SOULD
第一章 第一話 いともたやすく行われる作業。
水上都市
その場所は陸路が海面の上昇で徐々に無くなっていき現在では町を小船で移動していくという、不思議な場所だ。
このカトレアに着くまで大分と時間がかかったが最重要任務だと言われれば仕方が無い。
俺がこのカトレアについたのは昨日の午後九時、そして現在は午前10時、15分前。
今俺は先方が言ってきたこの高級ホテル《marrige》のロビーにいるわけだが、呼び出された待ち合わせ時間10時には十分に間に合っている。
昨日はこのカトレアについてから何もしていない。ただビジネスホテルのような所に止まり今日の待ち合わせ時間に遅刻しないよう睡眠をとっただけだ。酒も飲んでいないし、女も買っていない。この町の酒は俺には合わなかったし、それに女を買う気分でもなかった。
ロビーではまだ10時だと言うのに今日の夜はどこで飲もうか、なんていう声が聞こえる。そのせいでせっかくのシャンデリアの光も霞んで見えた。そんな声にいらいらしているとロビーにいたホテルの青年が
『お待ちしておりました。こちらへどうぞ。』
といった。
青年はロビーからエレベータのほうへと足を運びエレベータのスイッチを押してドアを開けた。俺はその青年についていきエレベータに乗り込む。エレベーターの中はとても広い、小さい家のリビングくらいはありそうだ。
すると声をかけてきた青年は地下二階のボタンを押した。
俺は地下というものがあまり好きじゃない。ひとつの理由として太陽の光がさえぎられてしまうからだ。
太陽はないのにもかかわらずいやに明るいところが人が作り上げた空間なんだと思うとどうしても好きになれなかった。
だがエレベータはそんな俺の気持ちには気付かずにゆっくりと確実に地下へ降りていく。エレベーターのドアが開くと目の前には部屋のドアがあった。
いや、正確にはその部屋のドアしかなかった。五メートル四方の空間の壁にひとつドアがつけられているだけだった。
『あなたが目指している場所はその部屋で間違いありません。確かに普通に考えるとおかしな空間です・・・がそれを説明する時間はありません。そして現実にこのような部屋が存在しているのです。このエレベーターを降りてあの部屋のドアをあけるだけ、今あなたが出来ることはそれだけです。』
ホテルの青年は俺を落ち着かせるように言った。
『わかりました。ありがとう。』と俺は言った。
チップを渡そうとしたが結構ですと言われたので何もせずにエレベータから降りた。俺が降りるとそのドアはすぐに閉まり上の階へと昇っていった。
本当にそのドア以外はなにもないただのコンクリートに覆われた空間。
少し心拍数が上がっているのが自分でもわかる。
いったいこの先にはなにがあるのか?なにをされるのか?
どんな人物が立っているのか?
俺はゆっくりとドアノブを回しドアを開けた。
するとそこはただっ広い一室なっていた。おそらくいくつか部屋はあったのだろうがぶち抜いてひとつの部屋にしたのだろうという感じだった。部屋の中の壁という壁がすべて白く塗られ蛍光灯の明るい光を反射させていた。その部屋の真ん中には真っ黒のテーブルとイスがおいてありそのイスには老人が座っていた。そういった光景が俺にタイトルは思い出せないが何かの映画のワンシーンを思い出させた。
『おはようございます。』と俺は丁寧に挨拶をした。
『あぁおはよう。ところでキミ、顔色がやけに悪いが、大丈夫かね?』
それはよく見ると年齢は50代、髪の毛には白髪が多くある、おそらく染めているのだろうが髪の毛がもうそんな抵抗をしても無駄だと語っているように見える、肌の色は浅黒く、どこからどう見ても健康的な体つきをしている。
『ええ。大丈夫ですよ。顔色が悪い理由は、私にはちゃんとわかってるし、説明してくれと言われれば説明しますが、それにはかなりの時間がかかってします。それに時間を掛ける割にはおもしろくない話になります。ですので今はこの書類にサインをお願いします。』
そういいながら俺はカトレアと自分の住んでいる国ベガとの条約を結ぶために持っていた書類を渡した。
俺は目上の人に対しては、いつでも適切な対応をとっていると思う。
ちゃんと《俺》では無く《私》と言うし相手の時間のことや体調のことなどを考えて、適切な判断をしてその状況にあった行動をしているつもりだ。
でも、今日はそういうわけには行かなかった、俺の住む都市からこの水上都市まではかなりの距離があったし少しばかり時差もある、文化違うし、酒の種類も違う、言葉も大分となまりがあるし歩く人のスピードも遅い。
とにかくなにからなにまで俺という存在には会わない場所だった。
『そうかね。何もかもをわかっているならいいんだよ。』
そしてまたこの老人の言葉が俺を腹立たせた。
『いいえ、何もかもをというわけではありません。この条約、つまり我々ベガとカトレアとの間で決定されたこの条約についてですが。私は一人で誰にもばれずに最重要任務だということだけを言われ、ここまできました。いいですか?私がここまでくるのに、かなりの時間と労力がかかっているんです。そして少し時差もあります。しかし、私はこの条約の中身については何一つ知りません。この書類に書かれたことは何もしらないんです。つまりこの条約に意義があるのかどうかすら。わからない。』
俺が冷たく言い放つと老人はゆっくりとそんなことはどうだっていいという風に口を開いた。
『ふっふっふ。おもしろい人だねキミは、えぇとたしか白氷君だったね?』
『はい』と俺はいった。
『いいかい?白氷君、キミがここまでくるのにどれだけのことをしたのかなんて私にはわからない、それはキミにしかわからないことだ。それにねそんなことをしたからといってこの書類を見てもいいという理由になるのかね?わたしからすればキミはその任を引き受けたんだからそれについてはなにも文句をいってはいけないと思うんだが。どうかね?』
そんなことはわかっていた、今ここで俺がこの目上の老人に対して怒りをぶつけるという行為は誰がどう考えたってばかげてる。
俺がなにもいいかえせずにいると老人はまたゆっくりと口をひらいた。
『それとね、最後にひとつ言うと、[世の中にはわからないということのほうがいい]ということがあるんだよ。』
[世の中にはわからないということのほうがいい]ということがある。
たしかに今老人はそういった。
この老人は本当は気付いているのだろうか?俺があの中身を見たということを。
それを踏まえたうえでその言葉を言ったのだろうか?
そして老人は静かにでも確実にサインをした。
第二話 してはいけないということほどしたくなる。
その音を俺が聴いたのは午前3時45分だった。
携帯電話の着信音が鳴り響く。
自宅のベッドで寝ていたためにその電話を取ろうかどうか迷ったが、SOULDから支給された携帯電話だったので俺はしぶしぶ携帯をとった。
『はい。こちら衣川白氷ですが・・・。』
『あぁ。悪いねこんな夜遅くに。急かもしれないけど今すぐ本部まで来てくれないかな?僕の話は理解できた?』
それは上官の声だった、たしか名前はロバート・ゲラーだったと思う。
『今すぐですか?』俺はけだるそうにそういった。
『うん。そうだね今すぐに来てほしいんだ。それとこっちに来たら少しの間家には帰れないと思うから自分が必要だと思うものは自分で用意しといてね。』
この男は上官なのになぜこんな話し方なのだろうか。
威圧感もないしそれに上官だと思わせるような態度も無い。
『はい。それでは今から30分以内に着くようにします。』
『15分に出来るかな?それじゃぁね、いつものとこでまってるから。』
ゲラー上官は質問してきたのにもかかわらず俺の返答をまたずに電話を切った。先ほどの言葉は撤回しよう。
俺は財布と鍵と携帯をポケットに入れリュックには2,3日分の着替えを入れた。そして歯を磨き家をあとにした。
今はまだ2月でとても寒い、今からバイクに乗って本部へ向かうと考えただけで体が芯まで冷えそうだ。
何もかもを支配しそうな闇の中で俺はバイクにまたがり本部へと向かった。
それよりも一体なんだというんだ、こんな時間から行かなければ駄目なことなのか?
俺はまだSOULDに入ってから2年しかたってないしそんな重要な任務ならもっとベテランのやつにまかすだろう、めんどくさいことにならなければいいけど。
本部に着くとその大きさに改めて感心した。
77階建ての本部は近づくものを威嚇しているようにも見える。夜の闇に建つその建物は夜の静けささえも飲み込むような雰囲気を放っていた。
そして俺は地下駐車場へと入りバイクと停車させエレベーターへと向かった。
エレベーターのスイッチを押すと本人確認が行われる。
声帯認証、網膜認証、暗証番号、そして最後にSOULDのメンバーIDを機械に向かって話すことでやっとエレベーターのドアが開く。
俺はそれを順番に確実にこなしていく暗礁番号の入力が終わったあと、入力装置から乾いた機械音が聞こえた。
『サイゴノカクニンニナリマス、アナタノメンバーアイディーヲオシエテクダサイ。』
俺は一呼吸おいてからゆっくりと口を開いた。
『ゼロ、ゼロ、ゼロ、イチ、イチ、ゼロ、ナナ』
俺が言い終わると、機械はなにも言わずにエレベーターのドアを開けたのでゆっくりと中に入っていった。
『まったく。めんどくさすぎだ。』
俺は無意識のうちに独り言を言っていた。
目的地の階数である7のボタンを押してからドアを閉めるためのボタンを押すとエレベーターは獲物を狩るトラの様なスピードで上昇していった。
エレベーターは目的地に着くと先ほどの上昇スピードはどうしたんだ、というくらいにゆっくりとドアを開けた。
七回のフロアに足を踏み入れるとやはりそこには独特の空気が漂っていた。
片方の壁はガラス張りで残りの壁と床は全て黒で統一されている。SOULD中でもこの7階という場所だけはこの世ではないような気がした。
目的の部屋まであと五メートルのところで俺は一度立ち止まり身だしなみをチェックした。
二万円の安いスーツはもうすでに色が落ち始めてるし生地がぺらぺらしている、だがまぁそれは今更どうすることもできない。
ネクタイは丁寧にしまっているし、靴紐もほどけてはいない。さっきヘルメットを被ったから気になるのは髪型だけどガラスに映るものだけじゃ細かい髪型はよく確認できない。
俺は適当に紙をくしゃくしゃと掻いてみた、とりあえずはまぁ大丈夫だろう、それに相手もそこまで神経質ではないかもしれない。
チェックを終えて目的のドアをノックすると
『あぁ。やっと来たのかい?もう2分も遅刻してるよ。早く入って。』
とすこしイライラした声でロバート・ゲラーは言ってきた。
『失礼します。』
そして俺はその部屋へと足を踏み入れる。
『今日はね僕だけじゃないんだ、まだ来てないから僕から話すね。』
先ほどまでの廊下とは違う、真っ白な部屋のなかには長細い高さ80センチ、横幅1メートル、縦幅3メートルくらいのテーブルがおいてあり、そこに一緒に並べられたイスの上に座りながらゲラーは話を続けた。
『今回の命令はね、すごく複雑なんだ。』
『複雑なら初めから説明しなくても結構です。何をどうすればいいかだけ教えて下さい。』
めんどうくさかったので俺はそういった。
『いや、そうじゃないんだ白氷君、話というものには順序がある。その順序を理解しないと成功するものも成功しなくなるんだ。わかるかい?それはミステリー小説の最終章だけを見るのと同じことだ。犯人だけをわかったとしても何も理解できない。そうだろ?』
ロバート・ゲラーがひどく回りくどい説明すると、さっき俺が入ってきたドアとは間逆の位置にあるドアから一人の男がやってきた。
『ゲラー。そこからは私が話そう。いやぁ、はじめまして白氷君、こんな時間にすまないね。呼び出したのは私なんだ、今やこの国にとってSOULDという組織は無くてはならない存在になっている。スパイ活動や我々政治家の保護、さらにはこの国の情報を守ってくれてる。そしてなによりキミ達は洗練されてる。それは全てにおいてということだが。つまりはね私は信用しているんだよ。SOULDというものを。』
そういった男の顔をみるとそれはこの国の副大統領だった。
いや待て、待て待て待て。俺はまだ理解できない。副大統領がここにいること?いや違う、確かにそれも答えにはなりうるが充分ではない、最終的な疑問が残る。なぜ俺なんだ!?!?!?!?!?
『ローレン副大統領、私はあなたのことはよく存じ上げています。勿論副大統領のあなたが出て来る位の任務ということは今まで私がやってきた任務よりそうとう重要なものになることもわかります。そして全てわかっているからこそ訊きますがなぜ私なんですか?』
丁寧に慎重に副大統領の気に触れないように俺はそういった。
『キミはね、能力を持っているだろう。もちろんそれはキミだけじゃないがそれほど多くはないんだ。とにかくこの国にとってキミの力というものは大きいものだ。任務は確かに現時点での最重要なものになる、ただすることは簡単だ、この封筒に入った書類に判子を貰ってきてくれ、それだけでいい。我々とベガの秘密の条約なんだがね。それと言っておくが君にはこの中身を見る、あるいは、知ることができる権利は無い。ただキミは私が言うように行動すればいい、ほかの誰にもばれずにこの書類をとどけてくればそれでいい。』
『秘密の条約ですか??それはなにか私には矛盾しているような気がします、国家間の条約というものは国民に公開されるべきではないでしょうか?』
『白氷君、わたしはねキミが利口で腕が立つと訊いているから、こうして直接頼みにきているのだよ。二度は同じ事を言わせないでくれ。答えを訊きたい、YESかNOか。』
何かおかしい、勿論この任務断れるはずは無いが【きっとこれを断ればSOULDは首になりこれから先どんな仕事にも就けることは無いだろう。】さっきの俺の問いに答えてない・・。なぜ俺なのか?俺の力が大きいだって??俺は確かに能力は使えるが、どれだけ知ってるんだ?俺の能力をどこまで理解して言ってるんだ?
『返事が聞こえないが、どうしたのかね?』
副大統領の言葉で頭の中の世界から一気に現実へと引き戻された。
『いえ、あ、はい。やらせてもらいます。』
『最後にもう一度言うが、君は中身を見る権利は無い、それだけを覚えておいてくれ。』
そういって副大統領は入ってきたドアへと向かい消えていった、そのため部屋にはドアのしまる音が鳴り響いた。
この謎を解くためには、勿論中身を見る必要がある。
副大統領は権利は無いといっていたが、決して見てはならないという言葉は使っていない。
見てもいい、ただその内容を知る権利が無い。
結局のところ見るなといわれたところで、見たくなるんだ。
するなと言われたことはしたくなるんだ。
第三話 予定調和が嫌いな女。
SOULDが今回の任務のために水上バイクを支給してくれた、ステルスの機能があるらしくレーダーには探知されないとのことだ、ただ俺は機械に疎いためにそういったことはよくわからない。
見た目は普通の400ccの2輪バイクと同じだが、どうやって水の上を走るというのだろうか?
SOULDの地下駐車場でそのバイクを眺めていると、入り口のほうからコツコツコツと足音が聞こえてきた。
その音は確実にこの場所に近づいている。俺はゆっくりと振り返った。
『このバイクはね、すごい発明なの。あなたはどうやってこれで海を走るんだ?っておもったでしょ?だからあたしが今からそれを説明してあげる。』
と突然あらわれた女はいった。
黒く長い髪の毛にくっきりとした顔立ち、その大きな二重の目は全てを理解しているかのような力強い目だった。身長は172センチメートルといったところか、世間で言う美人とはこういう人のことを言うのだろう。それになによりハイヒールをここまで履きこなす女性に俺はであったことがない。
彼女が着ているぴったりとした黒い上下のエナメル質の服は、元々長い足をさらに長く見せていたし、彼女の胸の形もはっきりと見せていた。
『いや、俺はそれについては・・・。』
俺はそんな説明はしなくてもいいと言おうとしたがこんな美人な人がせっかく説明してくれると言っているんだし、少しくらい我慢しようと思った。
『それについては・・・どうしたの?』と彼女は言った。
『いや、いいんだ。説明を続けてくれ。』
『そう、わかったわ。まずは、このバイクがどう海の上を走るのかだけど。このバイクのタイヤはね海の水を掴むことができるの。だから沈むことはないし・・・・。』
彼女はそこまで話すと急に口を閉じて俺の顔を見上げてきた。
『くだらねぇってあなたの顔に書いてあるわ。』
きっと彼女の目は様ではなく本当に全てを理解することができるんだ。
『いや、悪い。俺は機械には疎くてね。その手の話はどうだっていいんだ。ただ君の様な女性と話すのは初めてだったからちょっと話をしてみたくね。』
俺は正直にそういった。
『ちょっと話をしてみたくなって・・・か。私のこと好きになっちゃったの?』
『いや、そういうわけじゃない。ただ興味が涌いただけだ。』
『あなたはきっと、嘘をつくとき《いや》って言うのね。でももし嘘じゃないとしたら悪いから一応聞いてあげる。私のことを好きじゃないのはタイプじゃないから?』
そういって彼女はゆっくりと目の前の俺に支給されたバイクにまたがり俺のほうを見た。
『いや、そうじゃない。』完全に会話は彼女のペースになっていた。
『ふふっ。あなたって面白い人なのね。』彼女はにっこりとほほえんだ。
『ねぇ白氷って呼んでもいい?』唐突に彼女は言った。
『・・・・・・・好きにしてくれ。』と俺は言った。
『ふふっ。あなたってやっぱり面白いのね。普通得体の知れない女にこんなこと言われたら、《お前は何モンだ!?》とか《目的はなんなんだ!?》とかそんな予定調和なことを言うと思うけど、あなたは違うのね。』
『あるいはそうかもしれないな。ただ一つ訊きたいんだが、どうして俺の名前がわかったんだ?』
俺はそれが一番不思議に思ったので彼女に尋ねてみた。
『あなたは、私のことは気にならないの?私の名前とか年齢とか、そういうことを聞きたいとは思わないの?』と少し彼女は不服そうな顔をしながらそう言った。
『まぁいいわ。答えてあげる。私の能力はね[解読]なの。』
『解読?ってことは相手の心とかそういうのを理解することが出来るってこと?』
さっきの会話のやり取りと彼女の目はその能力によるものだったのか。
『いいえ、違うわ。人の心はそう簡単に理解できるものじゃないの、勿論出来るときもあるけど、そういうのはとても稀なことなの。』
『じゃぁ俺はその稀な部類に入ってるんだな。』
そういうと彼女はまた微笑んで俺の顔を見てから口を開いた。
『いいえ、あなたの心は読めてないわ。あなたがさっきのことをいってるなら、勿論さっきのことっていうのは、あなたの嘘のことだとおもうけど、それは私がカマをかけてみただけ、この人はきっと私に一目ぼれしたんだろうなぁって思ったから。』
俺が彼女のその言葉を理解した時には顔が赤くなっているのが自分でもわかった。
『ふふっ。あなたってそんなに髪も白いし顔立ちもクールな感じなのに、可愛いところがあるのね。』
『うるせぇ、ばか。それより遅くなったけど、あんた名前の名前教えてくれよ。』
俺は恥ずかしさを紛らわせる為に話を切り替えた。
名前も知らない彼女はバイクの座席に上半身だけうつぶせに寝そべりながら顔だけをこちらにむけ始めて、さっきまでは俺が知らなかった名前を言った。
『レイナ・レイヴェルトよ。レイヴェルトじゃぁなくて、レイナと読んで。』
色っぽい態度で色っぽい声色で彼女はそういった。彼女がまたがっているバイクも普通ならただのバイクなのだろうが彼女がまたがることでいっそう輝きをましていた。
『レイナか。もう少し仲良くなってからレイヴェルトって呼ばしてもらうよ。』
『今すぐに言わないところも普通の人とは違うのね。そういうのって素敵だわ。』
そしてレイナはゆっくりと体を起き上がらせてポケットからピアニッシモを取り出しそっとライターで火をつけてゆっくりと吸いそしてまたゆっくりと煙を吐いた。
『白氷はタバコ吸わないの?』
『あぁ。いらねぇなぁ。それよりもついてくるのか?俺の任務に。』
そういったあと俺は誰にもばれないようにと言われたことをおもいだした。
『勿論ついていくわ、だからこうしてバイクの上にいるのよ。』
『なぁ、やっぱりあんたも普通じゃぁねぇなぁ。』
『そうかしら?それよりもあなた酷いスーツを着てるわね。私が新しいのを買ってあげるわ。』
やはり普通じゃない。が俺のタイプと言うのは間違いない。
第四話 期待以上のものほど嬉しいものはない。
俺たちは静まり返るベガの町をSOULDから支給された水陸両用バイクで颯爽と駆け抜けていた。
『ねぇ白氷。あなたの本名言う気になったら教えてね。』
二月の冷たい風と共にレイナのその言葉が耳に触れる。
『衣川白氷。これだけが俺の本名だよ。』
『気に障ったのなら謝るわ。ごめんなさい、そこの建物の角を右に曲がって。』
少し勝気な態度で彼女は言った。
『別に怒っちゃいねぇよ、ガキじゃぁねぇんだ。そんなことはいちいち気にしなくてもいい』
俺はそういいながらレイナの指示に従い精密な機械のように確実に右にまがった。
『そう。』
そっけなく彼女はそういって俺の腰に巻いた腕の力を少し強めた。彼女の胸の膨らみが俺の背中にそっと触れる。
『あそこの、建物よ。あの光が点いている建物。』
そして俺はさきほどのようにまたその指示にしたがいレイナの言った建物の前でバイクを止めた。
ふとその建物についている看板を見上げるとそれは、高級ブランド店、アルフレッド・ダンヒルだった。
『おいおいおいおい、こんな所始めてだ。』
『そう?案外あなたも子供なのね。ふふっ。』
レイナはいたずらにそういって、俺の腰に回していた両腕をゆっくりと上品に離して気品あふれるようにバイクから降りてダンヒルへと入っていった。
やはりダンヒルは想像以上の雰囲気を放っていた、このフロアにある全てが上品で高級感を纏っていた。
『ここのお店は、私が電話をすると何時でもどんな時でも開けてくれるの。それは大雨の時も、台風のときも、明日この世が終わるって言われても、私が電話をするだけであけてくれるの。』
『なにか悪いことでもしたのか?』
俺は冗談交じりにそう言った。
『あら、失礼ね。』笑みを浮かべレイナは言った。
『男の人は上等なスーツを着なくちゃいけないと私は思うの。ディーゼルこの人にあったスーツを持ってきて。』
レイナがそういうとディーゼルという名の定員は他の者も呼び俺の腕、肩幅、身長、脚、靴のサイズ、全てを正確に計っていった。
『よかったわねあなたスタイルは一流で。』
レイナはまたいたずらに微笑みながら俺にそう言った。
『うるせぇ。この金は必ず返すからな。』
意地を張って俺はそう言った。
俺のデータを計り終えたダンヒルの定員たちは即座に見合ったスーツを三着持ってきた。
ダークブルーとグレイとブラックの三種類だった。
『グレイにして。』
俺に決定権など初めから存在しないんだろう。
『あなたは黒がいいって思った?でもね黒い色を好む人は心理学的に言うと自分を大きく見せたがる人なのよ。あぁそれと、さっきお金を返すっていってたけどどれ位するのか知ってるの?』
レイナはめずらしく一つの会話の中で二つの質問をしてきた。
『俺もグレイがよかったよ。どれ位だろうな?50万くらい?』
『ふふっ、それくらいだといいんだけどね。』
ディーゼルと呼ばれた定員は領収書を持ってきてそれをレイナに渡した、こっそりと領収書を見てみるとそこに書かれていた金額は120万だった。
『あなたに払えるのかしら?私は嘘をつくひとは嫌いよ。それだけはおぼえておいてね。』レイナはまたいたずらに微笑んでそういった。
『ほら、早く着替えて着なさい。その酷いスーツは処分してもらうから。』
『ネクタイは今してるやつでもいいよな?これは捨てたくないんだ。』
『・・・。あなた私をバカにしてるのかしら?良い訳ないでしょう。ネクタイも用意してもらうから早く着替えてきなさい。』
まぁ着替えたところで、ネクタイは捨てなければいいか。
オレが着替え終わるとそそくさとダンヒルを後にした。
『ねぇ、白氷。これからどこへ向かえばいいかわかってる?』
『カトレアさ、今から直行すれば2日くらいで着くだろう、何せ海の上を走れるんだからな。』
『誰にもばれないで、でしょ?だったらいくつか島を経由したほうがいいわ。私の言う通りにしてくれる?』
『誰にもばれないでっていうんならもうレイナにばれてる。』
『駄目よ。私の言うことを聞かないとこの任務は失敗するわ。』
レイナの声色には嘘がないように聞こえた。
『わかったよ、やっぱり女には勝てねぇなぁ。』
俺達はベガを出発しまずはクリストウッド島に向かうことになった。
海の上を走ると言う行為はとても不思議なものだった。なんというか感覚的にコンクリートの上を走るのとは全く違う、ふにゃふにゃしてるし、少しハンドルも重たい。しかしそれでもきちんと進んでいく。少し波がくる度にレイナの胸が俺の背中にあたった。
『私の胸は気持いい?』
海のにおいで頭がやられたのかと一瞬思ったがそうではなくそれは確実にレイナの口から発せられた言葉だった。
『だまって乗ってろ。』
時速120キロメートルで海の上を駆け抜けるという行為はとてつもなく危険な行為だと思う。もしタイヤがパンクすればおそらく俺達は一瞬のうちにこの世ではない世界へと旅立つことだろう。もしガソリンがなくなれば俺達はこの世ではない世界へと旅立つことだろう。しかしそんなことを考えているうちにそれは陸でも同じことなのだということがわかった。まぁガソリンがなくなったくらいじゃぁ陸では死なないけど。ただこれが船ではないというだけで、ただ形を変えているというだけで、それほどほかの乗り物に比べて特別危ないというわけではないのだとういう結論に至った。
『私は少し寝るわ。』今の俺達はヘルメットをしていないので話もよく聞こえたし退屈な気分ではなかったがレイナが寝てしまうと聞いて俺は少し残念な気持になった。
『寂しい?』レイナの顔は見えないがおそらく微笑を浮かべながらそういっているのだろうと思った。
『いや、着いたら起こしてやるから寝とけよ。』
『ふふっ。また、嘘をつくのね。でも少しの間寝させて。』レイナは俺が捨てなかったネクタイを鞄から取り出し二人の体を巻きつけた。なぜオレがそのネクタイを鞄の中に入れたのかをしっていたのかは説明する必要もないか・・・。
『おやすみなさい。』
レイナはそういうと頭をオレの背中に乗せて眠りについた。レイナの暖かい寝息が少しオレを安心させる。
広大な台地、いや海は慣れて来ればとても心地よかったし、それにタイミング的に朝日が見えた。それは今まで見てきたどんな朝日よりも綺麗なものだった。水平線から飛び出したその淡い光はなにか神秘的なものを感じさせて、それは人が必要とするのがあたりまえだと言う事を言っている様だった。
しかしそんなすばらしい雰囲気をおそらくぶち壊すだろうものが前方から見えてくる。それは完全に武装した船だった。
『おいおいおい。ありえねぇだろ。海上で戦えってのか?』
白氷は少しあせっていた、自分一人ならなんとかなったかもしれないが後ろにはレイナがいるからだ。レイナがいる状況で戦うということは覚悟していたしそれでも大丈夫だとおもったからこそ一緒にいるのだが、まさか海上で戦うことになるとはおもっていなかったらしい。
白氷が前に進むにつれて敵だと思われる船との距離はどんどん縮まっていく、バイクのナビゲーションシステムによればクリストウッド島まであと20キロメートル。白氷が下した判断は戦わずにこのまま突っ切って船をまくことだった。
『めんどくせぇなぁ。ってことはもうばれてるってことか?一体誰がこの任務のこと知ってるんだ?・・・・まさかな。』
白氷は頭の中で最悪のシナリオを考えたが、それはないだろうと決め付けてすぐにその考えを消した。
相手との距離はあと200メートル位になっていた。
『警戒心の強い奴だ本当こっちのルートからくるとは、万が一を考えてこちらに我々が居てよかった。標的を発見した。ベガSOULDのメンバー衣川白氷・・・?後ろの女は誰だ?』
双眼鏡でこちらに向かってくる白氷達を見てジャズ・スコフィールドはいった。
『ジャズ隊長。それが調べてみたんですが、全くデータがありません。もしかするとベガのものではないのかもしれません。』
『そうか、まぁいい。とにかくこの場所にこの船が居るだけでギリギリなんだ、あまり派手な攻撃はできんな。俺が一人で潰してくる。サフィシェントバイクを用意してくれ。』
ジャズがそういうと部下の一人が白氷が乗っているバイクと同じようなものを船の倉庫からだしてきた。ジャズはそれにまたがり相手を殺すという漆黒の意思をもって、白氷たちのもとへと向かう。
二台のバイクの距離が100メートルになったとき白氷のバイクに何処からかアクセスが入る。それはもちろんジャズからだった。
『衣川白氷、これからオレはお前を殺す。言い残すことは無いか?』
勝ち誇ったように、あるいはそれが当然であるかのようにジャズは言った。
『勝手にこっちのバイクにアクセスしてんじゃぁねぇよ。』
それにしてもまずいな、あの制服はベガの特殊部隊SHOUTOUTのもんだ、それにあの顔はたしか2番隊隊長のジャズ・スコフィールド。正直勝てる気がしない。
そして二人の距離はどんどん縮まっていく。
おそらくだ、おそらくだがあいつの能力は《悟り》。どれくらい先まで見えるかはわからないけど、試してみる価値はある。
それよりも俺の能力がやつに知られているかどうかが全くの問題だ。
白氷がそう思っているとジャズは腰のホルダーから50口径のハンドガン、デザート・イーグルを取り出し白氷に向ける。絶えず二人の距離は確実に縮まっていく。
『ごくろうだったな。衣川白氷、だがまぁこれでお仕舞だ。』そしてジャズは引き金を引いた。
乾いた音ではなくズシリと重く殺意に満ちた銃弾が白氷に目掛けて放たれた。
第五話 格上の相手と戦うときはハッタリをかまして逃げろ。
白氷はその弾丸が放たれた時ジャズのほうへ向けて右手の手のひらをかざしまるで空気を掴むようなそぶりを見せた。
『うぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!砕けろぉぉぉ!!!!!』
白氷はそう言って空気を掴んだ右手を下に振り下ろした。するとそのあたり一体の空気が下へとたたきつけられる。勿論ジャズが放った弾丸もジャズ自身も。さらには海でさえも白氷によって叩きつけられる。
ジャズは白氷からの予想外の攻撃で体制をくずしバイクの上から空中へと投げ出された。そして目の前を叩きつけてしまったために白氷自身も体制を崩す。しかしまた白氷は右手で空気を掴むそぶりを見せて、残った左手でバイクを操作しなんとか極地を乗り切った。相変わらずレイナは白氷の後ろで眠っている。
ジャズが乗っていたバイクはまるで小学生に踏まれた空き缶のようにぺしゃんこになっている。
『あいつは、何処だ死んだか?』バイクのバックミラーを見ると微かにだが人のようなものが確認できる。しかしそれは確実に生きている人だった。
『おいおいおい。嘘だろ!?なんであれで死なねぇんだよ。』
白氷の前方にあった船は隊長がやられたことにより戦意を喪失していた。
『出直して来いって、自慢の隊長ちゃんに言っとけ、ばぁか。』
白氷は船の横を過ぎる瞬間に大声でそう言った。
目の前にはクリストウッド島が見える・・・・が今の騒ぎでどうしてレイナは起きなかったのかオレは不思議に思った。
後ろではきっとあいつの部下達がさわいでいるんだろう。それにしても一気に能力を使いすぎた、おそらくあと2時間もすれば眠気が襲ってくるだろうし、その眠気にオレはきっと勝てないだろう、とりあえず今は前に進むしかない。
ジャズからの攻撃を受けてからやく30分走り続け、ようやく入国審査所がある港に着いた。港の奥では朝の八時ということもあり人々が大勢いた。彼らはおそらく働き蟻のように毎日せっせと会社から言われたことを言われたとおりにこなしているのだろう。
何時までに出勤し、何時まで働けと。
『入島の理由は何でしょうか?』
オレが遠くを見つめ物思いにふけっているとそこの役員が聞いてきた。
『あぁ。新しいバイクを買ったんでね、新婚旅行さ。』
無理があると思ったがあっけなく役員は中に入れてくれた。
クリストウッド市は綺麗な町だった、ごみひとつ落ちていないし歩きながらタバコを吸っている人もいない。
町の上に森があるらしく空気も澄んでいる。おそらくだがこの町の料理や、お酒や、習慣や文化といったものはきっとオレに十分すぎるほどあうだろう。
オレは中級のホテルを探した、ラブホテルのように安っぽいところではなく、そして高級役人が泊まるホテルのように気取っていない、どこにでもありそうな、少しお金に余裕があるひとなら誰でも泊まれるようなところだ。
意中のホテルを見つけてチェックインすると・・・今オレは簡単に言っているがそれまでにはやはり問題があった。まずレイナがまったく起きなかったことだ。死んでいるわけではないが、たとえるなら死んだように眠っている。いくら声をかけても起きなかったし、それにレイナが結んだネクタイの結び目がどこにあるのかもわからなかった。俺達の事情をしらない人たちにはネクタイで女を体に縛りつけた頭のおかしい男だという風に見えただろう。
ホテルの受付人は常にオレを怪しい目で見ていた。が事情を説明するにも信じてくれる人はいないだろう。名前も知らない女が急に現れて、ついてくるといいだした、なんて本当にばかげてる。
しかし起きないものは仕方が無い、俺は強引にチェックインを済ませた。ただひとつ問題があるなら俺達の存在が多くの人間に見られていることだ。おそらくだがSHOUTOUTは追ってくるだろう。隊長さんも死んでいなかったみたいだし、この場所に俺達がいることに気づくのには時間がそんなに時間はかからないはずだ。
ただ今は眠りたい。部屋に入るとオレはベッドルームへと行きなんとかしてネクタイの結び目をはずしてレイナをベッドに移動させた。その顔を見ていると綺麗で妖艶で美しかった。俺はその美しい女にキスをしようとしたが、眠さを思い出し、美しい女の隣に眠り込んだ。
『くび・・・は・・・び・・・きて・・おきて・・白氷起きて。』
美しい声がする、それは間違いなくレイナだった。
それと同時に敵のことを思い出し俺は飛び起きた。急に起き上がったために、起こしてくれたレイナのとオレの頭がぶつかる。
『・・つぅ・・・。もぉ、バカ!!』レイナはぶつかった部分を押さえてキッチンダイニングのほうへと姿を消した。
間違いなくここはオレがチェックインしたホテルだ。ベッドルームもダイニングもバスルームもトイレの場所も何一つ変わっちゃいない。
オレもダイニングへと向かうとレイナがソファーに座っていた。テーブルの上にはスコッチのカティーサークの瓶とアイスペールそれにロックグラスが置かれていた。
レイナはそれを一口飲んでタバコに火をつけようとしていた。
『おいおい。朝からウィスキーなんて飲むもんじゃぁねぇだろ。』とオレは言った。
『ここのバスローブは着心地がいいわね。』レイナは質問には答えなかった。そしてゆっくりとタバコに火をつけて吸い込み吐き出す。レイナのタバコを持っていないほうの指は部屋の外を指差していた。
『ねぇ教えて?何処が朝なのかしら?』先ほどの頭突きもあったせいか少しレイナは怒っている。
指の先を見てみるとたしかに朝と言うには難しいほどに暗かった。
どれくらいの時間オレは寝てしまったのかと思ったが寝た時間を確認していないのを思い出して計算するのをやめた。
『頭突きのことならあやまるよ、すまねぇな。それより誰か怪しいやつがここにこなかったか?』
『怪しい人ねぇ・・・・それってもしかすると私みたいな人のことかな?』オレの言った謝罪が気に食わなかったらしくまだ機嫌はなおっていない。
『あるいわそうかもしれないな。どうやったら機嫌が直るんだろうか?』
『男なんだったら質問はしないで。みっともないわ。』
レイナはオレのネクタイを引き寄せてオレの顔を無理やりに自分の顔の前に持っていった。
『おいおい、近いぞキスしてやろうか。』
オレは照れを隠すためにそういった。
『ふふっ。できないことはいわないの。ここに来たのはホテルの人だけ。ルームサービスを持ってきたわ。そこにあるシャンパンがそう。』
ぱっとネクタイから手を離してその指先をシャンパンのほうに向けた。
『シャンパンはよくわからん。テーブルの上のカティーサークもルームサービスか?』
『えぇ、そうよ。これは私が頼んだの。それと私が起きたのは昼の二時。今は夜の十時よ。一緒にお風呂でも入る?』
『うるせぇ、ばぁか。一人で入ってくるよ。もしかすると誰かがまたこの部屋にくるかもしれないけど、もう開けちゃだめだからな。』
『どうして?』
『説明するには少し時間がかかる。あがったら説明するよ。それとオレのリュックの中にジンベイがはいってるからだしててくれ。とりあえず体がべたべたするから体を流してからだ。すべてはな。』
やはりホテルのものは自宅の風呂よりも豪華で親切だ。ジャグジーもテレビもついているし何より湯船が広い。
オレはシャワーを浴びて考える。今日の朝早くからどれだけのことが起こったのか。得体の知れない任務、得体の知れない女、そしてベガの特殊部隊SHOUTOUT。
すべては偶然ではない。当たり前だ。すべてはあの書類を見てみるしかない。それと能力が知られてしまった今確実に相手を倒せなくなってしまった。今思えばあれはジャズ・スコフィールドの計算だったんだろう。あえて負けを選んだ、能力を探るために。
一通り体を洗ってからオレは湯船につかる、温かい。子供のときのように数字を数えてみた。一、二、三・・・・・・・。
百まで数えたところで風呂を後にする。
脱衣所である程度体を拭き、レイナのいる場所へと向かう。
『すごく響いてたわ。貴方の声。私は白氷の声が好きだからいいけど、もしそうじゃないひとがここにいたらいらいらしていたでしょうね。ふふっ。あなたの大好きなジンベイならそこにおいてあるわ、でもどうしてジンベエなの?祭りにでも行くつもり?』
『ただ単にジンベエが好きなんだ。着心地とか、涼しさとか。いろいろとね。』
『ねぇ白氷、お腹が減ったんだけど何か食べに行かない?』
『駄目だ。さっきあんたは寝てたがSHOUTOUTからの攻撃を受けたんだ。それも2番隊の隊長からだ。あんたにこのことの重大さがわかるか?』
少し口調を荒げて言ってしまったために先ほど直ったレイナの機嫌がまた少し傾いてしまった。
『まず第一にあんたじゃなくてレイナ。第二に私が寝てたときに起こった事なら私が知っているはず無い。第三にそんなことはどうだっていい。そして最後に今度そんな風に口を聞いたらもう一緒にいてあげない。』
ほっぺたを少しふくらませ少し俯きながらレイナはいった。不覚にもかわいく見えてしまったので言い返す言葉が見つからなかった。
その瞬間レイナが座っているソファの後ろにある窓が急に音を立ててわれた。ガシャンと音がしてその破片の一部がレイナの髪の毛にふりかかる。
『いやっ。やめてっ!!離しなさい!!!!』
驚きと恐怖がオレを支配している中でレイナはただ一人なにか叫んでいる。
『白氷!!!助けてっ!!!!』
なにもない状況で叫ぶレイナに対して何をどうしいていいかわからずオレはその場所でたちすくんでしまった。
すると次の瞬間にレイナのからだは宙に浮き割れたベランダのほうへと移動していった。
『くそっ!!どういうことだ。何してるレイナ!!!どうなってんだ!?!?!?!?!?』
オレは急いでベランダのほうへといったがそこにはもう誰の姿もなかった。
ありえない。だいたいここは何階だとおもってんだ!?!?オレと同じような能力者なのか!?!?それとも複数!?!?
頭の中で整理がつかないうちに部屋の入り口のドアから何か大きなものを打ち付ける音が聞こえてきた。
第六話 別に此処にいたい訳じゃないんだただなんとなくいるんだ理由は無いんだ。
『すまんなぁ。此処に衣川白氷っちゅうやつがチェックインしてるかどうか教えてくれへんかな?』
その場所は白氷が数時間前に手続きをすましたホテルのロビーだった。
『他のお客様のことはお教えできない決まりになっております。』
受付けの青年は当たり前のように言った。
『んーそらそうやなぁ。でもそれって条件によるやろ?例えばこんなただの紙切れとか渡したら教えてくれるやろか?』
その男は明らかに紙幣を青年の前に見せすこし満足気な顔をしながらそういった。
『406号室やから四階四階っと。』おそらく先ほどの青年から情報を聞き出したのであろうその男は上機嫌にエレベーターに乗り四階のボタンを押した。
その男は全身真っ黒の服を着ており、それはおそらく先ほど白氷をおそったSHOUTOUTの戦闘服であるらしかった。
『えらいこのエレベータ遅いなぁ。本間結構急いでんねんからもうちょっと早動けやなぁ。』
その男が愚痴を言っているうちにエレベーターは目的の四階へとたどり着く。
『406号室ってどっちやろか。』そういいながら左右を見渡し右の方向へと歩いていく。
先ほどの言葉とは裏腹にこの男に急いでいるというような雰囲気は無い。
『あったあった。ほんならまぁ失礼しまぁす。』そう言って男は右足を少し上げて前にけりあげた。
その蹴りは常人のものとは思えないほど威力のある蹴りのようだった。まるで大きな木をぶつけたようなそんな衝撃音が辺り一面を支配した。
『なんや、ここの壁かたいなぁ。もういっちょ。オラァ!!』二発目の蹴りでドアは粉砕された。
その部屋の中にはやはり驚きと恐怖の表情を浮かべながらジンベイ姿で立っている白氷がいた。
『なんちゅう顔してんねん白氷ぃ助けに来たったでぇ。』
俺はその顔を見た瞬間にふと我に返った。そこにいた人物は少し前から縁のあるSHOUTOUTの一人ブラックだった。
『助けに来ただって!?その前に説明しろ!!!!あいつに何かあったらオレはお前でも容赦しねぇぞぉ!!!!』
『まぁ落ち着けや。なんでそないに怒ってるかようわからんわ。とりあえずオレはSHOUTOUTの機密情報の中にお前を始末するっちゅうもんがあったから助けに来たっただけや。』
『レイナは!?!?何処へやった!!!』
『だから知らんって言うてるやろ。ちょっとは落ち着けや。』
『知らねぇじゃぁねぇよ!!!お前らSHOUTOUTの仕業だろうが!!!』
白氷があまりにも自分を見失っていたためにブラックは白氷の頬を右手で一発殴った。
『ちょっとは落ち着いたか?とりあえず場所移動するから持ち物だけ持ってきいや。』
『くっ・・・・・。』
白氷は畳んでおいたスーツをリュックの中に入れ部屋の外へ出た。
『まず、書類がある。他人には言うなといわれたがお前で二度目だ。そしてその中を見る権利が俺にはないらしい。これをカトレアにもっていきサインをもらうというのがオレの任務。そしてオレと一緒にレイナという女が任務に同行していたがその途中SHOUTOUTの攻撃を受けて逃げる形でこの島に到着した。その女は軍がよこしたもんじゃなく、なぜかオレの任務を知っていて・・・・とにかく名前と能力以外なぞの女だ。その女が今宙に浮いてどこかへ持っていかれた。』
エレベーターのほうへと向かいながら白氷はブラックに話をし始めた。さきほどまでとは違い落ち着きを取り戻している。白氷達の歩いている床が赤い色なので余計に興奮しそうなものだが白氷はそんなものは目に入っていないらしかった。
『ほんならそのようわからん女が攻撃受けただけで白氷自身にはなんも危害くわえてないいうことやねんな?』
エレベータのスイッチを押し二人はそれが到着するのを待っている。
『そうだ。オレにはなにもしてこなかった。オレじゃなくレイナが狙われてた。』
『せやなぁ。なんか腑に落ちひんけどなぁ。俺らのとこって無駄なこと嫌うしなぁ。まぁ考えれるんはこうやなぁ。まず一つ目はそのレイナとかいう女が全くなぞでSHOUTOUTにもわけわからん存在やってことやなぁ。せやから持っていって正体突き止めたろいうことやろなぁ。ほんでもうひとつはその女のすべてが演技で最初っからSHOUTOUTの人間やってことやなぁ。それやったらこんなとこで待ち伏せしてたジャズさんの行動も説明つくし。まぁ前者がプラスの考えで後者がマイナスの考えやなぁ。あと自分その書類の中身見てみたら?そっからちゃうの?なにもかも。』
エレベータが到着し二人は話しながら乗り込む。
『後者の可能性はオレも考えてた。オレもあの隊長さんが現れたときにすこしおかしいなと思ってたからな。それからこの道で行こうと言い出したのはレイナだから。あと書類も見ようと思ってた。ただ・・・・。』
『ただ・・どないしてん?』
『前者であれ後者であれオレはもうレイナを取り戻すしかなくなってる。』
『どういうことや?』
『惚れてんだよ。出会ったときから。』
イッカイデスドアガヒラキマス。エレベーターは二人の目的地に到着した。
ドアが開くとそこには誰も存在していなかった。場は静まり、二人の呼吸音と足音だけがそこに響く。
『おいブラック、こりゃ一体どうなってんだ?』
白氷は当然の様に質問を投げかける。
『そんなもんオレに聞かれても知るかいな、さっきオレがここきたときはこないに静かやなかったけどなぁ。』
二人の顔は深刻でエレベーターから数歩すすんだところでその歩みを止めていた。
『三番隊隊員、スターライト・ブラック。おかしな名前だ。ふざけてやがる。』
誰もいないと思っていたロビーに一人だけ息をしているものがそこにはいた。その人物はロビーのイスに座り二人と同じ方向を向いて座っている。その背中からは異様な雰囲気が漂っている。
『なんやぁ?誰もおらんと思うてたのにおるんかいな。まぁとりあえず味方か敵かはっきりさせとかななぁ。』
不気味な笑みを浮かべてブラックは言った。
その男はイスから立ち上がりゆっくりと白氷たちのほうへと振り返る。
『あんたは!?!?零番隊隊長、マジェンタ・ヴァレンタイン!!!!』
ブラックの驚きと恐怖とがまざった声がロビー全体に響き渡る。
『めんどくさい任務だ・・まったく。SHOUTOUTから衣川白氷を始末しろだって?んとにめんどくせぇ。んでブラック・・・お前がそいつと仲良くしてるってことは裏切ったってことでいいんだな?』
鋭い眼光がブラックを射抜く。
『やばいでぇ、白氷。これはやばい、二人でもあの男には勝たれへんかもしらん・・・・・。』
『質問に答えてくれ、ブラック・・・。お前は裏切り者か?』
『クソ食らえや。』
ブラックはその言葉を吐き捨てる。
『そうか・・・。お前ほどの実力がありながら隊長になれない理由がわかったよ。ブラック。』
『なられへんやて?そんなもんこっちから願い下げじゃボケ!!!』
『ふんっ。運がいいなお前。』
ふと口調を和らげマジェンタは語りだす。ゆっくりと先ほどの威圧感などかんじられないほどに。
『おかしいと思ってたんだ。この任務が来る前から。ベガの上層部が考えてることがなぁ。』
『どういうことだ?』
ここでようやく白氷がくちを開いた。
『考えてみろ、どうしてお前を殺す必要があるんだ?その理由がオレにはよくわからない。なぁ、納得って言うのは全てに優先されるものだと思わないか?』
『何がいいたい?』白氷はジャズにしたように右手を前に出す。
『このままいけば、次はオレの番かもしれない。そこでオレはお前たちの仲間になることにした。』
『『!?!?!?!?』』
驚きが白氷とブラックを襲う。
『一番隊と二番隊のやつらなら片付けてきたよ。まぁジャズにだけは逃げられたけどなぁ。それでもかなりの傷を負ってる、俺達を追うのには不可能な位のなぁ。』
『レイナは!?!?!?!?』
『髪の長い女の子ならベガの船に乗せられてもう帰っちまったよ。』
『くそっ!!!ブラック追いかけるぞ!!!!!』
『めんどくさいやつだな。そうあわてるな、お前はSOULDからの以来受けてるんだろ?その内容を教えろ。』
『ちょっと待てや、マジェンタさん。俺らはあんたをまだ全然信用してないし、白氷はその女のことになると冷静さを失ってまうみたいやからなぁ。とりあえずオレを納得さしてくれや。もし納得できひんかったら、悪いけどちょっと反抗さしてもらうで。』
『そりゃぁそうだ。全く正しいよお前は・・。オレのほかに誰もいないのが答えにはならないか?』
確かに冷静に考えてみればおかしい・・・・オレがこの島に着いたときもっと兵隊の数は存在しとった。なんや?本間にこの男味方なんか?ブラックの心の中は信じるべきかそうでないかで大きくゆれていた。
『理由は後で説明する。とりあえずまだオレが裏切ってることが上にばれてない今のうちに白氷は任務を遂行しろ。そしてブラックお前はその女を助けにいってやれ。』
『あんたはどないすんねん?』
『オレは白氷を護衛する。』
『護衛なんていらねぇし、それにあんたの指図はうけねぇ。俺はレイナを助けに行くしもうこのさい任務なんてもんはどうだっていい。』
冷たく白氷は言い放つ。
『それは違うなぁ。お前が貰った書類の中身を見てみろ。それからもう一度考えりゃいい。』
『あぁ、中身は確認する必要があると俺も思ってたところだ。』
白氷はリュックの中から書類の入った封筒を取り出す。封筒の口を開けて中に入っている紙を取り出す。
『なんだって!?!?!?狙いは初めから俺だったのか?』書類を確認した白氷はその内容に当惑させられた。
『何てかいてるんや?俺にもみしてくれ。』
白氷は黙ったままその紙をブラックに手渡す。
『なるほどなぁ。意味はなかったちゅうことかいな。』
『わかっただろ?それが現実さ。正直言って上層部は恐れてるのかもしれない。俺達能力者がクーデターを起こすことを・・・。お前らなら知ってると思うが今政府や軍を倒そうとする組織がいるだろう?何人で構成されてるとかはいまだになぞだが・・・・・。』
『DREAMS【ドリーマーズ】のことやなぁ。なるほどそれやったら白氷が狙われるんもわかるわ。』
『ミオだな・・・上層部のやつらはミオが首謀者だって知ってんのか?』
『どういうことだ?なぜお前たちがそんなに詳しく知っている。オレにもわかるように話せ。』
少しイラつくようにマジェンタは口を開く。
『とりあえずまぁヴァレンタイン隊長・・あんたのことはこれからヴァレットって呼ばしてもらうで。ほんでからなぁミオって言うのは白氷の昔からの友達って言うかなんていうか・・・・・。』
『オレの妹だ・・・オレが守ってやらないといけない数少ない一人、それがミオだ。』
『ていうてもまぁ向こうは自分のこと男として見てるみたいやけどなぁ。あの黒髪美人の話したらオレまで巻き添え暗いそうで怖いわぁ。』
冗談交じりでブラックはいった。
『ということは上層部はもうDREAMSの構成を知ってるってことか・・・・・・?いやその中身が白紙だった今そんな話をしている暇は無いとにかくカトレアへ急げ。』
『ちょっと待て、まだオレはあんたのことを信用しちゃいない。それに行ってどうする?』
『まだ上層部の思惑がお前達にばれていないということが大切だ。あそこでお前を襲わせたのはお前の能力を知るため、そしてそれに一番適した人物がたまたまあそこにいたということだ。そのジャズの知らせをSHOUTOUTが受けてそこからは説明しなくてもわかるだろう。』
『オレにはなんの関わりもないっていっても上層部のやつらは信じてくれねぇだろうなぁ。こうなりゃ俺達もDREAMSに入るしかなさそうだな。』
『今のんミオちゃんが聞いたらとんでよろこぶやろなぁ、ほんでからヴァレットはミスってもうたなぁ、どうあがいてももうSHOUTOUTには戻られ変やん。』
今の状況がいつもの日常と変わらないかのようにブラックは笑いながら話す。
『そういうことな・・・別にオレは納得したいだけだ。クーデターを起こされるような政府に仕えるくらいなら死んだほうがましだ。』
『へぇカッコええなぁ。』
『おいブラック、お前にレイナをまかせて大丈夫か?』
ブラックとは対照的に真剣な面持ちで白氷は言った。
『まかしとけや。』
『それとヴァレットちょっと耳貸せ。』
『何だ・・・・?』
マジェンタ・ヴァレンタインは白氷の言葉に素直に反応して自分の耳を白氷の近くに持っていく。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・。』
白氷は小さく声を放った。
『オレにもあの女を助けにいけだ!?ったくそんなに心配か・・・。しょうがねぇなぁ俺も完全に信用しきったわけじゃない。とりあえず次に三人そろうのはベガでってことでいいな?』
ヴァレットは二人に同意を求める。
『あぁそうだな。早く行動しよう。』
『せやなぁ。ほな白氷気つけて。』
三人はそれぞれの目的を持ってクリストウッド島を出発する。
第七話 もしその言葉が正しかったとしたら、間違いだとしたら。
落ち着け,今はまだばれていないはずだ。書類にサインをした男はまだ知らないはずだ。自分自身にそう言い聞かせる。
『どうしたんだね?さっきから少し震えてるようにも見えるが、そんなに私が怖いのか?』
健康的な浅黒い肌を持ったその男はオレが何も知らないと思っているのだろうか、それとももうすでに知っているのだろうか?
『いえ。ここにくるまでずいぶんと時間がかかってしまったので、肉体的にも精神的にも疲れているだけです。』
実際オレはかなり疲れていた。色んなことがありすぎたしこれからさき命を狙われる身になるのかと思うと吐き気が襲ってきた。
『そうかね、それではご苦労だったね。これを返そう。』
そういって老人は書類を渡してくるが俺にはこの老人がどこか体を動かせば攻撃をしかけてくるのではないかと錯覚してしまう。
『ありがとうございます。あと私がしなければならないことはあるでしょうか?』
『いや、ないが・・・どうしてだね?』
『いえ、特に理由は・・・それでは失礼します。』
振り返り入ってきたドアからでようとおもうがここからドアまでの距離がまるで永遠に続いているみたいだ。いつの間にかこんなにもすすんでしまっていたのかと少し当惑してしまう。
一歩また一歩ドアに向かって歩いていく。あのドアを開ければまた正方形の狭い空間にエレベーターが一つある不思議な空間にたどり着くんだ。怪しまれてはいけない俺はあの書類をみていないしベガの思惑なんてものはしらないんだ。そう思わないといけないんだ。
そう思っているうちにドアへとたどり着いた。振り返り軽く礼をする。失礼しましたと俺はいいドアを開け部屋をでようとした。
『白氷君、計画というものは上手くいくわけがないと、そう思わないかい?』
老人が意味深な言葉をはく。まるで子供にいけないことを教えてあげるように。
『それは、この条約についてと言う意味ですか?』
老人に背を向けドアノブに触れたままオレは問いに答える。
『どうだろうか?君の態度からさっするに、その中身を君は見たんだね?』
沈黙が部屋の中を支配する。背筋が凍り、勢いよく振り返る。こういうときは躊躇してはいけない、決断力だ。あの老人を今すぐ倒さなければならない。行けとどこからか聞こえてきたような気がした。
『うぉぉぉぉぉ!!!!!!!!』
オレは軽くジャンプをして空気を蹴った。老人の目前までせまりテーブルを吹き飛ばしたあと首を掴み静止する。座ったままの老人はその俺の行動に驚きもせずただ関心しているようだった。
『はっはっは。いい決断力そして判断力だ白氷君。そして君の空気を操る力・・・見事だよ。君はDREAMSのリーダーの兄貴なんだろ?それは狙われても仕方が無い。政府からすれば脅威となる存在だ、というよりももう脅威になりつつある。一つの市を支配したらしいじゃないか。目的は国を一度解体してすばらしい世界にするとか、そんなくだらない考えだろうがそんなことをしても一緒なんだよ。いずれはお前達の中から裏切り物があらわれお前達も結局汚物になる。そしてそれをハイジョするものが現れ・・・・それの繰り返しさ。』
『そんなことはどうだっていい。因果応報って言葉を知ってるか?おっさん、俺の命を狙うなら自分の命も狙われる心配しとけってこった。』
『何を言ってるんだ?手を出してきたのは君が最初だろう?それに能力を持ってるのは君だけじゃないんだ。』
瞬間腹部に激痛が走る。鈍器で殴られたような痛みが全身を支配し俺はドア付近まで吹き飛ばされた。
『っ痛ぅ・・・・・なるほどね、お前がレイナを持って行きやがったくそやろうか。』
白氷がそういうと老人の横にさきほどまではいなかった男が現れた。
『いかにも。僕の能力は'透過'全ての色や光は俺の体を通り抜けていく。そして俺は触れたものも透過させることができる。あの後すぐにベランダへとでたお前が俺を見つけられなかったのはそれが理由さ。』
『なるほどね・・・。手強いなこのやろー。探しても見つからなねぇわけか。にしてもずいぶん親切だな。』
白氷は起き上がりながら謎の男のほうを獲物を狩る鷹のようにじっと見る。
『僕はフェアじゃないことは嫌いでね。説明しておきたいのさ。』
『それなら、レイナをいきなり持っていった時点で全くフェアじゃねぇだろばかやろー。』
『僕もおかみには逆らえないよ。』と男は笑みを浮かべた。
『名前教えろよ。』
『それに何か意味はあるのかい?』
『馬鹿やろー今日はお前の命日なんだからお前の墓標に名前刻んでやるのが俺の役目だろ?』
あえて勝気にそしてすこしふざけた表情で白氷は言った。
『ふふふ。おもしろい男だね君は。いいよ教えてあげる。僕の名前はレイヴン。これでいいかい?』
『カラスか、気持ちの悪い名前だな。まぁ人の名前に文句いっても仕方ねぇかぁ。』
その瞬間レイヴンは白氷に襲いかかる。
走りこみながら白氷のほうへと軽くジャンプし前蹴りをいれる。
『おいおいおい。そんなもんが俺に通用すると思ってんのかこのやろー。』
その蹴りを白氷はふわりと右へ体を動かし避けた。しかし白氷の腹部には血が流れていた。とび蹴りをかわされたレイヴンだったがかわされることをわかっていたように上手く地面へと着地した。
『通用しないんじゃないのかな?』笑みを浮かべレイヴンは白氷を見下す。
白氷の腹部はなにか刃物で切られたかのような傷が浅くつけられていた。
『痛ぅっ・・・・なるほどね。武器も透明にしたままで攻撃できるってわけかこのくそやろうが。』
『君は本当に殺す必要があるんだろうか?とてもそんなに強いとは思えないけど・・・・?』
勝ち誇った顔をしてレイヴンは言い放つ。
『男だったらよぉ質問してんじゃぁねぇよ、みっともねぇなぁ。』
白氷の頭の中には美しい一人の女が浮かんでいた。
『・・・・。人をいらつかせるのは上手なみたいですね。容赦はしませんよ。』
レイヴンは不快感をあらわにし腹を切られて動きが鈍くなった白氷にまた攻撃をしかける。先ほどと同じではなくボクサーのように腕を構え足を曲げそしてアッパーを繰り出す。その拳が白氷を捉えそうになるがレイヴンの拳は白氷はあたらず顎の直前で止まっている。
『相手に敬意をはらわねぇやつはそうなるんだよ。』
白氷の右手にはトルネードのような風が纏い始めていた。ボウッと白氷の腕に纏った風が威力を増している音がする。
『俺の能力は空気じゃぁねぇんだよ、風だ馬鹿やロー。』
白氷の操った風がレイヴンの拳を押し戻していたのだ。レイヴンは白氷の予想外の能力に少しひるんでしまっていた。
『風ってのはコントロールできりゃぁ人の体を裂くことなんて造作もねぇことだ。今までご苦労さん、心配すんな墓は作っといてやるからよ。』
そしてその右腕をレイヴンのボディに炸裂させる。右腕に纏ったとがった風がレイヴンを確実に捕らえるとその腹部には風穴があいた。レイヴンは口から大量の血を吐き出し腹部から出た血は全て風でレイヴンの背中側に吹き飛ばされていった。そしてなんの言葉も発せられないまま地面に倒れた。
『すまねぇな。死んでくれっていわれてはいそうですかって訳にはいかねぇんだ。』
その一部始終を見ていた老人の額からは汗がにじみ出ている。おそらく白氷に恐怖しているのだ。
『ま・・・待ってくれ・・わ・・わわ私を殺しても何のい・・い・・いみ・・意味も無いぞ!!!!!!!!』
『本当にみっともねぇなぁ。他人の命ねらうなら自分も狙われる覚悟しとけってさっきもいっただろうが。あんたにゃ名前訊く気にもならねぇよ。』
まだ風の纏っているレイヴンの生命を絶ったその右腕を老人に食らわせるために白氷は構える。そしてさきほどそうしたように空気をけるようにして風を操りかなりのスピードで老人の下へと向かい右腕を炸裂させた。
さきほどのレイヴンとは違いその老人は最後の力を振り絞り白氷の右腕を握ったまま言葉を放った。
『か・・か・・・・うっ・・・・・がん・・・・・がん・・・・がんばれ・・・・・よ。』
そしてその場に倒れず立ったままこの世をさっていった。
『そんだけ喋れたら上等だよ。さっきの言葉は取り消してやる。』
掴まれた右腕をゆっくりと引き離し白氷は部屋をさった。白氷の体に返り血はひとつもついていない。
第八話 マタ連れて行ってくれその彼方へ。
クリストウッド島あるホテルのロビーにて。
『それにしても自分はどないしてここまできたん?』
ブラックがヴァレットに尋ねた。
『船だよ、お前は?』と今度は逆にヴァレットがブラックに尋ねる。
『俺にはスポンサーがおってなぁ、そいつの能力で此処まできたんや。』
『それで移動するのと船で移動するのではどっちが早い?』
『そらスポンサーの能力に決まってるやん。'刻印'の能力でなぁそいつの書く印があるんやけどその印がある場所やったら何処でも5秒以内でつくねん。』
『そいつは便利だな。だがそういった能力ってのは大体が本体も移動しなきゃならねぇだろ?』
『そやねん。せやからそいつはここの800号室で待機してるわ。』
『誰なんだそいつは?何関係の人物だ?』
『うーん。それは決まってるやろー。あんた頭良いって訊いとったけど、本間にわからへんの?』
『・・・・まさかとは思うがDREAMSの人間か?』
『せいかぁーい。なんややっぱり感づいとったんやなぁ。』
『だとするとあの黒髪の女も・・・。』
『ピンポーン。あの子もやで。』
『だからか。これで合点がついた。』
『どないしてん?』
『いや、さっき別れるときに白氷が言ってきたんだよ。』
『なんて?』
『ブラックはレイナの姿を見てないのに黒髪美人っていったから気をつけろってよ。』
『なるほどねぇ。まぁばれたくなかったから隠しててんけど。俺はSHOUTOUTでありながらDREAMSやからなぁ。』
『それにしても仲間が殺されるかもしれねぇってのにえらく余裕だな。』
さきほどから疑問に思っていたことをヴァレットは言った。
『まぁ余裕あるんはちゃんと理由あんねん、それはなSHOUTOUTでかつDREAMSなんは俺だけとちゃうねん。あと二人おってなそのうちの一人がレイちゃん助けに行ってるとから大丈夫やと思うねんなぁ。白氷のおったホテルにオレが着いたときはそいつと一緒やってん。ほんでそいつは外で待っとくって言うとったのにさっきはおらへんかったやろ?多分助けにいってるからやろうなぁと思うねん。』
『俺に間違って倒されてなけりゃいいけどな。』
『あいつは大分強いから大丈夫やと思うけどなぁ。』
『お前はさっきから思うばっかりだな。』
ヴァレットがあきれ気味に言ったところでエレベータは目的の八階に到着し二人はモデルのような綺麗な歩き方で800号室へと向かった。
ガチャというドアノブを回した音と共にドアが開く。そこには先ほどブラックが言っていたスポンサーなるものがベッドで横になっていた。
『おい、こいつ起こさなくてもいいのか?』とすかさずヴァレットは言った。
『ええねん、ええねん。そいつ起こされたらめっちゃ起こりよるからめんどくさいねん。』
『俺たちは早く移動して助けにいかないといけないだろう』またヴァレットは強めの言葉でブラックに言った。
『だから大丈夫やって。紫煙[しえん]が助けにいってるから』
『そいつも能力者なのか?』
『ううん。紫煙は違うよでも銃も剣も打撃も全てにおいて優れてるからあんたでも勝てるかわからへんくらい強いのは確かやで。せやからそんなに心配せんでも大丈夫やって。それよりちょっと話せえへん?』
『話?なんの話だ?』
『そらなんで白氷がこんなにも回りくどい殺され方されようとしてることについてや。』
『それは簡単だろう。ベガによる暗殺よりも任務中の事故で死んでもらったほうが隠蔽しやすいだろう。お前が入ってるDREAMSってのと白氷が関係してると睨んだ政府の考えだろ?』
『せやなぁ。多分白氷がベガに殺されたりなんかしたらミオちゃん怒り狂って神様でさえも殺してまうやろうからなぁ。』
『神様なんて乙女見たいな事いってんじゃぁねぇよ。』
『あれ?ヴァレットは祈ったりすることないの?』
『祈ったことはあるが・・・。』
『それって神様に祈ってんねんやろ?』
『星にだよ・・・・。』
『ぷぷっ。なにロマンチックなこと言うてんの?本間笑ってまうわ。』
ブラックはヴァレットの言葉がツボにはまったらしく大きな笑い声をあげた。するとその声に起こされてさきほどベッドに横たわっていた男がむくりと起き上がり言葉を吐き捨てた。
『うるさいですねぇ。ほんと殺しますよ。』
その男は誰が見ても不機嫌なやつだと思われるくらいにむすっとした表情をしていた。
『なんや言葉だけ聞いたらフリーザみたいに聞こえるなぁ。』
やはり冗談交じりにブラックは言った。
『それでうまくいったんですか?白氷は?』
その男はブラックに質問を投げかけたがヴァレットがその問いに対しての答えを言った。
『それは、俺から話そう。まず俺の名前はマジェンタ・ヴァレンタインSHOUTOUTの零番隊隊長だった男だ。今は白氷の側についてる。そしてお前が今知りたがってる白氷のことだが、あいつは今俺の提案でベガの思惑を知らないフリをして任務を続行中だ。つまり・・・今あいつはカトレアにいる。ほかに何か聞きたいことはあるか?』
『まずお前じゃなくて僕の名前はドライヴ。その次に・・・。』
ドライヴはそういった後一呼吸おいて
『ブラックッ!!!!!!!!!SHOUTOUTの人間の提案を聞き入れるなんて白氷になにかあったらどうするんですか!!!!!!!!ミオさんに怒られるのはあなただけじゃないんですよ!!!!!!!』
と大声で大声で言った。
『うるさいなぁもう。そんなにドライヴが思ってるほどあいつはガキちゃうから大丈夫やって。そんなことより早く移動しようや。』
こみ上げる怒りをドライヴは抑えてまた口を開いた。
『いえ、この男を信用する証拠が必要です。』
『この男じゃねぇマジェンタ・ヴァレンタインだ。能力は'重力'半径20メートル以内のものになら普段の10倍の重力をかけることが出来る。それと殺しそびれたジャズの能力は'悟り'三秒後の未来まで先読みできる。これじゃ駄目か?』
ヴァレットは秋の夜空に浮かぶ月の様に美しく丁寧にだれにでもわかるように自分の能力とジャズの能力についての説明をした。
『不完全ですね。あなたを連れて行くのは危険すぎます。』
がドライヴを納得させるには不十分だったようだ。
『政府のあり方が気にいらねぇ。』
『合格です。』
ドライヴはあっけなくそういった。
『え?うそ?なんかはやくね?おかしくね?そんな理由でいいん?』
ブラックはすかさずツッコミをいれたがその言葉は二人には届いていないらしかった。
『ではベガへ戻りましょうか。』
『いやそのまえにブラック、お前の能力もう一度教えといてくれ。万が一二人で協力しなけりゃならない状況になったとき必要だ。』
『そらそうやなぁ。んじゃ言うとこかぁ。俺の能力はレインフォース。つまりは'強化'やねぇ。肉体をある程度まで強化できる。まぁ強化して鉄に蹴り入れたら鉄がへっこむ位かなぁ。』
『見た目はどうなるんだ?』
『見た目?見た目はかわらへんよ、筋肉が大きなるわけでもないし、ただ強化されるってとこかなぁ。』
『それによる副作用みたいなもんはないんだな?』
『ないよぉ。まぁ使いすぎたらさすがに眠くなるけどそれは能力者やったら誰でもやろ?』
『あぁそうだな。ありがとう。それじゃいこうか。』
『なんであなたが仕切ってるんですか。僕の力で移動できるんですよ。』
のけ者にされていたのが気に入らないらしくドライヴはすこしすねた様子で言った。
『それじゃいきましょうか。』
『行きましょうって何処にだ?あんたの刻印ってのはここにあるんじゃないのか?』
ヴァレットは素直にドライヴに聞いた。
『そんなわけないじゃないですか。こんなところに僕の刻印を刻んだら移動してきたときに人がいるかもしれないでしょう。あなたは馬鹿なんですか。港のそばにある森の中に刻んでるんですよ。あ!それと紫煙は何処いったんですか?』
『もうせっかくいけると思ったのに・・・。紫煙はレイナのこと助けるためにSHOUTOUTの船の中に忍び込んでるわ。』
『っとにもう。あなたに任せたらろくなことになりませんね。というよりレイナにそんな単独行動させたのはだれですか?』
『・・・・・?そら勝手にやろ。誰かの命令聞くような女ちゃうであいつ。』
『それはそうですね。』
納得がいったのか頷きながらドライヴは部屋を後にしそれに二人も続いていった。
ドライヴの刻印はクリストウッド島の都心部から少し離れた山の中の洞窟にありさきほどいたホテルからは歩いて約20分位の所にある。人気も無くよほどのことがないかぎり人はその場所へ近づかないようなそんな気味の悪い雰囲気が漂った場所だ。
『こんな君の悪いところに書くなよ。薄気味わるい。』
両腕をさすりながららしくない仕草でヴァレットは愚痴をこぼした。
『うるさいですよ。僕の刻印は芸術なんです。人目のつくとこに刻んだら、注目されちゃうでしょ。』
半ばあきれ気味にドライヴはその愚痴に答えた。
『芸術やとかそんなんええからはよ移動しよ。』
しびれをきらしたブラックが冷たく言った。
『まったく・・・仕方ないですねぇ。』
そういってドライヴは一本の大きな楡の木の横に二人を案内し月のマークが描かれている位置に手のひらを被せた。
『芸術ってただの月じゃねぇか。それも三日月って。』
『僕にとっては芸術なんです・・・それよりも僕の体に触れてください。』
その言葉に頷き二人はドライヴの腕をもった。
『行きますよ。』
『本当に便利だな。こんなに簡単に移動できるなんて。で此処はどこだ?』とヴァレットはいった。
『マンションの一室みたいだが、お前の家か?』
『半分正解ですね。正確に言えば・・・。』
そこまでドライヴが話すと途中でブラックがさえぎり代わりに口を開く。
『ここはDREAMの拠点や・・何個かあるけどとりあえずこの場所はセントラルや。ベガが誇る都市'セントラル'』
『えらくSHOUTOUTの本部に近いところにあるんだな。』
『まぁ10個あんねんけどそのうちのひとつなだけや。ここだけとちゃうからみんなで集まるときはもっと別の場所やで。』
『そういやDREAMSって何人いるんだ?』
SOULD