いつのまにかいろんなことがうまくいかなくてそんななかおもいだすんだよ
誰にだって忘れられない人はいるもので、そういう人が自分の中に残っているってことを知ったのは、20代の後半になってからです。
この話はフィクションで、作り話というわけで、小説ってことで読んでいただけたらなって思います。
ただ想いだけを書いているような小説だけど、もしも読んで頂いて、どこか共感しあえるところがあったなら、すごく良いです。
□□□□□□□□□□2013年6月9日
いろんなことがうまくいかない。こうなることは、分かっていたけれども。会社勤めってやつが、僕に合うはずもなく、性に合わないと始める前から分かっていて、でも始めたわけだった。学校の進学と同じような感じで、僕の場合はそうだった。仮の自分の置き場として。そう考えたのが間違えだった。そうじゃないって人にいってしまったことも。そして、6年が過ぎた。小学生が卒業してしまうくらいの永さだ。もう、いろんなことが、帰ってこない気がする。こうして故郷から離れると。あの時のことが懐かしく寂しくなっていく。匂い…東京の匂いを嗅ぎたい。匂い。ここは、大阪は同じように都会だけど、匂いが違う。全然違うんだ。もう、なにもかも。そう、帰って来ない気がする。
昔は友達だった人達は、今頃どうしているのだろうか。うまくいってんのだろうか?興味ないけど。そう、興味ないんだ。でも分かっている。僕が友達だった人達のことを忘れてしまっていること以上に、僕が忘れ去られていることも。もちろん、彼らのことで、ちくっとして、血みたいなものが胸の内に流れることもある。彼らの欠片は、小さくて見つけにくいガラスの破片のように残っている。でも、もう、数が少なくなっている。それですら。
ただ、いつまでも、不思議と忘れられない人がいる。僕達は友達に近かったけど、僕達は男の子と女の子で、だから、正確には友達じゃなかった。恋人でもない。恋はなかった。友情に近いものがあった。でも、男と女だった。不思議と忘れられない人よ。僕は会いたい。会って話してみたい。自然に、飲もうよって言えるかもしれない。そんなの、めったにないことなんだ。一緒に、あの時からどうなったのか話したい。僕のことについて話すことなんかほとんどないけれど。でも、その人のことは聞きたい。もし、再会して、そして僕が勇気をだして、それから連絡取り合ったりしたら、会うことを繰り返したなら、なにもかも帰ってくる気がするんだ。若返る気がするんだ。こうしている今の僕は年齢不詳だ。自分が本当に何歳で何者なのか、何処からここに来たのかも分からなくなってきている。だが、僕達が会うことを重ねるなら、きっと、僕は青年になれる気がする。ぱっと青い空が広がる気がする。それから僕は青年になるんだ。きっと、とてもきれいな空なんだと思う。昨日見た朝の空みたいに。世界中の人々が見上げる空と同じくして。
その人に会いたい。君に逢いたい。それも、今すぐにでも。今日、今この瞬間に。君は映画をやるっていっていた。夢を持っていたんだ。そしてその為の学校に行って、ちゃんとその道に進んだらしいってことも…僕は忘れない。知っているんだ。覚えているとも。最後に合った時は、君は髪を伸ばしていた。僕のことを高校の時のあだ名で呼んでくれた。その時、3年ぶりに会ったんだ。君は変わらず明るくて、人のことを気付かってくれて、その時の再会を一番大切な拾い物をしたみたいに喜んでくれて。そんな真似、君みたいに心底性格が明るく清んでいて、君みたいに人のことをちゃんと大事に思っていないとできないもんで、僕みたいな根暗な奴にはできっこない。おとなしい奴の大抵は自分のことに精いっぱいになってしまうから。僕はそうなんだ。これは特別そうなのだろうか。
「ばいば~い」って、その人は手を振って僕が行く方向とは違う道にいってしまった。彼女の先にはこれから出発する電車が待っていた。僕は…その時、そっち行ってしまえばよかったんだ。思いっきり頑張って、お近づきになるべきだったんだ。なんでもいいから、とにかく君の気を引く必要があったんだ。「ねえ、こんどさ、皆でさ」「これからどこにいくの?」「こんどおすすめの映画教えてよ」「あ、今でもいいんだ」「ずいぶん久しぶりだよね」「その髪型とても似合うと思うよ」「ここにみんながいたらいいんだけどね」「今、なんて映画をとっているの?」「楽しいかい?」「そうだ、今週の日曜」「どこまでいくの途中まで」「おめでとう!おめでとう!おめでとう!」「僕もまだギター弾いてんだ。」「今日はとても天気良いよね。」「昨日のタイトル戦。」「僕もカメラで撮ってみたい。」「今日飲まないかい?」「また、連絡していい?」「また」
これは、もうだいぶ前のことだ。こっちに来る前の。たぶん、これから先の未来、何年か間は彼女のことを思い出しているだろう。そうすることができるだろう。そうしている間は、僕は青くなれるってことかもしれない。考えなくなったら、その時はもう…別人だ。自分がいったい何処からここにやって来たのかまったく関係なく歩き続けていくことになるんだろう。
いつのまにかいろんなことがうまくいかなくてそんななかおもいだすんだよ