新約 とある少女の夢想遊戯
2014年9月29日更新。
前作、とある少女の夢想遊戯 (slib.net/14434) から読まれることをオススメします。
むしろそちらから読んでいただかないともうワケが分からないことになること必死です。
とある魔術の禁書目録に出てくるキャラを中心とし、オリキャラや作者の好きなゲームキャラをリスペクトさせて使わせていただいております。
地の文はレベル0です。
注意!この物語はTwitterでの仲良しさんと、他ゲームのキャラやオリキャラを使った二次創作物です。
【序章】 新たなる戦い
2013年3月初頭。窓付夢遊の引き起こした惨劇から1週間後。
学園都市は学校帰りの学生で溢れかえっていた。
いつも通りの平和、変わらない毎日。
何も知らない彼らは今日もいつもと変わらない日常を過ごす。
彼らが状況を知らない理由は単純明白、窓付の能力によるものだ。
彼女なりの気遣いというものが、このような当たり前の日常という形で表現されていることにより今の日常が存在している。
そんな当たり前の日常から外れた人間が、11人。
【ハイスクール】
垣根帝督
一方通行
【新生アイテム】
上条当麻
結標淡希
八咫通行
【NEWグループ】
絹旗最愛
打ち止め
滝壺理后
柊元響季
【スクール】
心理定規
そして、事件を引き起こした張本人、窓付夢遊。
この11人だけは、まだ平和を手にすることはできない。
窓付のお見舞いを全員が日替わりで行ううちに窓付を除く10人の戦士は状況を伝えられる。
赤の王の存在。
次の刺客。
そしてその魔の手はすぐそこまで迫ってきているということ。
全員が信じた。誰ひとりとしてその話を聞いて笑う者はいなかった。はじめこそ堅くなっていた窓付も、その温かい心に触れることで相当に心が開けたのか今では平気で話を話せるようになっている。
強力な戦力を手に入れた新組織に、ぬかりは無い。
(赤の王......お願いだから......お願いだから姉さんを送り込むのだけはやめて!)
そう願い続けている1人の少女は窓付夢遊。
少女のそんないたいけな心を踏みにじるかのように、【別世界】では着々と計画の進行が進められていた。
「んで?結局どんな作戦で行くのさ、あんまりくだらない作戦ならアタシは単独で行かせてもらうよ。」
そうぶっきらぼうに言うのは最終目標である赤の王の右腕、錆付紅蠅(さびつき こうよう)。相変わらず、肩に血のついた鉄パイプを載せている。
「まぁそう言わずに聞いてよさび姉っ!!はじめは退屈かもしれないけど、メインはお任せするからさぁっ!!主食を食べる前には前菜の咀嚼が不可欠だろう!?それと一緒さっ!」
ハイテンションで話しかけているのは白猿蕉崔(はくえん しょうさ)。案の定錆付は迷惑そうにしている。そんな白猿の代わりに横から冷静な説明をしたのは弦月御連稀(げんげつ みづき)。
「まずは、私が蕉崔の言ったとおりに前菜の処理をします。錆付さんも出来るだけスムーズにメインディッシュを頂きたいですよね?なら、先手は私に任せてください!」
弦月のハキハキとして説明には錆付も一目置いていた。錆付は尋ねる。
「で、その前菜の処理ってのは何さ。」
はい、と一息入れて弦月は補足説明をした。
「学園都市の第三位と第四位の位にいる人物を戦闘不能の状態にします。彼女達は....見てしまいましたからね。」
「何をさ。」
先程までハイテンションだったのが嘘のように静かになり、白猿は半ば独り言のように呟いた。
「ウチの偵察機兵に刻まれていた.....私達【.flow】の紋章をさ。】
思わぬ言葉を出した白猿。
そんな恐ろしい話が展開されているということも知らない学園都市第三位の超能力者、御坂美琴と同じく第四位の麦野沈利はこの後、彼女達の恐ろしさを知ることになる。
【第一章】 エンドレスインテレスティング
デジャブ、という言葉を誰しも一度は聞いたことがあるだろう。
簡単に言えば、過去にも同じような経験をしたような気がする、と感じることを指す言葉だ。
そんな【デジャブ】というものを、学園都市第三位と第四位は同時刻同タイミングで感じていた。
.........なにかが,,,,,おかしい。過去にもこんな経験をした気がする。
そんな風に心の中で呟いていたのは御坂美琴だ。
彼女は今、いつもの3人組と大人気のデパート施設であるセブンスミストに来ている。
御坂自身、ここに来るのは大体1ヶ月ぶりくらいのはずなのに、つい最近、この時間に、このメンバーで、ここに来たことがあるような【気がする】のだ。
「御坂さぁーーん!!ありました!ありましたよー!お目当ての代物が!!これアタシ欲しかったんですよねー!」
その言葉で、御坂は自分の意識を中断し、声の主の元へ駆け寄った。
そこには白を基調とした水玉縞模様の入った可愛らしい服を持つ佐天涙子がいた。
「へぇ.....可愛い服ね!!佐天さんにはピッタリなんじゃないかな!」
「そ、そうですか!?うーん、奮発して買っちゃおうかにゃー!?」
そう目を輝かせている佐天を尻目に、初春飾利はお嬢様用品コーナーの商品に夢中だ。
完全に自分の世界に入りきっている。話しかけない方が懸命だろう。
そう考えている御坂の頭上に、一筋の電撃が走った。
..........なんとなく、なんとなくだが、【アイツ】が頭上から迫ってきているような気がしたから。
「アァッーーーーー!!お姉さまぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」
予想的中。白井黒子はスキンシップという名の変態行為を行おうとしていた。電撃をくらって、辛そうな顔と悦びの顔をごちゃまぜにしているようだ。
........ちょっと待て。
(どうして私は今、音もなく忍び寄ってきた黒子に向かって正確に電気を浴びせされたんだろう....)
御坂美琴の能力による電磁レーダーもなかなかのものだが、直前まで消えてしまっていては正確な位置情報の取得には若干のラグが発生する。
御坂は、その位置情報の取得よりも素早く、電流を射出したのだ。
(やっぱり私は.....この出来事を知っている?)
ここは価格の総本山、学園都市だ。いくら子供っぽい御坂といえども、この考えは直ぐに捨て去った。
彼女ら4人はその後もセブンスミストを存分に楽しみ、それぞれの帰途についた。
帰り道の途中、御坂美琴は今日起こったデジャブについて考えていた。
あんなことが起こるなんて絶対におかしい。無意識に体が反応してしまったのは白井黒子との日常のスキンシップがそうさせてしまったのかもしれないという限りなく合理的な説明ができるが、セブンスミストについた瞬間に感じたあのデジャブは?
まるで説明がつかない。思い当たる節もない。
当然、同じ日を前にも過ごしたことがあるなんてのはもっとありえない。
とはいったものの、こんな感覚を経験しては......
そんなことを考えながら道を歩いていたとき、目の前からやってきた人物が一人。
麦野沈利。
彼女は何か、考えながら歩いている。御坂は一瞬でそれを感じ取った。
思い切って声をかけてみれば、何かわかるかもしれない。
話しかけようと彼女の目の前に歩み寄ろうとしたとき、思いの他、声をかけたのは麦野の方からだった。
「なぁ....第三位。なんだか今日って日はおかしくないかよ?」
「....っ!!」
「もしかしたらお前もダメかと思ったけど、その反応だと薄々感づいてるんじゃねえのか、」
麦野はしっかりと御坂の視線を見据え、冷たくこう言う。
「今日って日は、もうアタシ達は何回も経験している。周りはそのことに気づいていない。私たちだけが、取り残されている。そうだよなぁ?」
御坂美琴は愕然とした。同時に、先程まで感じていた疑問は打って変わって確信へと形を変えた。
だが、どうしてこんなことが起きている?相当高位な能力者でもない限り、一度に超能力者を二人このような状況下に置くなんて不可能に近い。複数の精神系高位能力者の仕業であろうか?でも、何のために........
「お前さ、この事態は精神系能力者によるものなんじゃねえかとか想像してるだろ、」
......見透かされた。表情に出しすぎたか。
「それ以外に.....どんな方法があるってのよ。」
「考えてもみろよ第三位、私はともかくお前の能力には便利な電磁バリアーなるものがあるじゃねえか。お前ぐらい序列が高ければ大能力者が何人合わせてかかってこようがお前の敵になんてなりゃしないだろ。」
考えてみればそうだ。物理的な力ならまだしも、精神的なものであれば同じ超能力者にして最強の精神系能力者である【アイツ】の攻撃にだって対応できる。それこそ100人でも200人でも用意しない限りはまず干渉出来る可能性はほぼ0%だと考えていい。
「じゃあ一体誰なのよ!?だんだんと思い出してきたわ!!私はもう何回も同じ日、同じ時間を過ごしてる!!こんなの正気の沙汰じゃないわ!しかもそれに気づけなかっただなんて......記憶のリセットでもしない限り」
「それだァッ!!!!!!!!!」
御坂は肩を少し揺らし驚く。いきなりの大声に流石に身体は正直に反応した。
「思い出したぜ第三位ッ!!ちょっとこっちに来い!」
そう言われてされるがままに服を引っ張られ連れ込まれたのはどこかの路地裏だ。今は夕方なのでまだ平気だが夜にもなればここは世紀末と化す。
そんな時、目に入ってきたのはとてつもない異様な光景。
「やっぱりな.....どうやら、【ここ数日】なんて考えは甘かったって事だ。これは間違いなく、私の原子崩しによって付けられたキズだ。そして、おそらく過去の私は記憶がリセットされてしまうという異様自体にお前よりも相当素早く気づいてたみたいだな。ハハハ」
御坂美琴は顔を恐怖に歪ませた。無理もない。
そこには、原子崩しによって生みだされた傷が、ざっと見ただけでも1万は軽く超えているのである。
つまりこの2人は、もうこの当たり前の日常である数時間を、もう一万何千回と繰り返してきた、ということになるのだ。
「う、うそ.....でしょ?きっと、アンタが何かに怒りでも覚えて憂さ晴らしにこんなことをしただけでしょ?」
「仮にそのつもりだったのだとしたら、ここら一体の建物が消し炭だよ。私がこういう地味なことする時ってのは大真面目の時って決まってるのさ。」
「アンタは....私がデジャブを感じるよりずっとずっと前から...この異変に気づいてたって言うの!?それなのに私は....なにも気づかずに......今日を楽しんでたなんて....酷すぎるよ.....」
ほんの数時間を繰り返しているとは言え、その回数は1万回を超えているのだ、大雑把な計算でも、もう今日という日を30年以上は過ごしているのということになる。麦野のことを思うと御坂は頭が壊れそうになった。
「そんな悲しそうな顔すんなよ第三位。こんな非科学的なこと信じたくはねぇが、同じ時間を繰り返してるってことが正しいから私達は年もとってないし、そもそも1万回以上もの記憶を所持しているわけではない。過去の記憶ってのはどんどん自然と忘れていくみてぇだからな。だが、断片的な記憶はデジャブとして現れるということは、だ。」
麦野は1つの可能性を提示する。
「記憶がリセットされるその瞬間に、強烈な力でこの記憶を死守することができれば記憶は失われず、元の時間に戻れる。あるいは、この空間にいるかもしれない本体を叩きのめすっててもあるがよ。お前はどうしたい?」
「........決まってるじゃない。」
御坂美琴は顔を流れていた一筋の涙をぬぐい、しっかりと麦野を見つめて言った。
「見つけ出して叩きのめしてやるわ!!!!!」
麦野は若干の笑顔で納得し、御坂美琴と行動を共にした。
2人は知らないが、この異常事態に気づいたのは、麦野が892回目。御坂が14922回目である。
すなわち、14923回目の【今日】にして、ようやく2人は答えにたどり着くことができたのだ。
終わりのないようにみえたこの時間は、決して楽しい時間などではなく、人を一定の時間軸に閉じ込めて無意識に殺させていく死の世界だった。
弦月の作戦は.....着実に遂行されているのだった...........
【第二章】 作戦会議
心理定規と窓付を含む、新組織の面々が一度に全員集結した。
場所はかつて大事件の起こった、あの宇宙エレベーター、エンデュミオンの跡地である。
今現在ここは新組織専用のシェルターとして暗躍している。中も広く、相当に頑丈な作りだ。
当然、一般公開はされているわけもない。
次々と人が集まる中、やはり目がいってしまうのは一方通行と八咫通行。みんな、どっちがどっちといった表情だ。
一方通行と八咫通行は初対面ということもあり、一瞬だけ驚きの表情を浮かべる一方通行であったが、もはや言葉も出ないのだろう。ため息一つだけついて、杖をつきながら前進し、
「.....杖ついてンのが俺だ。そンぐらい分かるだろ。」
と言ってシェルター内に用意されていたソファーにだるそうに横になった。
確かに、そう分かってしまえば見分けやすい。全員一安心といったところか。
とその時、後ろから近づいてくる足音。
ペースが早い。そして、確実にこのソファに向かってきている。
......まさか
「大ジャーーーーンプ!!!ってミサカはミサ........ふわぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!?????」
大きな弧を描きながら飛んできたのは打ち止め(ラストオーダー)だった。それは同時に、この会議の最後の参加者であるNEWグループの到着を意味していた。
みな、やれやれといった表情だ。
「ぐはァッ!!!このクソガキィィィィィィィ!!!!!!イキナリ人の寝っ転がってるソファに突撃たァいい度胸してンじゃァねェか!!」
「で、でも!!向こうから見たらアナタの姿は見えなかったんだもんって、ミサカはミサカは状況報告してみたり!!!」
「ほォ.....謝る気なし、と言うことかァ....こいつはちっとばかしオシオキが必要かァ?」
一方通行は悪そうに笑いながら首元の電極に手を伸ばすフリをした。そこに、
「やめとけよ、一方通行。お前はオシオキだっつってるが周りから見ればその行動はオシオキとはかけ離れたことをするように見えるぜ。ほれ、お嬢さんも泣きそうになってるじゃねえか。」
垣根帝督が諭すように言った。いや、半ば呆れているのであるが。
案の定打ち止めは本気で一方通行が怒っていると解釈したらしい。絹旗の後ろに隠れ、出てこなくなってしまった。
「チッ、冗談だよ冗談。こンなことぐれェで怒ったりしねェよ!そンなことよりも......」
そこで、話し声が一方通行から窓付夢遊に移る。
「全員、揃ったみたいだね。それじゃ、会議を始めるとしようか。」
会議ともなると流石に、全員真面目な顔になる。学校の授業なら平気で睡眠をとり、右腕がまだ治ったばかりで万全の体制とは言えない上条当麻ですら、真っ直ぐに瞳を窓付に向けている。
「前にも話したと思うけど、恐らくというかほぼ確定的なんだけど、赤の王は私のミスに気づいて、もうすぐにでも新しい刺客を送り込んでくるはずなんだよ。この街を....学園都市を乗っ取るための。それが何人なのかはわからないんだけど、確実に1人いるのは....」
そこで窓付は一瞬言葉を詰まらせたが、再び前を向き直しこう口にした。
「私の姉。」
全員の顔が驚きの表情に変わった。
「赤の王の右腕にして、私たちの居た世界での.....第一位。私はそんな姉が怖くて....もう何年も話してなかったんだ。」
この窓付の一言はその場にいた全員に少なからず衝撃を与えた。誰よりも早く反応したのは絹旗だった。
「ちょ、超待ってください!!!!今、第一位って言いませんでしたか!?第一位なら今ここにいるじゃないですか!一方通行という超怪物が!!」
「....私たちの世界での、といったはずだよ。実は、私もよくわからないの。物心少しついた頃から私は完全に赤の王のコマにされてたから、正確なチカラはわからない。でも、一位と呼ばれているぐらいだから、戦う人は限られた人にしたほうがいいよ。」
「なら、」
ハイスクールのリーダーである垣根帝督は口を開いてこう告げた。
「そのお前の姉ってヤツは俺と一方通行に任せろ。そして窓付、お前は俺たちと一緒に来て欲しい。相手がお前の姉なら、何かむこうが反応を見せてくれるかもしれねぇ。」
「実は、私もそう言おうと思ってたんだ。でも、正確にはあと2人......上条君、結標さん、私たちと一緒に行動してくれない?」
いきなり話を振られた2人はどうして俺たち俺なんだといった様子。窓付は説明する。
「アナタ達の行動の選択の仕方は....姉さんの心をも見透かせるかもしれない。私を救ってくれたアナタ達なら!!」
それを聞いた上条は、
「俺は自分にできる最大限の事をしただけなんだけどな....断る理由なんかねぇ。その姉さんとやらが馬鹿な事を考えているなら止めてやらなきゃな。」
「アナタを助けられたんだもの.....お姉さんだってきっと助けられる!!」
結標も続いた。
結局、チームとしては
絹旗、打ち止め、心理定規による 【偵察班】
八咫通行、滝壺、柊元による 【防衛班】
窓付、垣根、一方通行、上条、結標による 【最前線】
pic.twitter.com/KZ2kZeOKCS
という3つの班分けが成立。
準備が整い次第、垣根帝督と窓付のアシストによって全員が窓付の言っている異世界とやらに行くことになる。
行動の計画は順調だった。
ほんの1時間ほど後までは.................
【第二章 ~Another~】 統べる者どもの会話
新組織の作戦会議が行われ始めたのと全く同時刻、その話は展開を始めようとしていた。
学園都市の中にある建物の中でも一際異彩を放つビル。
圧倒的膨大な量のベクトルを獲得した質量をぶつけても傷一つつかないほどの頑丈さと窓が一つもないというその特徴から、【窓のないビル】と呼ばれている。
人はおろか液体やx線ですら拒絶するその建物の最深部。どうやって入ればいいのかも分からないその空間の中心で、1つの統べる者は液体の中を逆さまの状態で漂っていた。
その人物とは、
学園都市統括理事長、アレイスター・クロウリー。
彼は自力で全く動くことなく、全てを機械と人間に任せている。
自分の壮大なストーリーの実現を目指す者、と言ったところだろう。水に浮いてれば次々と情報が伝えられてくるのだから便利なものである。
そんな彼の壮大なストーリーに、1つの邪魔が入ったのは1週間前。
学生大量殺戮という事実はショッキングな事件には聞き慣れているアレイスターでさえ目を見張ってしまうものであった。
アレイスターには分かっていた。
この能力は、今現在の学園都市では実現不可能な殺戮方法だ、と。
アレイスターは、窓付の干渉を受けていなかった。さすが窓のないビル、と言ったところだろうか。
精神系能力者なんてそれこそこの街には五万といる。
だが、そのチカラからは、何か近いようで離れているような....そんな感覚が確かにあったのだ。
「面白いイレギュラーも起こるものだな......」
アレイスターはその時のことを思い出しながら誰も見ず聞いていないその部屋で独り言を言った。
そしてその直後、ありえない事態が起こった。
「....そうだろう?私も見ていて面白いものだよ。アレイスター。お前が面食らったようなそんな顔を見るのがね。」
何者かの声がした。誰だ?率直にその疑問が頭に浮かぶ。
そう思っていた時、アレイスターの目の前には小さなモニターが現れた。
相手の姿は黒模様のシルエットしか分からないが、髪を肩手前まで伸ばした男性であるということだけは理解できた。
「この程度で、私が面食らったように見えるとは....笑いものだな。私の計画には....全く影響がない。」
「....改めて考えると懐かしいな.....アレイスター。お前の声を聞くのは本当に久しぶりだ。できれば今お前がいる時間から半年ぐらい前の頃の私はお前の声が聞きたくて仕方がなかったろうになぁ。」
過去の思い出に浸るような話し方で、モニターの先の男は言う。
「君は...誰なんだい?その口ぶり、まるで私とあったことがあるような話し方だが私にはまるで思い当たることがない。私が覚えていないだけかもしれないが。」
アレイスターは嘘をついた。正確には、モニターの先にいる男が誰なのか、大体の見当がついたのだ。だが、確証がない。というより、冷静に考えてみればありえないことだ。仕方なく、こう聞かざるを得なかった。
「そういえば....自己紹介がまだだったな。」
男は髪を整え直し、シルエットでしか見えていなかった顔の部分も見えるようにしこう言った。
「____だ。最も今は、赤の王と呼ばれているのが日常だがな。久しぶりだな、アレイスター。」
アレイスターは理解した。顔こそ当然成長しているが、【彼】のままだ。
「私はずっとお前に言いたかったんだよアレイスター。どうしてアイツが____で私が____なんだってね。でも、もうそんなことはどうでも良くなった。私は手に入れたからな。」
「...............」
黙って聞き続けるアレイスター。赤の王も察して言葉を続けた。
「学園都市に対抗する手段。【1つの世界】をな。」
「面白いことを言うな。自分が何を言っているのか分かっているのかい?」
今現在の赤の王という存在を知っているアレイスターにとって、このようなことを言う【この人物は】本当に今生きている赤の王とやらと同一人物なのか、疑問を感じつつあった。それを見越した赤の王は、
「頭のいいお前なら分かるはずだ、アレイスター。私はそこにいる私とは違う。生きる道が少し別れた先の、【Ifの存在】とでも認識してくれればいい。いや、本質の説明も説明できるにはできるんだが...ヘッダが足りるか心配だからな。これぐらいで理解してくれ。」
なるほど、とアレイスターは思う。どうやらこの赤の王とやらはどこかで科学でも魔術でも説明が追いつかない【何か】を得てしまったのだろう。そして、あの頃の復讐に私ごと学園都市を....
全てを察したアレイスターは、赤の王に問いかけた。
「この街を....私のストーリーをそうする気だい?」
「決まってるじゃないか。」
赤の王は、確信の一言を言い放つ。
「私がこの街を統制する。今現在Ifを統制できている時点で学園都市の統制など歩いて移動することと同義さ。もうすぐ私の刺客がそちらに出向くだろう.....いや、もう既に事を起こしているかもしれないな。」
赤の王は最期にニヤリと笑って通信を切った。
アレイスターはその笑顔に隠された秘密を一刻も早く知りたいところではあったが、何分この身体だ。
とりあえずは新組織の動きを見るしかない。具体的な対策は状況確認から始まる。
アレイスターは考えを巡らせつつ液体の中で目を閉じた。
【第三章】 The Death World
御坂美琴と麦野沈利は元の日常へと戻るべく、状況把握を開始している。とは言っても、今いるこの非現実的な空間の中も一見すれば日常真っ盛りだ。だが、それが繰り返されているとあれば話は別。
手がかりは麦野沈利が毎回毎回つけてきた原子崩しの傷だけ。それだけを頼りに手がかりを探せというのも、無理な話ではある。
だが、やらなければならない。
こんな空間は私の過ごしたかった日常じゃない!
楽しいことが延々と繰り返されれるだけの毎日なんて過ごしたところで意味がない!!
そんな想いを胸に秘め、御坂美琴は学園都市中を駆け回っていた。
麦野沈利もまた、この異常事態に未だに半信半疑でいながらも、この世界のことについて考えていた。
毎日同じ時間に同じことが繰り返されており、その時間はおよそ数時間。それが延々とループしている。
私たちのような例外は恐らくほんの少しの記憶だけを残し、それ以外の人間は全てをリセットされる。
(........どうして私達だけが?)
それは御坂も麦野も考えていたことだ。どうして自分たちだけなんだろう。どうして周りのみんなは誰ひとりとしてこの世界に不信を抱かないんだろう、と。
230万人もの人が暮らす学園都市だ。そんな中で自分たちだけだと?それもよほどの実力者が。何のために?
考えなんてものは張り巡らせればいくらでも出てくるものだ。世界は星の数を超える仮説によって構成されている。そのひと握りである仮説をいくら考えたところで意味はない。それは分かっているのだ。
そう分かっていても、こんな状況ともなれば別。2人は完全にこの状況に飲み込まれている。
「何よ.....これ......」
思わずそう言葉を漏らしたのは御坂美琴だ。
まぁそんな言葉も1つは出てしまうだろう。
だって............
自分以外の全ての人と物が、まるで時が止まったかのように静止しているのだ。
「第三位!!!」
麦野が合流した。その表情からしてどうやら麦野も同じ状況に達しているようだ。
「一体どうなってやがる!?非科学ってレベルじゃねぇぞ!?いつから空想都市になったんだよこの街は!?」
時が止まるなど、それこそ奇妙な冒険の世界か弾幕が入り乱れる世界などでしか見ることはないチート能力だ。そんなものが現実にあっていいはずがない。
「いやはやお見事です。まさか私の作り上げた世界のループに、気づけてしまうなんてね。流石は学園都市の超能力者、といったところでしょうか。あぁご安心を、時が止まっているのは私が現出している影響です。」
空中から声が聞こえてきた。そこには眩しい光に包まれた人型の物体が浮いていた。光が強すぎてその顔かたちまでは識別できない。
「そっちから出てきてくれるなんて....探す手間が省けたわね。アンタ、自分が何してんのか分かってんでしょうね?」
相手を目の前にした途端、御坂はふつふつと湧き上がってくる怒りに自分でも驚いていた。まさかここまで自分が怒りの感情を引き出す日が来るとは.....
が、人の形をした光はそんなことも気にせず続ける。
「特にそちらの第四位の方、お見事でした。まさか892回で私の世界を見破るなど、お見事としか言い様が」
そこで麦野の原子崩しが光に向かって全速力で射出された。
が、
光に原子崩しは当たらなかった。無情にもその閃光は空に向かって速度を落とすことなく飛んでいる。
「申し訳ありません。この能力が打ち破られては打つ手がなくなってしまいますので.....そう簡単にやられるわけにはいかないのですよ。アナタ方には必ずここでくたばってもらわないと、【.flow】の作戦にも影響が出ますので....」
その時、三位と四位の脳内に電撃が走った。いや、三位に至っては常に身体から電磁波が出てはいるが。
1.2週間ほど前に交戦したあの刃茶竜。その中にあった破片の中に書いてあった文字........
【.flow】(ドットフロウ)!!!!!!
相手の名前は....ドットフロウ。御坂と麦野はついに相手の、敵の名前を知った。
「あ....まだ自己紹介も済ませておりませんでしたね。」
光は見えない顔をこちらに向けて言った。
「ようこそ、私だけの世界(The Death World)へ。他愛もない空想の立証者、弦月御連稀と申します。アナタ達の望むままに、世界を創りましょう。時間はまだまだたっぷりあります。さぁ次はどんな世界をご用意しましょう?私の手にかかればどんな願いも空想も、」
「もうやめてッ!!!!!」
御坂は一喝した。
「作り物の日常なんてなんの価値もない!!争いとか、突然の出来事とかそういうのがあるから人ってのは成長していくものでしょ!!こんなの絶対に認めない、絶対にここから抜け出してそれをアンタに証明してみせるからッ!!!」
「フフッ、ループに気づかれたワケですしね、それまでに確実にアナタ達はこの世界で死ぬことになるでしょう。期待はしないでおきますよ。」
「覚えておけよクソ野郎。学園都市の頭脳を、あまり舐めてもらっちゃ困るんでな。」
「どのようにアナタ達がこの世界を突破するのか想像はできませんが.....ループが発生するまであと3時間です。どうなるのか楽しみですね、フフフッ。」
そう吐き捨てて空中の光は消失した。
「「バカだなぁ。」」
残された2人は同時につぶやいた。
「「3時間あれば、充分!!」」
あと3時間というヒントをうっかり漏らしてしまったことに弦月が気づいたのは1分後だった........
【第三章 ~Another~】 戦慄の始まり
「.......やっちゃったぁぁぁぁ!!!!」
弦月はうずくまりながら叫んだ。無理もない。3時間というヒントを漏らしてしまったのは完全にミスだった。
「ん?でももうそいつら1万回以上同じ時間を過ごしてるんだろ?って言うより御連稀はその世界の中の時間なら思いのままにできるじゃん?」
目を丸くして聞いてくる白猿に弦月はこう答える。
「そりゃそうなんだけど.....あの2人にそれを知られたら時を進められないのよ。彼女達の【全く知らない方向】から私は時間操作を行っている。でも彼女達はタイムリミットを知ってしまった。ループの核を知ったのよ。だから私にはもう干渉することはできないの.....」
「.....よくわからん世界だなー。」
白猿は理解したのか出来なかったのか分からなかったがとりあえず話を合わせておくことにした。
「まぁあと3時間過ごすことができたとして、抜け出せるとは思ってないけどね。」
「まぁお前のことなら心配いらないんだろうな。」
「蕉崔はどう?【黒龍】の準備は出来てるの?」
「あぁ、その点については心配いらないよ。メンテナンスも駆動も、【超電磁砲】の威力もバッチリさ。それに.....」
白猿はそこで言葉を一瞬止めた。が、再び口を動かし始める。
「アイツだって.....大事な【4人目】の.flowだろ?」
「.....そうだね。そうだよね。」
2人の会話はスムーズであり、それでいてとても一言一言に重みのあるものだった。
「よう、お2人さん。準備は出来てるかい?」
赤黒い空間の向こうから現れたのは錆付だった。相変わらずその腕には鉄パイプが握り締められている。
「おっ、錆姉!!もちろん準備万端やるき満タンさっ!!ウチはいつでも行けるよ!」
「アンタさぁ...その話し方なんとかならないのか?耳に響くんだけど.....」
「いいっじゃんいいじゃん!!この世界に明るみなんて無いんだからその分私が盛り上げていかないとねっ!」
その通り。この世界は既に征服された世界。朝昼夜関係なく広がっているのは血と闇ばかりだ。
「弦月、どうなのさ調子は?」
急に話を振られた弦月は焦りつつも、ちゃんと真実を言った。
「敵に少しばかり弱点を知られてしまいましたが...問題ありません。確実に第三位と第四位は【黒龍】の一部になりつつあります。」
「そう。ま、アンタなら心配せずとも大丈夫かな。」
弦月は怒られなかったことにホッとしていた。錆付の気に触れたらご自慢の鉄パイプで殺されかねない。
「ちょっと錆姉!!それじゃまるでウチがバカみたいな風に聞こえるよ!?」
涙いっぱいに力いっぱい否定の言葉を投げかけてくる白猿に押された錆付は、
「わ、悪かったよ....ちゃんとアンタのことも信用してるからさ。一緒に頑張ろう。な?」
ひとまずその場はこの言葉で決着した。
そして落ち着いた頃に、それは現れた。
「.......とうとう学園都市に侵入か、.flow」
赤の王。この世界が存在する上で必要な絶対的王。
具体的にどのような力を持っているのか、それは錆付ですら知らない。
「あぁ。窓付を取り戻して、そして必ず学園都市は愚かその世界まで赤黒く染め上げてみせるさ。」
白猿と弦月は黙って赤の王を見据えている。その目はどこか遠いところを指しているようにも見えた。
「......まぁまず心配ないとは思うがな。向こうでの行動は任せるぞ。では、報告を待つ。」
3人はお互いに向き合うと共に頷き合い、そして新たなる世界での戦いに一歩を踏み出した。
pic.twitter.com/NGcZR2XNmm
【第四章】 進撃、そして交戦開始
作戦会議から1時間ほど経った頃、偵察班のリーダーとなった絹旗最愛は夜の学園都市の『裏』の道にいた。なんてことはない。任務はただの視察。窓付達との作戦が実行されるまでいよいよ1日と迫ってきていた。
ここに来るまでに、何人のスキルアウトに絡まれたことだろう。数えるのもバカバカしくなってくるほどだ。
「超どいてください。私の思考の邪魔になると言うなら頭を超壁に埋めますよ?」
そう言って軽くあしらうだけで大体の奴らは撒くことができた。
ちなみに、この言葉は決して脅しなどではない。その気になれば絹旗の能力『窒素装甲』により人を一瞬で1人や2人殺すことなど朝飯前なのだ。
実は絹旗は偵察班の構成員、柊元と打ち止めには黙ってこの任務に徹していた。その真意は、どんな状況でも少しでも戦力を温存するという彼女の考えからなっているものであった。
暗部に身を置き、完全に捨て去ったはずの善の想いはここ最近の事件のおかげで息を吹き返しつつあるのかもしれない。そう思い始めたところで絹旗は自分のその感情を押し殺した。
暗部の人間たるもの、甘えは必要ない。所詮仕事上の付き合いであり必要なくなれば切る。それは自分も同条件。分かりきっているはずなのだが....絹旗は自分が何を考えているのか整理がつかなくなり壁を拳による一撃で凹ませた。
「.....でも私は...私に出来ることを超やってやるだけです。学園都市に何の恨みがあるかは知り得ませんが相手の親玉にたどり着けば自然と分かることでしょう。今日のところはここら辺で.....」
「残念だけど、アンタはその親玉ってヤツにはたどり着けないんだなぁ、コレが!!」
何かが急速に接近してきているのを絹旗は分かっていた。アイテムにいた頃に何度も経験したからだ。
ガギャンガギャン!!!と派手な音を立てたその正体は、鉄パイプだった。錆び付いた銀色の鉄パイプが自分に向かって接近してきていたのだ。それも10数本以上。
「高位能力者の方ですが?できれば超引き下がっていただきたいんですが。」
「ヘッ、違うね。少なくとも私は能力者なんて大層なもんじゃないんだよなぁ。」
見えない相手はこちらに歩を進めながらそう受け答える。
「...何が言いたいんです?場合によっては拘束しますが。」
絹旗は得体の知れない能力者に対しても冷静だった。大体こんな真似ができて能力者じゃないわけがない。大能力者は堅いであろう。だが、身体能力や応用力に至っては絹旗は絶対的な自信を持っていた。だからこそのこの態度、である。
「んーー?そうだなぁ...何が言いたいかって言うとねぇ.....」
いつの間にか目の前まで迫ってきていたその『少女』は、右手に掴んでいた鉄パイプを思いっきり振り下ろし歪んだ笑顔で、そして状況に似合わぬ穏やかな声でこう言った。
「____アンタにはここで潰れて欲しいんだよ。」
絹旗は狂気を感じつつも、そのひと振りを避けた。一体なんなんだこの白髪の狂った女は!?
そう考えた1秒後には次の攻撃が飛んでくる。単調な動きであるとは言えかなり鋭い一撃だ。油断が全く許されない。
避けてばかりの絹旗はここで、攻めに転じた。窒素装甲を張り巡らせ、パンチを彼女に叩き込む。
そこで、白髪の彼女はニヤリと笑った。まるで、待っていましたと言わんばかりに。
絹旗はなぜこの状況でこんな顔ができるのかと思考した。その思考が、致命的なミスだった。
さっきまで殴ろうとしていた『彼女』が居ない。
どこだ?どこに行った!?そう考えていたとき、後ろから物凄い勢いで突っ込んでくる物体の気配を絹旗は感じ取った。
「__後ろかッッッ!!!!!」
絹旗は窒素装甲をまとった右腕をその気配に振り抜いた。そして、直ぐに血の気が引いた。
走ってきていたのは偵察班の構成員、打ち止めであった。思いっきり殴り飛ばされた彼女はピクリとも動かない。
その場に膝から崩れ落ちた絹旗は絶望のそこに叩き落とされた気分であった。
___殺した?私が大切な仲間を___仲間を__
そしてその絶望のさなか、一筋の残光が絹旗の右腕を貫いた。
絹旗最愛の右腕は派手に宙を舞った。
「.......アッハハハハハハッ!!!いいねぇ!!いいねぇその絶望に満ち溢れた表情ッ!!最ッ高だよ!!学園都市製もこんな表情作れるなんて驚きだねぇアッハハハハハハ!!!!」
その腕のもとに向かう白髪の少女を、絹旗は虚ろな目で見ていた。自分の右腕が斬られた?そんなことどうだっていい。打ち止めは?打ち止めちゃんは?自分にとって初めてアイテム以外でも信用できる人であったあの打ち止めは?
「あぁ、心配しなくてもいいよ?」
絹旗の感情を察したのか白髪少女はいとも簡単に答える。
「この空間そのものが既にアタシの作り出した幻覚、言わばここは.......『あの子の世界』だ」
もはや半分ほど声が聞き取れていない絹旗は最後の力を振り絞って最後の言葉を聞いた。
「.....打ち....止め.....ちゃんは?」
「心配すんな。まだ生きてるよ。これから処分しに向かうけどさ。よかったな、この世界ではまだお前のお友達さんは誰も死んじゃいないよ。だから、」
鉄パイプを構え直したその少女.....錆付はこう呟いた。
「だから.....いい加減楽になれ。」
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絹旗の意識はそこで途切れた......
【第四章 ~Another~】 白き世界の監視者
世界は存在する可能性と同じ数だけ、同じ時間に存在している。だが、そんな法則には縛られない特異な世界を赤の王は実現していた。
Ifの可能性の淘汰________【時の最果て】とでも呼ぶべきか。その世界は非常に無機質で閑散としている。というより何もないのだ。
広がっているのはひたすら白、白、白。
常人が放り込まれれば3日で狂い始めるであろうこの空間に、1人の女性が佇んでいた。彼女の目線の先にあるのはいくつかのモニター。そこには【.flow】の3人が鮮明に映し出されている。そして、その横には窓付夢遊の姿も映っていた。
「さびちゃんが1人撃破か....なかなか順調じゃない?」
これはただの独り言だ。というより、この世界には彼女しか存在していない。しかし、その声は確かに一人の人物に届いている。もはや言う必要もないであろう。
「.......相も変わらず監視か。余程のもの好きと見える。」
赤の王。この物語の元凶。この悪夢の元凶。
「簡単に言ってくれるじゃない?私はここでの生活の方が楽なんだから良いじゃないどう過ごしたって。」
「そうも言っていられるのか?この計画はアンタが要だ。見続けるのは勝手だが大概にしておいてくれよ?」
「そんなこと言っているアナタもアナタよ?こんな計画、思いつける時点で普通じゃないわね。」
「私は既に普通という概念から一つ上の段階にシフトしたと自負しているよ。もうヒトという感覚は消し去った。」
「ま、なんでもいいけれど。もう少し私なりに楽しませてよ。どうせ私とアナタが本気を出せば学園都市は愚か異時空同位体すら思いのままじゃない。なんだっけ?素粒子セルがどうたらこうたらってヤツ。アナタ詳しいんでしょう?」
「.......昔の話さ。」
「ま、任せておいてよ。【.flow】はアナタのストーリー通り..................
処分するから。」
「間違っても窓付夢遊は殺すな。あの子無しにはこれは成功しないんだからな。」
「分かってるわよ。ま、もうそろそろ外に出ようかと思ってたところだしね。また連絡するさ。」
「頼んだぞ...........黎条 余理。(れいじょう より)」
実にスピーディに、それでいて重々しい会話が終了した。赤の王は複数の世界を自由に行き来するところにまでは至っていない。今までの会話は全て黎条の前にあるモニターを通して行われたものである。
黎条余理。見た目20歳くらいのその女性はモニターに向き直ると3つ、モニターの電源を落とした。その先に映っていたのは、錆付、白猿、弦月の3人である。
この行動にどんな意味があるのか、それは彼女自身にしかわからない。だが、一つだけはっきりと言えることがある。それは、
「......やっぱダメだね、あの子達じゃ。」
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流れは悪い方向へ着々と進んでいるということ。それだけだ。
【第五章】 狂気との狭間に佇む、穢き世の美しき檻
1.
時刻は既に22時。正確には絹旗が錆付に倒されてから30分後の22時30分。もういい子なら寝息をたてているこの時間に悪い子の集団である新組織の面々は緊急招集された。元々裏仕事が多かった彼らにとってはなんて事はないはずだったが、上条当麻のみ眠そうな顔で頭に歯型をつけてやってきた。とはいえ、いくら上条でもその場に漂っている悪寒が全てを察させた。打ち止めに至っては一方通行はそのまま置いてきたらしい。
「....全員揃った?イキナリだけど報告をさせてもらうよ。それも最悪の報告。」
全員が生唾をごくりと飲む。打ち止めを除いてもう1人集まっていないことがヒントとなり、全員が窓付が言わんとしている事を理解した。
「.....絹旗さんが、やられた。恐らく私の姉に....」
分かっていた事とはいえ、それは衝撃的なことだった。
絹旗最愛と言えば大能力者...レベル4だ。それも学園都市の中でも数少ない暗部の人間。そんな有力者がこんな短い時間の間にやられてしまったというのか。
「幸い、殺されてはいなかった。でも.........」
窓付は言葉を口にするのを躊躇った。壮絶な経験をしてきたとは言えここにいる面々は全員が未成年であり、まだ子供であるという現実には変わりない。だがここで気を引き締めなければまた犠牲を生むことになるかもしれない。今は進むしかないのだ。
「.....右腕を切断されていたよ。そしてその隣には、鉄パイプが地面に突き刺さってた。これは間違いなく私の姉の仕業なんだ。」
「発見したのはアタシだよ。パトロールの連絡をしようと電話をかけたら反応がなくて...それで心配になってGPS機能を使って位置検索して向かってみたら.....うっ!!」
柊元はその場にうずくまってしまった。彼女自身まだ14歳。壮絶な光景だったのだろう。片腕が切断されているのだ。並大抵の出血量ではなかったことが簡単に想像できる。
「....もうイィ。無理して話すことはねェ。そンで?俺達はどうすりゃいい。手がかりなしで突っ込むほどオマエも馬鹿じゃねェ。それなりの策があったからこそ呼ンだンだろ?」
窓付は八咫通行に向けて一度頷いた後、わずかに声を声を震わせながら言った。
「姉さんは、もう確実に学園都市に来ている。仲間がいるのかは分からない。ただ1つ言えるのは、絹旗さんを圧倒するくらいの実力があるってこと。あの人の本当に恐ろしいのは能力なんて生易しいものではなくて.........!!!!」
ここからが肝心要。超重要機密事項。これから戦っていく中で最も頼りになるであろう窓付の姉の情報についていよいよ明かされるはずだった。が、
_____地面が揺れた。
地震?
誰もがそう思ったその刹那、その声は各々の耳に意味を持って到着した。
「崩れる時は酷く脆く、何もわからないことばかり。狂気と混乱が渦巻く空間にその黒龍は現出す。____光求め闇を取り巻く、長く続いた物語に終焉を!!!」
地震の規模は更に増した。もう能力者が暴れてるだとか自然現象だとかそんなチャチなものではない。9人の少年少女は急いでシェルターから飛び出した。
そこには、かつてエンデュミオンが建っていたその場所には、とんでもないものが現れていた。
いやもはやこれは学園都市第一位や第二位の頭脳をもってしてもとんでもないとしか言いようがなかった。
爆炎の中に身を包む異様な黒い物体。その口元と思わしき部位からは高圧電流のようなものが張り巡らされ、赤黒いその翼は静かに羽ばたいていた。
____その頂上に、それは居た。
「ハローーーウ!!エヴリバディ!!!!元気に過ごしてるかーーーーい!!!???」
先ほどと声質は全く変わっていないのにトーンとテンションの差がすごいものである。
その雰囲気に流されず、八咫通行は冷静に突っ込む。
「ンだァ、テメェは。いきなり現れて好き勝手やってくれてンじゃねェよ。暴れンならよそでやってろよ。」
「おぉーう威勢がいいね!!嫌いじゃないよそういうの!!このこのぉ~!!!」
チィッ、と舌打ちを一つした後には、八咫通行は飛び出していた。
「ちょっと!あんたこそいきなり何好き勝手やってるのよ!!口元から何かが来るわよ!!!」
この時心理定規が的確なアドバイスをしなければ八咫通行は感電死していた可能性が激高だ。
怪物の口元から発射されたのは、超電磁砲だった。鉛のようなモノを先端に初め、オレンジ色に光るその閃光は確実に八咫通行を貫くはずだったがそれを紙一重でかわし、引き下がる。
「ほほ~ぅ!!キミ面白いねぇ!!いきなりこっち飛んでくるんだもんなぁ!!びっくりしてついぶっぱなしちゃったよ!!」
そのふざけたような態度に嫌気がさしたのか未だに一度も口を開いていなかった上条が叫ぶ。
「だから!!誰だっつってんだよ!!!!絹旗をあんなにしたヤツの仲間なのか!?どうなんだ!!!」
怪物の上にいるその全身青づくめのその女は、面食らったような顔をした。そして言う。
「....悪かったよ。せめて倒す前くらいは楽しくおしゃべりでもしようかと思ったのが間違いだったみたいだね。そんなに知りたきゃ教えてあげるよ。」
9人をじっと見据え、腕を組み、どんとした態度で言い放った。
「....白猿蕉崔(はくえん しょうさ)だ。.flowの構成員として、そして.....赤の王の計画遂行の為、アンタ達をぶっ飛ばさせてもらうよ。お仲間のようにね!!!」
これは、守るための戦い。
9人は学園都市のため。白猿は友と赤の王のため。
「そんじゃまぁ、お仕事開始と行きますか.....」
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けたたましい黒龍の咆哮は試合開始のゴングを彷彿とさせていた...
2.
御坂美琴と麦野沈利が残り3時間というリミットを知ってから既に2時間が経過しようとしていた。いや、これは彼女たちの体感時間なだけであり、現実ではまだ15分ほどしか経っていないのだが。もっとも、今現実では黒龍が出現していることなど彼女らは知るすべもない。弦月の中枢制御を失ったその空間は時間の流れが不安定になっているようである。
正直、彼女達はかなり焦っていた。2時間かけたとは言えがむしゃらに走り回って手がかりを探し回っただけであり、根拠など何もなかったのだ。
このままでは後1時間以内に必ず死んでしまう。現に超能力者を2人もこの状況に閉じ込められているだけあって弦月の言葉にはしっかりとした説得力があった。だからこそ2人の心理状況はあまり穏やかではなかったのだ。
だが、全く何もつかめていないというわけでも無かった。この2時間の間に2人には共通した出来事が起きていたのだ。それもまたもどかしいものなのだが.....
『何か』に違和感を感じている。それが2人共通して感じたことだった。
この違和感はなんだ?一体自分は何に対して違和感を感じている?学園都市はこうしてみればほんとうにいつも通りの学園都市だ。バスも電車も学生もスキルアウトもアンチスキルも、身の回りの仲間たちでさえいつも通りの生活を送っているようにも見える。御坂美琴はスマートフォンに映ったメールアドレスを軽く一巡してみたが、違和感なるものは解消されず、麦野沈利は行きつけの弁当屋で海苔弁当を買ってみるももちろんモヤモヤは消えず、消えたのは空腹感だけであった。感覚も正常に機能しているようだ。
いつもの何気ない1日。本当にその通りだ。その通りなのに何かだけ違うのだ。
このまま悩み続けるだけで終わるのかと思われた....その瞬間、麦野の耳に懐かしい声が響いた。その声は、決してもう聞けるはずがない声。
「あれ?麦野ー、こんなところで何してるのー?」
脚線美が自慢だというアイテムの構成員。かつて自分が真っ二つに切断したはずの人物。
______フレンダ・セイヴェルン。
「....フレ......ンダ!?」
麦野は思わず一歩退いた。
「どしたの?こんなところでボーッとしちゃってさ。そろそろアイテム定例会議の時間だってワケよ!いつものファミレス行こうよ!」
アイテムだと?今は新生アイテムこそあるが【アイテム】は解散されたはず......だったが
「あ、あぁそうだったな。行くか.....」
もうこれでいいのではないか言う考えに至りつつあった。これだけ探し回って手がかりゼロなのだ。投げ出したくもなるってもんだ。フレンダに腕を掴まれながら、麦野沈利は半ば自暴自棄気味にファミレスに向かいだした。
一方御坂美琴も同様に、自暴自棄寸前のところまで追い詰められていた。ここ15分は公園のベンチから立ち上がっていない。このまま眠ってしまえば眠ったまま死ねるのではないかという危ない考えまで出てくる始末だ。一体何が足りない?何が欠けているというのだろう。もう思いついたことは全て試した。無我夢中で学園都市を駆け巡った。が、ダメ。
いっそ、超電磁砲でこの仮想空間をブチ抜いてみようか、という考えが出たが、即却下された。麦野沈利が原子崩しを放った際、特に問題なく空へと消えていったことから撃っても無駄だろうと考えたからだ。
満身創痍。完全に打つ手は失われたと思われたが......その声は突然御坂美琴の耳に届いた。
「お姉様。」
聞きなれた声。もう何度も聞いてきた。何よりも大切な妹の声。
「あ......アンタ!!」
____妹達。シリアルナンバー10031号。妹達の最後の犠牲者である。
が、まだそのことに御坂美琴は気づいていない。
10031号。フレンダ・セイヴェルン。この2人こそ、この最凶最悪の空間から脱出する鍵に気づくための道しるべだということを、彼女たちはまだ知らない。
【第五章 ~Another~】 佇む赤の王
____赤の王。私はそう名乗った。なぜ赤なのか、と時々考え直すことがある。
赤という言葉にももちろん意味がある。エネルギッシュ、前向きになる、暖かく感じるとかまぁそんなところだろう。
まったく、どれもこれもふざけた意味ばかりだ。前向きになったところで何になる?そんなもの一時の思考転換に過ぎぬものであり、実にくだらない。
赤い服を着ただけでチカラでもみなぎるのか?特別暖かく感じるのか?そんなワケないんだ。
赤という言葉の真価は.........『進出』するという意味にある。私はこれを現出した時からずっと考えていた。
無限の可能性の1つから『進出』して生まれた存在。それが私だ。
ヒトという生き物は実に愚かだ。そしてそんな愚かなヒトが多くいる世界というのは脆い。
人間社会というものは端的に分けると頭脳役と肉体役に分かれる。
頭脳役というのはシステムや物を新しく考えたり管理するところだ。肉体役はそれを実行する労働力だな。人間はそのどちらに所属するか、大体は中学から高校という六年間の間で決まると私は考えている。
これは双方共に全体としてみれば個の特質を必要としない。故に別に誰でもいい。誰かがいなくなればまた別の誰かが同じようなことをする。
____分かるか?
かの学園都市。あの世界に住まう者からすれば、それはそれは突発した頭脳役に見えているだろう。だが、ダメだ。スキルアウト。あんなクズが頭脳役の中に居ることさえ間違いも甚だしい。
頭脳ならば頭脳で徹底されていなければならないのだ。そんな中に肉体役がいたってなんの意味もない。ゴミだ。
そしてその世界もそんなゴミを入れている頭脳役の言いなりになんてなってはダメだ。その世界全体が労働役となりゴミと化す。
君達だって、思った通りに手や足が迅速に動いてくれなくては困るだろう?
幸い、世界の観点において代わりの手足はたくさんある。出来損ないの手足は、処理すればいい。
_____つまり、
労働力にしかなりえない世界は、どんどん殺していい。
これが私が初めにたどり着いた結論だ。だが今は少し気が変わった。
数多くの世界をこれまでにも潰してきた。ゴミはいくら潰しても出てくるものだ。
ならば、ゴミの居ない世界を私自身が作り上げてしまえばいいのだ。
そこに選んだのが学園都市だ。今でこそ全体としてみれば労働役だが、これまで潰してきた世界に比べれば一部に限るものであるが発展が著しい。窓付の能力さえうまく使えば、それを完璧なる頭脳役として正していける。確信がある。
____あの子の、窓付の【第三の力を】もってすれば。
それを実行に移すには綿密なストーリーが必要なのだ。だからこそ私はあの子を先に学園都市に向かわせ、一度能力を解除した。......順調だ。
次は、そうだな............
____強烈な怒りと悲しみを、味わってもらうことにしようか。
赤の王は自分の立つ場所から2、3歩進み、右腕を上げて言った。
「.....じゃあな、.flow。お前達はよく頑張った。もうこれ以上世界を潰す必要は無くなった。黎条、頼んだぜ。」
pic.twitter.com/572xLQWLs9
その喋り方は、赤の王としての物言いではなくなっていた。かつて自分がヒトであったころの喋り方に戻っていた。怪しく笑うそのヒトを超えた王は一息つけると、再びどこかへと去っていった。
その、【紅い翼】で。
【第六章】 不穏
1.
白猿蕉崔。彼女はそう名乗った。この世のものとは決して思えない不可思議な生物の上で。そもそもこれを生き物と言ってしまって良いのかどうかも定かではないが呼吸のような動作が見られることから、少なくとも生物に似た何かであることは確かなようだ。
「そうそう、始めに断っておくけどアタシはこの世界の言う能力なんてものは持ってない。ただ怪物を作って自由に操る。それがアタシの力___【操作】だ。」
白猿は腕をくんだまま話を続ける。
「当然にこの黒龍もアタシが作り上げたのさ。つまりアタシを倒せばこの黒龍も操作が効かなくなってパーだ。めでたくアンタらの勝ちってワケだよ。やったね!!!!!!」
そんな説明をしている間に、結標の手によって数十台のトラックが上空より投げつけられていたのだが、黒龍はその全てを光線のような何かで正確に射抜き空中で爆破させていた。
「くっ、一度にあの台数を投げつけても全て対処されるなんて.....」
肩を揺らしながら呟く結標。そうこうしている間に第二陣の垣根帝督と柊元は攻撃を開始している。
念動力による質量攻撃、未元物質による大打撃。前者はともかく後者はそれなりのダメージが期待できる......はずだった。が、
「人の話は最後まで聞きなって!!いやぁしかしさっすが第二位ともなると派手な攻撃になるんだねえ!!ダメージが通る状態だったら速攻でやられちゃってるかもね!!!!」
直撃はしているはずなのだが、まるでダメージが入っていない。特に相殺されているワケでもなければ一方通行のように反射をされている感覚もない。ではどういうことになるのだろうか。そもそもダメージが通る状態というワードが気になったが.....
「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
そして隠れた第三陣。いやもはや叫んでいるから隠れているといっても通用しなさそうだ。上条当麻は第一陣第二陣の攻撃が行われている間に少しずつ黒龍に近づいていた。相手にどんな反則的な能力があったとしても、彼には異能の力なら完璧に打ち消してしまう右手、【幻想殺し】がある。少しでも触れることができれば勝機はあるはずだ!!
「取ったああああああああああああ!!!!!!」
ヘッドスライディングの要領で、上条当麻は近づいた。そして、捉えた。確かに右手で黒龍に触れることができたのだ。
「.........あら?」
黒龍は依然としてその姿をとどめている。それどころか、顔をこちらに向けなにか恐ろしいものをチャージしているような気がする。
「なんでだ!?確かに今上条さん触ったでしょ!?右手で触れたでしょ!?」
落ち着け、今はそれよりも攻撃の回避に集中だ。変に騒いでしまってはかえって死が近づく。それは感覚で分かっていた。
案の定射出されたビームのようなものはちゃんと打ち消すことができた。異能の力のようだ。つまり、触れても打ち消せなかったあの黒龍とは?
「ほっほぉ〜!なるほどね!この子を打ち消そうとしたってことかい!?さっすがイマジンブレイカー!!やることは単純だけど結構破壊力あることしてくれるねえ!でもさ。よく考えてみて欲しいんだけどね?」
白猿は終始ケラケラとした態度のまま言い続ける。
「君のその右手で触れただけでさ、エスカレーターを止められる?ラジコンを触っただけで操作不能にできんの?」
答えは当然にNOだ。そんな現実的な力は打ち消すことなんてできない。______現実的?
「分かってきた?分かってきちゃったかなぁ!?」
まずい。これが事実なら非常にまずい。そんなことを考えている上条に躊躇なく白猿は告げる。
「この子は異能でも何でもない。ただの生き物と機械の合同生命体だ。だから触れたところでどうにもならない。君は何もできない。無力なんだよ。」
相手の攻撃は異能でも、素体は現実的。能力者と同じだ。倒すとしたら白猿本体を倒すほかに無いらしい。
「ところで......窓ちゃんはどこにいったの?さっきから姿が見えないんだけど。」
窓付はとある理由により、別行動を取っていた。ただならぬ不穏を感じて、とあるマンションの一室へ。
2.
.flowのリーダー、錆付紅蝿はとあるマンションの一室に現れた。行動目的はもちろん、打ち止めの処理である。
足下には白衣の研究員と思しき人間と緑のジャージを着た長い髪の女性が転がっている。その中心に、彼女は居た。その目線の先には、学園都市最強の人間が命に代えても守りたいと思っている人物が、怯え、身体を震わせ、今にも泣き出してしまいそうな表情で床に崩れ落ちていた。『打ち止め』だ。
「可愛いねぇ....いやぁ正直躊躇っちゃうね、ここまで可愛いと。この恐怖にまみれた泣き顔をいつまでも見つめていたいなぁ!!!!アッハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
この女は、『絶望の顔』という物が大好物なのである。
鬼畜、という言葉をご存知だろうか。まるで鬼のような人間らしい心を全く持っていない者の事をさす言葉である。錆付はまさにそれだと思ってもらっていい。
「こんな....こんなこと....酷すぎるよって!!!ミサカはミサカは激しくおこりながらも涙をぼろぼろ流しながら問いつめてみたり!!」
この年齢の少女にしては勇敢な行動であった。顔はぐしゃぐしゃだが。普通なら泣きわめいて当たり前の事態なのに対して、ほんのちょっとだけ大人びている彼女の性格がその行動をさせたのだろう。が、その行動は.....鬼畜に激しい不快感をもたらした。
「.........あ?そんな汚い顔をこっちに向けんじゃねえよ。テメェは黙って泣きそうな顔してりゃいいんだよこのクソガキがァアァァ!!!!!!!!!!!!」
右ストレート。直撃だった。激しい初速で放たれたその拳は打ち止めの右頬を正確に捉え、吹っ飛ばした。
勢いよく飛んだ打ち止めは壁にぶち当たり、嗚咽をもらした。気を失わなかっただけで奇跡と言えるだろう。
「アタシはなぁ!!!!!!!そういう怒ったような顔で自分の顔を見られんのが大ッッッッッッ嫌いなんだよ!!!!!!ムカついてしょうがない!せっかく殺すのを少し先延ばしにして楽しんでやろうかと思ったのにさ!!!!もうダメだ!!ぶっ壊す!!」
そういう彼女の手には鉄パイプが握られていた。いつの間に手にしたのだろうか。頭上に振りかざした直後、振りかざそうとした刹那、掠れるような声が聞こえる。
「......ぁ..........あの人.......は......」
意識はもう途切れる寸前のはずなのに、それでもなお彼女は声を振り絞る。
「ぜっ.......たいに......たすけにきてくれるもん......って、ミサ」
ギリッ、という歯ぎしりの音と共に鉄パイプは振り下ろされた。ドガァッという激しい音で放たれたそれは床をブチ抜く勢いだ。もはや打ち止めは原型を留めていないだろう。
「........は?」
そんな間抜けた声を漏らした錆付の目線にあったのは.........壊れた床と、鉄パイプだけだった。
不穏が彼女の思考の裏をチラつく。なんだ?確実に脳天を捉えた感覚はあった。一撃で即死まで持っていったはずだ。特に何かをされた感覚もない。では、なぜそこに打ち止めは居ない!?なんで!?
「残念、アウェイだよ姉さん。」
その言葉が聞こえた瞬間、自分がさっきまで立っていた場所とは違う場所に立っていることに気づいた。いや違う、床もだ。壊れた大きさこそそのままに、穴が丸ごと移動している。【自分と床の穴】だけが先ほど打ち止めを殴ったと思わしき場所から1メートルほどずれていた。穴も一緒に移動しているから気づくのが遅れたのだ。
「ちゃんと会うのは久しぶりだね......夢遊。」
全てを察した錆付はニヤリと笑い鉄パイプを構え直すと、後ろに振り返った。
「久しぶり......姉さん。」
窓付夢遊は不穏な空気を身体で察知し、ここまで来た。皮肉だが家族だから居場所が分かったとでも言うべきなのだろう。それが力を持つ者なら尚更。
「あのガキはどうしたのさ?確実に殺したと思ったんだけどなぁ...」
「学園都市に潜り込んでたときの搾りかすみたいなもんかな、すこーしだけ私の幻覚夢想との作用が出て空間ズレのチカラが出せたんだ。誰にも話してなかったんだけどね。多分殺したと勘違いしたのは......これだね。」
そういって彼女が取り出したのは包丁。もはやおなじみのアイテムである。
「殴る瞬間に打ち止めちゃんの周りの空間と包丁を入れ替える。そしてその瞬間に壊れた床と1メートル先の床、姉さんと2メートル先の床空間を入れ替えた後、包丁の位置情報と打ち止めちゃんの位置情報をリセット。以後空間ズレを放置した結果がこうなるんだ。結構科学ってのも面白いもんでしょ?ほら、右を見てみなよ。」
「クッ......フフフフフハハハハハハハハ!!!!!やられたよ!!さっすが夢遊!!!伊達に私の妹やってねぇなぁ!!!」
そこには殴られた後こそあるものの、未だに意識を持っている打ち止めの姿があった。そして、窓付の姿を見て何かを口の中で呟いた後、気を失ったのだった。
3.
麦野沈利は買った海苔弁当を持ち込みつつ、フレンダに手を引かれながらファミレスへ入った。
「結局さ、サバの缶詰がキテるワケよ。カレーね、カレーが最高!」
「…………南南西から信号が来てる。」
「香港赤龍電影カンパニーが送るC級ウルトラ問題作……様々な意味で手に汗握りそうで、逆に超気になります。」
「くそっ、俺はスキルアウトを束ねていた組織のリーダーなんだぞ……」
三者三様ならぬ四者四様、それぞれが独り言なのか誰かに話しかけているのか判断しづらい声の大きさで話している。
正直なところ、麦野はホッとしていた。この光景、よくよく考えれば半年ぶりなのだ。今はもう居なくなってしまったフレンダでさえ、こうして何事も無かったかのように自分の隣に座っている。本当に、もうこれでいいのではないかと思ってしまうほどに麦野は心のどこかで安堵してしまっていた。
「……おまえら、一つ聞いてもいいか?」
麦野は、このいつもの光景にあえて半年前にはなかったパターンの質問をした。単純に、半年前と同じ流れをたどりたくなかったのもそうだが、追いつめられている状況だからこそ口からこんな言葉が出てしまったのである。
「おまえらはさ、私と知り合えて良かったと思うか?キレれば品が無くなって、たとえ部下であったとしても容赦なくぶち殺すような、そんなクソみたいな人間をさ。」
全員が麦野をまるで異星人でも見るかのごとく目を見開いて見つめていた。それはそうだろう。今まで一瞬だってこんな麦野沈利を誰も見た事が無かったはずだ。
「ど、どうしたのよむぎのん?ちょっといってる言葉の意味がよくわからないってワケよ………。」
口を開いたのはフレンダだ。もちろん当然の反応だ。むしろ口をきけたことを褒めるべきだろう。
「もうな、分からなくなってきたんだ。ここは本当に仮想世界なのか?実は現実なんじゃないのか?何かがおかしいのは分かっていてもそいつに気づく事なんかできやしねぇ。1万回以上のループ?なんだよそれは。それが本当なんだとしたら私はもう何年この1日を繰り返してんだよ。そもそも」
「ち、ちょっとむぎのん!!!」
たまらずフレンダのストップがかかる。ただ事ではないオーラを察したのだろう。
「正直ね?今のむぎのが何を言ってるのかサッパリなワケよ。でも……これだけは言えるよ。私達は、貴方の下につけて良かったと思ってる!そりゃ、むぎのはちょっと言葉が強くて死と隣り合わせな現場にだって何度も立って来た!でもそれが暗部の仕事でしょ?みんな、それを割り切った上でここに居る。そういう視点で見れば、むぎのはすごく頭よくて能力も強い……私たちの強いリーダーってワケよ!」
正直、危なかった。とある水分が目頭のすぐそこまで来ていたような気がする。だがそこは麦野。こらえる。
「そうか……ありがとよ、フレンダ。」
それは、優しい顔であった。半年前ならアイテムのメンバーが揃って白目をむいてしまいそうな、想像もできないような優しい表情。フレンダは顔を真っ赤にして机に向き直ってしまった。
それからというもの、アイテムの面々からは次々とエールの言葉がでてきた。最初は粛々と聞いていた麦野だったが、どうも見知った顔の知らない表情をこんなにたくさん見ると、笑みがこぼれてしまう。
「わ、わかったよおまえら。なんだよ、ちょっと聞いただけじゃんか。もう十分気持ちは伝わったって!」
笑いながら、そう言いきかせた。
ようやく落ち着いたところで、タイムリミットが残り30分を切った事に気づく。いよいよ終わりの時も近いのかもしれない。
これが、最後の晩餐。それもよいだろう。
麦野は買ってきた海苔弁当を開封した。箸を持って両手を合わせ、いただきますと言おうとしたその瞬間。とある事に気づく。
なんだか弁当の内容がいつもより寂しい気がする。なにか、決定的な物が忘れられてないか?私は本当にこの海苔弁当が好きなのか?いや別に嫌いではないが半年前から好き好んで食べ続けていたのか?
いやちがう、半年前、ここで食べた弁当の中のご飯は白色だった。つまり米はむき出しだったという事だ。だが今は黒い。海苔がかぶさっているのだから当然だが。しかし私は流れ的にこの弁当を買ってしまった。買った時には何も感じなかったが今となっては分かる。私が食べていたのは海苔弁当ではない。ではなんだ!?なんなんだ!?
確か半年前、フレンダとの仕事帰りの日に……
「よし、今日の仕事は終わりだ。メシでもかって帰るか。」
「むぎのー!私もお腹が空いてきたってワケよ!」
「あぁ?……ま、今日はいい仕事したし、たまにはごちそうでもしてやるか。」
「ホント!?ホントにホント!?さっすがむぎの、太っ腹なワケよ!」
「ほら、どれにするんだ。1つだけだぞ。」
「うーん、どれも気になるけど海苔弁当かな!海苔ね!海苔とご飯のコンビネーションが最高!」
「あいよ……そんじゃ私は………お、これ美味そうだな。○○○弁か。よし、決めた。」
そうだ、半年前のあの日………あの日に私達は!!!!
強い電流のような感覚が、頭の中を駆け巡った。
そしてその瞬間、世界の上空に亀裂のような物が入ったのだ。
「……こんなことにも気づけなかったなんてな。」
フフ、と笑いながら麦野は言って、その場を後にしようとした。
「ち、超待ってください!会議は!?終了ですか!?」
絹旗がかけより、こちらを見上げながら聞いてくる。
「あぁ、ちょっとどうしてもやらなきゃならない大仕事が見つかったからな。大丈夫だ、またすぐに会える。それと、フレンダ。」
後ろから駆け寄ってきたフレンダに、麦野は近寄った。その顔はとても優しげだ。
「な……なに?」
「……………ありがとうよ。また会えて嬉しかった。」
そう言って、フレンダの身体を引き寄せ、抱きしめた。
「…………え?」
そしてアイテムの面々を一度見回した後、麦野は全速力で駆け出した。
あの亀裂をブチ抜き、本当の私たちの世界を手にする為に。
つづく
新約 とある少女の夢想遊戯
まだまだ製作中だ。更新は進めていくからたまーに見に来てくれよな。
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