固まった時間、味気のない1日

高校を卒業した真輝。
美術大学に通い将来の夢を追いかける日々。
入学した当初は夢なんて靄がかかってて見えなかった。
でも親友が幼い頃からの夢を叶え、楽しそうに舞台の上を華やかに踊るのを見て背中を押され、漸く追いかけるものが見えてきた。

今日も重い瞼を開け、固まった時間をたんたんと過ごす。
これは真輝のある1日のお話。


朝、夢から覚めると真輝は音にならぬ声で空へ語りかけた。


固まった時間、味気のない1日でも私の時計はお構いなしに針を進めるし、私は私の1日を美味しく感じるの。
でも今日は特別な事がおきる気がするわ。

そして椅子にかかっていたお気に入りのワンピースに着替え、ドアに貼ってあるポスターに挨拶をして部屋を後にした。

ポスターの彼が心配そうに真輝に手を振った気がした。

そう、それは空が梅雨になったことを教えてくれるような雨が悲しげに降る夜の事。私は授業が終わってからクラスに残り進まない課題を仕方なくやっていた。一段落ついていない重たいクロッキー帳の表紙を音がしない様に閉じる。そして机の上に散らかる荷物を無造作に鞄のなかに突っ込み、立ち上がって固まった身体を伸ばす。教室を後にする私は高校からの癖で「お疲れ様でした」と挨拶をし生暖かい廊下へ踏み出す。生暖かい廊下は私の脚に足枷をつけ、億劫な気持ちにさせる。私は重たい脚を引きずりながら最寄り駅行きのバスへ乗り込んだ。
私の学科は大学にしては珍しく「自分の教室」が、「自分の机」がある。私の席は窓から一番近い列の前から二番目。左に座るのは笑顔が可愛い変態マゾな男の子。右に座るのは見るたび髪色が変わる物真似好きなピエロボーイ。斜め前に座る女の子は元気なサッカーガール。そして前には物静かで真面目な女の子が座っている。まだ側に居るのだが、主にクラスでの授業中関わるのはこの4人だ。
そして黒板側の机の側面にずらーっと並ぶ漫画の数々。主に私の左、斜め前、右隣の子達の私物だ。
ジャンルは少年漫画だけしかないが、アニメ化して今流行りのあの漫画から、マイナーな漫画まで様々な漫画が顔を連ねている。本人達曰く、ここは某雑貨屋3組店らしい。貸し出しもしていて、借りたい人は一言断れば何時でも誰でも借りられる。
例え学科、学年、どこのクラスなのか知らない子でも雑貨屋3組店はウェルカムなのだ。
そして並んでいる漫画は「店員」達のお墨付きの漫画ばかりで、「来店者」からの評判もなかなかなものだ。

そして今日も一人見知らぬ子が訪ねてきた。
まるでフランス人形かと思わせる様な姿だった。ふわっとした茶色い毛から覗くのは年下と思わせる様な可愛らしい顔、そして長い睫毛に一重の目。細身で小柄な体格の男の子だった。
その子は徐に一冊の漫画を手にし、少しサッカーガールと話をすると迎えに来た友達であろう子と教室をあとにした。

不思議な感覚に襲われ、何故だかその辺りの記憶だけ靄がかかった様にはっきり思い出せない。

その子とはすぐ関係を持つことになるなんてこのときは思ってもなかった。

漸くバスへ乗り込んだ私は深く椅子にもたれ掛かり息を吐き出した。
今日は特に疲れた、なんたって四六時中両隣の男の子が笑わせてくるのだから。
頭までもが脈を打ち、笑っているようだ。
激しい運転で揺れる車内でぼんやりと外を見つめる。
時間は19時をまわったところ。
すっかり薄暗い外の景色を街灯がぼんやりとオレンジに染めていた。

固まった時間、味気のない1日

固まった時間、味気のない1日

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更新日
登録日
2013-06-06

CC BY-NC
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