混血交錯

思い立ったが吉日。

 …私が…6つだったかな、7つだったかな?…
───私は吸血鬼になった。
 昔々、きっと遠かったあの頃。私はある辺境の村に住んでいた。
其処は、人だけではなく、魔法使い、異端者…吸血鬼。所謂”普通じゃない”人達が住んでいた。
 …きっと、そこに住んでいない人達は危ない場所だ、とか入ったら殺される。なんて事を思うだろう。でも、そんなことは無い。事実、私は今生きているし、ちゃんと毎日を過ごせている。村には規則があるのだ。
 まず一つ”村人に危害を加えない事”…普通に考えたら”人間”がそんな規則を作った所で意味は無い。と思うだろう。…でもね、この村の人間は普通とは違う力を持っている。…その力は微々たるものだけれども、あるのと無いのとでは全く違う。その力は、相手の悪い感情を察知し、消せると言うものだ。この村に住んでいる人間全員が持っている特殊な力なんだけれども、その人が呼吸し、生命があり続ける限りは悪意がある生き物が近づこうと、その悪意は霧散してしまう。この力のお陰で、私達の村は異質な生物、種族たちと仲良く出来ていた。…私が、吸血鬼になる前は。
 その時は、悪意なんて無かったんだと思う。単純に、空腹で、仕方なくて、仕方なかったんだと思う。…でも、事件が起きてからそんなことを言われても、誰も信じやしないし、誰も庇ってはくれない。
 私は吸血鬼になった夜、こっそりと外に散歩に行っていた。満月が綺麗で、吸い込まれてしまいそうなほど大きかった。…出歩かなければよかった、なんて思わない。…最初は思っていたけれど。…その夜、近くで物音がした、きっと他の誰かが何かをしているんだろうと思った。この村では、村に住んでいる人型の生き物には危害を加えられない、村人の力のお陰でそんな事は出来ないから。…出来ないはず、だった。だから、私は何も気にせずに、自分のお気に入りの場所で、少しだけ満月を眺めていようと思った。事実、すんなりとその場所にはいけたし、”その時”までは私はとろんとした表情で月を眺めていた。
 …その時、いきなり後ろから物音がした。さっきとは比べ物にならないほど近くで。悪意を消せるといっても、自分の背中ぐらい近くで突然物音がしたら誰だって驚くはずだよね。私も驚いて後ろを振り返ったんだ。…そうしたら、そこには真っ赤な目をして、私をじぃっと見つめる人がいたんだ。目が赤い…と言うことは、少なくとも”人”ではない、と言うことで…。私は少しだけ怯えた。”人”以外の生き物と接するなんて、初めてだったから。それで私は「あなたは、だれ?」と恐る恐る問いかけた。でも、その問に返答はなくて。「お腹…空いた…。」と言う声だけが聞こえた。「おなかがすいているなら、なにかたべればいいよ」何も知らなかった私は、そう言った。そうしたら、その赤い目をした人は「なら…食べる…。」と言った。その時の私は、家に帰って何かを食べるのかな。なんて呑気に考えていた。…でもそうじゃなかった。赤い目をした人は、素早く、私が次の言葉を言う前に、私の肩を掴んだ。かぷ…。っと、そんな音が鳴ったのかもしれない。私は悲鳴を上げることも出来ずに、ただ”食べられていた”。そして、目が覚めた時には、私の親は泣いていて、村の人、人間だけじゃない、色々な種族がその赤い目をした人を縛り付けて、とても怖い顔をして、その赤い目をした人を責めていた。
悪意を消す力が働いていない、と言うよりは、悪意ではなく純粋にどうしてこんな事をしたんだ、と言う感情がその人達を包んでいたのだろう。…結果として、赤い目をした人は村を出て行く事で事無きことを得た。…その後、目が覚めた私を、皆が見て、場が凍りついた。…私は村人の娘で、もっと言うと”人”の娘だった。だから、目は黒か茶色のはずなんだ。…親が、私を見て涙を零したのを、私は今でも覚えている。震えた手で、私の頬を撫でた。「…目が…赤い…。」そう、震えた涙声で言った。その時、私はその言葉の意味がわからなかった。目が赤いから、なんだというのだ。と思った。

混血交錯

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混血交錯

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-30

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