三題噺「青い空」「寒い冬」「いちご」
「なあ……、こんなことやめようぜ?」
植え込みの陰で冷えた体をさすりながら俺は呆れ気味に言った。
「おいおい、何言ってんだ戦友! 宝はもう目の前に迫っているんだぞ?」
前に座り込んでいた圭介はこちらに振り返ると、信じられないというような目で俺を見た。
「いや、だってなぁ……」
その時、向こうの方からセーラー服の女子学生が駆けてきた。
「っ! 来たぞ!」
足音を聞いて姿を確認した圭介が、興奮しながらも小声で声をかけてくる。俺もつられてそちらを見てしまう。
そして、目の前の排水溝から吹きあがる突風が、少女のスカートを勢いよくめくり上げた――。
「ほらよ」
公園のベンチで待っていた俺に、あれからも桃源郷を十二分に堪能した圭介が缶コーヒーを手渡してきた。
「……よう」
受け取った缶が冷え切った手と心をじんわりと温める。
「どうだった?」
「そうだな、…………白がやっぱり最高だ」
爽やかに言い切る圭介は今日も見事な変態っぷりだった。
「ほんと、相変わらずお前は最高の変態だな」
「ふ、何とでも言え。漢の浪漫に生きる俺にはもはや怖いものなど――」
「小母さんに報告しないと」
「ちょっ! お前、それは反則だろ!」
その顔には漢の浪漫に生きる男の影は微塵もなかった。
「……まったく」
俺はプルタブを開けるとまだ温かいコーヒーを喉に流し込んだ。体に甘さと温かさが染み渡る。
圭介とは腐れ縁だ。昔から良いものも悪いものも含めて俺たちの間には強烈な思い出がいくつもある。
いつか近い未来、俺たちはこんな馬鹿みたいな青春時代を懐かしんで笑うのだろうか。
俺は高くて青い空を見上げてため息をついた。口から出た白い息は空に溶けるように消えていった。
「こんな寒い冬空の下、俺たちは何をやってるんだろうな……」
「……馬鹿みたいに楽しい青春さ」
圭介がドヤ顔で言う。俺は突っ込もうとして、苦笑する。
「いちごのパンツが青春ねぇ……」
飲み終わったコーヒーの缶をゴミかごに投げる。
「甘酸っぱい青春って言うしな」
「うまいこと言えてねえよ」
澄み切った空に小気味よい音が響いた。
三題噺「青い空」「寒い冬」「いちご」