得太郎くん伝説

得太郎くんの学校生活

 今や伝説となってしまった得太郎くんの過去の無様な話を書くことにしましょう。
 ボンバーこと得太郎は、本当にバカなやつで、学校は自分の物だと思いこんでいるという手の付けられない人でした。その日もボンバーは、授業をさぼって校内を子分2人引き連れてパトロールしていました。そして、1年生の男子トイレに寄った時、トイレの一角のドアが閉まっていて、誰かが入っている様子でした。ボンバーは、このことにものすごく腹を立て
 「おいおい、オレの島のトイレに黙って入るなんざあ、いい度胸だ!ちょっとおまえ、中を調べて見ろよ。おいおい…」
と言われ、ボンバーを心から尊敬している川村くんと前田くんは、2人そろってドアをバカバカ蹴りながら
 「おらおら!臭うぞ!」
 「もらしてんじゃねえのか!」
 「いつまでものさばってるんじゃねえよ!!」
と、3人で言いたいことを言ったあげく、ボンバーは川村くんと前田くんを足がかりにしてドアをよじ登り誰が入っているのかと見てみると、な!なんと!そこには悪臭を漂わせながら、便座に腰掛けているイケが入っていました。イケはおそらく、昨日大量の酒を飲んだらしく、いつもの酒臭さを臭わせており、しかもひどい下痢らしく、ほとんど涙目で声も弱々しく
 「と、得太郎…あ、後で職員室に来なさーい…」
と、迫力が全く感じられなかったそうです。
 その後、ボンバーと川村くんと前田くんは、職員室に3時間正座させられていました。そして、イケの家の引っ越しも手伝ったそうです。

得太郎くんの高校面接

 中学を卒業したものの、結局僕とボンバーは、また同じ高校に入学することになってしまいました。そこではボンバーは、不良とはすっかり足を洗ったのですが、やはり得太郎は得太郎、面接でやってくれました。
 面接の日、彼はかなり緊張していて、面接官が
 「おはようございます。」
と言うのに対して、ボンバーは
 「おはようございました。」
と、過去形で答えてしまい、その場の雰囲気はブルー…。
 「じゃあ、君はどこから来たのですか?」
という問いにボンバーは、左斜め後ろを指さし
 「はい、あそこのドアから来ました。」
 「はあ…、そうですか…」
と、重たいムードが彼らを包み込みました。
 「そうですねえ…君はなぜこの高校を選んだのでしょうか?」
 「はい、第一印象で決めました。」
と、ついに訳の分からぬことをほざき出しました。そして、面接官はプロフィールに目を通し
 「ほおー、君はサッカーが好きなようだね。」
 「はい、三度の飯より四度目の飯が好きです。」
と、ただの飯好きになってしまった。
 「サッカーは上手なのかな?」
 「いやあ…プロに毛が生えたくらいっスよ。」
おそらくボンバーは、素人に毛が生えたくらいと言うつもりだったようです。実際ボンバーはヘタクソです。
 「ふーん…尊敬する人は尾崎豊なんですか?」
 「はい、あの人はクリスマス性があります。」
と、また訳の分からぬことをほざきました。まさか、この時期にクリスマスという言葉が聞けるとは思いませんでした。彼は、カリスマ性があるとでも言いたかったのでしょう。
 しかし、得太郎の目はマジです。ニコリともしませんでした。出ていく際にボンバーは、ドアをコンコンと2回ノックして部屋を去りました。
 そんな得太郎が受かったのは、いまだもって謎のままです。
 P.S.
 得太郎は、この春からコンビニでバイトをしているのですが、得太郎はレジを打ってお金を勘定する時に、一万三千円なら全然とぶ必要はないのに。
 「はい、一万三千円とんでちょうどです。」
と、16才になった今でも言っているそうです。

得太郎くんの父兄参観

 それは、秋のよく晴れた日の日曜日。僕らの中学校では、毎年恒例となった父兄参観がありました。もちろん、われらのボンバーこと得太郎の父親も見に来るのでした。ボンバーは
 「まあよ、いつもと同じようにしてりゃいいんだろ。親父も幸せ者だよな!」
と、ほざいたのですが、僕ら全員、いつものむちゃくちゃな生活を棚に上げて、ざけんじゃねえよと思ったはずです。
 そして当日、ボンバーの父親も来ていました。ボンバーの父、得之進は、とても厳格なことで有名でした。そして最初に先生から
 「それじゃ、いい機会だから、みんなに自分のお父さんを紹介してもらおうかな。」
と言われ、順々に紹介していき、ボンバーの番になりました。ボンバーはスッと立ち上がり
 「あそこに立っているのが父です」
とでも言いたかったのでしょう。柄にもなく、ものすごく緊張していたため
 「あそこが立っているのが父です」
と言ったため、クラス中は大爆笑。その瞬間、ボンバーはスターでした。顔いっぱいの笑顔をまき散らしながら、両手でVサインを連発していました。僕は、あの苦笑いと怒りが込み合ってひきつった得之進の顔が印象に残りました。
 そして1時間目、国語の授業でした。ボンバーは、いつもとは違い真剣に先生の話を聞いていました。それは、自分の答えられるチャンスを伺っていたからです。国語は、四字熟語に関するものでした。そしてある時、先生が黒板に、○肉○食と書き
 「この、○に当てはまる漢字を書きなさい。」
と言った時、ボンバーは誰よりも早く手を上げました。
 「おお、珍しいな。じゃあ得太郎、前に出てやってみなさい。」
とさされ、早足でつかつかっと前に出て、なにやら書き始めました。しかし、そこはボンバー、でかでかと汚い字で「焼肉定食」と書き、またもやクラスは大爆笑。これを見て思わず気をよくしたボンバーは、教卓の前でガッツポーズを決めていました。国語の先生は、あきれて目が点になってしまいました。その盛り上がりが冷め切らないうちに国語の授業は終わりました。
 2時間目は英語で、もちろんイケの担当でした。得太郎はとてもハイな気分になり、性懲りもなく次のチャンスを見計らっていました。そしてイケは黒板に、May I help you?と書き
 「誰かこれを訳せる者は?」
と言った時、得太郎の第6感はひらめき、反射的に誰よりも早く手を上げました。イケはちょっとやな予感はしたものの、他に手を上げるやつもいなかったので
 「よし得太郎」
 「はい、誰か私を助けてあなた!」
と、訳の分からぬことを言い、イケが不満な顔をしていると
 「なんだよ!完璧当たっているんじゃねえかよ!」
と、わめき散らしていました。しかし、本当に間違いだと気づいた時にはすでに遅く、得之進の白い目が説く太郎の背中を突き刺していました。
 しかし、得太郎はまだあきらめてはいませんでした。なぜなら、この後すぐ行われる避難訓練にかけていたからです。間もなく、火災を知らせるブザーが鳴り響き、チャンスと心の中で思った時、みんなは避難していましたが、得太郎は
 「こんなものであわてるなんて、まだまだガキだな。」
と、ポケットに手をつっこんで余裕であるいていましたが、発煙筒の煙にまかれ気を失ってしまいました。
 その後、得太郎は保健室にかつぎ込まれ、幸いにも命には別状はなかったのですが、バカのレッテルを貼られ、しかも翌日、ボンバーの顔には青アザがありました。話を聞くと、親父に恥をかかせたという罪でひっぱたかれたそうです。

得太郎くんの仁義なき戦い

 それは、夏も過ぎ去ろうとしている9月のことでした。放課後ボンバーこと得太郎くんは、子分の川村くんと前田くんを引き連れ、校庭をパトロールしていました。すると、正門前の脇道の曲がり角の手前で、ボンバーが最も憎むY中の生徒2人が通り過ぎるのを見て
 「あんにゃろー、オレらのテリトリーに無断で入ってくるなんざあいい度胸してやがる。おいてめえら、ちょいとヤキ入れてやんな!」
と言われ、ボンバーを心から尊敬している川村くんと前田くんは、2人を追いかけていきました。ボンバーは腕組みをして待っていると
 「うぎゃあああーっ」
と言う2人の悲鳴が聞こえました。
 「何事か!?」
と、2人の後を追ってみると、そこには川村くんと前田くんが階段の下でのびていました。ボンバーは
 「これは、オレらに対する挑戦だ!今からぶっ潰してやる!!」
と、心の中で叫びましたが、ボンバーは全くの勘違いをしていました。ただ川村くんと前田くんは、Y中の生徒が階段を降りきったのを見て飛びつき、勢いあまって階段から落ちただけでした。しかし、いつもケンカに植えているボンバーは、すぐになぐり込みと復讐を決行しました。そしてすぐ、迷惑なことにパシリの山下くん、本島くん、高橋くん、貴族、そして僕がボンバーの強引な誘いによって集められました。
 「ボンバーさん、僕これから塾が…」
と貴族が言うと、ボンバーは
 「バカ野郎!塾よりケンカに決まっているじゃねえか!!」
 「ボンバーさん、ケンカなんてやめましょうよ…」
と高橋くんが言うと、ボンバーは
 「あほ!川村と前田の敵を討ちたくねえのか!!」
と言われましたが、僕ら全員ボンバーを心から尊敬している川村くんと前田くんのことなんかどうでもよかったし、ましてやそんな2人のことを軽蔑していました。
 いざY中の前まで来ると怖じ気付いたのかボンバーは
 「こういう時は、リーダーが後ろに着くものだぜ。よく覚えておきな。」
と言って、すごすごと後ろに下がってしまいました。僕らは
 「おまえがでっち上げたケンカじゃねえのかよ!」
と思いましたが、恐くて誰も反抗できず、言うがままになってしまいました。運悪く先頭に立った僕は
 「おらあ!Y中の番長出てこい!」
と、怒鳴らざるをえませんでした。すると、グラウンドの方から5・6人の不良らしき連中がやってきました。それはまるで、ファイティング原田とアントニオ猪木とジャイアント馬場、具志堅用高を思わせるようなメンバーでした。
 「おい、ケンカ売りに来たのおめえらか?」
と、ファイティング原田様は、ドスの効いた声で静かに言いました。
 「売られたケンカは買うしかねえよな」
お次は、具志堅様がアザ笑うように言いました。僕らは、ボンバーを除いてぶるぶる震えていました。そして、言わなきゃいいのにボンバーは
 「カタギのやつはてめえか!」
と、訳の分からないことを言ったので、Y中のやつらはマジになって
 「いい度胸してんじゃねえか!抜かしやがって!!」
と、ジャイアント馬場様が言ったとたん、Y中の連中は踊りかかってきました。ボンバーは余裕で
 「おい、パシリども、いなしたれや!」
と、うすら笑いを浮かべながら僕らに命令しましたが、僕らはあまりにもビビってしまったので、ボンバーを残してさっさと逃げてしまい後からは、ボンバーの悲鳴だけが秋の青空を突き抜けていきました。
 その日のボンバーがどうなったのかはわかりませんが、次の日、僕ら全員、体育館の裏でボンバーによっておまけ付きでたっぷりとお礼をいただき、ボコボコにされました。
 結局、一番最後に被害を受けるのは、いつも僕らなのでした。

得太郎くん海へ行く

 忘れもしない中2の夏休みの8月。その年は、例年よりも暑く毎日のように太陽の光がじりじりと僕たちを焼きつけていました。そんな中、僕らのボンバーこと得太郎は、
 「夏の太陽というやつは、不良魂を熱くさせるぜ!俺のようなさわやかな男を燃え上がらせるなんて、太陽はなんて罪な奴だぜ!」
と、パシリの高橋くんから取り上げた30円のソーダ味のアイスキャンディをなめながら寝ぼけたことを抜かしていました。
 「よし、こんな日にゃ海で真の男を見せつけるしかねえよなあ高橋!」
 「えっ…そっ、そうですよね…海に限りますよね…」
 「じゃ、明日は俺と一緒に海へとしゃれ込もうじゃねえか。ラッキーだな高橋!」
と、高橋くんにとって予想通りの不幸がやってきました。当然断れるわけはなく、そのままボンバーの言うがままに一緒に行くことになりました。
 次の日、不幸中の幸いで同じパシリの本島くんも連れて行かれることになりました。2人は、
 「まったく、いい迷惑だよなあ。」
 「僕、今日は、映画に行きたかったんだよなあ。」
そんなこんな行っているうちにボンバー登場!彼は、バーゲンセールで買ったと思われる明らかに趣味の悪い安物のアロハシャツを着用し、ビーチサンダルにタンパンで、そのタンパンの裾から明らかに海パンも着用という気合いの入れよう。先の思いやられる2人もおかまいなく、一路、江ノ島へ。
 江ノ島へ着くなりボンバーは、すごい勢いで海パン姿に。その姿といったら、ダサイデカパンタイプの水着に明らかに学校で使用している水泳帽とゴーグルという有り様。さすがに他人のふりをしたくなった2人。
 実は、ボンバーは、泳ぎの方は苦手でうきわこそ小6の時に卒業した物の25mも満足に泳げないのですが、いつもボンバーは、 
 「プールの塩素くせえのが俺のやる気をなくさせんだよ!」
と、わかりやすい言い訳を抜かしていました。そして、カバンからあきらかに水質汚濁のげんいんになりそうなサンオイルをぬりたくりそのまま海へとGO!ちびっ子の水遊びのじゃまにしか思えない浅瀬での暴れっぷりはみんなのお笑いの種になっていました。
 「みんな俺の泳ぎに注目しているな!」
と、わけのわからぬことを言い、よけいにはしゃぐボンバー。
 ふいに、近くにいたどこぞかの不良らしきやつが、これまたボンバーとは大違いにカッコよく沖に向かって泳ぐのを見て
 「ちくしょう…俺様が目立っているからって朝鮮史的やがったな。いいか!真の男の勇ましさを見せてやるぜ!」
と、みるみるうちに沖の方へと泳ぎ出しました。高橋くんと本島くんはちょっと驚きましたが
 「また、いつもの幻覚を見る病気が再発したか…」
くらいにしか思わず、ボーっとボンバーを眺めていました。途中からボンバーの動きが早くなり、みるみる沖へと行くので
 「あれっ、ボンバーさんってそんなに泳ぎ上手だったかなあ…」
と思いましたが、ボンバーの黄色い水泳帽が点くらいになった時1艘のボートが近づきボンバーを引き上げているような姿がかすかに見えました。2人はなんとなく事の重大さに築いた時
 「海岸救助隊よりお知らせいたします。黄色の海水帽にゴーグル、青と白の縦縞の水着を着た、中学生くらいの男の子の関係者がおりましたら、至急本部までおこしください。」
との呼び出しがあったので、あわてて言われたところに向かうと、そこには唇を真っ青にさせてぶるぶる震えているボンバーの姿がありました。救助隊の人の話では、泳いでいる途中で足をつったらしくそのまま流れにのって沖へ流されているところを発見され助けられたそうです。その時のボンバーはかなりの涙目で珍奇な叫び声を発していたそうです。
 その後、連絡を受けて迎えに来た父親の得之進に、「この親不孝のバカ息子!!」とひっぱたかれていました。残りの夏休み、得太郎はプールや海にはけっして行かず、ゲーセンのジャンケンポンゲームで時を過ごしたことはいうまでもありません。

得太郎くんの野球大会

 僕たちの通う中学校には、毎年5月になると、男子は学年別クラス対抗の野球大会が恒例行事となっていました。そんな中2で迎えた野球大会のこと。すっかり不良としてできあがっていた我らのボンバーこと得太郎は、唯一の得意な体を使う行事とあって人一倍燃えていました。試合は勝ち抜きのトーナメント戦で、各クラス2チームずつ作るのですが、運悪くボンバーと一緒のチームになってしまい、しかもボンバーを心から尊敬している川村くんと前田くんも同じという最悪なものでした。もちろんボンバーは
 「このメンツの中でキャプテンにふさわしいのはやっぱこの俺だよな!もちろん4番は俺でピッチャーは前田でキャッチャーは川村で決まりだぜ!!」
と勝手に全てを決めてしまう始末。そして僕らのDの1チームは10人で、その中の一人貴族はボンバーの命令でチームのコントロールタワー、つまり補欠なので残り9人がフルで出場する羽目になってしまいました。
 そして迎えた大会当日、対戦チームはなんと野球部でバリバリ活躍している芥川くん率いるAの1チームでした。芥川くんは、ボンバーのようなニセモノとは違って本物のエースでした。なのにボンバーは
 「気合いさえあればなんでもできるんだぜ!俺様のふんどしストリップボールでキリキリまいさ!」
と昔の日本軍みたいな事をほざき、しかもどうやらフィンガースピリットボールとでも言いたかったご様子。相手にガンをとばしながらいよいよ試合開始。
 先攻はA組で前田くんの絵に描いたようなピッチングはA組にボコスカに打たれまくりスリーアウト取った時には2点も失っていました。ベンチに引き下がった前田くんと作戦を指示した貴族はボンバーによってまたもやボコスカにされてしまいました。その裏の攻撃、ツーアウトのところで3番の中戸川くんが内野安打を打って打順はいよいよボンバー!
 素振りしながら登場したが一人勘違いして使用禁止の金属バットをブンブンふって主審のイケに怒られていました。しかし、所詮ニセモノはニセモノ、あっという間にツウストライクに追い込まれてしまいました。
 ちょっと涙目になったボンバーは次の第3球目をやけくそに振りました。
 「ガコーン」
と、打ちつける音がしました。奇跡が起こったかとみんなが改めて得太郎から目をそらすと、なんと!打った打球そのものはうちそこないのファールでしたが、生きおいよく振ったバットがボンバーの手をすっぽ抜けて芥川くんのおでこに命中していました。
 普段からボンバーに不信感を抱いていた主審のイケは、わざとバットをぶつけたと判断してそのまま試合中止。そしてA組の不戦勝扱いに。芥川くんはそのまま保健室送りに。そしてボンバーは、そのまま職員室送りに。いろいろな先生からこっぴどく説教をうけ、ボンバーが楽しみにしていた巨人阪神戦は見ることができませんでした。
 数日後、ボンバーはあの日のことを振り返って
 「最近の教師って奴は、生徒の気持ちなんか分かろうとする努力がねえんだよ!」
と、自分が周りの人間から全く信頼がないということに全然気づかず、よりいっそうボンバーとイケの仲が悪くなったということは言うまでもありません。

得太郎くんの家庭科実習

 秋のことでした。当時の家庭科は、調理について勉強していました。そして、次の時間には実際に調理することになっていました。みんなはこの時間がくるのを心待ちにしていましたが山下くんだけが不安そうな顔をしていました。それは、あのボンバーと一緒の班でやることになっていたからです。そんな山下くんを見てボンバーは
 「次の家庭科は全部まかしておけ!おれは、美味新保を毎回かかさず見てるんだぜ!」
だから心配なんだよおーと心の中で思いましたが、なにもすることができず結局当日がやってきました。
 その日のメニューはカレーライスでした。山下くんがお米を洗っていると
 「バカ!水道水で洗う奴があるか!料理は水が命なんだよ!これを使え、俺がわざわざ井戸から組んできた水だ。」
とボンバーが差し出した瓶の中に怪しげなノーブランドの水が入っていました。山下くんはちょっと恐くなり
 「あの…ボンバーさん、この水はどこから…」
 「へへへ、よく聞いてくれたな。これはな近くの神社の井戸から組んできた名水だぜ!」
 こんな物で調理したら命がないと悟った山下くんはボンバーがトイレに行っている間にこっそり中身をふつうの水道水と取り替えてしまいました。不意にボンバーが、
 「のど乾いたからちょっとこの名水でも飲もうかな」
と瓶の中の水をガブガブ飲み
 「やっぱ天然の水はうまいなあ。水道の水とは訳が違うぜ!」
と言うのを聞いて山下くんはおもしろくてたまりませんでした。どうせなら中身を取り替えないで井戸水を飲ませた方が少しはおとなしくなったかもなと思ったくらいでした。
 次に肉や野菜を着るときになって
 「まずは俺様が手本を見せてやる。本物の包丁さばきって言うのはこういうもんなんだぜ!」
とミスター味っ子よろしくものすごい勢いでタマネギを刻み始めました。カレーなんだからそんなに細かく切らなくてもと山下くんは思いましたが、
 「ちょっと本気になればこんなものよ。高校いかねえで板前にでもなろうかな。」
と上機嫌なのもここまででした。「いっ」とボンバーが言ったかと思った瞬間、タマネギがみるみる赤く染まって行くのが分かりました。そうです、ボンバーは調子に乗りすぎて指を切ってしまったのです。ほんの切り傷なんですが、タマネギの色とは違ってボンバーの顔はみるみるうちに真っ青になっていきました。ふにゃふにゃと腰が抜けたかと思うと
 「ああああああーっ指がー!血がー!お母ちゃーん!血が止まらねえよー!死ぬかもー!」
と号泣し始め、辺りは一瞬時間が止まったように感じました。そのままボンバーは家庭科の先生によって指の手当をしてもらいましたが、まだボンバーの顔は青いままでした。
 その後ボンバーは血に弱いということが判明しましたが、このことを口に出した奴はなぜか体育館の裏でボコボコになっているのを発見されるので、誰一人言う奴はいませんでした。そしてボンバーは
 「めし作るのは女の仕事だあ!男が台所に立つものじゃねえんだよ!!」
と今までの食通と言っていたこともすっかり忘れたようなことをほざいていました。

得太郎くん伝説

得太郎くん伝説

あの伝説の不良、得太郎が返ってきた! ……誰も呼んじゃいないのに。得太郎の無様な話を収めた短編集。中学生の頃に執筆した7編を掲載。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-02

Copyrighted
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Copyrighted
  1. 得太郎くんの学校生活
  2. 得太郎くんの高校面接
  3. 得太郎くんの父兄参観
  4. 得太郎くんの仁義なき戦い
  5. 得太郎くん海へ行く
  6. 得太郎くんの野球大会
  7. 得太郎くんの家庭科実習