空に向かう木の下で
「助けてください 私は監禁されている」 買ったばかりの古本に書かれたメモ
私の趣味は読書である
とは言っても、有名な某チェーン店で推理小説やらホラー小説を買い漁り、休日等時間がある時にのんびりと読むだけであるが。
ある日のコトだ。
出版されたばかりの本が、格安コーナーに並んでいる、おお!っと思い、値段を確認すると、100円と書いてある、
内容は知らないが出たばかりの有名な本だし、定価に近くてもおかしくないはずだというのに、やった!とばかりにレジに運ぶ。
喜び勇み足で家に帰り、ソファーに寝転びながら、本を広げると、落書きのようなものを発見する。
ああ、だから安かったのかと、落ち込むものの、落丁本なわけでもないし、読み終わったら売ればいいか等と考えながらも、
小説の内容よりも落書きが気になってしまい、全然内容が頭に入らない。
以前にも同じような事は何度かあった、漫画の塗り絵コーナーはカラフルに色鉛筆で塗られていたり、キャラの額に鉛筆で目が書きたされたり、
セリフが増えていたり、どれもうんざりするような物だが、古本で買っている以上文句は言えない。
しかし今度は違うのだ
助けてください
私は監禁されている
そんな文章から始まっている。
仮にいたずらだとしても性格が悪い
シャーペンで薄く、そして小さく書かれれ、他にはないのかとパラパラとページをめくると、数十ページおきにどれも数行のペースで書かれている。
メッセージを信じるのなら、これを書いた人は何やら事件に巻き込まれたのだろう。
私は手袋をはめた
この本が売られたということは、犯人がこの本を売ったという事だ。最近では買取に住所の確認をされる、つまりこの本を売った人を調べれば、
犯人がわかるのではないかと思ったのだ。証拠は多くあったほうがいい、ならば なるべく指紋はつけないに限る。
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13.5.8
私の名前は星崎忍子
生年月日は昭和62年
会社帰りに誘拐された。
恐らく父は身代金を要求されているだろう。
私は誘拐犯のアパートにいる
部屋は恐らく2LDK
ここがどこなのかわからない
窓からスカイツリーが見える
かなり近い
足に鎖につながれている
早く家に帰りたい
携帯も壊された
部屋に電話も無い
部屋にあるのは本の山と
小さなテレビ 冷蔵庫
隣に誰も住んでない
男は数日おきに夜中に来る
覆面をした男が来なければ
私は餓死するだろう。
でも来てほしくない
体調が悪い
身代金は払われたのだろうか
私はいつ解放される?
もう嫌だ
部屋から見える景色
誰かこの絵から私を探して
メモはそこで終わっていた。最後のメモは部屋から見える景色が描いてある。
日付から察するに、丁度一週間程前である、こんな話、ニュースでも見ていないし彼女が監禁されている可能性はまだ十分にある。
スカイツリーは私の家からも見える、そして、この本が売られた本屋で私が買ったのだ、監禁している男は、私が住んでいる街にいる可能性も高い
時計を見るまだ昼過ぎである。はやく警察に行かなければ。
一人の人生がかかっているのだ、私は本を買っただけだが、メッセージを読んだ以上警察に知らせる義務がある、
警察がその後で彼女が描いた絵や、古本屋の監視カメラやら買取の履歴やらで犯人を見てけ出してくれるだろう。
興奮し過ぎた少し落ち着かなければ、気付けば喉がカラカラだ。
警察に行く前に何か飲もうと本を閉じ、手袋を外した。
冷蔵庫を開け、コーラを手にする、蓋を開け、コップも使わずそのまま喉に流し込む
萎びた身体に潤いを与えるかのように、喉への刺激が痛い
置かれた本の表紙を目ふとにすると
『空に向かう木の下で』
帯にはこう書いてある
監禁されたセレブOLが本に残したメッセージから、事件を解決する推理小説オタクの話
あれ?
先程の本にメモをよく見る
シャーペンで書いたように見えるが…、おそるおそる端の文字に消しゴムを使ってみる
消えない。印刷のようだ。
んん?と思い、本文を読み始める。本文中でもろにメッセージの話をしている。
なるほどねー
そんな趣向を凝らして作った本だったのねー
私の趣味は読書である。
推理小説にはいつも騙される。
空に向かう木の下で