とうりゃんせ

何人かの仲間ととんでもない一行一行をそこに織り込まれたアイテムを拾ってなお物語を紡ぎだせるかをボリュームは2000文字程度という制限で挑戦した実験作。

おかしなはじまり

「そろそろ行くか」と独り言ちして横に置いてあったコンビニ袋を持ち上げてベンチから立った。
中には、コンビニで買ったおにぎりが3個と500mlのペットボトルのお茶が入っている。
もちろん、おにぎりは転がすために用意したのだが、目の前ではサルの愛子がDSに返事を打ち込んでいる。
『くるしゅうない』時代劇変換になってますよ?問題の枯れ木は、まだ枯れ木のままなんですよ。
プレッシャーですかね。枯れ木に花を咲かせるために、おじいさんがスタンバっているというのに気がつくと愛子の姿がない。「桜の木の下には死体が…」メモ
が揺れていた。

そして、おかしさの正体

コンビニの袋からおにぎりを一つとりだして、食べようとした瞬間に、おにぎりを落としてしまった。落ちたおにぎりは、コロコロと転がり、数メートル向こうの桜の木の根元まで転がった。
おにぎりを拾いに行くと、桜の木の根元には、大きな虚があった。その横には、花が供えられていた。
覗いてみると、この深い穴の底のほうから、童謡のようなものが繰り返し聞こえてきた。
不思議に思い、身を乗り出したところで、バランスを崩し虚の中に体ごとはまってしまった。
「あっ」と思った瞬間、身構えたが、底に頭をぶつけるどころか、体は限りなく落下していく。穴の底からは、さきほどの謡が聞こえている。
『桜の木の下には、死体が埋まってござる♪存じているのは、死神じいさんと埋めた当のご本人♪死んだ本人、何も知らずに、死んだことすらわからない♪まことに哀れなこと、哀れなこと。♪』聞いているうちに、気が遠くなっていった。

誰かに揺り動かされて、気がつくと、そこは川の辺だった。
気配を感じ、ふと横を見るとサルが一匹いた。頭に赤いリボンをつけ、任天堂DSを持っている。サルの手元を覗き込むと、そこには、文字が映し出されている。

『気が付いたか? わらわは、愛子と申すものじゃ。』

どうやら、人間の言葉を理解できるらしいが、誰が教え込んだのかわからないが、今時こんな言葉遣いをする人間はいない。
まぁ、サルだから仕方ないのか。

「ここは?」という考えが顔にでたのか、ここに落ちた人間には必ずする行為なのかはわからないが、DSには、【三途の川】と映し出された。

「えっ、どういうこと?」
軽いパニックを起しながら、思わず質問をしてしまった。

『そちが、死んだからじゃ』
「死んだ?私が?」

意味がわからず、間抜けな顔をしているだろう私を見て、愛子が意地悪く笑ったように目見えた。サルに笑われるなんて・・・

『そう。正確には殺されたのじゃ、昨日』
「誰に?」
『なにゆえ、そちは、コンビニなぞに、にぎりめしを買いに行くはめになったのじゃ?』

まるで関係ない質問が返ってきたことに、失望の色を隠せずに、黙っていると。

『悪阻がひどいからと、そちのおなごが、今日は弁当を作らなかったからであろう?』
「どうして、それを。」

私の驚いた様子をみて、また、愛子が意地悪く笑ったように見えた。
『そちは、徹夜作業で夕餉をコンビニに買いに行くときには、いつもあの道を通るのであろう?』

オフィスの玄関から出て、すぐ右にある急な階段を上がるとコンビニへの近道だが、いつもは、玄関から真っ直ぐ出て、M字のスロープを登り、そのあとは真っ直ぐだ。途中、さきほどのベンチと桜の木があり、そこを通り過ぎるとコンビニがある。
電灯もない暗い道だが、左足の不自由な私にはこちらの方が安全だ。

『そちは、夜を明かしての作業になることは前もってわかっていたはずじゃ、違うか?』

できあがった製品の最終検査の日だったのだ。いつも最終検査の前日は徹夜で作業をするのが恒例となっている。
検査が無事終了すれば、一仕事終わった気分になるので、検査には気合が入り勢い徹夜になるのだ。
今回の検査が済めばしばらく時間ができる。そうすれば、彼女の妊娠の検診にも付き合ってやれるし、身の周りの世話もしてやれるのだ。
彼女もそれを望んでいたし、私も、望むべくもなかった子供だから、そうしたかった。

『3日前に、あの桜の木のすぐそばに、若い桜の木を植えたであろう?あの枯れたままになっておる桜の木の代わりとするために。』

「・・・・・」

『どうじゃ?そちにも、もうわかったであろう。』

コンビニに行くときは、あの暗いスロープをあることを知っている者。あの桜の木のすぐそばが、掘り返しやすいようになっていることを知っている者。そして、私が徹夜をして、コンビニにおにぎりを買いに行かせるよう、しむけることができた者・・・そして、桜の木の下の死体に花を手向ける者

「しかし、なぜ、彼女が」

『それは、そちが女だからじゃ。あのおなごも父親が欲しくなったのじゃよ、お腹の中の本当の父親が』

「おまえは何者だ!」

間違いなく、愛子が意地悪く笑った。そして、おじいさんの姿になり、今までとは違う口調で、『三途の川の渡しさ。
亡者になるまえに、死を納得させ、冥土へ行く心の準備をさせる者さ』

とうりゃんせ

まったくとんでもない仕込みをされてしまったもんだが、「サルの愛子ってなんだ?」というアイテムへの突っ込みからこいつ作品の中でこいつの正体をつきとめてやるつもりで進めてみたが、最初の設定への回答という進め方でも書けるものなのだということだろうか。

とうりゃんせ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-28

Copyrighted
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  1. おかしなはじまり
  2. そして、おかしさの正体