縄奥15章
一話
縄奥15章開始
◆◆◆◆◆第1話
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私は、彼とは結婚していない…
彼の家に来て調度、3ヶ月が経過し、今が夏真っ盛りの季節で、彼も私も夏を楽しみつつも、
寝苦しい夜に悲鳴を上げていた。
彼は、この村から車で数時間離れた、人口150万人の街で暮らしていた私と巡り会い、
私に、プロポーズしてくれた。
私は、都会の商社で働くOLで、彼は月末に一度、会社を訪れる、農漁村の青年団の団長さん。
私の勤める会社で農村や漁村向けに販売している、業務用の道具や器具に、薬品の効果を、
定期的に使用しては、彼の仲間達からの使用の感想や、作物の生育状況を報告しに来ていた。
何処から、どう見ても田舎者と言う感じで、朝から晩まで仕事に追われていると言った彼は、
都会の生活に浸る私の心の何処かに、愛の種を植え付けたようだった。
最初は、気にも留めなかった彼だったけど、会釈だけから普通に会話するまでに、実に1年を要し、
会議室に上司と行く度に、恥ずかしそうに俯く、彼に何か癒しのようなものを私は感じた。
話してみれば、以外にも話題も豊富で、流石は知恵と知識の王様と言った田舎の青年、
とはいう者の、実は彼は、私が住んでいた街よりもずっと大きい都市の大学を卒業後、商社マンとして、
数年間勤務していて、家の事情で商社を退職後、農漁業の跡継ぎとして、田舎に戻ったと言うことだ。
農業も漁業も専門的なことから、昔ながらの伝統技法に至るまで豊富な知識と都会人の感性を、
兼ね備えた、いわばスーパーマンの彼は、私に植えつけた愛の種を、スクスクと育ててしまった。
結果、3ヶ月前に私は彼の実家の離れに、結婚前提の同棲と言う形で来ることとなった。
街ではスーツスカートを身に着けて朝の8時30分からパソコンと男性社員に囲まれた販売促進室で、
地方の青年団と連絡を取り集計していた私も、今では彼の家族に囲まれ、彼の身の回りの世話と、
畑や漁港に出入りする、田舎の姉さんになってしまった。
勿論、結婚前提だけど、嫌になればいつでも、帰ってもいいと言う私本意の条件設定ではあるが、
実際には、一緒に住んで見ると情も沸くし、反面いやな部分も当然見えて来るはずだが、
何故か、今の段階では、彼の嫌な部分は見えてこないばかりか、結婚してもいいかなと思う日々。
ただ、気になるのが一つあるんだけど、もう3ヶ月も寝食共にしてるのに、私には指一本触れない…
それが、気になっている。
毎日、毎日、来るか! 今日か! 明日か! なんて入念に身体の手入れしている私は、
なんなんだろうって、少し悲しい気持ちになることも、シバシバなんだけど、彼には伝わっていない、
そんな日々を繰り返している。
別に、私自身はセックスに執着してはいないんだけど、毎晩のお手入れも大変なのは、
女の子なら誰でも知ってるだろうけど、もういい加減、するならするで早く済まして欲しい!
そんな気分で昨日も半眠のまま朝を迎えた。
◆◆◆◆◆2話
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私は、彼のことを心の中では旦那や主人ではなく、亭主と呼んでいて事あるごとに彼のことを亭主は、
或いは亭主がと具合に物語ることが多い。
で、この亭主をウオッチングしていて気付いたことが何点かある。
亭主はズバリ! パンストフェチであって脚フェチでもある、故に当然のことながら帰宅した亭主は、
必要以上に私を追い駆け、まぁ~ 追い駆けるというよりは、こっそりと忍び寄ると言う表現が正しい。
忍び寄ると言っても、ピッタリ私に寄り添うのではなく、私がスカート、勿論パンストを履いてる時に、
スカートの中が見えるように、私をウォッチングしているのだ。
最初は全く気付かなかったけど、私が音楽をヘッドホンで聴いてる時や本を読んでる時、
まぁ、たまたま体育座りしてる時なんだけど、必ずと言っていいほどに、この亭主は私の中が見える
位置にいて、しかも真正面ではなく大抵は少し離れた斜め前にいて、テレビをを見るフリしては、
私を見ているのだ。
亭主がいない時に、私が居た場所を想像して亭主の場所に行ってみると、殆どテレビは見えず
身体を乗り出してようやく見えることを発見した。
即ち、亭主は殆どテレビを見ずに私だけを見ていると断定した。
とはいうものの、私に興味を示しているからいいや♪ と、思って喜んでいると、ある日
少し暖かい日だったから、パンストを履かないで素足で、いつものように彼のために体育座りして、
壁に凭れてヘッドホンで音楽を聴いていたんだけど、何故か全くと言っていいほど、私の側に来ない。
ちょっと心配になりながらも、逆に亭主から見える位置に移動して体育座りしたにも関わらず、
全く亭主は反応せず、まぁ~ 今にして思えば当然と言えば当然、天下のフェチ様なんだから無反応は、
仕方のないことだろう。
て゜、亭主の好きなパンスト、まぁ~ 服装にもよるけど、やっぱりダントツで黒!
しかも、マチ付きでなく、縫い目の入った普通のが好きなようで、次がショコラブラウン、アーモンドブラウン
ブラウンにアーモンドブラウン、ライトブラウンにアッシュグレーと、私が好んで履くからかも知れないけど、
黒の次はブラウン系がお気に入りのようだ。
じゃぁ、どうやって亭主の好みの順が解るかと言うと、答えは簡単だ。
亭主は自分じゃ気付いてないようだけど、喜ぶと鼻が大きくヒクヒク動くからチラッと見ただけで、
亭主の気持ちが手に取るようにわかる。
更に、亭主は黒系の下着、特にスリップなんかは黒のレース、まぁ~ 男の人はみんなそうかもしれない
でも、黒系のスリップ着けてるときは、妙にソワソワして夜、ベットの横に立っている私は固まってしまうほど
亭主の視線を感じてしまうし、亭主は私を直接見ないで姿見用の鏡に映った私に見入っている。
そんなに、見詰めるならいっそのこと、可愛がってくれりゃーいいものを、亭主はなにもせずに、
ただ、ジーッと鏡に映った私を見ている。
ハッキリ言えば、私を見ているのではなく、私が身につけるランジェリーを見ていると言う方が正しく、
パンストにしても、パンティーにしても亭主は確かに私見ているのだけど、実際には私はマネキンだろうか。
亭主は口先では、長めのスカートが好きだと言うくせに、実際にはミニスカ、ショーパン大好き人間で、
大して暑くも無い日でさえ、亭主の目は私にミニスカを履けと催促している。
パンストフェチで脚フェチが発覚した今、これいじょうは無いだろうと思っていたら…
私も一々チェックしてなかったんだけど、どうも洗濯機の横に置いてある洗濯籠の中が弄られていて、
使用済みの下着の位置や場所が微妙にズレていることに気が付いた私だった。
「え? まさか! 匂い嗅がれてるの?」 と、洗濯籠の前に居る私。
何度か、事前に入れた場所をチェックして放置しておくと、決まって翌日確認すると入れた場所に
変化が起きるのは誰かが触っていると言うこと、アイツしか居ない。
徐々に気温も上がってくる今の季節、パンティーは蒸れ放題になって女の私としては例え相手が、
亭主であろうと絶対に、見られたくないのがパンティーなのに亭主は余程、汚いものが好きらしい。
拭ききれなかった尿とオリモノと汗が陰部でムレがり、リンクしあいながらクロッチに吸い込まれ、
何度も何度も、塗り重なるようにクロッチを汚い色に染め上げる。
こんな汚い物を亭主は鼻を大きくして、ヒクヒクさせながら満面の笑みを浮かべ匂いを嗅いでいる…
いや、もしかしたら考えたくないけど、あの口で舐めてるかも知れない。
私は最近、亭主に頬でさえキスされたくないと心底から思っている……
◆◆◆◆◆3話
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まただ…
また、下着とストッキングの位置がずれてて籠の中で上下が入れ替わっていた。
ここに、本物の女がいるのに私には指一本触れずに、私の身につけた物で欲求を満たす亭主
寂しい気持ちになってしまう。
男の人はどんな気持ちで女の使用済みの下着を手に取るのか解らないけど、
それで亭主の欲求が満たされるなら、私はそれでもいいと最近思うようになった。
恥ずかしい…
汗とオリモノとオシッコの付いたパンティーの匂いを嗅ぐんだろうか…
まさか、舐めたりしてないだろうか… 亭主がひそかにしている行為を想像すると恥ずかしいよりも
嫌悪感が増強される気がする。
以前、勤めていた会社で、男子社員が残していった週刊誌を他の女子社員が騒いで見ていた…
『ねえねえー! みてみてー! ホラー!』 と、書いてある記事に見入る記憶の中の同僚達。
興味がなかったものの、キャーキャー騒ぐ同僚達の声が否応なく私の耳に入る…
『凄ーい! フェチとかマニアの人てー♪ 使用済みの下着の匂い嗅いだり、舐めるんだってー!』
週刊誌に書かれていた内容は、男性が女性の使用済みの下着に執着していることや、
匂いを嗅いだり、舐めたり貪り付いて後で、自分でそれを履くと言うものだった。
真っ先に頭に浮かんだのは、汚いと言う言葉… 同じ課の男性社員に例えて想像した瞬間、
オエェェーっと嘔吐しそうになった、あの頃の自分。
今は、その嘔吐しそうになった行為を秘かにする人と一緒に暮らしている…
ブラや、スリップの匂いも嗅がれていると思うと背筋が凍りつきそうになるほど悪寒が走る。
対抗策としては、オリモノシートを使う有効手段があるものの、敢えてそのためだけに出費するのも、
馬鹿らしいと言う気持ちにもなってきたのは、少しは主婦感覚が身についたと言うことなのだろうか。
幸い、亭主に私の下着の入った箪笥を開けられた形跡は無いけど、何れは開けられて見られる、
そんな気持ちにさえなって、憂鬱と言う言葉が頭に浮かぶのも拒めない。
パンティーのクロッチ部分に縦に付いたシミを落してから洗濯籠に入れれば…
そんな馬鹿なことまでも考えてしまう浅はかな私。
無意味なことをして何も解決しない…
洗濯場の壁に妙な液体のシミ跡が着いてることもある… 何? これ? 最初は解らなかったものの
今はハッキリと解る、亭主の体液。
亭主は間違いなく私の使用済みの下着やパンストで、オナニーしていると…
この人と暮らしたことが間違っていたかも知れないと思うこともシバシバ……
◆◆◆◆◆4話
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今朝、亭主の部屋を掃除していて見付けた捨てたはずの伝線した私のパンティーストッキング…
私はいつも捨てる時は鋏で切り刻んでから捨てていたけど、これはこの家に荷物を入れる最中に、
何かに引っ掛けて伝線させて、切り刻む余裕もなくてそのまま捨てた物だった。
亭主の部屋の窓の横の茶色木目の机の引き出し…
普段は亭主の机には触らない私だったけど、少し開いた状態でチラッと見えた物に目が行った。
何度も手に取って伸ばしたり縮めたりしたのだろうか、パンストはゴワゴワになっていて、
グズ籠の中にはも固くゴワゴワになって丸められたテッシュが何個も捨てられていた。
私の身体には指一本触れない亭主は、こんなもので自分を慰めていたなんて…
可哀相と言うよりは、おぞましいと言う表現が正しいように思えた。
引き出しの奥に見える、丸められた白い買物袋を凝視した私は袋を開けた瞬間固まった…
こないだ、買ってきて何度か使ってちゃんと捨てたはずの、使用済みのオリモノシートだった。
背筋が凍りつきそうなほど寒気がした…
亭主の私へのウオッチングはこんなところにまで波及していたことを知った。
私はショックでフラフラになりながらここを出た…
亭主も男だから、当然のごとく女に対して様々な興味を持つのは当たり前のことだけど、
思春期若しくは青年期の初め頃には卒業していなくてはならない、女への価値観。
悪いとは言わないけど、ベットで二人並んで寝ている時に、私の寝姿を異なった価値観で、
見られていると考えた時に私に悪寒が走る。
消沈した私は、居間のソファーに横になっていた。
亭主は今朝からブドウ畑を回って、そのまま仲間の漁船に乗って漁に出るらしい
時計の針は10時を回っていて、多分亭主は今頃は海の上だろうか。
農業と漁業の街の暮らしは都会と違って、人が言うほど長閑(のどか)では無く、
実際は、朝から晩まで働き詰めだ。
労働基準法なんて、この街の何処にもありわしない…
あるのは、不作や不漁になれば生活が一変する苦い事実だけだ。
私は幸い、苦い事実を経験することも未だないが、日照不足で数年前は大打撃を受け
この街は暗闇になったらしく、その時、私は何も知らずにスーツスカートでデスクワークに励んでいた。
テレビの横の本棚の上に設置された、幅30センチ高さ10センチの漁業無線のスイッチを入れるが
雑音の中で誰かが何かを話しているのが、解る程度で実際には何を言ってるのか私には解らない。
漁業法で、海の上での携帯電話は禁止されているから、昔ながらの無線に頼るしかなく
緊急時しか使えない携帯よりも長距離を安定して聞き話せる無線が有効とは言え、何度聞いても
私にはただの雑音にしか聞こえない。
毎日、数分程度聞いて慣れようとしているものの、一向に上達しない私の聴覚は
数分でパンクしてしまう。
そろそろ電源を落そうかと思ってソファーから手を伸ばした瞬間だった…
こちら○○! ピーガガガッ! ジービーギャッギャッビー! こっちの… 方が… ビーガガガッ。
私は慌てた! ○○と言う名前に… ○○は亭主の名前…
無線機の真ん前に移動して、チャンネルを微調整モードにすると、赤ランプ点灯した!
何のランプだろうと必死に思い出そうとしたが、思い出せずいるとノートを思い出した。
亭主から聞いてメモした無線機の使い方のノート…
本棚の中から無造作に取り出した本の中から慌てて、ノートを取り出すとページを急いで捲った。
赤ランプ=電波が弱いから、外のアンテナを最大に伸ばすと、書かれていた。
アンテナ? 私はその時、亭主が話してくれたことを思い出した。
私は、外のアンテナを伸ばさずに、ずっと雑音だけを毎日聞いていたようだった…
急いで、居間の窓を開けて外壁に取り付けられたアンテナを下からスルスルっと伸ばすと、
無線機の音からは突然、スッと雑音が消えクリーンな音声を私の聴覚に伝えた。
無線機を見ると、正面のアンテナゲージが携帯電話のように最大になって、赤ランプは消え
緑色に点灯した。
携帯電話よりも澄んだ音に変わった無線機の音は電話以上の綺麗な音声で、こちら○○!
応答願います! こちら○○! 応答願います!
亭主の声が無線機から聞こえた瞬間、何故か私は手を叩いて大喜びしていた。
無線に聞き入りながらノートをパラパラと捲ると、こちら○○! 応答願います!と何度も聞こえた。
どうやら亭主は誰かに呼びかけていることが解り、そのまま聞き入っていると…
「おーい♪ ○○よおー♪ 今日も聞いてないんじゃねぇかー♪」 と、亭主に誰かが話し掛けた。
すると…
「うっせーなぁー! 向うに行ってろ!」 と、怪訝な話し方の亭主。
こちら○○! 応答願います! こちら○○! 応答願います!
亭主はしきりに誰かに応答を求めていたが、一向に誰からも応答もなく、亭主は只管繰り返していた。
すると…
「もう、諦めろや~ 今日は帰ろうや~」 と、誰かが応答を呼びかける亭主に、横から話した。
何度も、何度も呼びかける亭主に何の応答もなく、イライラした私は遂に…
「こちら! ○○の別家の本部! 応答願います! こちら○○の別家の本部応答願います!!」
ヤキモキして咄嗟に無線マイクを握り締め震える手を必死に堪えて放った私の、一言に…
「シーーーーン…」
こちら!○○の別家の本部! 応答願います! と数回連発すると一斉に…
「キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! おめでとう! めでとう!」
亭主以外の誰かから一斉に、おめでとうと言う応答が入って、驚いた私が無線機のカウンターを
目を凝らして見詰めると、そこには350と言う数字が表記されていた。
「こちら○○! これから帰るから風呂の支度頼む!!」 と、亭主から私への呼びかけ。
亭主からの呼びかけに驚いた私は…
「こちら! ○○の別家の本部!! 了解した!!」 と、全身を震わせて亭主に応答した。
カウンターの数字は500を越え、次々に無線気へと、おめでとうの交信が入り混信する状態が
暫く、続いたが、帰宅した亭主から聞いて驚いたことがあった。
私がここへ来てからずっと、船の上にいる間の1時間、亭主は私に船の無線機を貸切状態にして
この街や遠くの港の青年団にも協力してもらい、自分の呼びかけに誰も応じないようにと、
時間を決めて頼んでいたらしかった。
この街では、結婚か婚約した場合に漁師仲間の決め事で、船から愛妻や愛する人に無線を試みる
そんな慣わしがあって、家を守る女が自発的に無線機を操作しているかを確認すると言う。
この日、私は正式に浜の女になった。
◆◆◆◆◆5話
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浜の女は忙しい。
朝の4時に起きて家に灯を灯して無線機を入れて耳を澄ます…
無線機から激しい仲間内のやりとりが頻繁にと飛び出して来るのを聞きながら、亭主の船が
何処にいるのかを把握して、風呂の用意と朝ごはん(晩御飯)の仕度を入るものの、
大漁の時には、寒さ避けのためにモモヒキを履いてスボンを上から履いて更に、合羽を身につける。
タイツではなく股引を履くのは、万一海に転落した時にタイツは肌にくっ付いて脱げないけど、
モモヒキならタイツよりは簡単に脱げるからだが、浜の女なら誰でも知っていることだ。
暖かくて脱ぎ易い物を事前に選んで、港を目指して徒歩か自転車で行く…
大漁の時は港は活気を帯びて、大型トラックが黒煙を上げて爆走するし、漁師達の車が激しく横行して
とても、女の運転では立ち向かえないのと、駐車場が満杯且つ車の置き場が少ないからだ。
浜の家族は朝ごはんが豪勢だ。
まだ眠っている家族には朝ごはんでも、海から帰る旦那さんたちには晩御飯だから、朝から焼肉は
珍しくないが、家族たちは黙々と朝から焼肉を食べて7時30分には家を出る。
幸いなことに、私は亭主と二人暮らしだからまだまだ余裕だ。
イカ漁は夕方の5時前後に出漁して、一晩に何度も寄港と出港を繰り返す槍イカと、出港したら
朝まで戻らない真イカ漁がある。
そして、漁が終るまでに晩御飯(朝ごはん)のオカズである魚を釣り上げて帰宅する漁師も多く、
朝から刺身だの煮付けだのになることもシバシバだ。
まぁ~ 焼肉よりは家族の居る家はマシかも知れない。
浜の家族は朝から刺身を食べて学校や会社に出かける家ばかりだ。
浜の女たちは、自分の段なの乗る軽トラックの音を聞き分ける能力があって、
例えば、道路沿いの誰かの家に朝方魚のお裾分けを持参して玄関先で立ち話していても
車の音で、ドコドコの誰々さんの旦那帰って来たねぇ~ なんて当ててしまうのだ。
恐るべし、浜の女と言うところだろうか
◆◆◆◆◆6話
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亭主が戻って来ると、外から玄関に入ろうとする風に乗って亭主の身体から魚の生臭い匂いが、
一瞬の内に広がり鼻を突く。
吐き気を催す生臭さは一瞬にして私の爽やかな朝を台無しにしてしまう。
亭主は何も気付いてはいないと言うより、知っていて何にも言わないというほうが近いかも知れない。
頭にはネジリハチマキ、上にには夏だと言うのに防寒ジャンパー、そして下には防寒ズボンを履き
上から合羽を履いていたのか、蒸れた所為で所々がビショビショに濡れている。
ゴム長靴も洗っては来た物の、あちこちに魚の鱗がキラキラ光って見える。
昔の漁師街の殆どの家は、外に風呂があっと言うけど、合理的だと私はおもう。
漁から帰ってから海の匂いを消し去りたいと言う気持ちと、生臭い臭気を家に持ち帰りたくない
と言う、気質の表れだろうか、だから家から直ぐのところに風呂場と言うよりも、風呂の家を建てる。
海から帰って来て、真っ先に風呂の家に入り、身体から塩と魚の匂いを取り払って綺麗な身体で、
家族の待っている家に只今の声をかける。
亭主は玄関では作業着を脱がず、只今と言う声を私に掛けると、直ぐに戸を閉めて裏へと周り、
裏口の前で作業着を脱いで、外用の洗濯機の横の棚に脱いだ物を入れてから、ドアをあけ、
風呂場へ向かうと言う毎日を繰り返している。
亭主が風呂に入っている間に、私が裏にある外用の洗濯機で亭主の作業着とゴム長靴を洗い、
冷えた身体を温めるべく、夏の早朝に日本酒の熱燗を用意する。
今朝は畑に行かなくても良い日だから、いつもは一合の熱燗を二号に増やして亭主の出るのを待つ。
亭主のお楽しみの一つは、お風呂から出て熱燗をクイッとやりながら、私と手を繋ぐこと。
二人並んでテーブルの前に座ると、左手で私の右手を握りしめながら熱燗をやる亭主は、
ニコニコして、何を話すわけでもなくただ、ニコニコして私を見ては一口、また見ては一口と熱燗を飲む。
家の壁を通じて遠くの海から聞こえて来る、漁船のエンジン音…
「ドンドンドンドン…」 低い漁船の音に耳を傾けては、おっ! 帰って来たな、とっ、笑む亭主。
海の男は船のエンジン音で仲間の誰の船なのか聞き分けることが出きるらしい……
◆◆◆◆◆7話
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亭主には休みが無い。
海が荒れて船が出せない時は、畑に出向いて突風から農作物を守るから、365日休み無く働くが、
亭主と暮らしてから、2週間に一度だけ私と一緒に過ごす時間を亭主が作ってくれた。
でも、本当は亭主にしたらそれが大変な負担になっている事を私はしっていた。
一日仕事を空けるということは3日分くらいになって跳ね返ってくるからだ。
農作業を一日でも開けると、その間の畑の状況が解らず、翌日行ってみたら熊やタヌキや狐に荒され
手のつけようが無いなんてことがあるからだ。
農業一本だけの農家なら畑に監視カメラを置いてパソコンで監視して、動物が入ったら警報機を鳴らし
動物を追い払うことも出きるけど、兼業農家にはそんな金銭的な余力は無い。
だから、一日休めば3倍働かないと追いつかなくなるばかりか、受けたダメージは元には戻らず
翌年の生活環境がガラリと変ってしまう。
来年のために今を働くといった田舎のスタイル…
都会では考えられない重たく圧し掛かる負担は亭主の先祖の時代からの普通のスタイルなんだ。
この街の女性達は、普段はスカートは履かずスボンで過ごすことが多いのに比べ、
都会から来た私は、スカートで過ごすことが多いとは言え、ここで暮らしているうちにズボンの
重要性を頭ではなく環境で覚えているように思える。
いつ、戻るか解らない亭主の乗った船を出迎えるのにスカートから、スボンに一々履は替えるのは
最初の頃は苦にならなかったものの、今では面倒になって以前なら滅多に履かなかったジーンズを
履いてることもシバシバだ。
洗濯物もズボンとスカートの二種類あって、やや面倒にもなるし事前に亭主から無線が入るとは
限らないから、来たら直ぐに軽トラックに乗って行ける準備を整えておく。
とは言っても、根っからのスカート派の私にははスボンでの生活はとても辛いのである。
浜の街でスカートで過ごしている人と言えば、漁師とも農家とも完全に無縁の人たちばかりで、
小学校や中学校の先生か、雑貨屋のオバサンくらいで、殆どの家は兼業で漁業か農業の何れかを、
仕事として持っているからスカートを履ける家き少ない。
まして、亭主の大好きなパンストまで履いてると言うことになれば、もう学校の先生くらいしか存在せず、
港に行っても100%スボンか雨合羽の女性しか見当たらない。
漁師の女は、学校の催し物、例えば運動会や授業参観とかの時以外はスカートもスーツもパンストも
履くことは全くないから、催し物があった晩は、何故か民家の殆どが早寝になっている。
久々に見た我、妻たちの女らしい衣装に男達は喉を鳴らして久々にハッスルするらしい。
その点、亭主は見慣れているのか街の人たちとは若干違うようだ。
とは言っても、暮らし始めて5ヶ月目を迎えようと言うのに、亭主は私には指一本触れないことに、
少し不安を覚えて来た私でもある。
亭主は相変わらず、私のパンツで性欲を処理しているようで、私もあまりに汚れたものは、サッサと
洗濯に回し、見られても恥ずかしくは無いことは無いが、最低線亭主の欲求が満たされるレベルで
何とか凌いでいる状況だけど、漁師街は一年に一度の妊娠率が極めて多く、その周期は学校の
催し物の時期と重なっていると言う事実があるようだ。
私は今日も亭主の大好きな色のパンストを履いて、亭主の帰宅に備えている……
◆◆◆◆◆8話
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「ねぇー、今日農協の寄り合い行ってくるんでしょ?」
私は朝方出かけようと玄関で腰を降ろし、ゴム長靴を履いている亭主に買物を頼んだ。
「えっ?! まぁ、いいけど…」 と、自身無げな返答をする亭主。
亭主の行こうとしている農協会館の真隣にあるスーパーが、この辺では一番安く手に入るものの、
男の人には少し恥ずかしいかも知れないと思いつつも、序(ついで)と言うことで頼んだ。
黒のLのゾッキタイプが5足組に、ライトブラウンのLが同じく5足組と、ショコラブラウンのLの5足組の
マチなしと、メモに書いて店員に渡せばいいだけにして亭主に頼んだパンスト。
初めて亭主に頼む買物にしては、ちょっと恥ずかしい気もしたものの亭主の大好きな物だしと、
あまり気にしないで頼んだけど、ちょっと心配な私だった。
亭主が出掛けて30分後、朝食の片付けと洗濯と家の掃除と終わったのは11時ごろ、
外に出て玄関先の草刈をセミの鳴き声を聞きながら背中に感じる夏の日差し。
草刈に使うカマから飛ぶ草の汁で被れるからと、亭主が用意してくれたモンペと言うズボンが、
私の両脚をしっかりとガードしてくれた。
そこそこ、駆り終えるて背筋を伸ばすと、港の方から漁船の行き交う音や、裏山の向うの
あちこちから聞こえる畑のトラクターの音が同時に聞こえて来る。
私にはまだ、何処の漁船なのかなんて見当も付かないけど、亭主なら直ぐに解るから凄い!
なんて、考えながら家の周囲を見渡す私。
家を背にして遠くを見れば、左側に赤と白の模様の付いた、灯台が太陽の光を浴びてピカピカ光り
眩しいほどに天辺が銀色に輝いている。
最近の私でも、ようやくトラクターとトラックの音の違いが解るようになってきたのと、
まだホンの少しなんだけど、家の中で聞く軽トラックで行き交う人たちが何となく解るようになつた。
減速の場所や加速の仕方に、必ず緩いカーブだがクラクションを鳴らす人にと様々だけど
そう言う細かいところでも見分けが何となくだが、付けられるようになった。
時間は12時を少し回った辺り、おなかが空いた訳ではないけど軽くトーストとミルクで済まして、
家の裏に回ってさっきと同じく草刈に励む。
都会だと除草剤を直ぐに使う人がいるけど、除草剤を一旦巻くとその時点で土地は死んでしまうから
田舎では殆ど使わない。
収入の不安定な田舎では必要に応じて雑草地を畑にして耕すこともあるから除草剤は使わないし
年中、必要もないのに畑を作ることもしない。
必要もないのに無闇に耕せば、土地はドンドン痩せていって、イザと言う時に何も出来なくなるからと
ここに来た頃に亭主から教わった。
だから、今は必要がないからセッセと草刈をして土地が痩せないように頑張るしかないのだ。
勿論、刈り取った草はその辺に捨てることもなく、スコップで穴を掘ってちゃんと、土地に返すのだ。
塩分が入ってはいけない土地だから、草を刈るときはタオルで顔や頭を覆っ尽くして、
土地に汗が落ちるのを未然に防ぐのだ。
本業農家ではないから土地は限られるから、人間の汗の一滴まで気を配る兼業農家だ。
一段とセミの声が激しさを増して来た午後2時、気温はグングン上がって、倒れそうなほど熱く
草刈も終って一段落とばかりに、頭と顔を覆うタオルを一気に取った。
「気持ちいい~♪」 素直に出て来る私の本心。
そろそろ亭主の戻る時間だからと、家に入ってモンペを脱いでこれまた、涼しく最高の気分♪
亭主に汗臭い自分を知られたくなくて慌てて駆け込むシャワールーム。
さっと汗を流して、少し冷たい水で身体を冷やすと…
「ア゛ァァ~ 気持ちイ゛イィ~♪」 素直な一言。
タンクトップにショーパン姿で出てくれば、海側の方から微かに磯の潮風が部屋の中を通り、
裏山の方へと流れて行った。
潮風に身体を撫でられながらソファーにグッタリと横になる。
一日の中で一番くつろげる、私の時間。
あけた窓の向うから一台の軽トラックの音がした…
息を殺して耳を済ませると、カーブのところでシフトダウンしてエンジン音を高鳴らせた。
間違いなく亭主の運転の仕方だ! ゆっくりと音に耳を澄ませながら亭主かどうか再確認する私。
家の前で止まっても予断は許されない! 郵便屋さんも同じような運転をするからだ。
ドアの開け方や降りた靴の音を確認する…
亭主だ! 靴はゴム長靴だし、車を大事にする亭主は大きな音を出して決して閉めない。
「お帰り~♪」 と、玄関の前に急ぎ足で出迎える私。
「おっ! 今帰ったぞ!」 と、いつもは只今~♪ なのに、勇ましく男らしく語る亭主。
「もしかして…」 と、私の心。
「ねぇ… 買ってきてくれた?」 と、こっちに向かう亭主に聞く私。
「何んだ?」 と、鼻息荒い亭主。
「何だって、ストッキングよー」 と、すれ違いで家に入ろうとする亭主に話す私。
「あぁー! 忘れてた! すまん!」 と、後ろ向きで家に上がりこむ瞬間の亭主。
「やっぱりか… 恥ずかしくて買えなかったらしい…」 と、心の中で思う私。
「普段からストッキングを意識してるから勝手に恥ずかしくなってんだよ!」 と、心の私。
「あぁ、そう! いいわ仕方ないし! 明日から履くものないから!」 と、空かさず亭主に言う私。
すると、亭主は私の言葉に部屋の中で一瞬固まった…
「あっ! いやっ! 忘れたのは俺の責任だ! これから行って買って来るよ! すまん!」
と、言葉の引き攣らせて私に目を合わせないように玄関へ降りて来た亭主。
亭主はギコチない喋りと歩き方で、軽トラックへ戻ると、私の方を見ることなくスーパーへ向かった。
よほど、パンスト脚が見れなくなることがショックなようだった。
亭主は哀れなパンストフェチ……
縄奥15章