地球
近未来の地球
近未来の地球では、ゴミが溢れかえっていた。人々が捨てたゴミは、もう二酸化炭素が発生する焼却場で焼かれることはない。なぜなら、大気中の二酸化炭素濃度が高くなりすぎてあと少しで人類が住めなくなってしまうからだ。人々が捨てたゴミは、もう埋め立て地になることはない。なぜなら、埋め立てる海が無くなってしまったからだ。人々が捨てたゴミは、街中に氾濫していた。
そこで、世界中の学者が考えた。環境学者も、政治学者も、工学者も、科学者も、物理学者も、考古学者も、宗教学者、文学者も額を寄せあって考えた。とある文学者が、会議場でこんな突拍子もないことを言い出した。
「宇宙にたくさんあるブラックホールにゴミを投げ入れるのはどうだろうか」
物理学者が怒り気味に言った。
「そんなことができるはずがない。私達は現実的な方法を探しているんだ。君のようなファンタジストに付き合っている暇はない」
工学者が冷静に言った。
「いや、可能かもしれない。ブラックホールにできるだけ近づけるように、強力なエンジンを逆方向に噴射するんだ」
科学者が言った。
「可能かもしれないが、それは大変だ。化学的に圧縮する方法はないだろうか」
考古学者が言った。
「それなら、地層の深くに埋めて、既存の地層と同化させることもできるのではないか」
宗教学者は言う。
「そんなことをすると大地の神がお怒りになる。やめたまえ」
政治学者も言う。
「それどころか地層が頑丈な一部の国にゴミが集まってきて、紛争問題になりかねない」
環境学者が言う。
「地層に埋めては環境がますます悪化する一方だ」
このように、全く彼らの意見はまとまらない。こんな議論を繰り返していくうちに、ますますゴミは増えていくのだ。溢れかえったゴミは、庶民の暮らしを圧迫し続けていた。
そんなとき、とある庶民が会議場に陳情に行った。
「みなさん、どうにかしてください。このままでは、不衛生な環境のままでは、生きていくことができません」
そんなことはわかっているとばかりに、学者たちは知らん顔。しばらくの沈黙の後に、政治学者がつぶやいた。
「じゃあどうしろと言うのだね?」
庶民はそれを願ってきたのだ。学者たちに、どうにかしてほしくて来たのだ。
「それは学者さん、あなた方の仕事じゃありませんか」
「それがわからないから困っておる」
"どうする"が分からないからどうもしようがないのだ。考えてもわからないのだ。と、学者たちは思う。ここで誰かがつぶやいた。
「しかし、何も生産しない会議だ。考えの練りようがない」
「それだ!」
庶民が叫んだ。
「何も生産しなければゴミは出ない。大量生産大量消費の世界だから悪いんだ。少量生産少量消費の世界になれば、ゴミは少なくすむ。最低限のものだけを生産して、最低限のものだけを消費しましょうよ!」
環境学者の目が輝いた。
「それは実に理にかなっているやりかただ!」
工学者も笑顔になる。
「素晴らしい。ゴミをそもそも出さなければいいんだ」
科学者も笑う。
「こんなにも簡単なことだったか!」
宗教学者も納得する。
「神の教えにもかなっておる」
考古学者も明るくなる。
「これからの時代は歴代で最も地層が薄い時代になるかもしれないぞ」
物理学者も喜んだ。
「エネルギーが循環する世界が到来するぞ」
政治学者も大喜び。
「こんな簡単なことで世界が変わった!」
文学者も叫ぶ。
「これは革命だ!」
庶民の一言によってもたらされた革命は、すぐに実行され、その後の世界は平和に続いていくのであった。
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