徒然短編

ふと思い付いた短編を、載せて行きたい……です。
忘れて、これで終わりになるかもしれないけど。

夕立

音を立てて雨が降る。彼方には茜色の夕空が霞む。
夕立は、珍しく長引き、人々を物陰に閉じ込めていた。
私も、隠れる場所を探したが、見つからず、雨に打たれながら歩いていた。
「お姉さん、ここ、空いてるよ」
黄色い帽子を目深に被った子供が、暗い物陰で小さく手招く。
躊躇いながらも、物陰に加わると、子供は嬉しそうにニコニコしていた。
次の日の帰り道、空は赤い。湿気を含んだ熱い風が、ゆるゆると纏わり付いて来る。
「お姉ちゃん、こっちだよ」
子供が物陰に居た。目が微かに輝いていた。
その光を頼りに、物陰に潜り込む。
「今日はね、ゆうだちが来るの」
「夕立?」
「ううん……ゆうだち」
辺りを黒い影が走り、雷が鳴った。子供のように身震いし、隣に縋る。
そこに、子供は居なかった。

宵月

鬱蒼と茂る森の中、私はただひたすらに逃げていた。
背後に追手の怒鳴り声を聞きながら、それから出来るだけ遠ざかるように、勘だけを頼りに走る。
最早、野獣の鳴き声なのか、追手の声なのかも分からなくなっていたが、足だけはノロノロと動き続けていた。
ふと立ち止まり、空を見上げる。木の葉越しの月が、静かに地面を照らしていた。
再び、私の名前が叫ばれた気がした。
ハッと我に返り、また逃げ出す。
木の根に躓き、手をつこうと地面に手を伸ばした。
が、私の手に触れる物は何も無かった。

気が付くと私は、硬いゴツゴツとした地面の上に寝ていた。
ゆっくりと体を起こし、辺りを見回す。
真っ黒な空に、満月が浮かぶ。それに手を伸ばさんばかりに、幾つもの黒い塔が背伸びしていた。
塔の足元では、奇妙な形をしたたくさんの人や、高速で走る箱が行き交っていた。
目を痛める強い光や、耳を脅かす騒音、精神を病ませるような、堅苦しい雰囲気で埋め尽くされていた。
私は再び走った。前にも増して、敵が増えた気がした。

徒然短編

徒然短編

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-27

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  1. 夕立
  2. 宵月