ぺんぎんはほしをみる

ぺんぎんはほしをみる

北極の氷山に住む動物たちは、唯一の足場が徐々に無くなってゆく異変に戸惑いながらも生きている。
そんな動物たちが新しい住処を求めて冒険をする。
そこにはかつて地球上にいたであろう珍しい動物たちも登場。

絵本を元に書いてみたので、擬音語はそのまま使いました。

ぽたぽたぽた

ぽたぽたぽた

大きな氷山の岬の先に、ぽつりと一羽のペンギンが夜空を見上げている。
夜になるといつも星空を見上げている。

ぽたぽたぽた 氷の溶ける時の音

硬い雪を掻き分けた巣穴には、シロクマの親子がじっと身を潜め、母グマは二匹のコグマを心配そうに見つめている。
時折穴から顔を出して警戒にも当たっている。

呑気に極地の大海原で浮かんでいるシャチは、悩み事など無いようだ。
時の流れを知った風なこの海の自由さを理解して、波に身を任せている。

海底をうろついて、どことなく落ち着きの無いクビナガリュウ。
無くした何かを探している様子。


ぽたぽたぽた

氷が溶けちゃう

ぽたぽたぽた

どうしよう


大きな音と共にシロクマ親子は目が覚めた。
「島の氷が無くなっちゃった」コグマが言う。
シロクマ親子の巣穴から少し離れた氷山が崩れて海の中へ沈んで消えた。

「ここの氷が溶けたらおうちがなくなるの?」コグマは母グマに聞く。
「おうちがないとどうなるの?」もう一匹のコグマも母グマに聞いた。

「ずーとぶるぶる 海の中はさみしいよ」
生きるには氷山が大切なのよ。母グマは伝えた。

母グマはいずれここの氷山も沈むのだろうと感じていた。



ここは極寒の北極海。
いろいろな動物たちが暮らしている。
住みかにしている大きな氷山を残して周りの氷山は日に日に小さくなり氷塊を落として海に消えてゆく。
そんな異変に動物たちは肌で感じていながら厳しい環境を産まれ持った身体のみで生きている。

いつまでも氷山である事に疑わない常識には終わりが近いている。

ばさばさばさ

遠くの空から百羽を超える渡り鳥たちがやってきた。
それと同時に例年と少し違う殺風景な北極の海を不思議に思いペンギンに尋ねた。

「前に来た時より海が広いけど たくさんあった氷山はどうしたの?」少なくなった氷山の異変をペンギンに投げつけた。
「だんだん小さくなって消えたよ」物悲し気にペンギンは言った。

いずれこの氷山も溶けて沈む事を想定した一羽の渡り鳥は言った。
「何で氷が溶けるかはわからないけど 皆の住むとこならあるよ」
「あるある あっちの島」 「あっちの島」
ペンギンは目を丸くして伺った。「どこにあるの?」
北極に生まれ育った彼らには、ここ以外の住処など思い付く宛はなく、唯一の希望となる渡り鳥の話に驚いた。

水面から長い首を出したクビナガリュウも、呑気なシャチも耳を傾けた。

「南極には大陸があるんだ」 「大陸 大陸」
渡り鳥は説明した。
「ここは地面が氷だけど、反対側には溶けない地面の大陸があるんだ」
動物たちは渡り鳥の話を真剣な眼差しで聞いた。「こことよく似ているんだ」南極を知る渡り鳥たちは説明を続けた。

いつの間にか巣穴からシロクマの親子も話声を頼りに聞きつけた。

「この世界は大きな丸なんだ」
世界各地を飛び回る渡り鳥の行動力と北極に生きる動物たちの行動には大きな経験値の差があった。
「君たちは飛べないだろう?」ペンギンたちを見て皮肉な渡り鳥が上から物を言った。
「泳いで行くには遠いよ」
教えはするものの飛べない限り南極への到達は無理だろうと決めつけた発言もあった。

渡り鳥の親切な情報と侮辱混じりの話を聞いて「こことは反対 裏の世界」ペンギンはそんな風に解釈した。

溶けてゆく氷とは裏腹に新たな思惑のような何かが湧いた。

帰れなくなる穴

※地殻変動を起こす北極の海底は、水面上に大きな波を表し氷山を呑み込んでいた。

ばさばさばさ

大きな氷山さえまもなく沈んでしまいそうな気配をよそに、おしゃべりな渡り鳥たちは北極を見捨てるようにいっせいに飛び立った。
ペンギンは渡り鳥が見えなくなるまで眺めていた。
同じ鳥類でありながら、自由に空を飛べないという妙な気分より北極の危機に直面している事の方のが必然な課題と本能的に判断していた。

「南極へ行こう」
渡り鳥たちの話を一緒に聞いていた北極の動物たちにペンギンは訴えた。
「さてどうやって?」シャチの現実的な反応。
「飛べない限り行けないんでしょ?」渡り鳥の話を思い出したコグマが言った。
「泳いで行こう」もう一匹のコグマが提案する。
「長い旅になりそうね」母グマは困惑気味に答えた。
「もうひとつの方法を知ってるよ」クビナガリュウが話を割った。
飛ぶ、泳ぐの他に方法があるんだと、言ってはみたものの肝心の場所を知らなかった。

「どうやって?」クビナガリュウの発言に北極の動物たちは集中した。
「この海のどこかに大きな穴があるんだ」ずっと探しているんだけど。

「大きな穴なら知ってるわ」母グマは言った。
「帰れなくなる穴さ」ペンギンも言った。


氷山の中枢には、誰が掘ったのか分厚いはずの氷に大きな穴が開いている。海水の栓を抜けば反対側の南極までワープしてしまいそうな深くて暗い大きな穴。北極を知る動物は決して近づかない謎の穴。

「ここにあったのか」少し嬉しそうなクビナガリュウ。探し求める大きな穴へやって来た。
「ここに入ると出られなくなるわ」母グマはこの穴に入った動物が二度と姿を表す事がないと知っていた。


「入ったら後戻りは出来ないよ」ペンギンはそう言うと、大きく息を吸い込んで飛び込んだ。
「行ってみよう」シャチも続いて潜り込む。
「さあ捕まって」クビナガリュウはシロクマ親子の手を引いて勢いよく穴へと導いた。


ぶくぶくぶく


深く深く潜り込む。
大きなトンネルに吸い込まれ、北極の動物たちは旅に出た。


ぶくぶくぶく

息が苦しい

ぶくぶくぶく


北極よりも少しばかりの温かさを感じたとき、旅の動物たちは黄色の水たまりに落っこちた。
大きなトンネルを進んで、やっと息ができるところへたどり着いた。
水面から顔を出すと辺りは黄色の一色で覆われた湖だった。

北極には見ない魚や甲殻類、深海魚もたくさんいる豊かな黄色の湖に旅の動物たちは不思議と落ち着いた気分になれた。

「ここに住みたい」コグマたちは新しい海に大喜び。
「ここは良いところね」戸惑いながらも無邪気なコグマに安心した母グマは言った。

「ここは南極なの?」一匹のコグマが疑問に思う。
「北極に似てないから違うだろう」シャチは呆然と答えた。
目的を見失う事なく旅の仲間にペンギンは言い放った。
「南極に行かないと」



暫くすると黄色い景色がだんだん暗くなり始め、星の出る夜のように視界を遮った。
黄色を黒色が覆ったとき、満天の星空のように光る花が灯りを照らす。

だんだん暗くなって
だんだん明るくなってきた

「朝かな?夕方かな?」

光を灯った花の樹木が遠くに見えた。
オレンジの色をした巨木が湖を囲って立ち並ぶ姿は朝日か夕日に似た存在感。

自然と旅の動物たちは湖の奥へと進んで行った。
巨木を目の前にしたとき雪が降ってきた。

「ここにも降るの?」舞っている雪をペンギンは手にして違いに気が付いた。
「これは雪じゃない白い羽毛だ」自分にも同じようにある黒い羽毛と見比べた。


ひらひらひら


音もなく舞う白い羽毛の中から静かに降り立ったのはペガサスだった。

見慣れない動物たちに近づくと
「ここは危ないよ」ペガサスの小さな声。
「どこへゆくの?」囁くように訊ねる。

旅の動物たちは答える間もなくペガサスは告げた。
「教えてあげる」
優しく言葉を交わすと
「こっちだよ」
巨木の根っこの先に、何色もの光が虹色のように輝いている吹き抜けへ案内をした。

「ここをゆけば望んだところへ向かえるよ」


躊躇することなくペガサスの言うままにゆく旅の動物たち。
自由の効かない帰れなくなる穴の時とは違い、空に舞う雪のように虹色の吹き抜けを落ちてゆく。

吹き抜けの入り口を見上げて旅の動物は
「教えてくれてありがとう」ペガサスにお礼を言った。

旅の動物たち

ふわふわふわ

たまに押し戻されるような蒸し暑い熱気が吹き上がる。旅の動物たちはそれに逆らいながら、出口の熱い台地に足を着けた。


「ここは熱いね」北極の極寒には強い動物たちにとって、熱帯地にはかなりの抵抗が必要とされた。
度重なる困難な旅は、留まる事も険しく、戻る道もなく、ただひたすら進むしかなかった。

ごろごろごろ

今度は赤い海が見えてきた。尖った黒々の岩に囲まれた灼熱の赤い海にはいくつか銀色の何かが浮いている。
岩から剥がれた黒い岩石はぼとぼとと赤い海は激しく飛沫を上げて落ちている。


「先を急ごう」赤い海にシャチが飛び込む。
「銀色の石に乗って渡ろう」赤い海を避けて飛び乗る。

硬いと思われた銀色の石は少し柔らかな弾力で、乗った瞬間声がした。
銀色の毛に覆われた巨体はマンモスだった。

「ここは危険だよ」太い声が響いた。
「どこへゆくの?」困った様子を知っていた。
「教えてあげよう」
旅の動物たちを大きな背中に乗せた。
「こっちだよ」

熱くて溶けてしまいそうな赤い海を優雅に泳ぐ巨大なマンモス。
いつの間にかシャチも大きな背中に乗せられて、熱い海にバテた様子。

しばらくすると岸が見えてきた。
大きな森が広がる緑の陸地は、赤い海の熱気で暖かくもあり、たくさんの植物で涼しげなところだ。
そこにはいろいろな動物たちが暮らしている。

とりがはばたく ぱたぱたぱた
もりのかぜが そよそよそよ

「乗せてくれてありがとう」マンモスにお礼する。

「こののまま奥へ進みなさい」マンモスは言う。


森を抜けるとごつごつした岩場の広場
大きな岩は紫色で小さな石は青色。

むらさきいしが ごろごろごろ
あおいいしは ころころころ

突然強い雨が降りだした。

つよいあめが ざぁざぁざぁ

「あそこで雨宿りをしよう」森の奥にある大きな岩穴を指してペンギンが指揮をとった。


「ここなら雨が当たらないね」安心そうにコグマが言う。


雨宿りをしながら旅の動物たちは、しばしの休息をすることにした。

「なんだかホッとする」クビナガリュウの巨体が綺麗に収まる大きな洞窟。

話し声を聞きつけた洞穴の主がひっそりとやって来た。

「あなたたちはどこから来たの?」洞穴の主は、良く似た姿のクビナガリュウ。
「北極からだよ」コグマが教える。
「あれ?同じクビナガリュウ…?」


クビナガリュウは迷子だった。
子どもの頃に緑の森で帰れなくなったクビナガリュウは、どう言う訳か北極に辿り着き、本当の帰る場所を忘れていた。

「やっと見つけた気分だよ」微かな記憶がよみがえるようだとクビナガリュウは言う。

「ここでお別れだね」クビナガリュウは旅の動物たちに悲しげな顔をする。
「寂しいな」コグマたちも悲しそうに呟いた。
「いつか遊びに行くよ」クビナガリュウはそう励まして南極への行き方を聞いた。
「南極に行く方法を教えてよ」

「さんかくの穴を行けば南極だよ」

青い岩場のその先に、岩を切り割ったような真っ暗い三角形の穴が続いている。

「さようなら」入口まで見送るクビナガリュウ。

三角の形に開いたトンネルを進む。
真っ暗で時々地面が震え、広がったり狭くなったりを繰り返す長い砂利道。
かと思えば綺麗な水の溜まった水路を泳ぎ、深く潜って大きな湖の中枢から顔を覗かせ、足場の悪い道のりは永遠を思わすまで続いた。

ながいとんねる くるくるくる

ひっくり返した貝殻を連想させる螺旋の水路を辿って行くと小さな白い光が射し込み、次第に辺り一面が埋まり出す。

「そろそろ出口かな」少し懐かしい潮風の臭いは旅の動物たちに教える。

うみのにおいが ぷんぷんぷん
あおいうみが ざぶんざぶん

「反対側にやってきた」
「ここが南極」
「似ているね」
「陸地があるよ」

白い大地に沈まぬ太陽が光射し、北極の動物たちは、南極の動物となった。

たいようのひかりが さんさんさん
おおきなそらが わくわくわく

ぺんぎんはほしをみる

満天の星々を背景に蠢くオーロラ、ペンギンの眺める夜空はペンギンにしかわからないけど、きっと不思議な気持ちにさせる北極。
太陽からやってきた有害なガスのオーロラが神秘に見え、一瞬の光を帯びて夜空を走り抜く流星は眩い宇宙の塵。

ガスも塵も身の回りにたくさんあるのに、同じ物質でも自然の演出を加えると見え方次第で綺麗に写る。時に汚くも思う。
なぜいつも星空を見上げていたのか。
ペンギンもまたそんな見え方がわかっていたのかも知れ無い。

ぺんぎんはほしをみる

自分も変わらないと世界は変わらない。 自分が変われば自と世界は変わって見える。 もし大洪水が都会の高いビルを呑み込んで、いよいよ富士山の雪の部分だけが唯一の日本になってしまったら。 そんな状況にありながら、どうやら富士火山が活発化し始める。 置き換えるならこのくらいの環境だろう。 そんな風に想像してみると、かつての都市は沈んでいるのに恐怖・絶望・危機…浮かぶのはマイナスな事ばかり。 中途半端な知識が行く手を阻む。 自分の事を棚に上げて人任せを願うのは、ヒトの特技だ。 それなら何も知らない方が良い。 旅の動物たちには誰にでもある新たな可能性を背負わせ、誰もが感じる挫折や妥協、種族の壁を排除した。そうすることで他の動物は困難な道のりを助ける。 ヒトも種族の壁を無心に思い、差別が死語になる日は来るのだろうか。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-03

Copyrighted
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  1. ぽたぽたぽた
  2. 帰れなくなる穴
  3. 旅の動物たち