ヨシダノリマサ戦記

開戦！

　ヨシダノリマサは車中泊の中でふと外を見た。景色はゆらぎ、そこにはコンビニ（彼はそれを敬意をこめて”コンビニさん”と呼ぶ）があった。
彼は彼自身の内面に酔いしれる間もなく、今日も食品レビューをする。狭い車内では空気も重く、吐息も熱かった。
蓋を開けると、そこには半額の寿司が凄然と鎮座していた。あればあるだけ幸福なのだと感じたが唯一醤油がないことだけが気がかりだった。
しかしカメラのスイッチは入り、今また撮りなおすのは億劫だった。
ノリマサはサーモンを取るとパクリと口に入れた。
「うん、うん、うん」しかめ面のような表情で頬張る。
「いや～、うん、おいしいですね」と第一声。
そのとき！
突如、閃光が彼を襲い、愛車がガクリと揺れた。強烈な振動でノリマサは驚愕した。寿司はダッシュボードに転がり、飲みかけの「十六茶」がシートに倒れた。
「え、え、え、え、え～ちょっと、これ、え～、ちょっと、待ってよ～ってなんかすごいことになっちゃってるけど、何なのこれ」とおどけてみるが、やはり恐怖が全身を襲う。
撮影中だという気張り以外に彼の余裕を演出するものはなく、車内の揺れとともにそれも崩壊した。
「待ってよ！　待てよ！」
慌ててカメラを止めようとするも、そのとき凄まじい衝撃が車を襲った。
車内は無重力になり、寿司と十六茶とワンピースの単行本、そしてコンビニさんのビニール袋がごちゃまぜになった。竜巻に見舞われたようにノリマサは舞った。洗濯機の中の映像のようだ。カメラはガラスにぶつかり、その無様な様子に終止符を打ったが、ノリマサは必死だった。

　衝撃は止んだ。
しかしノリマサは哀れにも無様な表情を残したまま気絶していた。涎と涙が顔に垂れている。
「うわっ！」と目覚めると真っ先に重力が襲ってきた。逆さまだった。慌ててシートベルトを外すと、屋根に膝をつき、寿司とゴミだらけになった天地逆の車内に身を屈めた。
「ちょっと、これ、えー、ちょっとさ・・・・・・えー、何なのよ・・・・・・」
ひしゃげたドアをやっと開けると、外に這い出た。割れたガラスで手のひらを切ったが、それどころではなかった。
外に出たノリマサは目を疑った。
そこにひろがっていた光景は彼の頬をつねらせた。馬鹿げた話しだった。夢か現実かを区別する方法としては幼稚過ぎたが、それでもノリマサにはそれしか出来なかった。
砂と煙、転々と光るオレンジの炎、その先には巨大な影。キノコ雲だ――ノリマサは膝を震わせ、地面に屈みこんだ。
コンビニさんは消え去り、空中には灰と燃えカス、煤が舞っている。遠くの空には大きな残骸が高く舞い上がっているのが見えた。
「うっそ・・・・・・うそでしょ・・・・・・えー、ちょっと・・・・・・」
映画（キャラメルポップコーンを間に恋人と見た思い出）の世界が目の前にあった。ハリウッドのＣＧでしか見たことのない光景。広島や長崎――
ノリマサは再び頬をつねった。
とても痛かった。

避難所！

　ノリマサは避難所に来た。
そこにはすでに無数の負傷者たちがうなっていた。病院と警察署が併設され、医者や警官が無線でやりとりしていた。
すさまじい光景だった。おびえる人々、苦しむ人々、もだえる人々、ノリマサが目をそむけたのはホールの端で青いシートをかぶった人々だった。死者――はじめて見た。
手足がない人々や両目をえぐられたようになった少年、すべてが鮮烈な衝撃として彼の頭に突き刺さった。現実とは思えなかった。
「富士山が噴火したんだよ」と話す老人は痴呆なのかもしれない。ノリマサは真実を告げたかった。静岡の田舎でひっそりと暮らしていた老人にとって現実を受け入れる余裕はないだろう。
「――こちら２０２３、至急周辺の警戒を」
無線からは自衛隊の到着が予想された。
しばらくふらついていると一台の装甲車が来た。中からは物資を持った自衛官が数名。人々は駆け寄ることもなく、見ていた。気力も体力もないのだ。ノリマサも同じだった。
ようやく気が付いた。ここは学校の体育館だ。全身を映す大きな鏡で気づいた。鏡に映った自分自身の姿はおぞましかった。上から下まで真っ黒。煤だらけだった。髪は灰色の灰でべったりと撫でつけられ、目の周りと口の周り以外の顔は真っ白だった。彼はいつもどおりの五分わけに直そうと髪に手をかけたが、それは粘るガムのように固まっていた。

「何があったんですか？」恐る恐る聞いたノリマサ。
同じく煤まみれで年齢もわからないほどの男はノリマサの手を取って言った。「戦争らしいですね。なんか核攻撃されたとか何とかって。ほんとにどうなっちまうんだか」
そのとおりだ。あの瞬間、皆が見て、そして驚愕したであろうキノコ雲、核の脅威。まさか自分が生きている間にそんなことが起こるとは考えたことはおろか、夢にさえ、空想にさえ――
　ノリマサはしばらく男と一緒にいた。恐怖を忘れたかった。
無駄な会話をして少しでも心の平穏を取り戻したかった。
「私、動画やってるんですよ」
「動画？」
「ええ、コンビニで買ってきたものとかをカメラの前で食べてレビューするんです」
「ほう」
「それがね、結構人気になっちゃって、なんかプレゼントくれる視聴者さんとかまで出てきちゃって」
「それはすごいですね。なんか芸能人みたいじゃないですか」男も次第に緊張がほぐれてきたようだ。
「ええ、そうなんですよ。いや、最初はね、動画の閲覧数も十人とかだったんですけど、だんだん増えてきて、今じゃ、えーと、千人くらいの方が見てくれるようになりました」
「すごいですね」
とここまで言って、現実が襲いかかった。
「でも、こんなになっちゃったら、もう、動画もダメですね」男はつぶやくように言った。
ノリマサは下を向いた。
動画はもう終わりだろう。動画だけではない。インターネットすら消滅したかもしれない。核攻撃によって世界が石器時代に戻るという話を読んだことがあった。
「ほんとどうなっちまうんだか」男がつぶやき、ノリマサは「ええ」と静かに返した。

　夕方になった。人々の群れは夜にむかう中で迫りくる闇に備えた。暗闇の恐怖が次第に迫る。
「みなさん！　夜になりますので、なるべくお互い寄り添って寝てください。できれば、お互いに寝る番と起きている番とをつくって、警戒するようにしてください！」
自衛官の言葉が皆に恐怖と不安を与えた。
ノリマサは男とともに、背中合わせになって寝ることにした。座っていたほうが何かあったときに起きやすいという男の考えだった。
「じゃあ、最初、私が起きてますね」ノリマサが言うと、男は「じゃあ、お願いします。一時間ずつ寝ましょう」と言った。

　そして夜。
ノリマサは闇夜に目が慣れてきた。背中ではずり落ちそうに眠っている男の吐息。
一時間が経ち、男は腕時計のアラームで起きると、「じゃあ、次、私が起きてますから」と言った。
ノリマサは重たくなった瞼を降ろし、眠りにつこうとした、そのとき！
避難所の中に悲鳴が響き渡った。ノリマサははっと目覚めた。
「伏せろ！」自衛官が銃を撃っている。
見ると、体育館の出口付近で防弾シールドを固めて、銃撃戦が行われているではないか。ノリマサは男と一緒に立ち上がった。
そのとき！
体育館の窓という窓が粉砕された。悲鳴！
隣の男がよろけるように倒れた。血しぶきがノリマサの顔にかかり、男が撃たれたのだとわかった。
避難所に敵が襲撃しにきたのだ。自衛隊は装甲車に装備されている機銃を撃っている。
学校の校庭では激しい戦闘が行われているらしかった。
逃げ惑う人々をかき分けて、ノリマサは救助を叫んだ。しかし、それどころではなかった。避難民の群れにむかって二階から銃撃の嵐が降り注いだ。
ノリマサはとっさに伏せて、這いつくばりながら、体育倉庫の中に隠れた。
重たい鉄の扉を閉めると、けたたましい銃撃の音と悲鳴が扉超しにも聞こえてきた。何度か爆発も起きて、もはや地獄絵図だった。
ノリマサは小さな窓を見つけると、無理矢理身体をねじ込み、転落するように外に出た。危険な賭けだった。外に敵がいたら一巻の終わりだったが、奇跡的に無事だった。
コケが生える体育館の裏に身をひそめると、中腰の姿勢のまま移動し、フェンスを登った。
背後からは今も悲惨な銃撃戦の音がする。フェンスを降りると、道路に出た。
住宅街の道路だった。
闇に眼をこらして、周囲を確認する。敵はいない。
ノリマサは走った。

遭遇！

　ノリマサは走り疲れ、とある場所に来た。
そこは明るい照明が照らされ、物々しい警備のもと軍隊が戦車や装甲車を並ばせていた。
思わず助けてと叫びそうになって気づいた。敵軍の陣地だったのだ。
ノリマサは口を押えて、危うく命拾いした。見ると、兵士たちが捕虜を撃ち殺している。問答無用の惨殺である。
ノリマサの内に秘めたる正義感が爆発した。とっさにフェンスを登ると、照明の影を移動し、闇にまぎれて陣地の背後をとった。
そのとき一人の兵士とばったり遭遇！　しかし激昂したノリマサの並々ならぬ暴力の末、哀れ兵士は首の骨を折って絶命した。
彼は兵士の機関銃を奪うと、陣地に向かって叫んだ。
「はい！　えー、ヨシダノリマサです！　いつも動画見てくれてありがとうございます！」
いつもの癖でオープニングナレーションを言ってしまったが、本来は「貴様らは包囲した！　動くな！」と言いたかったのだ。
兵士たちが一斉に攻撃姿勢を取った。
ここまで来ては戦う以外に道はない。
ノリマサは機関銃を乱射すると、とにかく走りまわった。あちこちを走り、殺しまわった。
倒れ伏した敵兵から手りゅう弾を奪うと、それを陣地に投げた。爆発。
木端微塵に吹き飛ぶ敵兵！
胸をすくような大活躍のノリマサ。まさに軍神である。太い眉に凛々しい目つき、薄い唇、しゃくれた顎。渡辺いっけい似の顔面を炸裂させながら凄まじい戦闘を展開したのだった。

　戦いは数時間に及び、なんと奇跡！　ノリマサは肩と足にかすり傷を負ったにとどまり、この陣地戦に勝利したのだ。
「このやろー、まだ来るか！　このヨシダノリマサに勝てるか！　俺はチャンネル登録数二千以上いってんだぞ！」
まさに偉大なる勝鬨である。
　粉みじんになった敵兵をひっくり返してみると、腕には「人民解放軍」の文字が。中国軍だった。
「なんだよ、これ。中国？　えー、ちょっと、これ」ノリマサは巨大なる敵を相手にしてしまったようだ。
そのとき！
「動くな！」と一声。
すぐに銃を構えるノリマサ。
「来るなら来い！　俺はチャンネル登録数二千以上いってるヨシダノリマサだ！」
「日本人か！」
ぞろぞろと斜面を降りてきたのは陸上自衛隊。
安堵するノリマサ。そして自らの武勇伝をこれでもかと炸裂させる。自衛官は飽き飽きしながらも聞いていた。
「――っというわけで、この敵はすべて私が一人で倒してしまったという、大変ね、これは一般的にはすごいことなんじゃないかな？」
「そうですね。あなたは強いですね」と自衛官。
「ヨシダさん！　ちょっと、来てください。重要な連絡が」と別の自衛官に呼ばれたノリマサ。無線を取ると、同行してほしいとのこと。
さっそくヘリに乗り込み、目的地に向かうことになった。

果たして――

極秘施設！

　ヘリで見下ろした世界は驚愕だった。
夜の街にはいくつもの火柱があがり、建物は倒壊し、あちこちで爆発が起きていた。
ノリマサは大型輸送ヘリの中で茫然としていた。
「中国軍ですかね。これ」
「私にはそれを説明する権限はありません。とにかく大阪についたら説明する権限をもった人が説明します」自衛官は言った。
　ノリマサは到着まで眠った。

　自衛官に起こされてノリマサが目を開けると、すでに大阪についていた。
ヘリのドアから降りると、物々しい警備のもと何台もの車輛が待機しており、彼はそれに乗せられた。防弾仕様の車輛の中には背広の男が乗っており、ノリマサを見て一言。
「あなたが敵陣地を壊滅されたヨシダノリマサさんですね」
「ええ、はい。ヨシダノリマサです。いつも動画見てくれて――あっ」慌てて口を押える。
照明弾があがり背広の男の顔が光に照らされた。ノリマサは驚いた。
「私は石破茂と言います。この国の防衛を任されています」
「あ、ああ、はい。これはこれは、いつもテレビで見てます」
「あなたの能力を買いたいのです。この国の防衛のために」
「えっ、ええ、はい」
何がなんだかわからないノリマサ。
車輛は一路、大阪城へ向かった。

　降車すると、てくてくと城の中に入った。
城の中には何十人という自衛官が銃をもって監視していた。その奥へいき、地下ハッチを開ける。そしてその中に入る。
　ノリマサはまたも驚いた。地下世界は映画に出てくるような指令室だった。
「ここは緊急対応施設です。最重要国家機密。建造は一九四八年です。当時はソ連の攻撃に備えて建造されました」
「えー、うっそー、何これ。なんかすごいですね」
「設計はアメリカ国防総省です。核によって首都が壊滅した際に起動します」
「ってことは東京は・・・・・・」
「そうです」石破は振り向いた。「そのとおり。十二時間前に核攻撃によって壊滅しました」
「うっそー！　始まったな」
「始まりました」
ノリマサの脳裏には唐突かつ無意味に「ノリマサＴＶ」という彼の動画のオープニングムービーが再生された。
　てくてくと歩き、奥の奥へいくと、巨大な世界地図があり、そこに数百人の職員がコンピューターにむかっていた。ぴぴぴぴという電子音が聞こえる。
「この先です」
　石破がドアを開けると、豪華な部屋がひろがった。長方形の大きな机に無数のモニター。コーヒーを片手にあらわれた背広の男。
「それでは総理。直接お話しを」石破は部屋の隅に腰をかけた。
振り向いた男の顔にノリマサはまたまた驚いた。
「私は安倍晋三です。この国の総理大臣を務めております」
「し、知ってます」
「どうぞおかけになって」
ノリマサは座った。
安倍は一枚の写真を見せた。
「これは十時間前に航空監視システムによって撮影されたものです。映っているのは敵軍の基地です」
「ええ」
「あなたの能力をこの国のために使わせてほしい」
　話は簡単だった。ノリマサの勇猛な戦いを見た、公安の人間が政府軍として雇いたいと言ったらしい。そこで正式な契約として総理大臣までが出てきたということだった。
「ああ、ええ、まあ、いいですけど」
「それはありがたい」
　安倍は丁寧に頭をさげると、ノリマサの手を取った。

　ことは進み、ついにノリマサは公安局秘密工作課付きになってしまった。
「紹介しよう。工作課の工作員だ」
安倍の紹介で、一人の青年がやってきた。
「あなたのパートナーになります。俺は藤崎瑞希」
「ああ、どうも」
　青年は整形手術のあとがある顔でノリマサと握手をした。
「彼はね、ニコニコ動画というサイトでネット工作をしていました。情報統制と操作が目的でした。任務ののちは顔を変えて内閣付きになっていましたが」安倍が説明した。
藤崎はノリマサの隣に座り、経緯を説明した。
「この国は中国により一方的な先制攻撃によって首都を失いました。そして静岡、新潟、熊本、北海道も同時に攻撃されました。中国は日本国内に基地を建造し、大陸との通信基地を完成させようとしています。それを壊滅させましょう」
「ええ、うっそー、できるかな」
「できますとも。あなたなら」
藤崎の一言にノリマサの内に秘めたる若き頃の高揚感が再燃した。突然立ち上がると、その太い眉を立たせ、目をかっと見開き、渡辺いっけいのような村上龍のような顔面を安倍と石破に炸裂させた。
「こうなりゃ、やってやるぞ！　おー！」

　かくしてヨシダノリマサは破壊工作員として任務についた！

破壊！

　ノリマサはついに中国軍の秘密基地に降下した。
藤崎は軍用ベストにアサルトライフルといういでたち。ノリマサはお得意の赤いセーターに防弾ベスト、五分わけの髪にアサルトライフルである。
「いくぞ！」藤崎の指示で身を屈めながら移動するノリマサ。
そして銃撃戦のはじまりである。
まさに「始まったな」であった。
バチバチと鳴り響く恐怖の音。騒ぐ北京語！
爆発と轟音が耳を裂き、地面からは黒煙。オレンジの炎と粉塵が空中に舞いあがった。

　ノリマサは精神混乱に陥り、すさまじい動揺の中で圧倒的な殺戮を展開した。そのさまは場馴れした藤崎すら驚嘆するほどだった。
「こいつは本物だぜ」とため息をつく藤崎。
カンフーで襲ってくる人民解放軍兵士を次々にのしていく渡辺いっけいもどき。
村上龍似の顔面が鬼の形相に変形し、五分わけを爆風にさらしながら勇猛果敢に戦い抜くノリマサ！
圧巻である。
鬼神のごとき活躍のすえ、基地の周囲は壊滅した。

　次は中である。
内部の入り組んだ迷路をイノシシのごとく走りぬけるノリちゃん。
ノリちゃんの殺戮はつづき、村上龍と渡辺いっけいの混血はたぐいまれなる闘争心で中枢部を破壊した。粉砕されるコンピューターとＧＰＳ。これで大陸との通信は断たれたはずだ。
そのとき！
　恐ろしい轟音とともに基地が爆発した。
　舞い散る破片で藤崎は数百メートルも吹き飛び、木に激突して失神した。
　彼が目を開けたとき、そこに立ち尽くす影。それは軍神だった。
　五分わけの鬼神。村上龍と渡辺いっけいのあいのこ。それがヨシダノリマサだ！

　「大丈夫かな？」とノリマサ。
藤崎は土をかぶった顔で立ち上がった。「何とかね」

映像作家！

　突然、ノリマサの前に謎の透明兵士があらわれた。これが中国人民解放軍が誇る最強のハイテク兵だ！
ノリちゃんは気が狂って笑いながら機関銃を撃ちまくった。透明兵は素早くかわすと藤崎を狙った。
「もう、何なんだよこれ。ちょっとハプニング的なことが起きましたね」と言うノリちゃん。
近くにあったガトリングガンを取ると思いきり連射させるノリ氏。
透明兵は光学迷彩から真っ赤な血を噴出させて倒れ伏した。
　と思ったとき上空から凄まじい閃光が降り注いだ。爆撃機がノリちゃんと藤崎を狙い、爆弾を投下しているのだ。
ノリマサは軽やかにかわして藤崎の手を取り逃げた。途中、戦車が襲ってきたので凛々しい眉を炸裂させて擱座させた。戦車の砲塔を操作して、ゆっくりと爆撃機に狙いを定めると
「ありがとうございましたー」としゃくれ顔で叫んでから発射した。
　爆撃機は煙を吹いて墜落した。
　まさに軍神である。軍神ノリマサ公である。

　ノリマサは藤崎とともに基地に帰還すると、さっそく戦闘報告をした。
　その報告に一同驚愕であった。
「ヨシダノリマサという人はサイコパスである」という結論に落ち着いた。
　生まれながらの殺人者、その呼び名がふさわしいのだった。戦場という楽園を手に入れたサイコパスは次々に標的を狙った。ワンマンアーミーとなったノリちゃんは大量破壊を繰り返し、アメリカ軍から「ヒューマン・オブ・マスデストラクション」の称号を得るにいたった。

　ノリちゃんは調子に乗り、カメラをもって戦場に出向き、嬉々として撮影しながらの戦闘をするにいたった。
「はい、どうもヨシダノリマサでございます。いつもね、この映像、通常、遊撃、奇襲、いろいろ見てくれてありがとうございます」とはじまり、すさまじい殺し合いをカメラに焼き付けた。

　ノリマサは世界中の諜報機関、軍隊から目を掛けられ、「是非、うちへ来てくれないか」と誘われた。
　そのたびノリ氏はしかめ面のような顔で、「えー、出張ですね」と言って請け負うのだった。

　史上最強である。
　それがヨシダノリマサなのだ。イギリスから勲章をもらい、正式にノリマサ公となった。