恵まれた孤独

サユの場合

体験した本人でなければ感じられない想いがある。
説明することが難しく、理解してもらうことは到底不可能で、人は自然に内へ秘める事を覚えてゆく。
わかる気がする。なんて人は言うけれど、それは結局コミュニケーションを円滑にするためだけの、単なる愛想の一つでしかないことを私は知っている。

歌が好きだった。
それも、歌を職にしたいと心から思うほどに歌うことが好きで、輝ける日々を妄想しながら生きてきた。
だけれど小さな街で私は無力でしかなかった。
大抵の人は夢を諦めるために、なんらかのボーダーをひく。
私も同じで、私にとってそれは20歳という年齢であった。
そしてそのボーダーは、なんのストーリーもないままに訪れ、私は夢を諦めた。

事務系の専門学校を20歳で卒業した私は、卒業と同時に街の零細企業に就職し、1年と8ヶ月で退職。
理由は繕えばいくつかあるかもしれないが、結局は自分の現状に満足が出来なかっただけだった。
その後、アルバイトを経て東京へ行くけれど、何も目的のない上京は何も生み出さない。
私は東京へ行けば何か変わると、根拠の無い妄信的な想いを、何も知らない私はただただ抱いていた。

恵まれた孤独

恵まれた孤独

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-30

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