送らない手紙

あなたに届かない手紙を書きます。

あの日も今日と同じようなどんよりとした日で、

たまに雨がちらついていたことを覚えてる。

あれはまだ私が小学生の頃、私はまだ恋を知らなかった。

毎年七夕になると教室の一番後ろには笹の葉が飾られて、

皆他愛ない子供の願いをつるしていた。

けれど、その中の真っ白い短冊の一つに

丁寧な字で"好きな人と両思いになれますように" と書かれていた。

なぜだかその文字に、どきっとし、

両思いって何だろう…? と考えた。

私はそのとき、誰から意味を聞いたのか、自分で調べたのかは覚えていないけれど、

初めて言葉の意味することを知り、

あの子もあなたのことが好きなんだって気づいた。


それから2年が過ぎて6年生になり、

卒業したらあなたが引っ越してしまうことを知った。

あの時のことを考えると

私は私が思っていた以上にあなたのことが好きだったのだと今でも思う。

あなたが引っ越す日は、ちょうど今日のようにどんよりとした空で

雨がちらついていた。

私はただベッドの上に横になり、天井をじっと見ながら遊んだ日々を思い出しては、

もう会えないのだと思った。


あれから9年。

私達は違う道を歩んできて、色々なことを経験し、見て、聞いてきた。

きっと私はあのときの私とは違う、多くのことを知りすぎてしまった。

あなたは私を拒みはしない、そう心から分かってはいるけれど、

もし、子どもの頃のように純粋のままだったら、

私は少しも不安を感じず、ただ会いたいという真っ直ぐな気持ちだけであなたにこの手紙を送るのでしょう。

送らない手紙

送らない手紙

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-30

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