プラネットオレンジ

プラネットオレンジ

高校2年生の淡い初恋。


気になる子ができた。
腰まである黒髪を夕風に棚引かせて歩くセーラー服を身に纏った背の高い、小柄な女子高生に。

「次はー、西船橋駅です。左側の扉が開きます。ご注意ください。」

無機質なアナウンスが電車内に響き渡る中で、僕は右側の扉に軽く寄り掛かりながら窓の外を見ている彼女を見ていた。

彼女の存在を知ったのが1週間前。
彼女を意識し始めたのが4日前。

彼女はいつも17:26発の総武線の3号車目の前から4つ目の扉付近にいる。
だから、僕も彼女と一緒に帰りたいがために4日前から6時限目のチャイムが鳴ったと同時に教室を出て、電車に間に合うようにしていた。

僕は船橋駅で降りてしまうため、彼女の最寄駅は知らない。
けれど毎日下校途中に彼女の姿が見れるだけ、ただそれだけで良かった。

そして彼女は今日もそこにいる。
黒く長い髪を時折耳に掛けながらいつものように窓の外を眺めていた。

生憎、一度も目が合ったことはないがきっと綺麗な瞳をしているのだろう。
そんな想像を張り巡らせるだけで、幸せだった。

「次はー、船橋駅です。右側の扉が開きます。ご注意ください。」

まもなく、最寄駅に着いてしまう。
一日の至福の時間が終わってしまうことに後ろ髪を引かれながら、座席を立ち彼女を見やる。

また明日も、会えるといいな。
そんな思いを抱きながら電車から一歩ホームへ踏み出したその時、

「ねぇ。」

凛とした澄んだ声と共に左手首を掴まれる感覚。

背後で電車の扉が閉まる音を聞きながら顔を横に向ける。
そこにいたのは僕が4日前から想いを寄せている彼女だった。

驚きすぎて、言葉を発することができない。

どうしたの?
何か用?

言いたいことはたくさんあるのに。


「私ーーーーー、君のことが好きみたい。良かったらアドレス、教えてくれない?」

初めて間近で見た彼女は想像以上に綺麗で。

ほっそりとした輪郭。
スッと通った鼻筋。
少し切れ長で大きい二重の目。
そして瞳は、美しい黒髪と同じ漆黒の澄んだ色だった。

彼女の言葉に応えるのをすっかり忘れてまじまじと顔を見つめてしまった僕に、彼女は片眉を下げながら微笑む。

「ふふ、初めて話したのにアドレスを聞くのは非常識よね。ごめんなさい。せめて名前だけでも教えてくれない?」

少しおどけた表情をしながら、僕に語りかけてくる彼女。
僕の肩くらいに頭がある彼女は、必然的に見上げてくる恰好になって。

なんていうか、すごく可愛い。

「く、黒野優。高校2年だ。」

名前を告げるだけで少し詰まってしまった。
顔が火照るのを感じる。
その顔を見られるのが恥ずかしくて、彼女から思わず目を背ける。

「黒野君ね。私は夏目凛。また明日17:26発のこの電車で会おうね。」

もっとたくさんお話したら、今度こそアドレスちょうだい。

少しはにかみながらそう告げる彼女の頬も、ほんのり赤みが射していて。
もう少しだけ、彼女を独り占めしたい。

そう心で思ったと同時にホームに電車が来てしまった。

溢れるばかりの人が電車を降りてから、再び彼女は車内へ戻っていく。

扉が閉まる直前に聞こえた「またね。」の声。
そして窓から小さく手を振る彼女に、僕もまた手を振った。


電車がホームから出発して、姿が見えなくなってもその場から動けないでいる。
微熱のように纏わりつく頬の熱さに嫌悪感はない。

これが、恋というやつか。
気になるから、好きに変わるのを実感した。

もう少しだけ、この心地よい余韻に浸かっていよう。
そう思って目を閉じた僕の後ろには長い影が伸び、空には星が輝きだしていた。

プラネットオレンジ

夏が近づいてきているので、初投稿ネタは甘酸っぱい恋愛にしてみました^^

実在する駅名や路線を小説内で使っていますが、この小説はフィクションです。
作者は総武線には乗らないため、わかりませんがきっと凛ちゃんのような高校生はいないでしょう(笑)

読んで下さり、ありがとうございました。

プラネットオレンジ

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-02

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