試作品・タイトル6

試作品・タイトル6

書いてる途中ですが、評価とアドバイスをお願いします。
試作品です。

第一章 白銀の怪物


 どうせ俺は怪物だ。
 時が来れば寝かされ、起きれば人を殺める。
 誰かの言う事をひたすら遂行し、生き続ける。
 今まで、どれだけの血を浴びて来たのだろう?
 別に血を浴びるのが嫌いなわけではない。
 ただ、疲れただけだ。


「こいつで最後か……」
 少年ーーレン・サイフラは、銃口を震える青年に向ける。
 引き金を引くと共に静かな空気を発砲音が切り裂く。
 短い泣き声に似た悲鳴を上げて赤い”何か”がレンの顔をべったり汚す。
「抗わなければ、もっと楽に死ねたというのに」
 レンは袖で顔についた汚れを拭き取ると、倒れた青年の顔を色の消えた瞳で見つめた。
《ユーザー。データーによると、ここから先は実験室に繋がる通路だそうです》
 レンを急かすように機械的な音声が響き渡る。レンの、戦闘アシスタントAI だ。
 今回のレンの任務。それは、敵勢力の製造、研究している兵器のデーター入手である。
 そのために、研究室があるという「クルスティー学園」の地下施設に侵入している。
「しかし、学園の地下に研究所を置く意図がわからない」
《有事の際でも要塞として使える様に主要施設を集中させてる、と推測されます》
 アシスタントの本体でもある左手首にまかれた、リング型装置ーーシールリングに触れる。
 鈴のような効果音とともに立体ディスプレイが映し出され、周辺のマップと施設の情報を表示する。
「随分と安臭いセキュリティードアだな。この程度で、『ノイズ・シリーズ』を足止めする気か?」
《ノイズエネルギーで単純な物理衝撃を与えるだけで開くと思われます》
 ーードン!
 低い衝撃音と共にロックが外れる。
 ドアの隙間から中を覗くが誰もいそうにない。
 安全であるのを確認すると、レンは銃器を血に染まった制服の中にしまう。
「しかし、この制服は連合国の学校の制服と違いプロテクターがないな。こんな簡素な制服で実戦に対応できるのか?」
《その制服は『クルスティー学園』の実戦対応型です。耐火素材のセラミックと防魔素材の合成プロハイビット繊維でコーティングしてありますので、戦闘に充分使えます》

 二十年前に、政府は異世界の存在を認め。すでに、交流を持っている事を明かした。
 その異世界は高度な魔法文明を持ち。優れた空間移動技術を有していた。
 一昔前までは、ファンタジーだった魔法も、今では技術の一つとして受け止められている。
 しかし、この新しい技術ーー魔法は実用される事がほとんどなかった。
 科学世界を治める「連合国」と魔法世界を治める「ブレシア公国」が戦争を始めたからである。

「まぁいい。とりあえず俺と同じような『生体兵器』や『新兵器』を見つけ出せば良いんだな?」
《YESーー対象を見つけた際には十分なデーターを取得した後に抹消してください》
 
 レンは、子供の頃から連合国立の研究施設で育った。
 彼に与えられた「コードネーム」は、

 生体兵器ーーN102 プロトタイプ
 俗称、「白銀の怪物」

 二つの世界の関係が良好だった頃。
 少数ながらも、異世界に移民や旅行をする人々がいた。
 その過程で出来たのが「混血児」である。
 しかし、一般人とは異なるDNA配列や神経構造を持つ突然変異体が混血児によく見られる様になった。
 間もなく両世界間で戦争が始まる。
 研究部は、魔法への最も有効な方法として突然変異体ーーノイズを利用する事にする。
 ノイズには特別な神経回路が存在し、個体によって違ったエネルギーが流れている。
 しかし、本人の意思ではエネルギーを使う事が出来ない。
 だが軍部は、ノイズの神経回路に通るエネルギーを強制的に体内に埋め込まれた強化装置やインプラントに流し込む事によって、核エネルギーを使用した兵器以上の戦闘力を得られる事を知った。
 彼らは、この新たなエネルギーを動力源としたシステムを「ノイズ・システム」と呼び、システムを導入された者達、「ユーザー」を生体兵器として扱い始める。
 そのため、世界中でノイズ狩りが実行され、量産体勢は速やかに完成された。
 ーーノイズ・シリーズ
 ユーザー達に付けられた総称である。
 レンを含めたほとんどのユーザー達には人権は認められず、高価な兵器としか扱われない。

「それにしても、誰もいないな」
 レンは、眼球に埋まったセンサーを起動する。
 すると、レンの左目の瞳は染料が水に広がるように赤くなり、様々な情報が表示された。
《研究員は全員避難した模様です》
「わかっている。だが、おかしすぎる。敵の支援部隊が遅すぎるとは思わないのか?」
《ユーザーが生体兵器である事、『ユーザー』である事に気づいたと推測します》
 俺がユーザーである事を知っておきながらも支援部隊を送らない。
 この状況で考えられる可能性は二つだ。
 一つ。戦意喪失。精鋭だとか、威張っていたオパール・チームが全滅したんだ。あり得る。

「止まれ!」
 二つ。ノイズ・シリーズへの対抗兵器を開発した。

「オパール・チームを全滅させたのはあなたね!」
 ーーどうやら、答えは「二つ目」だそうだ。
 まるで獲物を狩るような鋭い目をした少女がレンに攻撃魔法陣を向ける。
 黄金色の細い髪をを腰まで延ばし、エメラルドの瞳は心の奥まで見透かすようだった。
 少女の歳は、レンと同い年か年下だろう。
 服装は、黒いニーソと赤いチェック柄のスカート。薄茶色のブレザー。
 「クルスティー学園」の生徒だ。
「計画を邪魔したから殺した」
 レンは声に一つも感情を込めずに言い放つ。
「あら? それじゃあ、私も対象なの?」
 瞬間。レンに目がけて一筋のレーザーが飛んで来る。レンは素早く回避行動をとるが一歩遅かった様だ。
 意識が揺らぐ。網膜スクリーンで視界一杯に、ダメージの報告と敵の動向が表示された。
《ダメージ確認。身体への損傷率、四十パーセント》
 損傷率が四十パーセント。通常の魔法では考えられない破壊力だ。
 もし、直撃してたら間違いなく即死だ。
「魔法で科学に勝つ気か?」
「科学がいつまでも優勢だと思わないで!」
 少女は倒れたレンに手のひらを向ける。
 すると、手のひらに紫ピンクに光る魔方陣が現れた。
《エーテル系統の魔法が来ます。シールドを展開してください》
 レンは、青白く光るドーム型のシールドを展開する。
 地響きのような揺れとうめき声のような衝撃の後にシールドが弾ける。
《只今のシールド展開でバッテリーが焼けました》
 バッテリーは二つ所持して来たが、このままだと使い切るのも時間の問題だろう。
 黒煙を上げるバッテリーをベルトの接続端子から外し、かわりに予備バッテリーをベルトに繋げる。
 内ポケットから拳銃を取り出し、引き金を何度も引く。
 少女は風のように素早く防御魔方陣を展開するが数発が彼女の肩を突き抜け、服を赤色に染めていく。
「っはぅ! さすが、生体兵器ね。科学の最新技術を搭載している」
 少女は悲鳴をこらえ、息を荒げて口を開いた。
「なんだ。知っていたのか。やはり、ノイズ・シリーズへの対抗策でも見つけたんだな」
「あなた、名前は? 偽造戸籍で転校生として侵入したようだけれど」
「レン・サイフラだ」
「そういうこと。あなたが、あの"白銀の怪物"ね。次世代型 - 生体兵器のプロトタイプでしょ? 私は、純血騎士団のユイナ・ノルマンディーよ」
 ユイナ。そう名乗った美しい少女は襟に付けたエンブレムを見せる。
「なぜ一人で来た? 交渉か?」
「えぇ。そうかもね」
 すると、ユイナは鈍く光る缶を二つ、レンの近くに投げる。
 同時に、電流が目さえも焼く勢いで缶から溢れ出た。
 電流の触手が全身の装置の動きを止め、壊そうとする。
 途端に、激痛と共に視界が砂嵐に飲み込まれていく。
《システムにエラーが発生しました。システ……》
 ノイズ・システムのほとんどが機能停止する。シールリングの声さえも雑音と混じって途切れてしまった。
「くそ! 何をした!」
 レンは、全身の力を失って座り込む。
 少しでも動こうとすると、人口筋肉が痙攣し、関節から火花が吹き出る。全身が熱い。域をすう事でさえ苦しくなる。
「EMPよ。動くと生命維持装置さえ壊れちゃうわよ?」
 レンの身体には様々なコンピューターや強化装置が搭載されている。
 そのおかげで、システムもアシスタントAIが使える。
 しかし、内蔵された機器が停止した場合、システムが使えないばかりか、強化装置の重みで立ち上がる事さえ困難になるのだ。
「プロトタイプのあなたにでさえ、完全なEMP対策がされてないようね。まあ、現行タイプにはEMP対策さえしてないからね。大きな進歩よ」
 ユイナが馬鹿にするように褒め称える。
 だが、レンは悔しがる素振りもせず苦しい顔で下を向くだけだった。
 そんな、期待はずれの反応をするレンの首筋にナイフを当てる。
「何がしたい」
「だから、交渉よ。うん。交渉」
「ただの脅迫にしか見えないがな」
「うるさい! とりあえず、単刀直入に言うけど。私たちは、あなたが必要なの」
「スカウトしに来てくれたのか」
 レンが軽蔑するように答える。
 ユイナはため息をつくと、ポケットから紙を取り出す。
「悔しいけれど、連合国の所有する生体兵器ーーノイズ・シリーズは手強すぎる。だから、あなたに協力してほしいの。一体で一個中隊もの戦力を持つ彼らに太刀打ちするためにね。契約書には、自由と権利、莫大な報酬と通常の人権以上の特権を約束する事も書かれているわ。どう? 悪くないでしょ?」
「それと同じ物を、連合国ともした。これが自由と権利なのか?」
 レンは、シールリンングにはめられた発信器を叩く。
 契約書など、この時代なんの役に立つのだろうか?
「自由と権利は奪うものよ? 早い者勝ちってやつ」
 ユイナが鼻で笑うとレンの襟を掴み上げる。
 その時。近くの棚が一斉にカタカタと震えだす。
 瞬間。大きな爆発音と共に爆風が襲う。
「なにこれ!?」
 ユイナは、赤い魔法石で魔力供給しながら強力な結界を張る。
 しかし、その大結界でさえも爆発の威力で大きくゆがみ始めた。
 高い耳鳴りと爆発音が鼓膜を破る勢いで響き合う。
「何をしたの!?」
「俺が死んだ時に自動爆発するようにしてる。恐らく、EMPで俺の信号が途絶えたから誤作動したんだろう」
「こっちに来て!」
 ユイナが、EMPを発していた缶を蹴り飛ばす。
「死にたくないでしょう!?」
 ユイナは目をつむり、手を地面に付けると呪文の詠唱を始める。
 詠唱を続けてると地面に穴が出来た。
 まるで、そこにずっとあったかの様にだ。
「はやく。こっちよ」
 少女が手招きをする。
 レンは、激痛が駆け回る身体を引きずりながら穴に投げ込む。
「ここは……どこだ?」
 そこは、倉庫のような部屋だだった。
 魔導兵器や魔法石がたくさん陳列されていたが、それ以外には何もない。あえて言うなら、ネズミ数匹いるだけだった。
「緊急用シェルターよ。ああ! 助けが来るかもわからないじゃない! しかも、私のEMPが原因とか……」
 少女は、声を張り上げながら怒り始める。
 しかし、レンは構わず周りの剣や杖をカメラで撮り続けた。
「何をしてるの?」
「データーにない武器だから、写真を撮っている」
「自由になる気はないの? どうして? やっぱり祖国を裏切るのはつらい?」
 ユイナは空中にディスプレイを表示させて救助信号を発する。
「………命令……だからだ」
 レンの声は絶望そのものだった。

第二章 システムと剣


 意味が分からない。
 命令?
 ユイナの頭の中でクエスチョンマークが広がっていく。
「連合国は、ノイズ能力者を道具のように使ってるようじゃない? それでも?」
「それが俺の存在意義だからだ」
「はぁ!? 一体、どんな調教を受けて来たのよ」
「お前に何がわかる?」
 レンの右腕に刻まれたバーコードが服を突き抜けて白銀のように明るく光り始める。
《ユーザー。この状況でシステムを解放するのは好ましくありません》
「黙れ。こいつは邪魔だ。すぐに始末する」
「だからバカなの? 連合国から逃げれるのよ?」
「公国も俺を使う気だろ? どうせ俺に逃げ場はない」
 ユイナは舌打ちすると地面に両手を地面に付ける。
「疑って、憎んで、使われて! あなたは、今までなんの為に人を殺めて来たの? 祖国のため? 復讐のため? 楽しむため?」
地面に巨大な魔方陣が現れ、ドス黒く輝き始める。
「俺は……」
《科学的、魔法学的にも不可解な反応を検知しました。『ユイナ』は危険です》
「あなたのように、不可解な力を持つ者を連合国は、この世の雑音だと言って軽蔑するそうね」
 魔方陣から流れ出る不気味なドロドロした黒い液体がユイナに絡むように包んでいく。
「でも、私たち「ミステリア」は神秘と称えられるの。同じ、不可解な力の持ち主なのにね」
 ユイナが腕を一気に持ち上げると、眩しい光が部屋中を照らす。
「わざと魔方陣に飲み込まれているのか!?」
《データーがありません。ただし、エネルギー衝動から推測してノイズユーザーと同等な力を有していると思われます》
「これが……。ノイズ・シリーズへの対抗策……。対処法は?」
《システムで防ぐしか方法はないと思われます》
「少しは自分で考えたらどう?」
 ユイナの周りの光が収まっていく。
 彼女の周りを光の粒子が飛んでいた。
 目の前にいる少女は美しかった。そう、まるで神秘のように。
 そして、彼女の右手には、
「……剣、だと?」
 細い片手剣が紫色のオーラを発していた。見てるだけで目眩がしそうな雰囲気になる。
「私は、「ミステリア - グレディアス」。全身の魔術回路に改ざんコードを仕組んでるわ。あなた達の呼ぶ生体兵器と似たものよ」
「そうか。最優先の殲滅対象だな」
 レンは、姿勢を低くし、右手の拳銃を強く握りしめた。
「ノイズシステム解放!」
 瞬間。電子音と共にレンの周りに0と1のプログラムコードとアルファベットの機械語で構成されたコードが現れ、ゆっくりと回転しはじめる。
「さぁ。始めましょうか?」
 突然、ユイナのささやき声が耳元で聞こえる。
 ーーおかしい
 腰の側面から、生暖かい液体が流れ出る。
「……そうか。俺が殺してきた奴らもこれを流していたのか。随分と痛いんだな」
 傷口を抑えながらよろめく。
 ユイナは、口元を薄く開けて笑うと、目にも止まらないスピードで向かって来る。
 レンも、電磁バリア展開するがすぐに弾けてしまう。
「グレディアスの剣は空間切断。どんな物も空間ごと切り裂くのよ」
 次々に襲いかかる、斬撃をレンは加速装置をフル稼働にしてかわす。
《ノイズエネルギーを四十パーセント消費しました。推定、あと三分でエネルギーを使い切ります》
 ノイズエネルギーは、戦闘に使うとおよそ六分が限度だ。もし、それ以上に使うと生命維持に支障が起き、最悪の場合はユーザーが死ぬ。
『ASSを解放』
 レンの口から人の声とは到底思えない機械的な音声が流れた。
 ASSは、ユーザーの射撃精度を向上させるプログラムである。
 このような、プログラムをノイズ・システムと並行作業させるには、非常に高い精神力と判断力が必要なのだ。
 しかし、その「完璧」な弾をユイナは次々に避ける。まるで、優雅な白鳥が水面を踊っているようだ。
『SIMで解析を開始』
 レンは、シュミレーションを開始する。
 そろそろ、脳が演算処理の限界を超えてシステムダウンするかもしれない。

 だが。その心配はないようだ。

 鈍い音が衝撃と共にレンの肩に叩きつけられる。
「あなたの脳もそろそろ限界でしょ? 脳みそ焦げるわよ?」
「そうだな」
 その瞬間。ユイナは目を大きく見開き、後ずさりする。
「! ………斬れない」
 空間ごと切り裂くグレディアスの剣。
 しかし、剣はレンの肩に数センチ切り込んだだけで動かない。
 0と1やプログラムコードで構成された陣ーーノイズの結界がゴムのように歪み、肩の近くを守っていた。
「ノイズ・エネルギーの結界は、空間を繋ぐ事で発生している。シュミレーションの結果、そんなショボい出力では斬れないそうだ。なぜ、出力を抑える? 俺をなめてるのか? それとも……」
 レンは、ユイナの腹を強く殴った後、素早く地面に押し倒す。
 そして、銃を彼女の細い首に突きつける。
「お前は俺を本気で斬る気がなさそうだが、俺はお前の血を浴びる気だぞ? 真っ赤な制服がちょうど欲しかった所だ」
「じゃあ。殺して」
「おまえ……」
 沈黙が続く。
 ユイナの鋭い視線、強い瞳がレンの目を突き抜ける。
 レンの脳裏に、笑い声、悲鳴、泣き声。様々な映像がフラッシュのように焼き付いてきた。
 いつもなら、殺せた。だが、殺せない。なぜだ?
 レンは、とてつもなく動揺する。恐怖なのか? 戸惑いなのか? 罪を感じてるのか?
 違う。わからない。だけど、殺せないだけなのだ。

ーーダァン!

 一発の銃声が部屋を響かせ、硝煙の臭いが鼻を突く。
「冷や汗かいたじゃない。銃の発砲音は本当に耳を痛めるわ」
 ユイナが上半身を少し持ち上げてうなだれる。
 レンは、銃を天井に向けて撃っていた。
「やっぱり。白銀の怪物は、まだまだ人間だったようね」
 汗を垂らしながら、四つん這いのレンにユイナが話しかける。
 しかし、レンはまるで気が抜けたように目を見開いてた。


「お前は……誰だ?」
 振り絞るように声を出す。しかし、その意味をユイナは理解できない。


「いたぞ! 撃て!」
 瓦礫が崩れる音と共に複数の足音が聞こえた。
 途端に轟音とも呼べる一斉射撃がレンを襲う。
「待って!」
 ユイナが説得しようと立ち上がるが、レンはすでに撃たれていた。


***


「これで、普通の子と同じように走れるね!」
 若い女の人が男の子に話しかけていた。
 ……これは……夢か?
 ぼんやりとした視界が徐々にはっきりとして来る。
 辺りを見渡すと、小さな病室であるのがわかった。
「でも、からだがまだ重いよ。なんか、変な数字がみえるし」
 ベットの上に座っていた男の子が何もない場所に手を伸ばして、何かを掴み取ろうとする。
 ーーそうか。これは俺がシステムを導入したばかりの頃の記憶か
 色白の男の子ーー幼いレンの腕や足からはコードや装置が肉から露出した状態で、システムはまだ未完全である事がうかがえた。
 レンは、ベットの近くまで歩み寄り幼い自分を見つめる。
 透き通った目。純粋な笑顔。陽気な話し声。
 レンには全て、もう取り返せないものに見えた。


 景色が急に反転したかと思うと、レンは装甲車の隣に立っていた。
 連合軍の死体がそこら中に転がっている。
 胴体が散乱した者。頭部が潰れた者。腕が折れた者。「虐殺」と言うにふさわしい光景が広がっていた。
 ーーレンが初めて人を殺した日。
 レンにあの頃の記憶はほとんどないが、一つだけ、はっきりとしていた。
「みんな死んじゃえ」
 狂った目、歪んだ唇、笑い声に合わせて動く肩。明らかに、壊れている。
 白銀の怪物、が誕生した瞬間だった。


***


 眩しい光がレンの顔を照らす。
 瞼を閉じた状態で、網膜ディスプレイが起動を始めた。

 WELCOM - NOISE SYSTEM

 起動音とともに全身の感覚が戻って来る。
 なにか大事な事を忘れている気がする……。
 昨日の出来事を思い出してみるが思い出せない。
《おはようございます。ユーザー》
「シールリング……。俺は……。何をしていた?」
《頭部への衝撃のために記憶が混乱してる様です。バックアップファイルから記憶情報をダウンロードしますので、少々お待ちください》

 NOW LOADING……

 瞬間。一気に膨大な量の情報が叩き込まれ、頭痛が走る。
 しかし、そんな頭痛も忘れるほどの速さでレンは起き上がった。
 いや。起き上がろうとした。
 全身を拘束器具で固定されていたからだ。
 監視魔法がかけられた水晶玉、部屋中に描かれた監視魔法陣。
 同時に、ドアが開き数人の武装した兵士が入室する。
「お前が連合国の試作品か」
 小麦色に日焼けした肌に、スキンヘッドの男がレンの頬をつかむ。
「ここはどこだ?」
 レンは、男の手を振りほどいて、睨みながら質問する。
「クルスティー学園の集中治療室だ」
「監視と観測のための魔方陣をこんなに用意しておいて。笑わせるな」
 レンが上半身を持ち上げようとすると拘束器具が全身を縛り上げる。
「むかつく! 背中が痒いだろ! システム解放!」
 レンの全身を包むように結界が無数に現れる。
 複数の短い悲鳴が聞こえたが、すぐにレンの視界が真っ暗になる。
「ゔぁぁあ!」
 部屋中が青白く光る。兵士たちが一斉に光系統の魔法で電流をレンに浴びせる。
「やめなさい!」
 鈴のように上品な声が響く。ユイナだった。
「大丈夫? あなたたち! いくら捕虜でも人権はあるのよ!?」
「捕虜? 人権? そいつは、『生体兵器』ですぜ? お 嬢 様 ?」
「黙れ! エーベルハルト! 理事長が彼と合いたいそうよ。彼を借りさせてもらうわ」
 ユイナは鋭く怒鳴りつけると、レンの拘束器具を全て外す。
「おい! なに外してるんだ!」
 兵士たちが魔方陣をレンに向ける。しかし、ユイナはスキンヘッドの男を睨むとレンを部屋の外に連れ出した。
「なぜ、拘束を解いた」
「あなたは、無駄な抵抗はしない。そうでしょ?」
「さっき、システムを解放した」
「背中が痒いとかのくだらない理由だったけどね」
「そうだな。基本的には、無駄な反抗はする気がない」
 レンは暗い瞳を床に向けて、つぶやく。

 自分が人間なのか道具なのか。それさえ、わからない。
 軍の研究所に移動された後、レンは生体兵器として酷使さていた。到底、自分の意志。というものが芽生える環境でもなく、ただ生きるために命令に応えた。
 迷いなく、罪悪感を消し、道徳の概念を忘れる。これが、彼らへの教育方針だ。
 最も残酷な訓練としては、ユーザーの一人一人にペットを与えて育てさせる。
 しかし、愛情が湧いた途端にそのペットを自分の手で殺させるという狂ったものだ。
 これを、何度も、何度も、何度も繰り返し、人としての感情を麻痺させていくのだ。
 だが、レン・サイフラはその訓練を受ける必要がなかった。それも、感情を抑える事を出来ていたからである。

「…………。ついてきて」
 ユイナは、目を細めてつぶやくとレンの拘束服の袖を引っ張る。

 レンは彼女を殺せなかった。
 なぜだ?
 その疑問だけで、脳が焦げてしまいそうになる。

「……な……に……?」
 ユイナを壁に押し付け、首を絞めてみる。
 しかし、やはり殺せない。力がまるで湧いてこないのだ。
 ユイナは、驚きを隠せない表情で地面に膝を付ける。動揺して、息を荒げ始めた。
「何もない。ただ、なぜお前を殺せないのかを考えてただけだ」
「は……はぁ?」
 心底ありえない。という表情をしながらユイナは立ち上がる。
「次、変な事したら殺すからね? いいね!?」
 レンを睨みつけると、ユイナは前に向かって歩き始める。

 彼女だけが。初めて、真剣に俺と向き合ってくれた。
 これが、ユイナを殺せなかった原因なのか?
 正直、驚いた。あそこまで、人と向き合ったのは初めてかもしれない。

「早くしなさい!」

 レンは、頭を振る。
 ダメだ。意志を持つものは弱い。感情を感じる者はもろい。そう繰り返しながら、レンは、ユイナの後を追いかけた。

試作品・タイトル6

試作品・タイトル6

科学世界と魔法世界が敵対する舞台。科学世界の少年兵「レン・サイフラ」は特殊能力を持つがゆえに生体兵器として酷使される日々を送っていた。 ある任務で魔法世界に潜入した彼は、おなじく不可解な力の持ち主の少女と出会う。 そんな、彼女に持ち込まれた亡命の話。最初は、断るレンだったが魔法世界や彼女と触れ合ううちに科学と魔法の敵対理由の謎、彼女と自分それぞれの秘密に近づいていく。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-02

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 第一章 白銀の怪物
  2. 第二章 システムと剣