アリス譚

1.
彼女は今日も、不思議の国への入り口を探している。
彼女は日本人だ。カラスの様に黒い髪と井戸の底の様に黒い瞳を持っていて、誰がどう見ても生粋の東洋人である。取り分けて美しくはない。と言って、目立って醜いわけでもない。
それでも彼女は、シャーロット・ヘンリーやフィオナ・フラートンなんかよりも、自分こそが『アリス的』であると信じ込んでいる。実際にモデルとなったアリス・リデル以上に、自分が『アリス的』であるとさえ思い込んでいる。
二六歳になった今でも、彼女は殆ど毎日ひたすらに歩き回っては、白ウサギと出会うその日を待ち続けている。
では、彼女は気狂いなのだろうか。少なくとも、彼女自身とその周囲の人間は、誰もそうは思っていない。
何故なら彼女は社交性もそれなりにあるし、同居している両親の家事を手伝って、それなりに孝行をしている。一方で、服飾関係の専門学校を卒業してからは、「服飾関係のアルバイトみたいな事をしている」と、周囲にぼんやりと嘘をついて誤魔化しながら、風俗店で働いている。しかし、それを恥じて周囲に隠すだけの羞恥心と常識を持っている。
そして肝心な事に、彼女は自分がアリスだと信じている事を、これまで生きてきて一度も、他の誰にも話したことは無い。
彼女がそれを誰にも話さなかった理由は、単に周囲からの批判や偏見の目を避ける為というのも一つにはあるが、最大の理由は彼女の信念に由来するものである。
すなわち、彼女は自分をアリスだと信じているのだから、自分でわざわざ「私は不思議の国のアリスです」と宣言してはならない。物語の中でもアリスはたまたま見かけた白ウサギを追いかけて、自ずと冒険劇の主人公となったわけで、最初から自分の事を物語の主人公であると主張してしまえば、彼女はその時点でニセモノのアリスという事になってしまうのだ。
そういう意味で、彼女は普段、ごく当たり前の生活を過ごす必要がある。身なりや言動も、いま自分がいる現代日本の生活環境の中で、際立ったものであってはならない。そうして、いつか白ウサギと出会えるその運命の日を、ただひたすら待つしかなかったのだ。


2.
しかし彼女もいつしか立派な大人になってしまった。
彼女は二一歳の時から、その大人になった身体を売りものにして、洋服を買ったり、友人と食事をしたり、趣味の散歩(という名目での『不思議の国さがし』)をする為の費用を稼いでいた。
彼女独自の『アリス観』から、定職に就く事は憚られた。裕福ではない家庭にあって、いつまでも小遣いをもらい続ける事に後ろめたさを感じていた彼女はある街で『不思議の国さがし』をしていた折に、一人の男から声をかけられた。
見るからに軽薄そうな風貌のその男は、風俗店のスカウトだった。胡散臭さを直感した彼女は最初、男の相手をするつもりは無く、聞こえない振りをして通り過ぎようとした。しかしその時、ふと彼の右腕に、ハート・スペード・ダイヤ・クローバーマークのタトゥーが並んでいるのが目に入った。それはセンスの無い配置・配色で、非常に出来の悪いタトゥーだったが、それからトランプの王国を連想した彼女は、つい立ち止まってしまった。
この男、歳は四十を超えているようで、髪にはだいぶ白髪が混じっており、それを帽子の中に隠していた。帽子はシルクハットではなかったが、彼女はそこから不思議の国の住人である、狂った帽子屋をも連想した。
この二つの連想があったとは言え、さすがの彼女もそれが単なるよくある偶然だという事はすぐに認識したが、とっさに数秒間の隙を作ってしまった。その数秒間は男が付け入るのには十分過ぎる時間だった。
その才能を除けば、恐らく何も残らないであろうこの薄っぺらい男ではあるが、やはりその洞察力と話術は実に見事だった。ちょっとした受け答えだけで、一見平凡な彼女から何らかの異質性を見抜きだし、更にそこに付け込んだところはさすがと言える。
「君さ、なにか実現したい夢があるでしょ?いや、言わなくてもいいよ。そういうのはさ、あまり易々と語るもんじゃないよね。わかるわかる、うん、わかるよ。でさ、その実現の為にはさ、時間を有効に使わないと。それにぴったりな仕事があるんだよなぁ。それにさ、君みたいな何か人と違う雰囲気を持った子なら、直ぐに人気者になれると思うんだなぁ。」
彼女はただ戸惑いながら頷いただけだったが、男はもう歩きはじめていた。すると何故か、つられる様に彼女も自然と付いて行ってしまった。
男は直接的な単語はひとつも出さなかったが、彼女にはその仕事というのが何を意味するのか、なんとなくわかっていた。にも拘らず、それに対して殆ど抵抗感が湧かない事に、彼女自身も驚いていた。
勿論『アリス的』であろうとする彼女が、生来淫売であった訳では無い。それどころか、その時点では精神的にも肉体的にも、本来の意味で純潔だった。しかし、その純潔といおうのは一般的な価値観とは異なる性質を持っていた。つまり、肉体的な純潔を捨てる事は、彼女にとっての精神的な純潔が穢す事と直結しなかったのだ。


3.
普段、彼女のアリスであろうとする為の活動と言えば、散歩と称した『不思議な国さがし』だけだった。
前述の通り、彼女の思想からすると、それ以上の活発な行動は却って自らの『アリス性』を否定する事になってしまう。
両親は散歩を唯一の趣味としている少し変わり者の娘を、全く心配しない訳ではなかったが、一見して素直に育った我が子に対して敢えて必要以上の詮索はしなかった。
ある秋の日だった。彼女は少しさびれた街並みを歩いていた。
特に最近の、散策中の彼女について、知合いが見たら少し異様な感じを受けるだろう。ぼんやりと虚ろな目で目的も無く歩き回るその様は、散歩と言うより徘徊という言葉の方が合っていた。目的が無いだけに、不安げな足取りでひたすら歩みを進めている。彼女の頭の中には何百、何千と繰り返されてきた『あのお話』が、止まらなくなったオルゴールの様にただ淡々と繰り返されている。
その日も彼女は自失の表情で、小型車が一台通れるかどうか位の、細い裏路地を歩いていた。ちょうど物語の冒頭、白ウサギとの出会いの場面を頭に描いていた。何やら白い影が彼女の五メートルほど先の道を横切って、すぐ右側にあった民家の庭へと消えたその瞬間を彼女は見逃さなかった。一瞬だったが、彼女にはそれが白ウサギとしか思えなかった。
静かな興奮が彼女の胸をアレグロの速度で高鳴らせていった。その民家の前まで早足で、しかし誰かに興奮を隠す様に足音に気を付けながら、向かって行った。
こじんまりとした二階建ての一軒家にある前庭には、軽自動車がやっと一台停まっている小さな駐車場と、ささやかな植込みのある小さな花壇があるだけだった。
先程の白い影は、煉瓦で出来た花壇の縁にちょこんと座って彼方を見つめていた。
それは、小さな鈴の付いた首輪をした、真っ白でやや太った老猫だった。
彼女はがっかりしかけたが、咄嗟に別のひらめきで自らを鼓舞した。もしかしたら、この白い猫こそが白ウサギの代わりなのかもしれない、と。
年月と、それによる焦りは、彼女の意識しないところで、少しずつ彼女のアリスへの拘りを軟化させていた。
彼女はその白い猫にそっと近付いていくと、遂にお互いの目があった。慌てるでもなく、その白い猫はゆっくりと背中を向けて、花壇の向こうの民家と隣家の隙間にある細い道へ入っていこうとした。
すかさずその背中を追おうとした彼女は、その家の住人であろう、老夫人が二階の窓からぬっと顔を出したことに気が付いた。明らかに怪訝そうな様子でこちらを見ていた。
老婦人に何か言われる前に、慌てて彼女は「すいません、かわいい猫がいたものですから」等と言い言い、軽く頭を下げながらその場から立ち去った。逃げる様に元来た道を辿り、駅へと向かっていた。
彼女は今度こそ、大いに落胆した。つい先程の出来事、白ウサギではなかったという落胆よりも、『アリス的』とはとても言えない、白い猫に案内を乞おうとした、自分の妥協が許せなかった。自分への失望があまりに大きかった。。
通過駅であったその町の駅のホームで、彼女は特急が通過していくのをただぼんやりと見送っていた。
その虚ろな目は、いつしか白色に濁っていた。


4.
その翌日から、彼女の『不思議の国さがし』はこれまでと違った非常に無気力な性質のものになっていた。
以前の純粋な熱意と代わって、「それを諦めてしまった時点で、私には生きる目的がなくなる」という逼迫した恐怖心が『不思議の国さがし』を実行する最大の動機となっていた。その根本の変化について、彼女本人は無自覚で、何となく気乗りがしないながらも、それを続ける他なかった。
『不思議の国さがし』が一向に成果をあげない一方で、彼女の風俗店での仕事ぶりは周囲から高い評価を受けた。一見素直で当たり障りのない性格と勤勉さから、同僚や従業員達からの信頼も厚かった。彼女に現在の仕事を斡旋したあの男の見る目は、確かだったと言える。
これも無自覚にだが、自分が不思議の国にどうやら歓迎されていない事を感じ始めていた彼女は、周囲からその存在を認められるその店を、いつしか居心地良く感じていた。
実際の仕事において、どんな悪質な客に対しても、体面を保ちながらも殆ど無感情で従順な接客を行える能力は、この仕事における一つの特出した才能であった。
その様な仕事上の成功に反比例して、絶対的な精神的支柱であったアリスへの信念が揺らいでいる事を、遂に彼女自身も自覚しようとしていた。


5.
その日も、白い猫の一件以来、不毛となった『不思議の国さがし』を無気力なまま終え、夜からの出勤へと向かっていた途中、ある男に声をかけられた。
その男は風俗店の常連客の一人で、彼女は気に入られ、何度も指名を受けていた。
まるまると太った四十代後半と見えるその男は、性的不能者だった。
初めて彼女がその男を相手した時に、彼女はあらゆる手を尽くして男のご機嫌を取ろうと試みた。結局、男の不能は破られることは無かったが、彼女の真摯な姿勢を気に入ったらしい。以降、男は何度も彼女を好んで指名した。
二度目以降も、一応彼女は試行錯誤したものの、やはりソレは反応を示さなかったが、その姿を眺めている男は常に満足そうだった。回数を重ねるごとにそういった行為に費やす時間も短くなり、次第に会話が増えて行った。
必ずしもそういった客が珍しい訳ではない。彼女の経験だけでも、客からおかしな行為を強要される事は少なくなかったし、彼女の同僚から聞いた話ではもっと突飛で強烈なものもあった。
彼女にとってこの男は、ただその物腰柔らかな態度と、太っている割に清潔感のあるところ、そして不能にも拘らず自分を指名してくれるという事もあって、いいお客さん、と言う好意的な印象をのみ持っていた。
声をかけられたのがそんな男だったので、彼女もそれほど警戒心無く受け答えた。
初めて店の外で顔を合わせた男の容姿を改めて見て、「まるでハンプティ・ダンプティの様だなぁ」と、その時初めて思った。
男は他愛のない世間話を二、三した後、彼女とは別方向へ歩いていき、早足でやがて人混みに消えて行った。
男に対する恋心などというものは彼女には微塵も無かったが、何故だか別れを惜しむ気持ちがふと浮かび、その後ろ姿を暫く見送っていた。


6.
その『ハンプティ・ダンプティの様な男』が再び店を訪れたのは、それから二週間後の事だった。
いつもの様に迷わず彼女を指名した男だったが、いつも会った瞬間から散弾銃の様に話を続ける元気さが無かった。
その代わりに、個室で二人きりになった瞬間、男は彼女の耳元で囁いた。
「いや、ついに仕事で失敗しちゃってね。おじさんはちょっと、遠いところへ隠れなきゃいけなくなっちゃってね。ん、まぁ遠いところって言っても、北海道なんだけど。」
そこまで話すと、その大きな図体に似つかわしくない、華奢な椅子にどしっと腰かけると、いつもと変わらない調子で話しはじめた。
「まぁ、もうここへ来ることは無くなっちゃうだろうけど、俺の事、忘れないでね、なんてね。北海道、実は初めて行くんで、ちょっと楽しみなんだなぁ。おじさんの様なデブには、東京よりも、きっと住みやすいだろうなぁ。」
そう言ってグフグフと笑っていたが、彼女は事情がよくわからず、戸惑い、愛想笑いをしながらも首を傾げていた。その様子を見ると、男はもう一度彼女の耳元へ顔を近付け、先程よりも小さな声で囁きかけた。
「実はね、おじさんは、ちょっと危ない商品の取引をしていたんだけど、まぁちょっとそれが、悪い人たちにばれちゃってね。」
そう言いながら、男はジャケットの内側ポケットから、封筒を取り出した。彼女はうすうす、それがどのような類のものかは分かっていたが、咄嗟の判断の上で、尚もとぼけたふりを続けた。男は、少しもどかしそうな表情をしいしい、それを彼女の手に握らせて、更に押し殺した小さな声で続けた。
「これ、ね。ちょっとしかないけど、記念にあげるからね。別にいらなかったら、捨ててもいいからね。あ、でも、捨てるにも、その辺にほっぽらないで、気を付けて捨てるんだよ。」
尚も彼女は、とぼけた表情を崩さなかったが、後で捨てる積りで、それをすんなり受け取った。ここで変に受け取りを拒否するよりも、その方がすんなりこの事態を収拾できると考えたからだった。
彼女がそれを私物の小さなポーチにしまうのを見届け、男は満足そうに微笑んだ。その後、彼女に対して、ただ『子供をあやす様な愛撫』を一通り終えると、持ち時間を半分以上も余して、男は部屋を出て行った。
今度は、先日の様な名残惜しさを彼女は感じなかった。


7.
男が帰った後、その店にしては珍しい事に、店は非常に繁盛し、彼女は大忙し。休む間もなく対応に当たった。
男から譲り受けたその封筒は、中身を確認しないままポーチに入ったままになっていた。
漸く夜中に店が落ち着くと、彼女は急いで帰り支度を整えて、店を出た。実家暮らしの彼女は、あまり帰宅が遅くなると、アパレル関係のバイトという嘘を、家族に怪しまれてしまう危険性があった。
店の前ですぐにつかまったタクシーに乗り込み、車が走り出すと、やっと一息ついた彼女はポーチの中のあの封筒を思い出した。
そんなに厚みの無い、通常サイズの茶封筒で、セロテープで封がされている。厄介なものが入っている事は容易に予想できたが、無視するわけにもいかず、開封してみた。
案の定、というか予想以上に露骨に、ケースにも入っていない裸のカプセルが六錠、コロコロと手のひらに落ちた。青色のカプセルは、一センチほどの大きさだった。
無愛想なドライバーは全く気付く由もなく、ぼんやりと赤信号を眺めていたが、彼女は慌ててそれを封筒へ戻し、その封筒をポーチへ押し込んだ。
危なっかしい品物である事は予想通りだったとは言え、やはり動揺した。
その動揺からか、タクシーを降りると、何かに怯える様に急いで家に帰った。途中の道すがら、捨てる事も考えたが、自分の言えの近所に捨てるという事は何だか恐ろしく、結局家まで持ち帰ってしまった。
もう夜中だったので、音を立てない様に静かに玄関のドアを開けると、両親はもう眠っている様だ。
自分の部屋へ入ると、すぐさまその封筒を箪笥の一番上へしまい、何とか気を落ち着かせた。次の『不思議の国さがし』の時に、どこかへ捨てて来よう、と思いつくと、一応は安心できた。
安心すると、今度は疲労と体のだるさがどっと押し寄せ、彼女は顔も洗わずに、そのまま眠りについてしまった。


8.
翌日、早朝に彼女は激しい頭痛で目を覚ました。
そしてその数秒後には急激に胃からこみ上げてくるものを感じ、急いでトイレへと駆け込んだ。なんとかそのタイミングに間に合って、汚さずに処理を済ませた。
昨日は疲労の所為だと思っていた身体のだるさの原因が、ひどい風邪であるという事に彼女は気が付いた。
ようやく幾らか吐き気が収まると、洗面台で顔を洗った。鏡を見ると、ボサボサの髪に、くしゃくしゃに汚れた化粧がやつれた顔を醜く映えさせていた。尚も吐き気は続いている。
「私は、本当はアリスじゃないかもしれない」と、その時、生まれて初めて彼女は自分の『アリス性』を真っ向から否定する言葉を頭に浮かべた。
寒気がして、身体中に鳥肌が立った。それは、体調の所為だけではなかった。
まだ眠っている両親を起こさない様に、静かに自室へ戻ると、ゆっくりとベッドに倒れ込んだ。
「もうたくさん」
「私は何のために生きてきたのだろう」
「でも明日には白ウサギが現れるかもしれない」
「そんなはず、ない」
「でも現に、私はこんなに醜い大人になった」
「何もかも、消えてしまう」
「いっそ、このまま死んでしまいたい」
「アリスになりたい、なれない、分かっていた」
「本当に、いま、諦めていいのかな」
「息が苦しい」
「誰かに理解されたい、私を、誰も理解できない」
「不思議の国はどこにあるの?」
「嘘つき、嘘つき、嘘つき」
「居場所が欲しかっただけ」
「お母さん、お父さん、ごめんなさい」
「戻りたい、何処へ?何処にも、戻れない」
「喉が渇いた」
「生まれ変わったら、何になろう」
「逃げてしまいたい、すべてから」
ふと、『ハンプティ・ダンプティの様な男』からもらった、あのカプセルを思い出した。
彼女は自暴自棄になっていた。
鉛よりも重くなった自分の身体を何とか持ち上げて、箪笥から封筒を取り出した。
しわしわの封筒をゆすると、カプセルが六錠、手のひらの上を転がって、そのうちの一つが床の上に落ちた。
それを拾い上げる気力は、もう彼女には無かった。
水を取りに行く気力も無い。彼女はベッドの上に再び身を投げると、一気に五錠のカプセルを口に含むと、粘つく喉の奥へ、無理やりに唾液でもってそれらを流し込もうとした。
喉につっかかる感じを残しながら、やがてそのカプセルは彼女の中へ溶けていった。
先程までの苦痛や苦悩が薄らいでいくのと同時に、意識が遠のいていく感覚を、彼女はとても心地よく感じていた。
足先が痺れ、じんわりと心地の良い熱が胸の上へ圧しかかる。
ヒューヒューと、静かに風が右耳から左耳へ、通っていく。
やがて視界が瞼に塞がれる刹那、チェックのベストを着た白いウサギが、重力に反して、天井の上を駆け抜けていくのが彼女にははっきりと見えた。
柔らかな毛布が、彼女の背中を包んでいる。
微笑みながら、彼女は眠りに落ちた。
「このまま、もう二度と、目が覚めませんように」
そう、祈りながら。

アリス譚

アリス・リデルの幼少期の美しさに惹かれ、それとフランツ・カフカの少女との人形を改したふれあいのエピソードに着想を得て、何とかそういったものの一端を現代的に表現しようと書き始めたものの、全く逆の性質のものになってしまいした。カフカのその素敵なエピソードにいたってはかすりもしていません。相変わらず、書きながら筋を考えるので、だめです。
このお話の中で描きたかったのは、もうひとつ。「自分は特別なのだ」という人間の(あるいは僕自身の)自惚れを、表面はフツウを装いながら信条として持ち続ける、その滑稽さ、つらさです。アリスという題材は突飛ですが、これに近いものを持っている人は、多いのでは、と訝っております。
さて、最後に、作者自身による、非常に傲慢なみなさんへの注文を付言します。
これは、悲劇でしょうか。ハッピーエンドだととらえてください。「彼女」の最後の微笑みは、アイロニーではなく、「彼女」の性格どおり、素直な性質のものです。

アリス譚

アリスは『不思議の国』を、今日も探しているのです

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-05-31

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