人間になったと錯覚する。そして、とても愉快な気持ちになる。脳から強い報酬を受ける。そして人格が崩壊する。

「みなさん、ネットの使い方を間違わないように注意してください」
「はい」
 クラスメイトたちの素直な返事が返った。

戸松ほむら 私はアイドルになれるかしら

 あまり読まれない作品なので、過激な描写になりがちかもしれません。
 だから、刺激が強い描写。生きたまま人間の頭の皮を麻酔なしで剥ぎ取り、脳に針を押し込め電流を流して、強い幸福感を生み出す事業が成立した未来社会。
 量子コンピューターが一般的になった時代、次は人間の脳の秘密にせまる。人間の脳には無駄なところがない。
 中東やアフリカのきわめて貧しい地域では脳産業が活性化した。

 そんな時代、みんなはストレスを緩和するために高価な幸福促進剤でストレスを薬で解消させている。
 でも、そんな薬に頼らなくてもいいように、私たちはアイドルとして社会に貢献する。

戸松ほむら 私はアイドルになれるかしら

23世紀、先進国諸国ではさまざまな試練を乗り越え理想的な社会になったが、そこには厳格な規則がある。 そんな時代、みんなは怯えている。良い人、とても優しい人にならないと、悲惨な目にあう。だけど、みんなストレスを抱え込んでいる。 そこで、みんなを励まし元気付けるために、戸松ほむらという少女を夢見る。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-10

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 23世紀の未来、アイドルになる少女の物語
  2. 二次募集試験 即決で落とされた
  3. 意外な展開。私はショックを受けた
  4. 公立中学にて
  5. 私は軽音部に入り
  6. 応募した女学院からパンフレットが届けられても
  7. もうじき夏休み・緊張の連続
  8. 午前4時、早朝の勉強
  9. 朝食、そして公立中学校へ
  10. 人間の脳からとれる物質は最も良質な薬になる
  11. 脳、人間の体の中にある小宇宙。私は人間の脳から取り出した薬で臨死体験を
  12. 早朝、多摩川の水の中へ水着で入って
  13. 人類の技術の進歩。のんびりした1日・アンドロイドにも悩みがあるのか
  14. 女学院の南先生から音楽学校とダンススクールを紹介されて
  15. 地理の先生が、丸坊主頭で
  16. 16号通りのアラビア語学校
  17. 語学学習の薬・こうして悪人たちの人生、プライバシーがいくらでも見られる
  18. 南先生も来た。すぐ、その場を離れるように注意された
  19. 北海道・ロシアにある学園都市
  20. 蒸し暑いわ 南先生 水着同然の服装になる
  21. 北アフリカ殺人レースが開催されている
  22. 南先生も「臨死体験」と「幽体離脱」をした
  23. 夏休みのはじまり・自然が多い都内・人口の減少
  24. 人は何故、暗黒と死を恐るのか
  25. 悪人の脳は、幸福物質を送る回路が異なる
  26. 私たちのクラスに婦警さんが来るようになった
  27. 今日から婦警さんたちが教室に常駐する