キスする理由は俺には理解しがたい 第一章

プロローグ

 夢を見ていた。1人の少女が河辺で遊んでいる夢、その子と遊んでいる男の子の夢を・・。 その子を一言でたとえると、異国のお姫様だ。短いショートヘアーでも、子供とは思わせないしっかりとした顔立ち。髪の色はとてもきれいで艶やかなライトブラウン。身体はとても細く誰にでももてそうな感じだ。
そんな彼女が突然、
「どうしても行っちゃうの?」
彼女と一緒に花を摘んでいた俺が、
「親の都合だからね・・。」
「それなら私が――。」
摘んでいた花を落として彼女が言う。 
それを遮り俺が、
「だめだ。そんな事したら君が殴られる。」
「どうして?」
「俺の家、親父が女性恐怖症でね。俺と親父しか住んでないんだよ。 でね、親父が女性を見るとすぐその女性を殴る癖がついていて、最悪なんだ。」
「じゃあ君は養子なの?」
「・・・うん。」
そう言った瞬間、彼女が一瞬ビクついた。 どうやら俺の顔が恐ろしいのだろう。 
前に友達に「養子野郎~~。」っと言われた時、数秒後にその友達が逃げ出したのを憶えている。 そのあとその友達は数日間休んだ。あとで他の友達にその友達のことを聞いたら、「アイツコワイアイツコワイアイツコワイ」っと言っていたそうだ。 なぜ親父が俺を養子をとったのか、それは次の機会に話すとして・・・。
 それでも彼女は逃げずに、
「じゃあこれを私の代わりだと思って持ってて?」
そう言って渡されたのはきれいに花で作られた指輪だった。
「これは?」
聞くと彼女は悲しそうな顔で、しかしうれしそうな顔で、
「婚約指輪・・・。」
「婚約・・指輪・・?」
「そう、それをあなたがこの先ずっと持ち続けるの。」
「持ち続けていたらどうなるの?」
そう言った時、いままでで見たことが無いくらいとびっきりの笑顔で、
「私たちは結婚するの」
「・・結婚?」
「そう、結婚!」
彼女がこれ以上ないと言うくらいの笑顔で言うので、俺もそれに答えた。
「分かった、俺、君と結婚する・・。だからまた会おう・・みこと!」
「うん!」
そう言って彼女――みことと指きりを交わしたのだった。

第一章 それが運命だと言うのなら

 ピピピ―。っと朝の目覚ましが鳴り、俺は片手を伸ばして、カチッ。っという音とともに俺は目覚ましの音を止めた。
「・・・夢か。」
ずいぶんと懐かしい夢だったな――。と思いつつ、俺はゆったりとした動きで布団から起き上がった。
「10年くらい前だったか。」
そう呟いた俺は学校へ行く支度をするのだった。
 玄関を出る時、
「行ってきます。」
と誰もいない家にそうあいさつした。この家には俺、一之瀬 薫しか住んでいない。 親父は2年くらい前に勝手に出張とか言って出ていった。幸い学費や必要最低限のお金を送ってもらって、何とかなっているが。
 とまぁ、独り言はこのくらいにしておいて、俺は自宅を後にしたのだった。
 
「さて今日はどうしたものか・・・。」
 俺はそこら辺にいる平々凡々の、成績は中の下の、顔も自分が思うところ普通。・・・の男子高校生の俺だか、一つだけやっかいな点が俺にはある。それは―――、
「あんな所に薫様がいらっしゃるわーー!!」
っとその言葉とともに周りの人がこちらを向く。
その瞬間、一斉に俺に向かって、
「キャー、薫様だわーー!!」
「薫だーーっ!!」
「おぉ、薫様じゃー!!」
「ワンワン!」  
などと周りが口々に言った瞬間、俺に襲いかかってきた。っていうより俺にそう口々に言った後すぐに、
「結婚してくれーー!!」
っと男や女、老人から動物までそう言ってきた。でも、動物の言葉は分からないだろ、とかって思う奴はいるだろうけど今までの俺の経験からして、絶対そう言っていると俺は確信している。
・・で、大体の人はもう分かったと思うけど、そう俺の一つだけ特別なこと、それは俺があったこともない人からすぐ結婚求められるということだ。っていうかそういう生まれ持っての体質だ。
しかし、女性だけに結婚を求められるのだったらまだマシだったものの、性別問わず男や老人、動物まで結婚を求められる。はっきり言って最悪の体質だ。 
「はぁ~。どうして俺はこんな体質を持ってるのかなぁ~。」
などと、言ってる場合じゃない!!
俺は襲ってくる――結婚を求めてくる男や女、その他もろもろを右、左とスライディングなどをしたりして軽やかに避けダッシュで走ったり塀を越えたりして何とか逃げ切った。
俺は逃げ切った後、息を切らせながら、
「な、何とか今日も・・逃げ切ったぞ・・・。・・さて、今日の放課後はどう逃げたものか・・・。」
などといつも通り先のことを気にしながら学校に向かった。
が、この後、いつものこの日常大きく変わるとは、この時の俺では全く気にもしていなかった。

学校に行くまで1時間かかった。普通に登校したくらいじゃ20分もかからないのだけれど。
 逃げ切ったあとでも追われ続けてゴミ箱に隠れたり、普段の道より違う道で遠回りしたりして、まぁ、俺に言わせればいつもの日常なんだけど・・。 しかし、今日はいつもより早くこれたな。いつもだったら2時間以上かかるんだけど。
 俺が通うこの恋ヶ原満園学園(こいがはらみちぞのがくえん)、通称【恋園(こいぞの)】は、男女が付き合っている率が全国一位で、この学園に通ってる奴のだいたいのこの学園への志望理由が、女子(男子)と付き合いたいから!だという。まぁ、俺は単に家から10分だから入っただけなんだが・・・。別に女子と付き合うことに興味の無い俺がそのことを知ったとき、つい「そんなこと知ってたら、この学校に入らなかったのに・・・。」と頭を抱えてしまった。
 とまぁ、この学校についての紹介はこれで終わりにして、俺は教室に向かうのだった。

 教室には何とか何ごともなく教室に入れた。教室への道に何人かがこちらへ目をハートにしていたようだったが、そういうのは気にしない方向で。
 教室に入った瞬間、クラスの半分くらいが一斉にこちらを向いた。そして、一斉に俺に向かって来た。・・・朝にこの光景見たような気がするなぁ。と思いながら俺は向かってくる奴にむかって身構えた。
「この少人数だけなら・・。」
学校で俺に襲いかかってくる奴は、学校へ向かう道の人数よりも少ない。いつも通り授業が鳴る寸前まで逃げ切れれば・・・。っと思っていたら男子高校生の1人がそれを止めに入る。
「はーい、そこまで~。全員、散らばれ~。はぁ、全くよくもまぁ毎日毎日懲りもせず頑張るなぁ。」
それに続いて女子2人も止めに入る。
「そうよ皆早く散らばりなさい、じゃないとここにおらっしゃる方から、1人1人クラス全員制裁を受けるわよー。」
「誰が制裁を与えるのよ!!」
「え?お前だろ~。」
「あんたまで・・・。」
っと、こんな状況でコントみたいなことをするのはあの3人しかいない。
「お前ら、俺を助けるのかコントするのかどっちかにしろよ・・・。」
「え、俺としてはこのままコントを――。」
「って、なんで私がコントに加わってることになってんのよ!」
と仲の良いことこのうえない雑談がこの忙しい時に繰り広げられている。
っとまず自己紹介からした方がいいかな?えーと、あのふざけてそーな男子が楽市 正志。何を考えているのか分からないのが小木曽 恵美。そして、真面目なのにどうしてかコントにに巻き込まれているのが矢十神 桜。
 3人とも俺の体質に影響されない、数少ない友達だ。なんでこの3人は俺の体質に影響されないのかというと、どうやら俺の体質に耐性をもってる人もいるそうだ。そう病院の院長からだいだい5年前くらいにそう聞いた。 
 楽市は普段ふざけてはいるが、そのふざけさえなければ楽市のことを何も知らない女子ならキャーキャーいうぐらい顔立ちがよく、背の高い男子だ。 小木曽は、多少はかわいいショーへアーに小柄な体型だ。だが、その小柄な体型とは合わないくらいの胸があって、一部のマニアックな奴に人気がある。 で矢十神はというと、ツインテールに少々背が高めといういたって普通の女子高生だ。でも成績は良い方でクラスの中じゃ一番でトップを取るぐらいだ。だが一つあいつの欠点といえば、胸が無いということだ。っとそう考えた瞬間、矢十神がとてつもない顔でこちらをにらみつけた。こいつ、こういうことにかんしては、なぜかとてつもなく勘が鋭いんだよな。
 ちなみに三人とも俺と同じで、この学校で誰かと付き合いたいからという理由でこの学校に入ったわけじゃない。楽市は単に「遠い高校行くより、近い学校行った方が楽じゃな~い。」ということらしい。 小木曽は「別に志望理由なんて人それぞれじゃない。なに?一之瀬はあたしのことがそんなに知りたいの?」と、これ以上小木曽の志望理由を追求したらやばくなりそうな感じだったので小木曽にはそれ以上は聞かなかった。 矢十神の場合は「なんでそんなことあんたに教えなきゃなんないのよ!」っと怒鳴られてしまった。全く意味不明だった。
 と長々とした自己紹介している間に、紹介した3人がコントしながらも俺に向かっていた生徒を散らばらせている。 その時に口々散らばる生徒が「何だよ。」とか「あと少しだったのに。」とかそんなのが聞こえたけどほぼ毎日聞いてることだから気にしない。
「長々とした自己紹介ありがとう」
 と小木曽が皮肉そうに言った。なぜだかあいつは俺の考えていることが、だいたい分かるらしい。なぜなんだ?
「毎度毎度、大変だ~よな~」
「あぁ。」
「どうしてほぼ毎日あんた達といると、こんな騒がしくなんのよ。」
「それは、あんたがいるからじゃないの?」
「何ですってー!?」
などと雑談をしているとホームルームのチャイムが鳴った。
 全員席についたちょうどくらいに先生が入ってきた。そして唐突に、
「突然で悪いんだけど、転校生紹介するわよ~。」
っと色っぽくゆったのは裏腹に、全員が一斉にしらけた。 おいおい、すくなくともその人は先生なんだぞ。そんな反応していいのか? そんなことを思っていると、そんな生徒の反応を見て先生が、
「うんうん。みんな今日も元気ね~。」
などと先生が1人浮かれている間に、
「・・・先生、真面目にしてください!」
っと見知らぬ女性が教室に入ってきて先生に話かけていた。
「あっ、ご~めんなさいね~、っでみんな~この子が転校生の――。」
「初めまして!。新しくこの学校に転入してきた桜塚 美琴です。よろしく!」
「じゃ~あ~、桜塚さんの~席は~、窓際の後ろの席ね~。」
「は~い。」
おっ、案外かわいくな~い。 と小声で楽市が言っているが正直俺には関係無い。と放ってはおく、が確かに楽市の言っていることにも一理ある。長く艶やかな髪に、背は俺と同じくらいで、胸も結構ある。それに線の良い顔で一言でいうと・・・美人だ・・・。・・?美琴?どこかで聞いたような聞いていないような・・・?
などと思っていると、その桜塚と名乗った女性の顔をチラッと見ると目があってしまった。そしていきなりこちら勢い良く向かって来た。 あぁ、またいつも通り他の奴と一緒で結婚を求めてくるのか?他の奴らが俺に向かってくる奴をにらみつけているのを気にした方がいいのか?とそう思っているといきなりその人が俺に向かって唐突に、
「君の体質、私が治すよ!」
・・・?
「はい・・?」
数秒だったか数分だったか、よく分からないが、俺はその間硬直していた。
そして、俺の硬直が解けた瞬間をクラス全員が狙っていたのか、狙っていなかったのかは分からないが、一斉に、
「はぁぁぁぁぁあぁぁぁーーーー」
っと教室や校長室などに響くくらいのでかい声でクラス全員が言った。
 俺はその叫びと一緒叫べなかった・・。っていうか俺が叫ぶのならまだしも、なぜクラス全員が叫ぶんだ?なんて疑問符が頭の上に浮かんだまま、朝のホームルームが始まったのだった。

 ホームルーム中、あからさまに桜塚のことをクラス全員が見ていた。まぁ当然だろう。転入そうそう、あんなよく分からないことを言ったのだから。
 なんて思いつつ、他の生徒と同じように俺も桜塚を見ていると、いつのまにかホームルームが終わったらしく、クラスの何人かが席を立って何やらたわむれたり、女子はさっそくと桜塚のところへ行って質問をしまくっているようだ。っと俺は俺で桜塚に聞かなきゃいけないことがあったんだった。 俺は席を立って桜塚の席に向かったのだった。
 桜塚の席の前に立つと、桜塚に質問しまくっていた女子がそうそうに散らばっていった。 散らばる時、その女子が迷惑そうな目で俺を見ていて、俺は自分の中で1つの疑問が生まれた。・・・?どうしたんだ?いつもなら近づいた瞬間、
「薫くん、どうしたの?もしかして、私に会いに来てくれたの?」
みたいなことを言うのだか。それにこの女子だけじゃない、他のクラス全員の様子もいつもと違う。いつもならこの時間は俺がクラスのほとんどに襲われていて授業チャイムギリギリまで逃げているはずなんだが?
 しかし俺はそんな疑問よりも他に桜塚に聞きたいことがあったので、そちらを優先してその疑問は保留としておいた。
 さっそく俺は、クラスの女子に質問されまくって疲れている桜塚にその聞きたいことを聞いた。
「さっきお前が言ったことってどういう――。」
「それはまだいえない。けど、今日の放課後、体育館裏に来て。そしたらあなたが聞きたいことできるだけ答えるから。」
っと小声で言い、なぜ小声で言ったのか少々気にはなったのだが俺は黙って桜塚の言ったことに小声で、
「分かった。」
と言って小さくうなずいた。 
 授業中や昼休み中もなぜだか誰も俺に襲いかかってきたりはしなかった。 そんなこんなで、今日は一生に一度あるかないか分からないぐらい静かな一日を過ごして放課後を迎えるのだった。

 放課後、俺は桜塚に言われた通り、帰りのホームルームが終わって少ししてから体育館裏に向かった。体育館裏へ向かう時でも俺は学校にいる生徒から結婚を求められたりはしなかった。
「こんな疲れない日もあるんだな。」
なんて心の底からいるのかいないのか分からない神に感謝を込めていると、体育館裏についたのに俺は全く気がつかなかった。
 俺が体育館裏ついた数分後に桜塚が息を切らせながら俺に、
「ごめ~ん、道に迷っちゃって。」
と言ってきて、俺は桜塚が道に迷ったことなど、ど~でもよかったので気にはせず、
「・・で、俺の体質を治すってどういうことだ?桜塚。」
っと聞いた。そしたら桜塚が、
「私のことは美琴で良いよ。私は薫って呼ぶから。で、美琴のあとは、さんでもちゃんでも様でも何でもつけていいよ。・・でも私的には美琴ちゃんって呼んでくれたほうがうれしいかな・・。」
少し赤くなりながら桜塚はそう言いった。なぜ赤くなる?俺はお前に今日初めて会ったんだろ。ただ、俺をからかっているだけなのか?・・・ってその前になんで俺のことを知ってる!
 そんな言葉が頭に山ほど浮かんだのだが、そんなことばかり気にしていたら肝心な事が聞けない気がしたので俺は、
「美琴だけで十分です。」
とだけ冷静に答えた。その時、何気に美琴が小声で「ちぇ」などと言ったのだが、その理由は放っておくとしよう。というか、分かったらいけない気がしてならなかったからだ。 名前に関してはクラスの誰かから聞いたのだろう。そう信じよう、うん。
「・・で、そんなことはどうでもいいからどういうことなんだ?」
「それは、私が薫にあることをすると、薫の体質が治るんだよ。」
「そのあることって?」
と言った瞬間、美琴の顔がさっき赤くなったのよりも、もっと顔が赤くなった。 何なんだ?俺の体質を治すだけでそんなにも顔を赤くすることって?
「そ、それは・・・あの・・えっと、その・・。」
「何だよ?早く言ってくれよ。」
「だ、だから!・・・・・何をするかぐらい、察っしてほしいな・・・。」
 俺は美琴がじらしにじらしまくっている理由を教えてほしいよ。っとそろそろ心の中で半分切れかけた状態でそう思っていたら、とうとう美琴がその理由をしゃべってくれた。
「・・・・・をするの。」
「何だって?よく聞こえないんだけど?もうちょっと大きな声で言ってくれ。」
「だから!キスをするの!!」
「・・・はい?」
「しかも、私から半径五メートル以上離れたりしたらいけないの!」
 俺はしばらく美琴の言ったことが理解できなかった。 なんだって?キス?離れたらいけない?何を言ってるんだこの子は? なんて思いながらしばらくしてからようやく俺はその意味を理解した。
「な・・なにーーーー!!!!」
「そ、そんなに驚かなくても言いでしょ!た、たしかに自分でも恥ずかしいことを言ったって自覚はあるけど・・・。」
「恥ずかしい恥ずかしくないの問題じゃない!・・それよりも・・ちょっと待て、キス?始めてあったお前と?しかも五メートル離れたらいけないって・・、そんなの付き合えって言ってるもんじゃないか!って待て、キスする意味はどこにある?」
「普通だったら五メートル以内でも十分薫の体質はどうにでもなるんだけど、それじゃずーーーっと半径五メートル以内にいなくちゃいけなくて、キスをすることであなたの中に私の体質の個体が除々にできてきて、それで完全に個体が出来たら薫の体質も完全に治る。それで、私が薫の半径五メートル以内にいなくてもいいようになるの。」
「なんだ・・そりゃ・・・」
「ちなみに、個体ができるまで、一ヶ月はかかるよ。」
もう驚きを通り越して呆然とするよ・・・俺・・・。
「そう、だからあんまり言いたくなかったの!。・・・・・でも薫、あの時の約束忘れちゃったのかな?・・・」
 最後の方はあまり聞こえなかったのだが、今はそんなことを気にするよりもっと先に気にする事がある。どうする?それでも、この体質が治るのなら・・。でもな、う~ん?。
「と、とりあえず、明日まで待ってくれ。明日までに考えとくから。」
「そ、そうだよね。考えとくことは必要だよね」
 何て、美琴とドダバタとした会話を繰り返されたのち、ギクシャクしながら俺は美琴と別れたのだった。 
 
 美琴と別れた俺は、
「ど、どうする?本当に?キスをして体質を除々に治していくか、いつも通り毎日いろんな人に襲われる日々を続けるか、だろ」
なんて会話が終わったあとでも俺は、今さっき起きたことに驚きながら小声でキスをするかどうか、考えながら家に帰るのだった。

 美琴と別れて帰っている時に俺に襲いかかってくる人は誰1人としていなかった。それに、さっきから妙な視線がこちらに向けられている気がする。
「まさか・・。」
 そう呟いた俺はすぐさまこの辺りを見まわした。案の定、俺の後ろの方に隠れきれていないのに隠れきれたように電柱に密着して隠れている美琴の姿があった。
 数分ぐらい歩いても美琴がまだついてくるので俺がいきなり美琴の方に振り返ってみたら、慌てたようにそこら辺の塀にすぐ隠れたけど、「もう何なんだよ。」って感じで俺はそうそうに後ろに隠れている?美琴に言った。 
「おい、美琴!隠れるのならもう少しバレないように隠れろよ。」
 そしたら美琴が焦っているのを隠すような笑顔で(それでも全然、焦っているのがバレバレだったが)隠れていた塀から出てきた。
「・・・そんなにバレバレだった?」
「バレバレだった。」
そう言うと美琴が、ウソでしょって感じの顔で、
「バレてないと思ったんだけどな~・・・。」
と小声で言った。こっちからしたらなぜバレないと思った?なんだが、それは心の中にだけに留めておくことにしよう。
「で、なんでついて来てるんだ?」
「そ、それは、私がいないと、薫が襲われるから・・。」
「じゃあ、なんで隠れてたんだ?」
「はうっ、そこまで細かく聞く?普通。・・・・・だって年頃の男女が一緒になって帰るのって今時、彼氏彼女がすることじゃ――。」
・・・確かに美琴の言うことにも一理あるな。そりゃ確かに今時の高校生の男女が2人で一緒に帰っていたら、赤の他人から見たら彼氏、彼女に見えるかもな。 けど、それはそれとして、
「そう見られたとしても、だ、別に気にすることないんじゃないのか?それは単にそう見えた奴らの勘違いなんだから。」
「・・薫がそう言うんなら、さっそく・・。」
 照れながら言った美琴がさっそくと俺の右隣へ来た。
 ・・・とは言ったものの、それでもやっぱり恥ずかしいな、うん。こんなところを楽市なんかに見られたら、次の日はクラス全体に、俺と美琴が付き合ってる――みたいな噂で広まってることだろうな、絶対に
。 
  しばらく美琴と歩いている時、俺達は一言もしゃべられずにいた。 
 気まずい、気まずすぎるぞ、これは!何しゃべったらいいんだ?そろそろしゃべらないと間がもたいぞ!。なんて考えて、よし、っと俺が決心して言葉をはっした。
「なぁ」
「ねぇ」
が、みごとに美琴とはもった。 
「そっちから言ってくれ。」
「いや、薫からでいいよ。」
 なんてやり取りがしばらく続いた。はぁ、これ絶対、傍から見ると恋人同士なんだろうな・・・。
「もう、いいかげんにして!薫からでいいっていってるでしょ!。」
「そうだな、もうその方がよさそうだな、このやり取りもなんだかめんどくさくなってきたし・・。」
 とは言ったものの、さっきのやり取りのせいで何を言おうと思ったのか、すっかり忘れてしまった。なんて言おうとしたんだっけ?
「どうしたの、早く言ってよ。・・まさか、言おうとしたことを忘れたってオチじゃないよね?」
 バ、バレてる(汗)。と、とりあえず今さっきの話の・・・なんだっけ?個体がどうのこうのって、まぁ、それについてでも聞いてみるか。
「えーと、学校ではなしてる時に、個体ができるとか言ってただろ。それで、個体ができることは誰に聞いたのかなぁって。」
「あぁ、そのことね。そりゃもちろん医者に聞いたに決まってるじゃない!」
 そうなのか~。なんかすごいな最近の医者って、そんなことまで分かるんだ~。・・・・・って、ホントなんでそんなことまで分かるんだ!?どんだけ万能なんだよ、最近の医者って・・・。
「でね、その医者が『あんた、何かしらの人の体質を治す力があるよ。それでね、その人とキスまたは半径五メートル以内にいなさい。でも、キスする方が楽よ。一ヶ月もすれば―――(以下略)最後に、あんたが人の体質を治せるのは一人だけだから。』って言ったの。」
 なんか、すごくうさんくさいな。よくもまぁそんなことをよく信じるよな。
「なんでそんなこと信じるんだ?本当に体質が治るっていう根拠もないのにさ。」
「それは!・・・・・薫が昔の約束を覚えてるんならキスしようかなぁーー、絶好の機会だし、なーんて・・・。」
 また、美琴の言ったことがよく聞き取れなかった。それに顔まで赤くしている。 
 なんで美琴は聞き取れない声で言うことが多いんだ?それとも俺の耳が遠いだけなのか?ホントに・・・。しょうがない、今、言ったことをもう一度言ってもらうか。
「今、なんて言ったんだ?よく聞こえなかったんだけど?」
 そしたら、美琴が大声でいきなり、
「なんでもない!!」
 っと言った。あんまり大声で言うもんだから、周りの人が、なんだなんだというばかりにこちらに振り返ってきた。俺は俺でビックリして数秒の間、黙り込んでしまった。そしてその数秒後、ハッとして周りの視線に気ずきすぐさま美琴の手を取ってその場を後にした。 美琴の手を取って走っていると美琴が、
「ちょ、ちょっと、こんな人がいっぱいいる中で手をつなぐなんて・・・・・、でも、薫が手をつなぎたいのなら、私はそれでも・・・・・。」
 なんて言っていたが、早くこの場を離れかった俺は美琴の言ったことを無視してさっさと家に向かった。

 しばらく走って家に着くまで、誰も俺に結婚を求める人はいなかった。 ・・・ホントに美琴があのうさんくさいヤブ医者?に聞いたことは本当みたいだな。なんせこんな静か(結局は走ってしまったが)に帰れたことなんて一度もなかったしな。
「ハァ・・・ハァ・・、じゃ、じゃあな、美琴。また明日な。」
「?・・・何言ってんの?私も一緒に薫の家に住むんだよ?」
・・・は?
「何言ってんだ?なんで美琴が俺の家に住むんだ?」
「まさか聞いてないの?・・・薫のお父さんから?」
 ・・・なんでそこであのクソ親父がでてくるんだ?あの女性恐怖症の親父が? ・・・ちょうどいい機会だから言わせてもらおうか、なぜ親父が女性恐怖症なのに俺を養子にとったのか。・・・親父に昔そのことを聞いたところ、親父は昔、ギャンブルにハマっていた時期があったらしい。それでその中の一つに、勝つと100億をゲットでき、負けると罰ゲームとしてどっかの子供を養子に引き取らなきゃならない。それに、その子供を最低限、生かし続けないとその負けた人がどこに逃げようと殺されるというゲームらしい。そして親父は見事に負け、親に捨てられ、施設で暮らしていた俺を引き取ったらしい。そして、俺をイヤイヤを引き取ったせいか、養子の話が出ると俺はその親父への憎らしさのあまり、顔が怖くなるらしい。その顔は今でも俺が出してないと思っても養子の話が出るとその顔になるらしい。
 っとここまでで、親父がなぜ俺を養子にとったのか、の話は終わりだ。 ここまでの話をまとめるのなら、つまり、親父はイヤイヤ俺を養子にとったってことだ。
「そんなこと、聞いたこともないけど。」
「・・・じゃあ、はい、これ。」
 っと美琴が出したのは一枚の手紙だった。
「って、手紙がここにあるんだったら聞くも聞かないもないよね。」
 その手紙を渡された俺は、すぐにその手紙を読んだ。そして、その手紙には一言、こう書かれていた。
『今日から、お前のところに新しい同居人がくるから。』
・・・は?
「な、なんじゃそりゃーーー。」
 あぁ、今日は驚く事がいっぱいだなーー。
 なーんて呆然としていたら最後に美琴が、
「・・・っというわけでよろしくね!薫!」
 はぁ、ホントになんで今日はこんなに驚く事が多いんだ?
 ・・・そんなわけで、俺と美琴が一緒に俺の家に住むことになった・・・・・らしい。 
 

キスする理由は俺には理解しがたい 第一章

キスする理由は俺には理解しがたい 第一章

どこにでもいるような平々凡々男子高校生・一之瀬 薫は 一つだけ特別な事があった。 それは男や女、そこらへんの老人、動物からも結婚を求められるという体質をもっていることだ。 ところがある日、1人の女子高生が薫の通う高校に転校してきて、 「あなたの体質、直してあげましょうか?」 「・・・はい?」 っと言ってきた。 こうして、薫の体質を治す忙しい日常が始まったのだった。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted