名も無き二人の紡ぐ歌

Prologue

暗い路地裏に1つの足音が響く。
ハァハァと荒い息と滴り落ちる汗。
俺は足を止め、追いかけていた女が走って行った方向を見る。

―くそっ…、どこに行きやがった。

荒い息を整えようとした、その時。

ドクンっ。

「っ…!」

ズキリと胸に傷みが走り、俺は身を屈めた。

―またか…。

幼い頃に魔女にかけられた、短命の呪い。
その呪いは確実に俺の体を蝕んでいた。

「ゼェ…ハァ…ち…ちくしょー…」

そんな俺に告げられた罪状は『憤怒』。

―おさまったか…。

俺は罪状を払拭するために魔女狩りという名の粛清に参加している。
俺は黒猫。
本名なんて、とうの昔に忘れてしまったが、別に困りはしない。
魔女を殺せる、この手があるなら。

まもなくして、俺は魔女を追い詰めた。
そして、今魔女は静かに事切れた。
血の水溜まりに魔女の手が力なく、落ちた。

―死んだか…。

手こずらせやがってっと毒づき、魔女を見下ろす。
頬についた返り血が伝って、顎から落ちる。
グイっと俺は手の甲でその血を拭った。

―俺もこんな風に死んでいくんだろうな。

魔女を見て、そんな事が頭をよぎる。
誰にも気づかれず、ゴミのように。

「?」

不意に目の端に何かがちらつき、俺は顔を上げた。
すると、そこには俺がいた。

「!」

ビクっと体が微かに震える。
もう1人の俺は舌を噛みきり、口から血を流していた。
真っ赤に染まった顔を伝い、汗が流れていく。
首筋にはどす黒い色をした、太い線が伸びていた。その線は顔にまで達していた。

「つぁっ…!」

俺は声を上げ、右手で額を押さえた。
これは、短命の呪いが見せる幻影だ。
毎日のように見える幻影。
肉体的にも、精神的にも、もう限界に近かった。
後何年、もつだろうか。
あのどす黒い線が俺を蝕む日は確実に迫って来ている。

「っ…」

ギリィっと歯を食いしばる。
生理的な涙が知らない内にボロボロと零れていく。
生きているのに、体は死を望んでいる。
それがあからさまに分かるから、いっそ死んでしまった方がいいのかとさえ思った。
でも、その度に鼓動が「生きろ」と脈打つ。

トクン、トクン。

俺の掌から心音が伝わってくる。
この心臓が止まるまで、俺は生きていたい。
矛盾だらけの俺の体と心。
俺は生きるために魔女を殺す。
俺のような人を増やさないために。

出逢い

ガタンっ!

後ろから物音がして、俺は慌てて外していたフードを被った。

「誰だ」

俺が声をかける。
すると、物陰から1人の少女が現れた。
白いフリルのついた、可愛らしいシャツに赤いリボン。黒い色のニーハイソックス姿の少女は俺を見るなり、こちらに駆け寄って来た。

「?」

何だっと俺が声をかけようとすると、少女は慌てた様子で俺を見上げてくる。
何か言いたげな顔をしているのに、少女は言葉を発しない。
ただ、俺の顔と腕を交互にみあっている。

「この血の事か?」

腕にまだ返り血がついていた事に気づいて、俺が言った。
少女は俺の言葉にうんうんと頷いた。

「これは…その…、俺のじゃねぇよ」

正直に「そこで死んでる魔女の返り血だ」という訳にもいかない。
そう思った俺は、口ごもりながら、少女に言った。
すると、少女はホッとしたように笑みを浮かべた。

-可愛い…っ!

不意打ちだった。
俺は口元を手で覆い、顔を背けた。
少女はそんな俺を見て、首を傾げた。

-何だよ、この生物はっ!クソ、可愛いっ…。

「そ…そういや、お前名前は?」

気持ちを落ち着けようと、俺は少女に話かけた。

「どうかしたのか?」

少女からの応答がない。
見れば、少女は俯いていた。

-もしかして、こいつ…。

「名前がないつかしゃべれない、のか?」

恐る恐る俺が尋ねると、少女はまた頷いた。

-参ったな…。

「…じゃあ、俺が名前、つけてやる」

俺は少し考えて、思い付いたと手を打った。

「白うさぎ」

俺がそういうと、少女は嬉しそうに目を輝かせた。

「俺は黒猫だ。よろしくな」

少女もとい白うさぎはもう一度、うんと頷くと俺に抱きついてきた。
「ありがとう」というように。

黒の救世主

「よぉっ!クロちゃん、何かいい事でもあったのか?」

家もといギルドに帰った俺に1人の男が声をかけてきた。
男は俺よりも頭1つ分、背が高い。そのせいで、俺が男を見上げる形になる。

「あんたこそ、いい事でもあったのかい?」

「まぁな。クロちゃんには教えてやんねぇけどな」

いやに上機嫌な男は、ギルドの一員で罪状・『強欲』を告げられた、黒龍。通称・クロタツだ。

「俺だって、言わねぇし」

-女に抱きつかれて、ガラにもなくドキドキしたとか、絶対言えねぇ…。

「つか、今日も盛大にやってきたみたいだな」

「あれ?もしかして、匂う?」

わざとらしく、黒龍が自身が着ている服の匂いをかぐ。
そんな黒龍を俺は呆れ顔で見る。
黒龍はこのギルド1魔女を恨んでいる。
何故かは話してくれないので、知らないが、黒龍の抱いている復讐心は半端ではない。
その証拠に黒龍の服からは鉄に似た、独特な匂いが漂っている。

-容赦ねぇよな。

「んだよ、クロちゃん」

「いや、何も」

「言いたい事あるなら、言えよ。気持ち悪りぃ」

漆黒の前髪の間から、ギラギラとした目が俺を捕らえる。
黒龍の名の由来は、髪と目からきている。
人を睨んだ姿はまさに龍のように鋭い。
(龍を見た事がないので、実際似ているかは定かではないが。)

「何でもない。気にすんな」

俺がそう返すと、黒龍は「あっそ」っと興味なさげに言った。
どうやら、興が削がれたようだ。

「じゃ、俺は部屋に戻るわ。またな、クロちゃん」

黒龍はヒラヒラと手を振ると、自室のある上の階へと上がって行った。
その背中を見送った後、俺は黒龍の上がって行った螺旋階段を下った。
地下の食堂には、疎らに人がいた。
みな、人それぞれに好きな事をしている。
俺は人がいないテーブルを見つけ、席についた。
特にやる事はないのだが、自室で1人というのはどうしても落ち着かない。

-餓鬼かよ、全く…。

ボーっとしながら、俺はどこか遠くを眺めていた。
頭に浮かぶのは、白うさぎの笑顔。

-っ…!

思い出して、俺は顔を赤らめた。
我ながら、情けないが俺は完全に白うさぎに恋してしまったらしい。

-可愛いもん好きで悪いかっ!

誰に言うでもなく、俺は心の中で1人叫んだ。

-ハァ、また会えるかな…。

頬杖を突き、深いため息を吐く。
俗にいう、恋煩いというやつだろうか。

「なぁ、知ってるか?」

不意に近くのテーブルから声がして、俺は何となく聞き耳を立てた。

「何だよ、やけに嬉しそうだな」

「この近くにある、絵画を売ってる店があるだろ?そこでめっちゃ可愛い女の子を見つけたんだよ!」

ピクリっと自然と俺の体が微かに反応する。

「あぁ、あの絵画店か」

「そ!年は同じくらいだったかな?」

-もしかして、あいつ…?

俺は席を立つと、足早にそのテーブルに向かった。

「ん?どうした、黒猫?」

「俺も話に混ぜてくれよ」

「あぁ、いいぜ」

「黒猫、お前も絵画店の子が気になるのか?」

「そりゃぁ、もう」っとは言えず、「そんなとこだ」っと答えた。

「お前が人に興味持つとか珍しい」

「俺だって、一応人間だからな」

俺は短命の呪いのせいで極力、人と関わる事を避けていた。
発作や幻影に苦しむ姿を晒したくなかったからだ。
だから、俺は来る者拒まず、去る者追わずというイメージが定着してしまったらしい。
故に男達が今の俺に驚くのは、もっともな事だ。

-にしても、驚きすぎだろ。

「雨でも降るんじゃないか?」とか「いやいや、槍だろ」とか「いっそ、天変地異…」。
本人を前に随分な物言いだ。

「お前ら…」

さすがの俺もイラっときて、男達をギロリっと睨む。

「まぁまぁ、怒んなって。クロちゃん」

「っ!」

男達の体に緊張が走る。
振り向かなくても分かる、独特な存在感と圧迫感。
俺の後ろにいる男は、先程自室へ戻ったはずの黒龍だ。

「あんた、何でいるんだよ」

「部屋にいても暇だからよ。クロちゃんとでも話しようってな」

黒龍はさっきと同じく上機嫌だ。
その様子に男達はホッと安堵する。
ここにいる人々は黒龍を恐れている。
黒龍に睨まれるとみな、蛇に睨まれた蛙のようになってしまう。
ただ一人、俺を除いては。

「とりあえず、座れば?」

張り詰めた空気の中、俺は何事もないように黒龍に言った。
黒龍は「サンキュー」っと言い、俺の隣に座った。
黒龍は俺と同じく、名前に『黒』が入っている。
黒は昔から魔女の色とされ、何かと嫌われていた。
魔女狩りをしている俺達が何故、この名を使っているか。
それこそが黒龍が恐れられている、由縁だ。

「んだよ、黙り込んでんじゃねぇよ」

「わ…悪い」

終始ビビリまくりの男達の反応が面白かったようで、黒龍がニヤリっと笑う。
そもそも、俺と黒龍は魔女狩りの中でも群を抜いて、戦闘能力が高いのだ。
そんな俺達を人々は、黒の救世主と呼ぶ。

-救世主、か…。

人々は魔女を恐れている。
しかし、その魔女と同等に戦える俺達もやつらと何ら変わらない。
俺達も所詮、化け物だ。
それを分かっている、黒龍はここで好き勝手に振舞っている。
だから、ここで黒龍に逆らう事は死に等しい。
冗談抜きで黒龍の逆鱗に触れれば、殺される。
男達は感覚的に、直感的にそれを分かっているのだ。

「わ…悪い。ちょっと用事を思い出して…」

「お…俺も」

いち早く、この場から去りたい二人が恐る恐る言った。
そんな二人を哀れに思った俺は、おもむろに席を立った。
黒龍が相手にしたいのは、おそらく俺だ。
なら、俺が立ち去った方が場が納まるだろう。
案の定、俺が席を立つと黒龍も当たり前のように席を立った。

「邪魔して悪かったな」

俺はそう言い残し、黒龍と共に食堂を後にした。

NameLess

翌日、俺は昨日男達が噂していた絵画店の近くに来ていた。
結局、昨日は黒龍のせいで噂の少女について聞く事は叶わなかった。
しかし、幸いな事に今日は珍しく非番だ。
どうせ暇を持て余すだけなので、思い切って俺はその絵画店に行ってみる事にした。

-あいつだったら、いいな…。

淡い期待に胸は自然と高鳴る。
男とは、実に単純に出来ているようだ。

-ここか…。

そして、俺は目的の場所へとやってきた。
この辺りでは珍しく、おしゃれな雰囲気のある絵画店は一瞬、喫茶店かと思うくらい華やかな外装をしている。
俺は場違いだなと思いつつ、絵画店の中に入った。
中には当たり前だが、絵画が綺麗に飾ってあった。
絵に興味なんて持った事のない俺には、そこに飾られている絵画の価値なんて分からない。
けれど、感覚的に温かい絵だなっと思った。

-絵って、こんな真剣に見た事ねぇけど…。

などと思っていると、店にいた一人の老人が一枚の絵を手に取った。
 
「すいません」

どうやら、老人はその絵を買うらしく、奥に向かって声をかけた。
すると、奥から作業をしていたのか、慌てた様子で人が出てきた。

-っ!

「この絵を買いたいんだが…」

老人が話しかけた店員らしき人は、あの白うさぎだった。

『ありがとうございます』

白うさぎはポケットからメモ帳を取り出すと、丁寧な字でそう書いた。
昨日とは違い、つなぎ姿の白うさぎに内心、ドキドキする俺。
心臓が口から出そうとは、まさに今の俺の心境である。

-可愛い…。

老人の背中越しに俺は白うさぎを見ていた。
老人との話に夢中の白うさぎは俺には気づいていないようだ。
柔らかな笑みを浮かべ、楽しげに話している白うさぎが昨日同様、可愛く見えて仕方ない。

「あんたの絵はいい絵だ。これからも頑張って」

『はい!』

気づけば、老人は買ったばかりの絵を抱え、店から出て行く所だった。
老人を見送ろうと白うさぎが顔を僅かに上げた時、バチリと目があった。

「………」

しばしの沈黙の後、白うさぎは何故か顔を赤らめた。

「よぉ」

俺は軽く手を上げ、声をかけた。
白うさぎは赤くなった自身の顔を両手で覆いながらも、指の隙間から目を覗かせていた。

『こんにちは』

白うさぎはそういう代わりに、ペコっと軽く頭を下げた。

「…こんちわ。…えっと…」

上手く言葉が出なくて、俺の視線が天井へと泳ぐ。
一方の白うさぎもどうしたらいいか、分からないというように俯いている。

-俺のアホっ!何か、しゃべろよっ!

心の中でツッコんでみるものの、言葉は一向に思い浮かばない。
むしろ、焦れば焦るほど、俺のボキャブラリーから言葉が消えていく。
頭はほぼ真っ白だ。

-会話がない…。

何とも言えない空気に俺がさらに焦っていると、白うさぎがメモ帳を差し出した。

『黒猫、わたしがここにいるって知ってたの?』

「あ…あぁ。噂で聞いてな」

『噂?』

「悪い噂とかじゃねぇから、心配すんな」

俺がそういうと白うさぎはニコっと笑った。

-ヤバイ…、ギュッてしたい…。

小動物に抱くような衝動が俺を襲う。
実際、白うさぎは小動物みたいに可愛いのだ。
そんな衝動にかられない男の方がどうかしている。
だからと言って、衝動のままに抱きしめるような輩がいれば、半殺しにするが…。

『お仕事は?』

「今日、非番なんだよ。んで、暇だったから、この辺ぶらぶらしてたんだよ」

『非番ってあるんだね』

少し可笑しいという感じの白うさぎの表情に、俺は苦笑いに似た笑みを浮かべた。
俺達の粛清は世間的には職業として、認められていない。
故に俺達は悪く言えば、ニートに近い。
しかし、決して働いていない訳ではない。
粛清が職業として認められないのなら、肩書きを変えてしまえばいい。
今の俺達は自警団という肩書きで、ここで生活している。
きっと、白うさぎも俺の事を自警団員だと思っているのだろう。

-白うさぎには、知られたくないな…。

俺が裏でやっている事を知れば、白うさぎは俺を軽蔑してしまう。
今、俺に向けられている笑顔が曇ってしまうのは、嫌だ。
まして、もう自分には向けられないと思うと心底悲しくなった。

-白うさぎには、黙っとこう。

誤解されたままの方が都合がいい。

-後少しなんだ。

俺が魔女を殺す理由は、ただ1つ。
奪われた名を取り返すため。
神が人に罪状を告げると、その者の名は失われる。
正確には、神に名を代償として持っていかれるのだ。
今まで呼ばれていた名が人々の記憶から消えていき、次第に本人の記憶からも消去される。
後に残るのは、罪状と名を失ったという事実だけ。
そんな人をNemeLess-名も無き人-と呼ぶ。
神はNemeLessに救済として、罪状を払拭出来るシステムを設けた。
払拭方法は、罪状ごとに異なっている。
俺の場合は、罪状を告げられた原因を絶やす事だった。

「ここ、あんたがやってんのかい?」

『そうだよ』

「一人でか?」

『うん。わたしも黒猫と一緒なんだ』

白うさぎの場合は、絵を描く事。
たった一人になろうとも、その絵で他人を幸せにする事。
初めて会った時に俺は気づいてしまった。
白うさぎの白い腕に痛々しく刻まれた、烙印の跡を。

運命の魔女

「あーっと…そろそろ、俺帰るわ。店の邪魔、だしさ」

本当はまだ居たかったのだが、そろそろ衝動が半端なくなってきたのを感じ、俺が言った。
それに白うさぎの払拭を邪魔する訳にはいかない。

『邪魔なんて、そんな事ないよ。待ってるから、また来てよ』

フルフルと首を振り、白うさぎが言った。
(実際にはメモ帳に書いただけだが)

-言われなくても、来るっての。

顔が火照るのを感じ、俺は顔を背けた。
『待ってる』、何て言われたら、どんな顔をすればいいのか、分からない。
生まれて初めて言われた、その言葉がやけにくすぐったい。

「じ…じゃなっ!」

俺は足早に店を出た。
白うさぎの顔を見る事もなく、その足取りのまま、ギルドへと戻った。

-ヤバイ、まだドキドキしてる…。

心音がうるさい。
トクントクンと大きく脈打つ、鼓動が辺りに聞こえないか、気になってしょうがない。

「なぁーに、キョドッてんの?」

「うおっ!って、クロタツかよ」

「ビビりすぎだろ。つか、心外だなぁ」

振り向くとそこには黒龍がいた。
黒龍も今日は非番だったらしく、いつも結ばれている三つ編みが乱雑にされている。

「クロちゃんがどっか行ってた、とかマジ冗談だって思ってけど…」

くわっと大きな欠伸をする黒龍。
途切れた言葉の続きが気になった俺は、黒龍が話し出すのを待っていた。

「クロちゃん、死期近い…」

「冗談でも言うな!ぶち殺すぞ、あァっ!?」

縁起でもない、黒龍の言葉にキレる俺。
黒龍は鋭すぎる三白眼で俺を見下ろしている。

「何だ、違げぇのかよ」

「何で残念そうなんだよっ!」

相手をおちょくり、反応を見て、楽しんでいる黒龍の目は嬉々としている。

ードSヤローが…。

だんだんと腹の立ってきた俺は黒龍を無視すると、自室に戻った。

「…いつまでついてくるんだよ」

「クロちゃんが俺の話、聞いてくれるまで~」

飄々とした様子の黒龍に腹が立ってくる。
何より、そんな黒龍を部屋に入れている、自分自身にも。

ー何なんだよ、こいつは。

心の中で悪態をつきながら、俺は黒龍に「話って?」っとぶっきらぼうに尋ねた。
すると、黒龍は嬉しげにニヤリと口の端に笑みを浮かべ、話出した。

「最近、発作の方はどうよ?」

「相変わらず、酷くなる一方」

「だろうな。俺もそうだし」

黒龍は俺のベッドに腰掛け、俺を見た。
椅子に座っている俺は、皮肉そうに笑う。
俺と黒龍には、同じ呪いがかけられている。
同じと言っても、俺と黒龍とは進行度が違う。
俺の場合は、かけられた時点で呪いは発動しているが、黒龍の呪いは黒龍が戦い、魔女を殺すと発動する。
特殊な条件化でしか発動しない、稀なケースだ。

「あんた、この調子だと俺より先に逝くんじゃない?」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。この俺様が簡単にくたばってたまるか」

不愉快そうに黒龍が眉をしかめる。

「あんたと俺の勝負、だもんな」

「あぁ」

ー俺とお前、どっちが長生きするか、勝負しようぜ。

お互いに呪いがかけられている事を知った、あの日、黒龍は俺に言った。
賭け事感覚で言ってきた、黒龍にブチキレたのを今でも覚えている。

ー結局、乗っちまったけど…。

「んで、本題だ。お前に呪いをかけた女の情報だ」

ドクリっと心臓が大きく跳ね上がる。
聞いただけでも、体が反応してしまう。
嫌で嫌で仕方ない、忌まわしい女。
彼女を人々は、こう呼ぶ。
運命の魔女・フォルトゥナと。

「あの女関連なら、そうって言えよ」

「言ってただろうが」

「いつ?」

「さっきから。つか、俺がしょーもない事でここまで来るかよ」

「何年の付き合いだよ、おい」っと呆れながら、黒龍が俺に言う。

「あの女はこの街に戻って来てるらしいぜ。何でも身内に会いにとか」

「身内?」

「あの女の最後の肉親って噂だ」

最後の肉親。
俺達、魔女狩りに参加している者はその言葉を誇りに思っている。
魔女を根絶やしにする事を目指している、俺達は本当の意味での絶滅を望んでいる。
そのためには、魔女だけを殺すだけでは駄目なのだ。
魔女の家系自体を滅ぼさない限り、魔女がこの世界から消える事はない。
だから、俺達は魔女に関わる、全ての人間を排除して来た。
もちろん、フォルトゥナの肉親も塵一つ残さず、排除した。

「あの女の関係者は俺とお前で排除したはずだぞ」

怒りに声が震えた。

「落ち着け、単細胞が」

黒龍が方耳を塞ぎ、俺を睨んだ。

「ピーピー喚くんじゃねぇ。頭に響くんだよ」

「なら、早く話せや」

ーあの女の肉親…。

「そいつは俺が殺してやる」

「…出来るのか?お前に」

黒龍の目が試すかのように、俺を見据える。
いつもなら、飄々とした笑みを浮かべている黒龍だが、今日は何故か悲しげに見える。
まるで、何かを哀れんでいるような、そんな目に俺は即答出来なかった。

「…出来るに決まってるだろ、馬鹿にするな」

少し経ってから、俺は答えた。
震えかけた声を何とか平常に保つ。
すると、黒龍はいつもと同じ笑みを浮かべるのだった。

混ざることのない色

「そっち行ったぞ」

黒龍が武器を片手に楽しげに言った。

ー相変わらず、悪趣味だ。

俺はターゲットである魔女の足に銃をぶっ放した。
飛び散る血と魔女の悲鳴に黒龍は喜々とした表情を浮かべている。

「運命の魔女はどこにいる?」

低い声で俺が尋ねるが、魔女は依然として、口を割ろうとしない。
今、俺と黒龍は粛清兼情報収集の真っ最中。
運命の魔女について、色々聞きまわっては粛清という名の排除活動に徹している。
だが、魔女というのは結束が固いらしく、誰一人仲間を売ろうとしなかった。

「クロちゃん、殺すなよ?」

「分かってる」

俺は握っている銃の引き金を引いた。

ーあぁ、俺も悪趣味だわ。

魔女の悲鳴に体にゾワゾワっと快感のようなものが湧き上がってくるのを感じ、俺は思った。
もう、とうの昔に狂ってしまった体はこの快感に似たものがないと、成り立たなくなっていた。
一種の麻薬みたいな依存だ。

「クロちゃん~。死ぬから、打つなよ」

「口を割らないやつに裂く時間は、これ以上ない」

「…それもそうか。なら、始末は俺がしてやろう」

黒龍はそう言うと、立ち上がり、魔女の足を踏みつけた。
ガラガラに枯れた喉から、掠れた悲鳴が上がる。

「じゃな」

黒龍の武器が魔女に引導を渡した。
散々、痛めつけられた魔女は痛みから解放され、安らかな顔をしている。

「クロちゃんは先に帰ってていいぞ。後はやっといてやるから」

「…そうさせてもらう」

俺は銃を仕舞った。
火薬の匂いに混じり、血の匂いが香る。
俺はギルドに戻り、着替えを済ませてから、白うさぎの所に向かった。

『黒猫、こんにちは』

白うさぎはいつもみたく、店の奥から出てきた。
犬のように俺の元にやってくる、白うさぎがたまらなく可愛くて、俺は思わず抱きついてしまった。
あの日から、俺はこの店に通いつめている。
最初こそ、ぎこちなかったが今ではスキンシップも取れるくらいの仲になった。

『黒猫、くすぐったい』

白うさぎは嫌がる素振りもなく、嬉しそうに笑っている。

ーあぁ、マジ可愛い。

かなり名残り惜しいが、俺は白うさぎから離れた。
少し苦しかったのか、白うさぎの顔が赤い。

「どうだい?店は繁盛してるかい?」

『ぼちぼち、かな。そっちは?お仕事、順調?』

「こっちもぼちぼちってとこかな」

俺は白うさぎに嘘をついている。
主に仕事の事に関して。

『そっか。一緒だね』

そんな事にも気づかないで、白うさぎは笑う。
最初こそ、痛かった胸はもう平気でその笑顔を受け入れていた。
慣れたのだ、嘘を吐く事に。

ー…ごめんな。

いつか、俺の事がバレた時、白うさぎは同じように笑ってくれるのだろうか。
見え透いた言葉に返ってきたのは、あまりに酷な現実だった。

ー…ある訳ねぇだろ、うん…。

白うさぎは俺の事を知らない。
俺が白うさぎに告げる事は大半、否ほとんどが嘘だからだ。
俺がここに来る前に何をしていたか、なんて白うさぎには想像もつかないだろう。
俺と白うさぎの住む世界は、同じでいて、異なった事象に存在している。
俺には、そんな気がしてならなかった。

『黒猫?』

白うさぎが俺の顔を覗き込む。
いきなりの不意打ちに頭は真っ白になる。

「あ…?」

やっとの思いで出た声は、我ながらに情けない。

ー何で、ひっくり返ったっーーーー!?

心の中で俺は叫んだ。
情けなさ過ぎて、涙も出ない。
けれど、そんな俺に白うさぎは笑って、『何か食べる?』っと聞いてきた。

「…頼む」

恥ずかしさを隠しながら、俺は言った。
頬の火照りが引くのを待とうかと思ったが、そんな事よりもまず先に体が動いた。

「白うさぎ」

振り向く白うさぎをぎゅっと抱きしめる。
遠すぎて、眩しい光を掴むように、俺は腕に力を込めた。
決して、交わらない事を知っているから。
だから、せめて…。

ー今だけは…ここにいてくれ…。

矛盾

ギルドに戻った俺は部屋にいた。
来ている黒衣からは大好きな白うさぎの匂いがする。
血の匂いとは、全く違う優しい香りに俺はますます、今を呪いたくなった。
呪いのせいで、日に日に縮まっていく寿命。
あとどれくらいもつか、何て分からない。
せめて、残量がどれくらいあるか、分かればいいのになどと、馬鹿な考えにまで走る始末だ。

ーあと、どれくらい生きれるかな…。

元はといえば、全て運命の魔女・フォルトゥナだ。
フォルトゥナが居なければ、こんな事にはならなかった。
普通に、生きれていたのに。
などと過去を呪うやつがいるが、生憎俺は現実主義者だ。
今更、変えられない過去を呪う趣味はない。
しかし、今を呪うくらいは許してほしい。

ーどう足掻いたって、俺は…。

汚いままなんだ。
綺麗に見えた手に、べったりとついた血。
今までは何とも思っていなかった、それを俺は今、必死に洗い流している。
白うさぎの隣にいるためには、こんな手では駄目なんだ。
綺麗な白うさぎを穢したくない。

「俺は…」

ーお前が好きだ。

言いたい言葉は一向に出て行ってはくれない。
グルグルと黒い渦を巻く、この想いの捌け口は白うさぎしかいない。

「チクショー…」

俺は小さく呟くと、目を閉じた。
まぶたの裏に浮かぶのは、白うさぎの笑顔。
途端に悲しくなって、涙が出た。

「いっそ、殺してくれよ…」

もう自棄だった。
苦しすぎて、気でも狂ったらしい。
怖い怖いと散々言っていた死を、今は望んでいる。
叶わない想いなら、この体が望んでいた結末で死んでしまいたい。
もう、限界の体だ。
死ぬのは容易い。

「おい」

不意に声がして、俺は目だけをドアの方に向けた。
閉じられていたはずのドアの前には、眉間に皺を刻んだ黒龍がいた。

「お前、何ぬかしてんだ」

「…ノックくらいしろ」

「殺してくれだ?ふざけんなよ」

殺気を帯びた目がギロリとこちらを睨み付ける。
普通のやつなら、ビビるが俺にこの目は効かない。

「とうとう、イカれちまったか」

「お前が言うな、悪趣味ヤローが」

「黒猫」

ビクリっと体が反応する。
普段、クロちゃんっと呼んでいる黒龍が初めて俺の名前を呼んだ。

「どういう事だって聞いてんだよ」

「…聞いた通りの意味だろ」

まるで他人事の俺に黒龍は呆れたように、再び眉をしかめた。

「寿命でも尽きんのか?」

「…違う。つか、俺に残りの寿命なんて、分かる訳…」

俺が言いかけた時、目の前で火花が散った。
次に襲ってきたのは、痛み。
その痛みで、俺は殴られたんだと分かった。
手加減のない、黒龍の拳のせいで盛大に口の中が切れ、血の味が広がった。

ー痛ってぇな…。

まだ、俺は生きてるのか。
そんな声が頭で響いたような気がした。
とうとう、幻聴まで聞こえるようになったらしい。
限界は冗談抜きで近い。

「見損なったぜ。少しは見込みのあるやつかと、思ったのによぉ」

「俺の目も、イカれたか」。
そう言い残し、黒龍は部屋から出て行った。
後に残った俺は、口から垂れる血を拭った。

ー元々だろ、イカれてんのは。

心の中に残るのは、さっきまでの絶望感ではなく、虚無感。
唯一の友に言われた一言が、俺の中を空っぽにしていく。
死にたいと願うのだから、心が虚無化していく事だって厭わない、はずなのに。

ー…嫌だ。

消えてほしくないと思う、俺がいた。
今までやってきた事もこの想いも無い事になってしまう。
そう考えると、無性に怖くなった。
死にたくない。
心はずっと、叫んでいたんだ。
それに気づいていて、無視していたのは俺。
矛盾だらけの心と体。

ー俺は…どうしたらいい?

頬を伝う涙は何のために流れているのか、それすらももう分からなくなっていた。

「あなたは命がどれだけ尊いかを分かっていない」

女は言う。
片手に持っている、杖を俺に向けて。

「あなたの命は、私が預かるわ」

女は不可思議な呪文を唱える。
何の呪文かは、分からない。
そもそも、俺にそんな気力はない。

「十分に苦しみなさい」

女は笑う。
これは、忌まわしき過去の記憶。
俺を世界の理から外した、魔女の物語。

とある魔女の物語

それは今から少し昔の話。
女は、人とは違う力を持っていた。
人を意のままに操り、屈服させる事の出来る、そんな力を。

「何で、こんな力があるの…」

女は力を呪った。
力のせいで女は牢獄に閉じ込められた。
冷たい石の床に繋がれた手足。
幼心に女は皆から疎まれている、と思った。

「私は普通だよ…」

女は訴えたが、誰も聞く耳を持たなかった。
女が脅威だと皆、知っていたからだ。

「私が…何をしたのよっ!」

ある日、女は自身の手足を繋いでいる鎖を引きちぎった。
女にそんな力がある訳は無かった。
故に皆は驚いた。
女は、驚いた皆を見て、言った。

「私があなた達に何をしたって言うのよ」

禍々しい、魔力を秘めた瞳は光を拒み、闇色へと化した。
女は自分を拘束した看守を殺した。
次に女は自分を牢獄に追いやった、王を殺した。
抑えられていた、女の魔力は狂気へと変わり、国にいた者は女により、皆殺された。

「人なんて、脆いじゃない」

女は初めて、自由を手にした。
女は国を焼き払い、旅に出た。
そこで自分と同じく、力を持った女に出逢う。
彼女も女と同様に酷い扱いをうけていた。

「私は、人を許さない」

女は彼女を苦しめていた人々に呪いをかけた。
この世で最もむごいとされる、病魔の呪いを。
死にたくても、死ねない。
苦しくて、もがいても消えない痛み。
そして、確実に縮まっていく命。
短命の呪いと違うのは、自分で死ねない事。
死のうとしても、副作用として、その命は長らえてしまうのだ。
つまり、寿命が尽きない限り、死なない。

「私達の痛みはこんなものじゃないわ」

女は人々に呪いをかけ始めた。
痛みを知らしめるように。

「あなたは、何故そんな顔をしているの?」

そして、その矛先は俺に向いた。
女は俺を見て、言った。
何も知らなかった俺は、女を無視した。

「悲しいのね」

女は1人で話し続けていた。
俺は女の話に耳を傾けていた。

「そう…、あなたも同じなのね。私達と」

「だけど、あなたは命が何なのか、分かっていない」

「あなたに命の重さを教えてあげる」

女は俺に呪いをかけた。
訳の分からない理由から、俺は女の遊びに付き合わされた。
俺達は、女をこう呼ぶ。
運命を狂わす者、運命の魔女・フォルトゥナと。

払拭という名の大義名分

『黒猫っ!』

体を揺すられ、俺はハッと我に返った。
見ると、そこはギルドの自室ではなく、白うさぎの店だった。

―どうやって、ここまで来たんだ?

記憶がない。
ただ、白うさぎに逢いたくて、俺はここにいた。

「悪い」

『大丈夫?』

心配そうに白うさぎが俺を見てくる。
よく見ると、白うさぎの視線は俺の頬に向けられていた。
黒龍に殴られた頬は、うっすらとまだ腫れていた。
よく冷やしたのだが、そう簡単にはひいてくれなかった。

「あぁ、大丈夫だ」

本当は大丈夫なんかじゃない。
心は今にも崩れそうで、体は軋み上げていた。
何もかもが、ボロボロの状態。

―…優しいな、本当。

俺はあえて、その視線に気づかないふりをした。
気づいた事を知れば、白うさぎは理由を聞いてくる事が分かっていたからだ。
けれど、それは自分が単に知りたいためではなく、俺自身のためにだ。
白うさぎは、そういう子だ。

『お茶、淹れてくるね』

そんな俺を察してか、白うさぎはその場にメモを残し、キッチンのある奥へと消えていった。
少ししてから、蛇口を捻る音が聴こえた。
生活感のある音に大げさかも知れないが、生きているんだなっと痛感した。
ドクリっ…。

「っ…!」

それと同時に発作が起きた。
過呼吸のように乱れだす息を何とか、抑えようと息を吸う。
白うさぎに発作の事を知られる訳にはいかない。

_やべぇ…。

息を吸い込んでも、うまく肺にいかず、口から無駄に出ていく。
発作はさらに深刻さを増し、俺は喘いだ。

「っ…。はぁ…はぁ…」

数分後、発作はなんとか治まった。
汗だくになった俺は手の甲で汗を拭った。
その際に殴られた頬に触れてしまい、鈍い痛みが走った。

「…なんで生きてんだろ、俺」

カラカラに渇いた喉から、搾り出された声は今にも死んでしまいそうなくらい、弱々しかった。

『黒猫、お茶淹れて来たよ』

ニコっと微笑んだ白うさぎはお盆を手に戻って来た。
俺は何事もなかった装いをし、席に着いた。
ガランっと、誰もいない店にポットのお湯を注ぐ、水音が消え入る。
感傷的な気分になった俺は、白うさぎに声をかけた。

「なぁ、白うさぎ」

『ん?』

視線だけを俺に向ける、白うさぎ。

「あんた、死にたいと思った事、ないのか?」

ピタリ。
白うさぎの動きが止まる。
それもそうだ。
こんな質問されて、普通驚かない方がおかしい。

「俺は…いっぱいある。だってさ、払拭だけのために生きる、なんておかしいだろ」

『黒猫…』

白うさぎは困惑の表情を浮かべ、俺を見た。
俺は多分、これから先、こんな顔にしかさせられないんだろうな。
そんな事がふと頭を過ぎった。

『私達は生きたいから、生きてるんだよ』

白うさぎはメモを突き出した。

『払拭のためとか、ただの大義名分だよ』

「白うさぎ…」

『名前を取り戻したいっていうのもあるけど、それは一番じゃない』

白うさぎは綺麗な字で文字を綴っていく。
声が出なくても、一生懸命に思いを伝えようとしている。

_あぁ、そうか。

そこで気づいた。
何で、白うさぎに惚れたかを。

『だって、黒猫が名前をくれたから』

白うさぎが、必死に生きようとしているからだ。
声がでないのが何だ。
nemelessが何だ。
払拭が何だ。
罪状が何だ。
何に置いても、生きている事には、代わりないじゃないか。
俺だって、生きたいから、払拭してたんだ。
何か、生きている理由が欲しかっただけだったんだ。

_俺って、馬鹿だわ。

黒龍も、白うさぎもみんな、知ってたんだ。
生きたいから、今こうしている事を。

_…生きたい。

眩し過ぎて、直視出来なかった光。
それは、明日を生きれるという、希望の光。
誰もが信じて疑わない、明日があるという保証。
いつ死ぬかも分からない、俺にはない光。
だから、見れなかった。
見てしまったら、自分の不幸を認めないといけなくなるから。
だけど、俺はそれでも、生きたいと思った。
呪いなんかに負けたくはなかった。

「…そっか」

ギルドに帰ったら、黒龍に謝ろう。
殴られるの覚悟で。
俺はこの時、立ったフラグにも気づかないで、そんな事を考えていた。

恐れていた事

白うさぎの店から戻って来た、俺は早速黒龍を捜した。
ギルドの連中は魔女狩りにでも行っているのか、見当たらない。

――変だな。

違和感を覚えながら、俺は食堂に向かった。
すると、見知った顔がいた。

「よぉ、お疲れ」

俺が声をかけると、男は「お疲れ」っと返してきた。
どこか浮かない顔の男が気になり、俺は「どうかしたのか」っと男に尋ねた。

「黒猫はいなかったから、知らなかったのか」

男は俺を見ると、ゆっくりと話しだした。

「実は…黒龍が倒れたんだ」

瞬間、頭が真っ白になった。

―まさか…。

じわりと嫌な汗が背中を伝う。

「魔女にやられた古傷がなんからしい」

「…本当に、それだけか」

自然と声が低くなる。
俺が黒龍と仲がよい事はギルド内では有名だ。
故に男は俺に話すか、迷っていたのだ。
男は俺の問いに「詳しい事は分からない」っと申し訳なさそうに答えた。

「黒龍のいる病院まで案内しよう。もっとも、面会は出来ないだろうけど」

「…頼む」

俺は男の案内で近くの病院までやって来た。
静か過ぎる廊下を歩き、たどり着いたのは特別集中治療室と書かれた病室。
無機質な機械音の響く部屋に横たわっている、黒龍。
普段の黒龍からは想像もつかない、弱々しい姿に思わず息をのむ。

「…クロタツ」

「大丈夫か?」

「…大丈夫な訳、あるか」

―生きるって決めたばっかなのに…。

「お前がこんなで、どうすんだよ」

俺は微かに息をしている、黒龍を見て言った。
そしたら、いつものように黒龍が返してくれると、そう思って。

「どうしたんだよ、クロちゃん。泣きそうな面しやがって」

いつもの声が聞きたくて、俺はその場に立っていた。
気づけば、男はいなくなっていた。
気をつかってくれたらしい。

「聞こえてんだろうが…」

声はとうの昔に枯れていた。
消え入りそうな俺の声はもちろん、ガラスの向こう側にいる黒龍には届かない。
虚しくただ、消えていく。
どうしようもない虚無感と無力感が俺を襲う。

「こちらです」

床に膝から崩れ落ちた、その時、看護士の声がして、顔を上げた。

「…っ!」

看護士と共に現れた人物を見て、思わず息をのんだ。
そこには、白うさぎがいたのだ。

―何であいつが…!

俺は慌てて、姿を隠した。

『ありがとうございます』

看護士に一礼し、白うさぎは黒龍の病室の前へ。

「…よぉ、来たのかよ…」

タイミングを見計らったように眠っていた黒龍が口を開けた。
何度話しかけても、聞こえなかった声に体は震えた。

『当たり前でしょ』

親しげに話し出す二人に疑問ばかりが浮上する。

―どういう事だ。

「心配…すんなよ。まだ、死にゃしねぇよ…」

『そんなの分かんないよ。特にクロタツは』

「っけ…。言うようになったじゃねぇか…」

『誰かさんのおかげで怖いもの知らずになったんだよ』

弱々しくも会話する黒龍の姿は愛しい相手にでも、話しかけるように穏やかだ。
一方の白うさぎもメモ帳にペンを走らせ、柔らかな表情を浮かべている。

「あの…大丈夫ですか?」

ビクリと肩を揺らし、振り返るとそこには、心配そうにこちらを見ている看護士がいた。

「大丈夫…です」

慣れない敬語に口が回らない。
そもそも、声が出ているかもかなり怪しい。

「黒龍さんのお見舞いの方ですよね?」

「はい。…あの、あそこにいるのは、クロタツ…黒龍の知り合いですか?」

看護士が俺の肩越しに病室の前にいる白うさぎを見る。

「あの方は、黒龍さんの妹さんですよ」

「…妹?」

信じられない。
黒龍に家族が、肉親がいた、なんて。
ギルドに入った時、黒龍は天涯孤独と言っていた。
だから、心置きなく戦えると。
自分のためだけに命を使えると。

―どこまで嘘吐きなんだ。

「…そうか」

――最初から、バレてたんじゃないか。

汚い手を隠していたつもりだった。
バレないと、思っていた。
このまま、何も告げないでいるつもりだった。

―お前が…白うさぎが…好きだ。

届かないって分かっていても、欲しくて伸ばした手は虚しく空を掴む。
届くと分かっているから、何も言わない。
言ってしまえば、きっと不幸になる。
そう、分かっているから。

―ごめんな…。

楽しかった日々は終わりを告げた。
大丈夫、ただの日常に戻るだけだ。
言い訳じみた言葉で自身を押さえつける。
所詮、住む世界が違ったのだ。

「さよなら…」

感情はいやに落ち着いていた。
これが運命だと、受け入れているように。

怒れる焔

あの日から、俺は白うさぎの店に行かなくなった。
黒龍がいない今、黒龍の代わりになるのは、自分しかいない。
それもあり、俺は前より忙しい日々を過ごしていた。

「…これで全部か」

紙の束を片手に呟く。
血で汚れた手が白い紙をめくる度に赤く染めていく。

「今日は八人か…」

目の前に倒れている魔女を眺め、俺は何とも言えない快楽に襲われた。

_狂ってきたか…。

ここ数日、魔女を殺してしかいない俺にもはや理性などなく、ただの獣に等しかった。
むせ返りそうな血の匂いも今では、愛しくてたまらない。
平常な感情なんて、一ミリも残ってはいなかった。
そんな俺に声をかけて来るやつは、いなくなった。
あいつに近づいたら、ヤバイ。
感覚的にそれを察知した、彼らはあからさまに俺を避け、孤立させた。
黒の救世主の定めという所か。

_…俺、前どんなだったっけ?

ベッドに倒れこみ、不意にそんな事を思った。
楽しかった日々ははるか昔のように感じられ、笑っていた自分の顔は忘却の彼方へと消えていった。

『黒猫!』

まっさきに浮かぶのは、白うさぎの顔。

「会いたい…」

口をついて、出てきた言葉に自分自身驚く。
残っていた、わずかな感情に。

_一番厄介な感情が残ったな…。

出来る事なら、何もかも消えてしまえばいいっと思った。
ただの殺戮兵器のように成れたら、どんなにいいだろうっと懇願した事だって、何回もある。
近頃は特にそうだ。

「…白うさぎ」

_今、何してんのかな。

俺はつくづく女々しいやつだ。
自分から離れたくせにまだ、白うさぎにぞっこんなのだから。

『お仕事、頑張ってね』

『今度はいつ来れる?』

『黒猫、いらっしゃいっ!』

『お茶、はいったよ』

『またね、黒猫』

白うさぎの笑顔が頭から消えない。
優しい言葉が流れ星のように降っていき、俺の心は無性に寂しくなる。

_…ごめん。

誰に謝っているのか、自分自身でも分からない。
けれど、言わずにはいられなかった。
白うさぎは今日も来ない俺を待っていると思ったから。
そして、自ら居なくなった俺自身に対しての言葉。
しばらく、ボーっとしていると頬を冷たい何かが伝った。
驚いて、手で拭うとそれは涙だった。
泣くような事なんて、何もない。
だって、俺の感情はほとんど壊滅してしまったのだから。

「やめて…」

「黙れ」

バンっ!
銃声が辺りに響く。
魔女の心臓を貫いた弾丸は、魔女の背後にある壁にめり込んだ。
断末魔を上げた後、魔女は息絶えた。

_死んだか。

前なら、感傷的になっていた死体も、今では肉の塊としか思わなくなった。
俺の中に残っている感情は二つ。
一つは魔女に対しての怒り。
神に告げられし罪状・憤怒だ。
そして、もう一つは白うさぎへの愛情。
今の俺を形成しているのは、たった二つの感情だけだ。

「っ…!」

発作は前よりも激しくなった。
魔女を殺せば、殺す程、呪いは体を蝕んでいく。
まるで罰だというかのように。
しかし、前まで抱いていた恐怖は完全にないため、何とも感じない。
感情のない体は思った以上に扱いやすい。
元より、感情は大罪と呼ばれる、人間だけが生まれ持つ罪。
この世の全てを欲し、尽きる事のない、強欲。
誰かと自分を比べ、劣等感を抱く、嫉妬。
留まる事を知らない食欲、暴食。
己の存在のために相手を陥れる、傲慢。
頑張る事をあきらめた、怠惰。
人を惑わす、色欲。
そして、怒りの炎に身を焦がす、憤怒。

「くっ…!ぐぁ…!」

心臓が抉られたように痛い。
体が異常に熱い。
生理的に流れる涙と汗が混じり、カラカラに渇いた口に入る。
しょっぱい味が口に広がり、気持ちが悪い。

_何もかも、あいつのせいだ。

こんな体になったのも、こんなに穢れてしまったのも、何もかも全て。
今更、嘆いたってどうにもならない事が、頭の中で言い訳じみたように回る。
こんな状況でもいやに頭は冴えている。

_憎い、憎い…。

「ぐっ…!」

_これが…憤怒か…。

自らに告げられた罪状を、ひしひしと痛感していく。
怒りで満たされた心は、あらぶる獣の如く、鋭い牙で俺の心臓を締め上げる。

「あぁぁぁぁぁっ!!!!」

痛みで訳が分からなくなった。
バタバタとのた打ち回り、必死で息をする。

「あぁぁぁぁっ……」

とうとう、叫ぶ声も枯れた。
かれこれ、もう何時間こうしているんだろう。
冷静だった頭も、イカれた。

_許さない…。

「ハァ…ハァ…」

_消えろ…。

「き…えろぉ…」

_あいつを…。

「あ…いつを」

_そうだ。あいつを…。

「殺すために…ここに来たんだ…」

理性は完全に怒りに支配された。
もう、戻れない。
心は訴えたが、怒りの焔の業火によって、消し炭となった。

因果は車の輪の如し

「きゃぁぁぁっ!」

「逃げてっ!」

「助けてっ!」

街は阿鼻叫喚の巷と化した。
人々は背後からやって来る脅威に身を強張らせた。
感覚的に感じ取れる、狂気。
目があった者は殺すと言いたげな、殺意。
みんなは必死で逃げていく。
血で塗れた、俺から。

「運命の魔女はどこだ」

「し…知らないっ!私はあいつとは、何の関係も!」

「黙れ」

引き金を引く指は躊躇しない。
機械の如く、言葉と連動して銃弾を魔女の体にぶっ放す。

「出て来いよ、運命の魔女っ!」

枯れたはずの声で俺は叫んだ。

「じゃなきゃ、俺があんたの同族、全員ぶっ殺すぞっ!」

再び、引き金を引く。
パァンと乾いた音と共に嫌らしい水音が辺りに響く。
もう動く事のない、肉の塊に戒めと言わんばかりに銃弾を打ち込む。
飛び散った血が、地面に小さな地図を描いていく。

「聞こえてんのか?フォルトゥナっ!」

「あまり、騒がないでくれる?それでなくても、機嫌が悪いのだから」

聞き覚えのある声に体が反応する。
殺したくて、殺したくて、たまらない。
俺は振り返った。
目の前には、運命の魔女と呼ばれし女・フォルトゥナがいた。

「あなた、だいぶ人格が歪んでしまったのね」

「フォルトゥナ」

「あら、怖い。その殺気、ゾクゾクするわ」

フォルトゥナは機嫌が悪いと言っていたくせに、やけに楽しそうに笑みを浮かべている。
その理由は分かっている。
憎き相手をいたぶって、殺せるからだ。

「あぁ、俺もだ」

そして、俺自身も。
ニヤリと上がった口角は、殺気を帯びて、微笑む。
手にした武器を握りしめ、俺は地面を蹴った。

「死ねぇぇぇっ!!!!」

銃弾がフォルトゥナの頭上から降り注ぐ。
人間技とは思えない早さで俺はリボルバーに弾を詰める。
もちろん、銃弾は魔障壁と呼ばれる結界で防がれる事は分かっている。
だから、俺はあえて他を狙う。

「っ!」

銃弾の先には、小さな女の子。
その事に気づいたフォルトゥナが女の子に魔障壁を張る。

「なっ…!」

しかし、それだけでは終わらない。
銃弾はフォルトゥナではなく、周りの人々を狙っていた。
フォルトゥナは慌てて、魔障壁を人々に張り出した。
俺の狙いは、フォルトゥナの魔力切れ。
魔障壁は魔法の中でも高度な魔法。
魔力が尽きるのも、時間の問題だ。

「あなた…、本当にいい性格になったみたいね」

「てめぇのおかげでなぁっ!」

性格までもが変わってしまった。
今の俺に昔の面影は一切ない。
笑い方も、喜び方も、悲しみ方も、全部が全部歪んで狂っていった。
正常に働いているものなど、ないに等しい。
まさにその言葉がふさわしかった。

「何で俺に呪いをかけたっ!」

俺は尋ねた。

「てめぇのせいで何もかんもが台無しだ。俺が、てめぇに何をした!?」

すると、フォルトゥナは言った。

「短命になる前のあなたが命の重さを知りたいっと言ったからよ」

「俺が?」

「命についてなら、いくらでも語れるけれど、重さは別問題。どんなに口先で言った所でその重さは一生分かりはしない」

フォルトゥナの瞳がまっすぐに俺を見る。

「命の重さは身をもってではないと、決して理解できない」

「だから、俺に呪いをかけたのか?」

気づけば、銃口は地面に向けられていた。
一時休戦といった感じにフォルトゥナはしゃべりだす。

「これは、あなたが短命になる前、神に罪状を告げられた時よりも前の話」


少年は小さい頃から生き物を殺すのが好きだった。
さっきまで生きていた生き物が死んでいく様を、見ているのがとても楽しかった。
ある日、少年は神に罪状を告げられた。
罪状は---傲慢。
己の欲のために小さな生き物を殺していたが故だった。
しかし、少年は言った。

「殺しの何がいけないのさ」

「どうせ、ほっといたって勝手に死んじゃうのにさ」

「あんただって、掌で必死に足掻いてる人間達が死んでいくのが、本当は楽しかったんだろ?」

「だったら、僕と同罪じゃないか」

少年の言葉に神は何も言わなかった。
否、言えなかった。
神は人間達がいくら苦しくても、悲しくても、救ってやる事が出来ない。
それは少年の言っている通り、死んでしまうと分かっているのに何もしないのは、少年の行為となんら変わらない。

「神様、あんたが本物なら、僕に教えてみろよ。命の重さってやつを」

「そう。分かったわ」

そこに現れたのは、運命の魔女・フォルトゥナ。

「あなたに命の重さを教えてあげるわ」

フォルトゥナは少年の罪状を払拭した代わりに、少年に呪いをかけた。
そして、神は少年に新たなる罪状を言い渡した。

汝の罪状は--憤怒。
己が引き起こした過ち、短命となった体で悔い改めよ。

悪魔は囁く

「…」

俺はフォルトゥナの話を聞いて、全てを思い出した。

_そうだ…。俺が頼んだんだ。

バカだった自分を呪いたくなった。
何も知らなかった、それだけでは済まされない。
命を弄んだ俺が、命を削ってまで魔女を殺していたのは何のためだったんだ?
ただ、寿命を縮めただけじゃないか。
正しいと思っていた自分の行為は、単なるエゴと化した。
これが正しいと信じてきた道が閉ざされた。
俺の罪状は、真実を知らずに命を弄んだが故についた。
憤怒と過去に告げられた、傲慢。

_俺は何で…。

「さっきまでとは、だいぶ態度が違うわね」

クスリと笑うフォルトゥナの肩越しに血塗れの人々が見えた。
俺が撃った弾丸によって、被弾した者達はすでに事切れていた。

_俺が…この人達を…。

考えたくもなかったが、これが事実だった。
今更に自分が怖くなって、握っていた拳銃を地面に落とした。

「もう分かったかしら?命の重さってやつが」

愉快そうなフォルトゥナが目障りだった。
また煮えたぎってきた怒りを俺は慌てて、鎮める。
フツフツと湧き上がる感情が俺の中で入り混じる。

「残念だけど、短命の呪いは解けないわ。…あなたが死なない限り、ね」

「…構わない」

こんな事で償えるとは思わない。
でも、今の俺に出来る事は死ぬ事じゃない。
生きて償う事だ。

「俺の命何て…もう…ないに等しいが…俺は…」

「みなまで言わないで。まるで、今から死ぬみたいよ?」

_殺せ…。

心の中でもう一人の俺が囁く。
そいつは昔から快楽のために生き物を殺してきた、幼い頃の俺自身だった。
フォルトゥナの話を聞いたせいか、前よりもはっきりと現れてきた。

_殺せよ。そんなやつ、死んだって誰も困りはしないだろう?

「やめろ…」

_どうして?本当は殺したくてたまらないくせに。

「さぁ、勝てるかしら。本当の自分に」

フォルトゥナは笑う。
まるで他人事な魔女に湧き上がる殺意。

_こいつ、わざとやってやがる…。

つくづく性格の悪いやつだ。
何て、やけに冷静な頭の中で俺は呟いた。

_魔女を殺せ。じゃないと、もう白うさぎには会えないぞ?

ビクリと体が嫌でも反応する。

_白うさぎ…。

俺の中で何かが弾け飛んだ。

_そうだ。俺は…白うさぎに会わないといけない。

「そのために…殺すんだ」

どんなに非道な事でも、白うさぎのためと美徳化した。
会うために殺すんだと。
好きだから、会いたいから、魔女を殺さないといけないと。
そんな強迫観念に俺は落ちていた拳銃を拾った。
恐怖はない。
命の重さなど一瞬で忘れた。
全ては、白うさぎのために…。

「…残念だわ。あなたならと期待していたのに」

「…死ね」

血の気が引きそうな声色に空気が凍りつく。
俺は引き金を引いた。

_殺せぇぇぇーーーーっ!!!

被弾していく人々などにはお構いなしに、俺は銃をぶっ放す。
ただ無心に、撃っていく。

「あなた、いい加減に学習しなさい」

フォルトゥナが呆れたようにため息を吐いた。

「私を狙うなら、正々堂々狙いなさい。見苦しい攻撃は弾の無駄よ」

「お前が言うなよ。魔法で守ってるくせに」

「えぇ。だって、私は魔女だもの」

「俺は人間だ。俺は俺のやり方でお前を殺す」

俺の返答が面白かったのか、呆れているのか、フォルトゥナは苦笑した。
そんな事にもお構いなしに銃をぶっ放す。

_今の俺を見たら、白うさぎは何て思うだろう。

頭の端にあった考えは、狂気と殺気の狭間で消え入った。
今の俺に、そんな事を考えられる程の冷静さはない。
完全に獣と化したのだ。

「いい加減にしなさい」

フォルトゥナが雷を落とす。
俺はグンと跳ね上がると、後ろへと下がった。
自分でもびっくりするくらいの跳躍力に俺の足が悲鳴を上げる。
無理していたのは、分かっていたが体が本気でヤバくなり始めたらしい。
足が重い。
体の節々が痛い。
激しい動悸がして、上手く呼吸出来ない。
それでも、口元に浮かんでいる笑みは絶やさない。
そんな俺にフォルトゥナは哀れんだ視線を送る。

「あなた、これ以上戦ったら、本気で死ぬわよ」

「知った事かっ!」

グルルルっと獣のようにうなり、体勢を低くする。
戦闘の意は削がれる事無く、さらに倍増していく。
どこから湧き出てくるのか、分からない怒りが残された理性さえも飲み込もうとする。
あるようでない理性を俺は何とか、保つ。
手放してしまえば、取り返しがつかなくなる。
第六感が、そう囁く。

_クソっ…!

もう駄目だと思った、その時。

「黒猫!」

聞き覚えのない声がした。
すると、不思議な事に禍々しかった殺気が嘘のように消えていった。
まるで、魔法でもかけた様に、一瞬で。
しかし、ここにいる魔女はフォルトゥナだけだ。
フォルトゥナが俺を助けるために魔法を使うはずがない。
じゃあ、一体誰が?

「いたぞっ!」

不意に声がした。
騒ぎを聞きつけ、やって来たのは警察ではなく、ギルドのやつらだった。
今の状況から見て、来るべきは警察だ。
不審に思っていた俺は、見つけてしまった。
ギルドの面々に囲まれた、白うさぎを。

_何で…。

頭が追いつかず、くしゃりと前髪を掴んだ。
過去の記憶を思い出し、混沌としている脳は上手く作動してくれない。
ボーとする意識の中、俺は白うさぎに近づいた。

「黒猫!何でお前…」

ギルドのやつらは俺を見て、驚く。
黒龍と同じく、皆から恐れられる存在になった俺に皆の表情は硬い。

「黒猫…」

白うさぎは言った。
しゃべれないはずの、聞こえないはずの、声で。

「お前、しゃべれたのか…」

「近づくな、そいつも魔女だ」

_魔女?

男の言葉に俺は耳を疑った。

_白うさぎが魔女?

笑えないと思った。
冗談じゃないと思いたかった。
けれど、俺には白うさぎの声に聞き覚えがあった。
正確には、聞いた事があっただが。
さっき、自分に魔法をかけたであろう魔女の声と似ていた。
信じたくはなかった。
だって、これではあまりにも悲しすぎる。
報われなさ過ぎる。
滑稽過ぎて、逆に泣けてくる。

_これも、お前の差し金なのかよ。

運命は残酷にも、俺達を引き裂いた。

_神様、あんたはやっぱり、酷いやつだ。

こんな俺を見て、あんたは笑っているんだろうだから。

「やめろ」

俺は間に割って入った。
ボロボロな体が動く度に軋み、嫌な音がした。

「黒猫、こいつは黒龍に呪いをかけたんだぞ!」

ギルドの誰かが言った。
頭の中に病室で眠っている黒龍が浮かんだ。

「っ!」

やはり、最初から無理な話だったんだ。
薄々そんな気はしていた。
俺達は決して、会ってはいけなかったって。
だって、そうだったら、こんなに苦しまなくてもよかったのに。
こんなに痛い思いをしないでよかったのに。

_何で俺は…こいつを好きになったんだろう。

連れて行かれる白うさぎと目が合う。
綺麗な瞳はそのままで、まっすぐに俺を見ていた。

「今、何て思ってるんだ?」

聞けば返ってくる問いを、俺は飲み込んだ。
今更、聞いて何になる。
俺はギルドメンバーに続いて、ギルドへ帰った。
気がつけば、傷ついた人達も死体も消えていた。
この騒ぎに乗じて、運命の魔女・フォルトゥナが全てを回収していったらしい。
それを何に使うかは、この際考えない事にしよう。
まとまらない、妙に重くなった頭を抱え、軋む体を引きずるように歩いた。

混濁した記憶の中に埋もれていた真実

「…なぁ」

「ん?」

「後悔、しないのか?」

「しないよ」

「…そうか」

「うん。だから、・・・も後悔しないで」

「…あぁ」

「…ねぇ、合言葉決めようよ」

「合言葉?」

「そう。また会えた時にお互いが分かるように」

「そんなの覚えるか、分かんねぇぞ」

「それでも。ね?」

「しゃーねぇな」

「やった!」

「んで、何にする?合言葉」

「えっとね、・・・が思いついたのでいいよ」

「…分かった。じゃあ…」


目が覚めると、そこはいつも見ている天井だった。

―何だ?あの夢…。

妙にはっきり覚えている夢にデジャブのようなものを感じる。
混濁していた記憶が整理されたと思ったら、これだ。
一体、いつからの記憶なのかさえ、分からない。
そんなモノに踊らされていると思うと、無性に腹が立ってきた。

「…誰なんだよ、お前は」

暗い部屋に俺の声だけが空しく響く。

―白うさぎ、大丈夫かな。

不意にそんな事を思った。
昨日は記憶のせいで話さえ、出来なかった。
白うさぎは恐らく、地下の牢獄に繋がれている。
あそこは少しでもいれば、気が狂いそうになるくらいに劣悪な環境だ。
酷い時は看守から暴行されたり、辱められる事だってある。

―…白うさぎ。

俺は部屋を出た。
目指すは地下の牢獄。
コツコツと靴音が響く、螺旋階段を降りた先に白うさぎはいた。
手足を鎖で拘束された白うさぎは、床に突っ伏していた。
いつもの白いブラウス姿ではなく、囚人が着るような服と呼べない布切れを巻いた、白うさぎに俺は目を逸らしそうになった。

「く…黒猫」

「代われ。交代だ」

「あ、あぁ」

看守は俺と代わり、上へと上っていた。
その背中を見送った後、俺は白うさぎに声をかけた。

「よぉ」

「…黒猫」

白うさぎが顔を上げる。
降ろされた髪の間から、白うさぎの目が覗く。
昨日まで綺麗だった目は、完全に生気を失っていた。
よっぽど酷い目にあったようだ。

「何で、来たの?」

「何でって、ご挨拶だな。聞きたい事があったから、来たんだよ」

初めこそ、抵抗はあったものの俺は白うさぎと話せている今が、楽しいと感じた。
ずっと会いたかった白うさぎとの再会は、お世辞にもいい物とは言えないが、それども俺は嬉しかった。

「聞きたい事って?」

「お前、クロタツの妹なんだろ?」

「そうだけど」

「なら、何で呪いなんか…」

「…兄さんは、命を顧みないから」

白うさぎは身をよじらせ、何とか膝立ちで起き上がった。

「黒猫と一緒で命の尊さを知らなかったんだよ」

魔女は皆、命を大事にしているっというような口ぶりをする。
魔女の中には、何千年も生きている魔女もいれば、肉体が死んでも、魂がある限り何度でも輪廻出来る魔女もいるらしい。
特に後者は質が悪く、そいつらがいる事により、魔女がいなくならないのだ。
肉体は壊せても、魂を壊せるというやつはまずいない。
故に魔女は増える事はないが、何とかして、その数をキープしているのだ。

「俺とねぇ」

―嬉しくねぇ。

「でも、そのせいで兄さんは死にかけてる。悪い事、しちゃったな…」

「大丈夫だよ。あいつ、ゴキブリ並みの回復力してんだから」

「ゴキブリって…」

「一応、兄なんだけど」っと不服そうに白うさぎが頬を膨らます。

―可愛いなぁ。

やっといつもらしくなって来た、白うさぎに心の底から安心する。

「黒猫…ごめんね。しゃべれるのに、騙して」

「…気にすんな。もういい」

俺だって、知っていたとはいえ、黙っていたんだ。
なら、これでチャラにしてもいいだろう。
俺の中に久々にまともな感情が沸いてきた。

「…わたし達、魔女は神の御使いで、神の代わりに世界を平穏にするのが役目なの」

「平穏?」

魔女という存在はとてもじゃないが、平穏を連想させるイメージはない。
むしろ、この世界に災厄、危害を与える者だという認識の方が強いだろう。
俺は驚きつつも、白うさぎの話を聞いた。

「呪いは種類にもよるけど、その人が言い渡された罪状に合わせて、その効力を発揮するモノなの。たとえば、黒猫の短命の呪いは、黒猫が憤怒…つまり、怒りを露わさなければ、発動しないようにしてある、みたいに」

「なるほどな。で、それがどう平穏に繋がるんだよ」

「呪いはね、自分の罪状に打ち勝つと消えるんだ」

白うさぎはニコっと微笑んだ。

―罪状に打ち勝てば…消える?

信じられないと俺は目を見開いた。
今までずっと苦しめられた、この呪いが消えるなんて、まるで夢のようだった。
「これも人それぞれだけどね」っと白うさぎが付け足す。

「本当なのか?」

「嘘、言ってどうするの?それにフォルトゥナが言ってたでしょ。呪いは解けないって」

――残念だけど、短命の呪いは解けないわ。…あなたが死なない限り、ね。

あれはただの嫌味だと思っていたが、どうやらそうじゃないらしい。
今のままでは、俺が死ぬまで呪いは解けない。
そう解釈する事だって、出来る。

「じゃあ、クロタツの呪いも…」

「解けるよ。兄さんが罪状に打ち勝てば」

「さっきから、打ち勝てばって言ってるけど、打ち勝つって具体的に何なんだ?」

「それは教えられない。というか、わたしも知らないの」

白うさぎはごめんと言いたげに、目を伏せた。

―否、白うさぎのせいじゃないから。

俺はションボリとした白うさぎの頭を檻の隙間から撫でた。
柔らかい髪を俺の指が梳いていく。

「…フォルトゥナなら、知ってると思う」

「フォルトゥナか…。正直、会いたくないんだが…」

「フォルトゥナはまた、黒猫に会いに来るよ」

「…したら、今度こそあいつ、殺すと思うぞ」

フォルトゥナを見て、正直冷静さが保てる自信がない。
というか、言ってしまえば皆無だ。
きっと、また怒りに任せて、大暴れするに違いない。
そう思うと、俺が俺じゃなくなるようで怖かった。

「大丈夫。黒猫なら」

白うさぎは疑う事なく、笑いかけた。
こんな状況下で何で、笑っていられるのか、俺には分からなかった。
何より、笑っているのに目が死んでいるのが気にかかった。
無理して笑っているようには、見えない。

「…来たみたい」

白うさぎが天井を見上げ、呟いた。
ゾワッと何かを感じ取る、第六感。
目に浮かぶのは、あの魔女の姿。

「行って。フォルトゥナが待ってる」

「…あぁ」

意を決して、俺は螺旋階段に向かった。

「黒猫」

階段に足をかけた時、白うさぎが声をかけた。

「ルンパッパ」

白うさぎがそう呟いた瞬間、頭の中でカチリと何かが合わさる音がした。

――えっとね、・・・が思いついたのでいいよ。

――…分かった。じゃあ、ルンパッパでどうだ?

――ルンパッパね、分かった。

ルンパッパ。
どこかの言葉で『罪を実行する』っと言う意味だ。

――わたし達にぴったりだね。

――まぁ、しゃーないだろ。魔女に生まれた以上は背負わないといけねぇ、運命ってやつだろ。

――魔女って、・・・は男じゃない。

――じゃあ、イレギュラーとでも呼ぶか?

――何か、それやだ。

次々と流れてくる映像と記憶。
今朝見た夢の続きのようだ。
真っ白な世界に二人はいた。
小さな背丈から彼らが子供であるのは、明らかだ。

――…そろそろ、行くか。

罪を実行しに。

――そうだね。

永遠の別れじゃない。
そう、必死に言い聞かせて、俺は・・・と別れた。

「っ!」

小さな男の子が見ていたはずがいつの間にか、視点が男の子になっている事に気づく。

――こいつは…俺?

――魔女に生まれた以上は背負わないといけねぇ、運命ってやつだろ。

男の子はさっき、そう言っていた。
魔女に生まれた、と…。
つまり…。

―俺は…魔男?

正確に言い方を知らないが、ここでは魔男とでも言っておこう。
魔男は魔女の家系の中で出来た、突然変異な者。
その数は極端に少なく、今では絶滅したのではないかと言われていた。
魔男は魔女に比べ、人間に近い存在らしい。
だから、見極めが難しいとされている。

―嘘だろ…。

今までやって来た事は、全て無駄だった。

新たなる決意

「来たわね…」

フォルトゥナが振り返り、俺を見る。

「全て、思い出したようね」

フォルトゥナから見れば、俺はかなり滑稽だったに違いない。
フォルトゥナは全て知っていたのだから。

「久しいな、フォルトゥナ」

「やっと本当の貴方と話せるのね、・・・」

神から奪われた名前をフォルトゥナが口にする。
けれど、もちろん俺に聞こえる訳もなく、フォルトゥナの口だけがパクパクと動く。

「安心しなさい。貴方が殺した魔女達は全員、私が転生させたから」

「そうか…」

その言葉に心の底から、安堵する。
それで俺の罪が消える訳ではないけれど、幾分か気持ちが楽になった。

「クロタツ…、お前も魔男だったのか」

「よぉ。おっせぇんだよ、クロちゃん」

フォルトゥナの陰からヌッと出てきたのは、病院で寝ているはずの黒龍だった。
黒龍は俺と同じで数少ない魔男の1人で、魔女を殺す振りをして、魔女達を助けていた。
しかし、それを悟られてはマズイと魔女殺しを楽しんでいる、狂気な男を演じていたのだ。

「くくっ…、やっと解放されて、俺様超上機嫌だぜ」

「相変わらずね、・・・。今は黒龍と呼ぶべきかしら?」

「今んとこはそう呼んでな。その内、本当の名前を取り戻してやるからよ」

「それは、楽しみだこと」

フォルトゥナはクスリと笑った。
その一方で黒龍は上機嫌にニヤリと笑みを浮かべている。

ー何か、違和感あるな…。

「んで、てめぇはどうすんだ?」

黒龍が不意に俺に尋ねた。

「てめぇの罪状は憤怒を植え付けた魔女を絶やす事、だろ?それがてめぇの同族だとしても、殺さねぇ限り、てめぇの名前は返って来ねぇぞ?」

俺が神から与えられた、救済措置は黒龍が言ったように、同族を絶やす事だ。
それは魔男だろうが、人間だろうと変わらない。
二者択一しかないのだ。
生きるために仲間を殺すか、仲間を生かすために己が死ぬか。

「言わなくても、分かるだろ?」

俺は黒龍にニヤリと笑いかけた。

「仲間は殺さねぇ。名前なんてもん、俺にはいらない」

俺は罪状を背負う事にした。
仲間を殺す勇気がない訳ではない。
それが俺の短命の呪いを解く方法だと思ったからだ。

「短命の事は元はといえば、俺が望んだ事だ。俺の胸の中にある、怒りの炎は俺が生んだものだ」

そっと自分の胸に手を当てる。

「俺が鎮めるのが筋ってもんだろ?」

短命の呪いを解く方法なんて、誰も知らないのだ。
呪いをかけた魔女は解ける事は知っているが、解き方は知らない。
フォルトゥナの表情から、それが伺える。
呪いを解く方法は、己自身が導かなければ解けないのだ。
魔男だった頃の記憶を思い出した、俺はここに来るまでに色々と考えた。
そして、俺は選択した。
俺が俺として、生きていけるように。

「そうか…。まぁ、頑張れや」

黒龍は俺の意をくんでか、興味がないのか、素っ気なく言った。

「あんたもな」

「ぬかしてろ、単細胞」

ーまた勝負だな。

俺は何だか嬉しくなって、にっこりと笑ってみせた。

「・・・、いえ、今は黒猫だったかしら?」

話が一段落ついた所でフォルトゥナが俺に言った。

「あの子を助けるから、手を貸しなさい」

あの子というのは、考えなくても、白うさぎの事だ。
ギルドのやつらは白うさぎを公開処刑で晒しものにする、と言っていたのを思い出し、俺は拳を握り締めた。

「言われなくても、貸してやる」

ーもう、ニ度と離してたまるか。

一度は自分から離した手だった。
綺麗で穢れなんて知らない、俺なんかが触れではいけない、聖域。
だから、手放した。
けれど、どうしても求めてしまう自分がいた。
穢れてしまうと分かっていても、触れたいと思った。
大好きだから、離したくないと思ってしまったから。
自分勝手なのは重々承知の上だ。

ーそれでも、俺は…。

お前に触れたいんだ。
守りたいんだ。
離したくないんだ。
感情は溢れだし、心を締め付ける。

「うっし!なら、派手に暴れるか!」

禍々しい魔力を放つ黒龍は嬉々とした表情をしている。
悪趣味なのは、昔からのようだ。

「殺してはダメよ?もっとも、殺す価値すらないけれど」

フォルトゥナは杖を出し、床をトンっと突いた。
すると、床に魔法陣が浮かび上がり、凄まじい光を放つ。

「見せてあげましょう。魔女の恐ろしさを…」

ー神の御使いっての、忘れてないか?

今の二人を見て、世界に平穏を与える存在にはとても見えないだろう。
むしろ、破壊に導く破壊神の様に見える。
二人の場合はただ単に戦闘が好きだとか、相手が苦しむのを見るのが好きといった、狂気に満ちた性癖もあるだろうが…。

「何か言ったか?」

「何か言ったかしら?」

ー地獄耳かよ…。

「いや、何も」

つくづく、俺達は化け物なんだなと感じた。
フォルトゥナと黒龍の魔力に喚起されてか、俺の中で燻っていた魔力が堰を切って、溢れ出す。
遠い昔を思い出すような、懐かしい感覚が俺を襲う。

ーこれが本当の俺だ。

やっと、本当の自分を取り戻せたような、そんな気がした。

粛清

「ルンパッパ」

そう呟いた時、黒猫は全てを思い出したかの様にハッとした顔をしていた。

―よかった、覚えててくれた。

私はほっとして、静かに目を閉じた。
意識は朦朧としていて、目を閉じれば、凄まじい睡魔に襲われた。
しかし、それはいつもの睡魔ではなく、眠ってしまえば、二度と目覚めないであろう、永眠へと誘う睡魔だった。
体はとうに限界だった。
黒猫の殺した魔女を輪廻させるために、力を使いすぎたらしい。

―フォルトゥナに怒られるかな…。

重たい瞼を必死に持ち上げる。
焦点の定まらない目に映るものは、何もない。

―兄さん、ごめんね…。

カラカラに乾いた口からは、もう声すら出ない。
黒猫としゃべるだけで精一杯だったようだ。

―黒猫…。

伝えたい事はいっぱいあった。
話したい事もたくさんあった。
けれど、私にそんな資格なんてなくて…。
好きの一言すら、言えなくて…。

―このまま…、死ぬのかな…。

牢獄に二人の男が入って来る。
二人は私の両腕を縄できつく縛りあげた。

「来い」

首輪につけられた鎖を乱暴に引っ張られ、私は歩き出す。
行くのは死刑台。
処刑方法は恐らく、火やぶりだろう。

―黒猫……。

こんな感情、知らない方がいいと思った。
苦しいし、悲しいし、虚しいし、寂しいし…。
なにより、黒猫がいないだけでこんなにも不安になってしまう。

―私は強かった…はずなのに。

死ぬのを恐れている。
死んで、黒猫に会えない事に恐怖を覚えている。

―私は……。

ぱっと顔を上げた先には、歓喜にわく民衆達。
みな、口々に「魔女を殺せ!」と叫んでいる。

―神様、貴方はなんて、残酷なの?

疎まれ、罵られ、蔑まれてもなお、私達に人間を救えと言うの?
ならば、そんな私達は誰に救われるの?
報われない、この虚しい気持ちはどこにぶつければいいの?

「殺せ!!!!」

「魔女狩りだ!!」

十字架にかけられ、足元を見つめる。
そこには黒衣を着た男がたいまつを持って、立っていた。
処刑の時間を知らせる鐘を今か今かと待っている。

「…ん…ろか……の…」

―何て愚かなの。

私の呟きに気付く者などおらず、声にもならない声は歓喜の声にかき消された。

__________________

魔法陣により、ワープした先は歓喜にわく死刑台前の上空。
死刑台には十字架にかけられた、白うさぎの姿があった。

「白うさぎっ…」

ザワザワと胸の奥から、憤怒の炎が燃え上がる。

「落ち着きなさい」

フォルトゥナが突っ走りそうになった俺の肩を掴む。

―冷静になれ…。

憤怒に身を焦がしてはいけない。
俺は怒りを鎮めると、フォルトゥナの方を見た。

「悪いな、フォルトゥナ」

「落ち着いたのなら、結構よ」

フォルトゥナは俺の肩から手を離した。

「おい、焦らすんじゃねぇよ」

戦いたいといわんばかりの魔力を抑え込んでいる、黒龍がフォルトゥナに言う。

「躾のならない犬ではないのだから、我慢なさい」

フォルトゥナは黒龍を軽くあしらうと、下にいる民衆に目をやった。

「私達、魔女が何をしたっていうのよ…」

悲しげな表情のフォルトゥナに黒龍は眉を顰めた。

「フォルトゥナ…」

「神、貴方が見たかった世界は貴方のせいで歪んだわ」

フォルトゥナの髪が風に揺れる。

「だから、私が…私達が正して見せるわ」

フォルトゥナが杖を構える。
それを見て、俺と黒龍も武器を構える。

「行くわよ」

「「あぁ!!」」

そう叫んだ途端、足元に浮かんでいた魔法陣が消えた。
風を切り、俺達三人は急降下した。

「な…なんだっ!?」

「魔女だ!!」

「魔男もいるぞ!!」

地面に着地したと同時に周りにいた民衆が俺達に気付く。

「返してもらおうかしら。私達の仲間を」

フォルトゥナはそう言うと、魔法を発動させた。
民衆達はフォルトゥナの作り出した風により、いとも簡単に吹き飛ばされた。

「行くぜぇっ!!」

銃を片手に黒龍は民衆に突っ込んで行く。
黒龍の放つ殺気と魔力に恐れをなして、民衆達が逃げ惑う。
俺はその後ろについて、死刑台を目指した。

「魔男を殺せ!!!」

「化け物が!!」

「その化け物に勝てると思ってんのかよっ!!」

黒龍が銃を撃つ。
魔力を込めて放たれた銃弾は逃げ惑う民衆達をホーミングし、確実に足を撃ち抜く。

「このっ!」

外を警備していた警察官が騒ぎに気付き、拳銃を撃つ。
俺は慣れた手つきで魔障壁を発動させ、銃弾を防いだ。

「効くかよ!」

俺は黒龍同様、魔力を込めて銃を撃った。

「ぐぁっ!」

「邪魔なんだよ!!」

黒龍の溢れ出した魔力が民衆達を吹き飛ばす。
アリの群れのような多さの民衆達は、気付けば、四分の一程度になっていた。

「黒龍…黒猫……」

ギルドメンバーはようやく、俺達の姿を確認したのか、青ざめている。

「う…裏切り者がぁぁっ!!!!!」

ギルドメンバーが俺達の所に走り出す。

―ごめんな。

俺は目をつぶり、ギルドメンバーにてのひらを向けた。
てのひらには淡い光を放つ、光の塊が出来ていた。

「手加減すんじゃねぇぞ」

「けじめだ」っと黒龍が低い声で言う。
俺はゆっくりと頷くと、光の塊をギルドメンバーに向かって、放った。
光の塊は鋭い針のように細くなり、ギルドメンバーの頭上から降り注いだ。
悲鳴と共に辺りに血が飛び散る。

「くっ…黒猫…」

「邪魔するなら、次は殺す」

俺は感情を押し殺し、そう言い放った。

「これで邪魔するやつはいなくなったな…」

俺が死刑台に歩み出そうとした、その時。
ゾクリと背筋が凍りつく程の殺気を感じた。

―誰だ、一体…。

俺と同じく、殺気を感じたフォルトゥナ、黒龍も辺りを見渡す。
しかし、見えるのは怪我をした民衆達と警察官だけだ。

「っ…!まさか!!」

フォルトゥナがハッとしたように声を上げた。

『調子に乗るな、魔女共』

「神っ…!」

フォルトゥナの言葉に俺と黒龍は目を見開いた。

―神…だと…。

後少しで白うさぎの所だと思った矢先、神が出てくるとは思いもしなかった。
今まで無干渉だった神が今更何の用だ。
動揺を隠しきれない、俺達に神は静かな声で言った。

『貴様らを粛清する』

罪を実行する者

――粛清?俺達が?

「神っ…、貴方…」

『世界をリセットする』

「そうやって、また世界をループさせんのかよ…」

ギリっと黒龍が歯を食いしばる。

「ループ?」

「この世界はもう何千年も同じ時代をループしているの。進みもしない、衰えもしない、この腐りきった世界を」

フォルトゥナが俺に説明する。

「てめぇの都合のいい世界なんてもんはねぇんだよ。いい加減、気付いたらどうなんだ」

『私は己の思う世界を作るだけ…。貴様らは…その障害だ』

神は淡々と話す。
元より、神には感情というものがないからだろうか、酷く冷たく感じる。

「フォルトゥナ…、やるしかねぇみてぇだな」

「えぇ。そのようね」

フォルトゥナと黒龍がギロリと神の声のする方を睨む。
どうやら、戦う気らしい。
俺も慌てて、武器を構えようとすると、黒龍が言った。

「てめぇはあいつを助けに行け」

相手は神だ。
勝てる、勝てない以前に力の比べようがない。
絶対無二の存在。
そんなのを二人で相手出来る訳がない。
俺達、化け物を生んだのは紛れもなく、神だ。

―行っていいのか…俺は…。

迷いながらも、足は死刑台に向いていた。
行くしかない。
そう言っているように感じ、俺は走り出した。

「気をつけなさい、黒龍」

「誰に向かって言ってんだよ、クソアマが」

―フォルトゥナ…、黒龍…。

振り返りはしない。
ただ、無心に足を動かす。

「白うさぎっ!」

走って、そんな経たない内に俺は死刑台にたどり着いた。
後ろからはこの世のモノとは思えない程の禍々しい殺気が溢れていた。

「く…ろ…」

白うさぎがゆっくりと閉ざしていた、目を開く。
俺は「待ってろよ」っと声をかけ、白うさぎを十字架から降ろした。
縄が食い込んだ腕には生々しい痣が残っている。

―何でこんな目に…。

力の入らない白うさぎを俺はぎゅっと抱きしめた。

「くろ…」

「喋らなくていい…」

弱々しい、白うさぎの声に胸が締め付けられる。

「くろ…ね…こ…」

白うさぎはなおも喋ろうとする。
何か言いたげな目をしているのに気付いた俺は、ポケットにしまっていた、白うさぎのメモ帳とペンを出した。
けれど、白うさぎはそれを受け取ってはくれず、声にならない声を出し続けるばかりだ。

―白うさぎ?

「くろ…ね…こ…、あぁ…あの…ね…」

俺は白うさぎの口元に耳を寄せ、言葉を待った。

「わ…わた…しぃ……」

「私?」

「くろ…ねこ…の…事……す…き……」

ー黒猫の事、好き。

思考回路が止まる。
それなのに、頬は触れなくても分かるくらいに熱を帯び始める。

「…俺も、お前が好きだ」

言ってはいけない言葉だと思ってた。
言ってしまったら、白うさぎを穢してしまうと思った。
けれど、言えなくて苦しかった。
辛かった。
悲しかった。
だから、余計に泣きそうになった。
同じ想いだった事が、好きだと言ってくれた事が、好きだと言えた事が嬉しかった。

「白うさぎ…」

俺は白うさぎの手を取り、しっかりと目を見て、言った。

「一緒に生きよう」

白うさぎはビー玉みたいに目を丸くして、やがて大粒の涙を流した。
俺は白うさぎの目から流れる涙を拭うと、優しく微笑んだ。

「終わらせないとな、今度こそ」


_神を殺すなんて、出来るのかな…。

_やるしかねぇよ。じゃないと、一生このままだ。

_そうだね…。

_神が気まぐれで作った世界だとしても、俺達の世界はここしかないんだ。

あの日から、ずっと世界はループしてる。
俺達が大人になっても、神は世界をリセットして、何度もやり直している。
俺達、魔男や魔女は唯一それを知っている存在するだった。
だから、神は魔男や魔女を御使いとして、わざと疎まれるようにした。
そうして、魔女狩りが起きた。
何度世界をリセットしても、魔女狩りは終わる気配がない。
むしろ、リセットすればする程、化け物などと扱われた。
俺達は何もしていないのに。
ただ、静かに暮らしていただけなのに。

_さぁ、罪を実行しに行くか…。

_うん。

けれど、それは叶わなかった。
それ所か、俺は記憶を奪われ、偽の記憶を植え付けられた。
ループの話が出た際、俺がループについて分からなかったのは、そのせいだ。

「くっ…!」

「フォルトゥナ!」

黒龍の声がして、そちらを見れば、そこには傷だらけのフォルトゥナと黒龍がいた。
黒龍はフォルトゥナを庇ってか、フォルトゥナよりも傷が深い。

「黒龍!フォルトゥナ!」

俺は白うさぎを死刑台に残し、二人の元へ走り出した。
凄まじい地響きと共に頭上からは光の槍が降り注ぐ。

ーこれが…神…。

俺はギリギリの所をかわし、何とかフォルトゥナと黒龍の元にたどり着く。

「大丈夫か?」

「えぇ…」

「チクショー…調子乗りやがって…」

黒龍は忌ま忌ましそうに天を睨んだ。
口から滴り落ちる血は怪我をしたものか、それとも呪いのせいなのかは、今は考えないでおこう。

ーこのままだと、みんな死ぬ…。

またリセットされるのか。
また同族を殺されるのを見てろっていうのか。

ーんな事、させるかよ…!

「てめぇ、何する気だ…」

黒龍が俺の腕を掴む。

「転移魔法さ」

転移魔法、俗に言うワープだ。
普通のワープなら、どんな魔女だって、魔男だって使える、基本的な魔法だ。
しかし、今回は相手が相手だ。
下手をすれば、魔力が切れて、死ぬなんて事もある。

「あんたが好きな世界を幾らでも作れる、どこか異次元に飛ばしてやる」

俺はフォルトゥナと黒龍がいる所に魔障壁を張ると、勢いよく走り出した。

ー頼む、持ってくれ。

神からの攻撃をかわし、地上に線を引いていく。
短命のせいでボロボロになった体は悲鳴を上げていた。
生きると決めたのと対照的に体はどんどん弱っていく。

ザシュっ!!!

「ぐぁっ!!!」

光の槍が俺の足をかすめる。
足がもつれた俺は、その場に倒れた。
足からは血が溢れだし、ピクリとも動かない。
限界だった。
さっきまで、平気で走れていた足はもう指一本動かせないくらいに呪いは俺を蝕んでいた。

ーくそっ…。

ドクンドクン。

「くっ…あぁぁぁぁっ!!」

心臓を鷲掴みされるような痛みに俺は叫んだ。
発作だ。

「黒猫!」

「ッチ…神の仕業って訳かよ」

『私に逆らうからだ。愚かなる魔男よ』

ドクンドクンドクンドクンドクン…。

首元から黒い線が現れた。
それは血管のように脈打ちながら、ゆっくりと俺の顔に延びてくる。

『死ね』

ー嫌だ…。

地面に爪を立て、砂を握り締める。
見れば、手にも黒い線が延びてきていた。

「黒猫!」

「ぐぁぁぁぁぁっ!!!!」

痛みのせいで何も考えられなくなる。

『死んだら、楽になるぞ?』

神は誘う。
痛みも苦しみも感じない世界へ。

「嫌…だね…」

『っ!』

ハァハァと乱れた息を整え、俺はゆっくりと立ち上がった。

「痛みも苦しみもない世界なんていらねぇ…」

発作が和らいでいく。

「黒猫!」

振り向くとそこには、白うさぎがいた。
魔力で回復したらしく、さっきとは違い、生き生きとしている。

ーお前のおかげか…。

「痛みも苦しみも生きていく上には必要なんだよ。だから、いきてって実感するんだ。だから、命が大事だって分かるんだ」

俺はキッと天を睨んだ。

「俺達の世界は、俺達が作る」

ブワっと地面が淡い光を帯びる。
俺が引いた線が魔法陣へと変わり、転移魔法が発動したのだ。

「お前は…もういらない」

俺の声と共に辺りは白一色に染まった。

Epilogue

「すみません、この絵おいくらですか?」

1人の客が絵を指さして、尋ねた。

「あ?あー…ちょっと待ってろ」

絵画店にいた、ガラの悪い三つ編みの店員が頭をかきながら、奥へと引っ込む。
取り残された客は手持ち無沙汰になり、飾ってある絵を見つめた。
黒衣の服を着た少年と白い服を着た少女の描かれた絵。
特別上手いと言うわけではないが、何故か惹かれるものがあった。

「だから、分かんねぇから聞いてんだろうが!このアマ!」

「いい加減に覚えなさい。犬」

奥からはさっきの店員と女の会話が聞こえる。
店の雰囲気をぶち壊す会話に客は「大丈夫かしら…」と不安になる。

「んで、あいつらは?」

「買い出しよ」

「ったく、客どうすんだよ…」

「貴方がどうにかしなさい」

「てめぇもちったぁ手伝え!!」

客は店員の声にビクリと肩を揺らした、その時。
店のドアがカランカランと音を立てて、開いた。
入ってきたのは、黒衣の服を着た少年と白い服を着た少女だった。

「ん?お客さん?」

「あっ!いらっしゃいませ!」

二人の様子から、この店の人だと悟った客はほっと胸をなで下ろした。

「リシェス、シュバルツ。喧嘩するなよ、店まで聞こえてるぜ?」

「あら、帰って来たのね」

「おっせぇんだよ、てめぇ」

店の奥から、先程の店員・黒龍もといシュバルツとフォルトゥナもといリシェスが出てきた。

「お客さんの前でその口調やめろって」

「しゃーないだろ。俺様は元からこーなんだからよ」

「開き直るな」

黒衣の少年がシュバルツを軽く睨む。

「で、どの絵が欲しいの?」

リシェスが客に尋ねる。
客は「そうだった」っと思い出したように、さっきの絵を指さした。

「この絵、なんですけど…」

すると、その場にいる四人はあからさまに申し訳なさそうな顔をした。
その表情を見て、客はこの絵がとても大切なんだなと思った。

「特別なモノ…なんですね」

「すみません」

白い服を着た少女がぺこっと頭を下げる。

「あの…たまに見に来てもいいですか?」

「えぇ。いつでもいらっしゃい」

リシェスがにっこりと微笑んで言った。
「なんでてめぇが答えてんだよ」っとシュバルツがリシェスにかみついた。

「待ってますから」

黒衣を着た少年が客に優しく言った。

「あの…お名前を聞いても?」

「俺ですか?俺はネロ」

「私はルイって言います」

黒衣の少年、黒猫ことネロと白い服を着た少女、白うさぎことルイはにっこりと笑って見せた。
神を転移魔法で転移させた後、神に奪われていた名は人々に返された。
もちろん、罪状も消え去った。
神のいなくなった世界は、滅びる事も争う事もなかった。
しかし、魔女達はまだ人間が信じられず、今もどこかでひっそりと暮らしている。
俺達はといえば、自らの犯した罪を改めるために今もこの地に住み続けている。

「シュバルツ、もっと丁寧に!」

「わぁーてるよ!うっせぇ妹だな」

「ネロ、もっと右よ」

「っと…これでいいか?」

ルイがずっと経営していた絵画店は前よりも賑やかになった。
その要因は主にシュバルツだろうが。
前の静かな雰囲気よりもルイはこの雰囲気の方が好きだと言っていた。

「貴方はもう少し、丁寧な言葉使いが出来ないのかしら?」

「んぁ?喧嘩売ってんのか」

「そこ、喧嘩しないの」

リシェスとシュバルツは前よりも仲良くなった気がする。
口喧嘩は耐えないが、もうあの殺伐とした殺気を放つ事はなくなった。
こんな日々がたまらなく愛おしくて、楽しい。
今、俺は生きてるんだと実感出来るから。
背負った罪が消える訳じゃないし、もちろん忘れてはいない。
だからこそ、生きていかなければいけない。
誰かを犠牲に手に入れてしまった、今があるから。
何より、俺達自身が生きていたいと思うから。

「てめぇ、さっきからわざと言ってんだろ…」

「あら、人聞きの悪い」

「またやってるよ…」

ルイが呆れたように呟いた。

「全く…」

「仲いいんだか、悪いんだか」

「だな」

「おいっ!ネロ、てめぇはどう思うよ?」

二人でくすくす笑っていると、不意にシュバルツがこっちに話を振ってきた。

「え?俺?」

「ルイ、貴女は?」

「私も?」

傍から見ていたはずがいつの間にか、巻き込まれてしまう。
まぁ、楽しいからいいのだけれど。

「つーか、腹減った…。ルイ、何か作れや」

「はいはい」

「シュバルツ、たまにはあんたが作れよ」

「俺様が?やなこった」

シュバルツはぷいっとそっぽを向くと、店の奥へと引っ込んでいった。
それに続いて、ルイ、リシェスが店から出ていく。
後に残った俺は店を黙って、眺めていた。
呪いのせいで縮まった寿命は元には戻らない。
きっと、俺はルイより先に死んでしまうだろう。
それがいつなのかは誰にも分からない。
だからこそ、悔いのないように生きよう。
俺がいなくても、ルイがしっかりと生きていけるように。
歩いていく道を違えないように。
生きている内は守ってあげたい。

「ネロー!」

「今行くー!」

けど、それでもルイが寂しいっていうなら、俺は転生して、戻って来る。
その時、ルイが俺だって分かるように俺は歌ってよう。
また、会えるように。
再会を祈って。


ーFinー

名も無き二人の紡ぐ歌

ようやく完結!
グタグダな話を最後まで読んでくださり、ありがとうございます(*´ω`*)
ちなみにみんなの本名は、色から取りました。黒猫(ネロ)と黒龍(シュバルツ)は黒。白うさぎ(ルイ)は白という意味のビエールイから。フォルトゥナ(リシェス)は色ではなく、幸福って意味です。
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名も無き二人の紡ぐ歌

魔女に呪いをかけられ、短命となった少年・黒猫に告げられた罪状は憤怒。彼は罪状を払拭するため、魔女狩りと呼ばれる粛清に参加している。そんな彼が出会ったのは、声を失った少女・白うさぎだった。 これは、名も無き二人の物語。

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • アクション
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-05-27

Copyrighted
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Copyrighted
  1. Prologue
  2. 出逢い
  3. 黒の救世主
  4. NameLess
  5. 運命の魔女
  6. 混ざることのない色
  7. 矛盾
  8. とある魔女の物語
  9. 払拭という名の大義名分
  10. 恐れていた事
  11. 怒れる焔
  12. 因果は車の輪の如し
  13. 悪魔は囁く
  14. 混濁した記憶の中に埋もれていた真実
  15. 新たなる決意
  16. 粛清
  17. 罪を実行する者
  18. Epilogue