最果ての宇宙

初めまして。
SF風の物語を執筆させていただきました。
感想、アドバイスを戴けると嬉しいです。

-序章- 初めての小説ですので、至らぬところが多々あると存じますが、よろしくお願いします。

 静寂が規律を守るのはさして珍しいことではない。が、つねにそうであることは異常だ。それが我々人間の常識。
 空は排煙のようにどんよりした雲に覆われている。それは方々から立ち上る黒くもうもうとした煙から成っているのかもしれない。
 その煙は決まって大都市から立ち上っている。息を吹きかけることで姿を消してしまう砂塵のように、空虚でさびしげな大都市。
 かつては自然や生き物たちで賑わっていたのだろうが、現在は面影一つなく、ひどく痛々しい傷跡のようで。
 そんなことは誰でも知っていることだ。言わなくても分かっている。
 そうだ、誰もが知る限りでは、世界は終わりを遂げた。
 終わってしまったと言えば語弊がある。訂正するのであれば、生まれ変わった、と。
 簡単なことだ。地上の権利が人間様の手元から剥奪されただけのこと。
 それは『彼ら』によって成された。ある人は妖精と呼んだが、決まった呼称などない。重要なのは呼び名ではなく、彼らによって世界が崩壊した事実なのだから。が、その事実も現在の世界には無価値なものだ。
 幾年もの間、人類が住処としていた地上は、神にも、そして我々人間にも見放され、いまでは白き怪物が闊歩する。紅い瞳を獰猛(どうもう)に光らせる、彼ら。
 さて、そんな荒廃した地上に、落ち着いたある人間の青年と、対照的に、せかせかと忙しなく駆けまわる美しい少女がいるではないか。
 とても風変わりな、そして奇妙な組み合わせな二人組である。ただでさえ地上に人間が存すること事態、珍しいことなのだ。
 すると、少女は言葉を紡ぐ。
「ねえ、グリム、あれはなにかしら。鉄のお人形?」少女はある方を指さす。「私たちと、なんだか似ているようだけれど……ねえ、聞いているのかしら、グリム?」
 対する青年は無言。
 少女はぷくりと頬をふくらめ、青年の腕を揺さぶる。
 耐えられず、青年は鬱陶(うっとう)し気に少女を睨む。しかし、決して不機嫌そうにではなく、ただ鬱陶し気に。
「こら、やめないか」青年は腕を揺さぶる少女を突き放す。「何事だ? ああ、機械人間(シュタインマン)か。気にすることはない、ただの木偶だ」
「そうなの?」少女は白い眉根を寄せ、考える。「でも、そんなことはないと思う。どのようなものにでも、意味は必ずあるはずだもの」
 少女の言葉に、青年は頷く。
「同感だな、お嬢さん。だがな、意味とは決してよい方向だけだとは限らない。その逆も然り、だ。悲しいことに、やつはその類だ」
「そうなの? ……そうなの、可愛そうなシュタインマン。きっと、彼にも不満があったのだわ、そうよね、グリム?」
 少女は問いかける。青年は肩をすくめ、返事を放棄する。
 少女は気にしない。視線はいまだ機械人間に注がれている。
 静寂が破られるのは久しく、歩き続ける人間は珍しく。
 が、重要なのはそこではない。
 なぜ、目的を持っているのか、ということが重要なのだ。
 もっとも、希望を持ったところで、無価値だ。
 今までもそうであった。これからもそうであろう。
 人間には何もできやしないのだから。

-青年と紳士-

 周囲は漆黒に包まれている。石壁の亀裂からただよう風が、僕の肌を撫でる。寒さを伴ったけれど、気にはしない。
 ここがどこなのか、目が漆黒に慣れているから、辛うじて分かっている。
 見慣れた、とある一室だ。
 もとは機械群や、薬品臭いガラス張りのキャビネットが綺麗に並べられているのだけれど、いまは部屋の隅へ押しやられている。
 現在は中央に椅子がふたつ。もちろん、そのひとつには僕が。
 対するもうひとつには男がひとり。漆黒のせいで、はっきりとは見えない。
 男は話す。「世界はとてつもなく広大だ」と。
 僕はひとつ頷き、それに同意した。
 すると、男は問うてきた。「お前の世界は、どこまでを指す?」と。
 僕は「宇宙さ」と、飾り気のない回答を言ってやる。
「だろうな。人は人が想像し得る範囲でしか答を出すことができない。真実は総じて妄想のなかに存在するのだ」
 理解できなかった。ちがう、理解できないのではなくて、真意がつかめなかった。
 だから今度は僕が問うた。「どういう意味さ?」と。
「過去の人々は現代の人々と変わらず夢を見た。たとえば、空間歪曲や疑似生命、ほかにも様々だ。過去の人々がこれらに決まって持った思想が分かるか? そうだ、決まってこれらは妄想の範疇なのさ。だがどうだ、いまではそれが当たり前ではないか。
 そこでだ。お前は世界は『宇宙』であると言った。違うな、そんなものは人間が定めたちっぽけな囲いでしかない。あえて愚かな我々の言葉を用いて、お前の答を私の妄想で言い表すのであれば胃袋さ。おっと、なにの胃袋とは聞かないでくれ。私も人間だ、そこまでは分からんさ」
「なにを莫迦な、そんなことがあるわけないだろう?」と、僕はあざけった。
 そんな僕を見て、男は舌をうちながら肩をすくめ、煙草を取り出す。
 燐寸(マッチ)の焦げたにおいを伴って、淡い光がゆらゆらと辺りを照らす。程なくして光は消え、代わりに紫煙が辺りを取り巻く。
「莫迦げた話ほど現実に起き得るのさ。おいおい、なんて顔をしているんだ。なに、これは推測ではなく、真実だ。『宇宙』とは何かの胃袋であること、そして、人間の世界は遠くない未来にて滅亡すること――」
 僕はそこで吹き出してしまった。とてもじゃ笑わない僕がだ。
「まったく、なにを言いだすのかと思ったら」もう一度くすりと笑った。「あなたは神にでもなったつもりかい? そんなこと、分かりっこない」
「分かるさ」男は短く言った。「もうそこまで来ている」
「なにが?」
「なにが、とは困ることを言う。そうだな、白血球」
 男は至極まじめな表情だ。冗談ではない、ということ。
 ねずみが目の隅を横切っていく。そんな短い瞬間(あいだ)に、思考する。
 やはり、考えられない。ようするに、男は間違っている。誰にでもあること。
「ふうん。つまり、その、白血球って、あなたの言った胃袋の主の親衛隊ってところかな。でも、それがなぜ僕たちに関係するのさ?」
 男はため息とともに、もうもうとした煙を吐き出す。床に煙草を押し付ける。あらたに煙草を取り出して、もう一度あたりを照らす。
「仮定として、胃袋の主を《彼》と呼ぶことにしよう。彼にとって、地球や月、火星や土星は器官なのさ。お前は言ったな、私たちとどう関係あるのか、と」男はそこで煙を吐き出す。「大いにあるさ。私たちは彼にとって黴菌と相違ないのだから。そこで、白血球、お分かりか?」
 確かに、と僕は思う。それが真実なら、ありうる、と。でも――
「そうだとしてもだよ。あなたはすぐそこまで来ていると言った。でも、今はどう? 僕たちは危険に晒されていないじゃないか」僕は肩をすくめて言った。「あなたの話から汲み取れたことは、僕の前にいる人間はユーモアに富んでいた、という事実だけ」
「お前は私が愛してやまない人間に良く似ている。……そうか、ならば」男は懐から何かを取り出し、僕に向ける。「これで終わりだ」
 暗がりから、僅かに把握できた。光弾銃、と言う名の死神の鎌。
 僕はその場から動かない。
 男は安全装置を外し、銃口がエネルギーを充填する。シークエンス完了。
 トリガーを引く。
 ともなって響音。響音。響音。
 そして、着弾に続き硝煙。
 最後に、唸り声。
 僕の頬に、つうと紅い涙が伝う。
 僕の後方に着弾した。
 男は自慢げに両腕を広げている。僕には分からなかった。
「さあ、これで理解してもらえただろうか? 彼が、そう、白血球」
 ばたりと、何者かが倒れる。気になった。だから、僕はそれを見た。
 白光(しろ)だ。漆黒を塗り替えるほどの白光。僕はそれに目を這わせる。
 異常なほど肥大した頭部。わずか下方に幾本も触手のようなものが、いまだ獲物をとらえようとぬたうっている。体躯は人間のそれと類似していた。
 その中でも紅い瞳が、一際目を引いた。とてもきれいだ、とも思う。
 これが、男の言った白血球。不思議なことに、ほんのわずかな考えだけで、すんなりとこいつの存在を受け入れられた。僕が、もしかすると人間ではないからなのかもしれない。
 僕は頻りにうなづいた。
「うん、うん、オーケ、大丈夫。それで、この、白血球、殺してしまったけれど、大丈夫なの? その、彼らは僕たちが危険分子だと判断して、襲ってこないのかい?」
 男は何度か頭を左右に振る。僕はなにか勘違をしていたらしい。
「違うな。さきほどから言っているではないか。私たちは黴菌だと。もとから私たちの行動は危険因子で、私たちは危険分子なのだ。そして、もうそこまで来ている、と」
 男はこちらに何かを放り投げてくる。
 ずしり、と。受け取った腕が僅かに落ちる。
 冷たい。僕の手の中に、死があるのだ。
 光弾銃。死神の鎌の代用品。人間が神を忘れたころに発明された、皮肉にも、偉業の代物。
「ねえ、生憎、僕は拳銃を撃ったことはないし、何かを殺したこともない」
「恐れることはない。白血球どもは人間よりも軟弱だ。ただ、例外がある」男はくたびれた煙草を投げ捨てる。「やはり、プランBだ。対抗したところで勝利は掴めやしない。自分を守れ。もし死にたければ自分で死ぬか、もしくは彼らに殺されるか……ま、そんなのはお前の勝手だが」
 男は素っ気ない。なのに、何故、僕を手助けしてくれるのか。
 本当のところ、分かっていた。男は僕のことを知っている。それは他人や友人の比ではないことを。
 それから程なくして、世界は荒廃した。
 男の言った、白血球どもによって。
 男は死んだ、人間どもによって。
 繰り返す。世界は崩壊した。人間どもの手によって。

都市と少女

 世界は美しい。とても綺麗な虹色を持つ世界。個々によって異なる色を放つ。それは空間を穿つ槍のようで。
 夢だとしても、私はこの世界を信じている。
 私は迷いなく大好きと言える。
 もちろん、お父さんと犬のルーテスも大好き。亡くなったお母さんのことも。
 私は一番お気に入りの真っ白いお洋服に身を包んで、お家の外へ出かけている。吹き抜ける風が心地よい。青空と太陽がとても綺麗。
 自然とメロディーを口ずさんでしまう。
 緑に囲まれた道の脇に綺麗なお花を見つける。新しい発見。
 外には知らないものが沢山。あら、私だって物知りなんだから。ただ、都合よく知らなかっただけで。
 例えばもうすぐ――ほら、着いた。私の知っているメロディーを歌い終えるくらいの距離にある大きな都市。かの有名な自由都市には程遠いけれど。
 薔薇の絡みついたアーチを潜り抜ける。さきには街道があり、数多くの人々が活気盛んに賑わっている。
 木箱のうえに立って、声高々に恋愛を語ったメロディーを歌う人もいる。口から離れたメロディーは虚空で霧状の人形となり、くるくると踊り出す。たぶん、霧映像(ミストビジョン)スプレーを口内に仕組んでいたのだろう。
 ある店頭の飾り窓のむこうに動物機械(ペットボット)が幾体も展示してある。なかには見世物用に動作しているものがいくつか。
 空に映し出された空中モニターに異なる広告が順々に流れている。すると、大気をふるわせ聞き馴染んだセリフが私の耳に届く。「驚きおののけッ、こいつァ何でもこなす万能なやつ! 機械人間(シュタインマン)だ!」と。
 そこで、私はおかしくて笑ってしまう。それはお父さんが私に自慢げに話をするとき、いつも切り出す文句だったから。
 だから私はいつも言ってやるのだ。「そんなことをしては、お手伝いさんのお仕事がなくなってしまうわ。お父さんはひどいことをするのね」って。
 するとお父さんは決まって私の言ったことを否定するの。
「違うな、娘よ。私が行うのは商売(ビズ)でも、摂取でもない。ましてやせっせと家事をこなすお手伝いロボットを作っているわけでもない。こいつは繋ぎ手だ。未来への成功を秘めた手綱なのだ」
 私は考える。「うーん、私には難しくて良く分からない。だけれど、成功したら教えてくださいね、お父さん。私は楽しみにしているわ」
 そうやってお父さんはいつも二度頷いて地下室に潜っていくの。今日も、いつも通り、そうだと思う。
 すこしは外に出て、息抜きをするとよいのに。きっと、お父さんは世界の素晴らしさをまったくしらないでいるから、ずっとあそこに潜り込んでいるのだと思う。そうだわ、いつか世界の素晴らしさを教えてあげなければ。
 私は教会の前で足を止める。くすんだ金の十字架が屋根のうえで神様を賛美している。
 私はぎしぎしと軋む扉を抜ける。天使や聖母様が描かれたステンドグラスが太陽の光を受けて、神秘的に輝いている。
 長椅子がいくつも並べられ、奥には男性の方がひとり。
 男性は私に気付き、にっこりと優しげに微笑む。「おや、お嬢さん、どうかしましたか? いえ、理由がなくても結構ですね、神は何者も拒みません」
 私も微笑んだ。「お母さんのお墓に用があって……いまは大丈夫かしら?」
 男性は恭しくある方向に手を向ける。「ええ、大丈夫ですとも。こちらで何かご用意をしたほうが?」
 私は首を振って遠慮する。
 教会を抜けたさきにはいくつかの墓石がある。そのうちのひとつに、お母さんが眠っている。なぜ眠ってしまったのかは、お父さんは教えてくれない。犬のルーテスも。
 でも、気にしない。お母さんはここにいるもの。それだけで、私は充分。
 さきほど見つけたお花をお母さんの墓石のまえに植える。それからいくつかの楽しかった記憶の話を。
 神父さまにお礼を告げて、教会をあとにする。
 教会を出て、立ち止まる。神父さまが言ったように、私は理由もなく外に出たのだ。体が勝手に動くままに。だから、これから、どこに向かえばいいのか、すこし悩む。
 白い紙に、ほかの色がないか探すみたいに、私は考える。
 すると、私の視界にぱっと色がついた。雑踏を縫うようにして、異なる色へと近づく。
「やあ、お嬢さん、絵本はお好きかい?」安楽椅子に座った老人が、やわらかく言った。
「ええ、絵本は大好き、べつの世界のお話を見られるのだもの」
 絵本がいくつか並べられた、古典的な木の床店。紙の絵本を見るのは随分と懐かしい。一般では映像紙が主流だから、珍しい。そのせいか、私のほかに、誰もいない。
「然り。現実とはひどく現実的でね。が、現実とはどのようなものなのか、じつのところ人間は分からないでいる。さしずめ、逃避することのできない実体のことを、そう呼ぶのだろうよ」
「でも、べつの世界には逃げることができる?」
「賢い子だ。そうだとも、現実とは、そう考えたときにだけ現れる幻想でね。ようするに、考えなければよい。そのために、いくつもの世界が絵本のなかにあるのだよ」
 私はひとつの絵本を手に取る。題は「少女を愛した壊れた人形(ぶりき)」だ。中身を見てみると、ゼンマイ捻子が取り付けられた人形が、倒れこんでいる。そのとなりに、少女がひとり。
 気になった私は、ぱらぱらとページをめくってみる。
 少女にゼンマイ捻子を巻かれた人形は、生き返ったように動き出す。それから少女と人形は友達になり、親友になり、やがて人形は少女を愛した。しかし、いくらもしないうちに少女は動かなくなり、人形は涙で心が錆びて、壊れてしまった。そんな悲しいお話。でも、温かいお話。
「悲しいことに、結末とは常にひとつでね。それこそが我々が嫌ってやまない現実と呼ばれるものさ。そして、嬉しいことに、道中とは常にいくつも存在する。どの道を選ぶかで、結末はいくらでも変わりえる」
「でも、それがよい選択なのか、私たちには分からないわ」私は誰かさんのように、否定してみる。「けれど、それがよくない選択なのかも、分からない」
「然り。行う、行った、行うだろう。つまるところ、道など初めからないのと同じで、結末を知りえない身の上では、判断などさして重要なことではないのだよ」
 私は老人の頓知にくすりと笑う。「あなたは本当に絵本屋さん? ずいぶんと変わった思想をお持ちのようだけれど」
「いや……いや、これはおそらく、私の思想ではないよ」老人は乾いた笑声をあげる。「いやはや、やはり現実とは見たいものではないね」
「ええ、ええ、そうね。くすっ、ごめんなさい、変なことを言ってしまって」
「いいや、それはこちらの方だよ、お嬢さん。たいくつな話をしてしまったね」
 私はそっと絵本をもとの場所に戻す。すると、老人は首を振る。
「持って行ってくれてかまわないよ。たいくつな話のつまらないお礼だ。それでもよいと言うのであれば、無理強いはしないがね」
「ありがとう、変わった絵本屋さん。それでは、私は行きますね、また今度」
「ああ、それではね」
 私はもう一度お礼を告げて、帰路についた。青と白を湛えていた空は、どちらも橙に姿を変えて幻想的だ。遠くで飛空艇がふわふわと漂うように飛んでいる。普段は見ることの少ない野生の鳥が優雅に飛んでいる。
 今日はいつもとは違って、発見が沢山。
 薔薇のアーチを抜けて、森にさしかかる。私は老人からのお礼をぱらぱらとめくる。
 とてもよいお話だと私は思う。どんなに異なった環境で生を授かったもの同士でも、生きる上では些細なことでしかないと、この絵本は伝えているのだと思う。
 私の表情がわずかに曇る。それはべつの世界での話だ、現実とは違う。現実では人間同士でさえ相容れないことがあるのだから。
 ふと思う。お父さんのシュタインマンは万能だといっていたから、誰にでも愛され、自身も誰をも愛し続けるのだろうか。すくなくとも、絵本の中での人形は人間を愛した。きっと少女もそうだっただろう。
 私はそうなることを願う。その結末はきっと存在するもの。そう考えると、自然と曇っていた表情がにへっとゆるむ。
 はやくこのお話をお父さんに聞かせてあげたい。必ず外の世界に興味を持って、大好きになるはずだから――
「わっ」瞬間、なにかにぶつかって私は尻餅をついてしまう。「いてて、ごめんなさい、前を見ていなかったものだから」
 私は謝ろうとその人に顔を向けながら立ち上がろうとした。が、立ち上がることはできなかった。
 なぜって、身体が動かなくなってしまったから。その人をみてしまったから。
 人? 人ではないわ。動物機械でもない。ましてや機械人間でもない。
 今日は初めてが沢山。
 視界を覆う白。うねり続ける無数の触手。
 それらが私を優しく包む。その拍子にちらりと紅い瞳が見えた。私はやっと言葉を形にする。
「きれい。とても、きれい」
 言葉はそこで途切れた。
 なぜって、私はそこで気を失ってしまったから。

最果ての宇宙

読んで戴き、有難うございます。
感想、アドバイスをよろしければお願いします。
それでは、またお会いしましたらその折はよろしくお願いします。

最果ての宇宙

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  • 小説
  • 短編
  • 冒険
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-05-31

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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  1. -序章- 初めての小説ですので、至らぬところが多々あると存じますが、よろしくお願いします。
  2. -青年と紳士-
  3. 都市と少女