園長先生の言葉

先週の土曜日は、娘が小学校に入って初めての運動会だった。
保育園の時の担任の先生が見に来てくれたようで、娘はとても喜んで、運動会が終わったあと娘は100円ショップでかわいい便せんを買って、さっそく先生に手紙を書いていた。

月曜日に学校から帰ってきたのは5時半だった。
これから保育園に手紙を渡しにいく、という。少し遅い時間だな、と思いながらも、友達と約束してきていると聞いたので、止めなかった。
6時までに家に帰ってきてね、と告げて、私は娘を送り出した。

15分ぐらいして、娘は家に帰ってきた。早いね、と声を掛けたら、泣きそうな顔で、「せっかく手紙持っていったのに」といって、ソファにうずくまった。
どうやら園長先生に、早く帰りなさい、といわれたようだ。

私は気になって保育園に電話してみた。
「ちょっと手紙を届けにいっただけだったのですが、園長先生に早く帰りなさいといわれたようなので、ご迷惑おかけしたかと思いまして」
○○ちゃん、何て言っていました?、と急に園長先生は挑戦的な声になった。
「○○ちゃん、六時に帰る、なんていうんですよ。今はいろいろありますでしょう?六時は遅いから早く帰りなさいっていったんです。他のお子さんは保護者さんが迎えにくるからいいですけれど、○○ちゃんはそうじゃないので。こちらにくるのはかまいませんが、せいぜい5時半までです。ご家庭でもそのようにルールを設けてください」
私は、ご迷惑おかけしました、申し訳ありません、と丁重に謝って電話を切った。


窓の外を見てみた。6時すぎていたが、初夏の街には、まだぱらぱらと子供の姿があった。

園長先生の言っていることは、もっともだと思う。いろんな犯罪が起きている今、夕方子供が一人歩きしているのは危ない。うちから保育園までは歩いて5分程度だが、そういわれるのは理解できる。

なのに、ひどく傷ついた気持ちになっているのはなぜだろう。

卒園式の時、「ここはみんなのふるさとよ、いつでも来てね」といって、園長先生は子供たちを送り出してくれた。そんな保育園を、娘は心の拠り所にしていたにちがいない。成長した姿を見せたくて、喜びの気持ちをまっすぐに届けたかったのだろう。
「保育園は5時半まで」という言葉に、ぴしゃりと娘の真心ははじかれてしまったのだ。



もう、保育園には遊びにいかない、と娘は言った。

保育園、いやになったの?と私が聞くと、少し黙ってから、「だって、はずかしいもん」といった。

少しうなだれ、決意したようにいう娘は、少しだけ大人びて見えた。

園長先生の言葉

園長先生の言葉

もう、保育園には遊びにいかない、と娘は言った。 保育園、いやになったの?と私が聞くと、少し黙ってから、「だって、はずかしいもん」といった。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-29

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