不協和音
ワーニング!妄想の垂れ流しです。
見出しとはどう言う物かわからないので、付けません。ご了承下さい。
不協和音1
夜。
真っ暗で、今にも道が消えてしまいそうな、夜。
そんな夜の儚げな道を、俺とシンは走っていた。
目的はただ一つ。
脱獄、である。
俺もシンも、人を殺した。
何人も何人も、数えるのが嫌になるほど。
だから被害者ヅラをする気は元より無い。
でも、それでも俺とシンは自由になりたい。
あんな地獄____居るだけで、空気を吸うだけで、気が狂いそうだった。
網走なんざ、比じゃない。
罪人は栄養失調で野垂れ死に、常に物が壊れ泣き声と嬌声と怒声と罵声と血の匂いと吐瀉物の匂いと精子の匂いと内臓の匂いと排泄物の匂いとが充満している。
そんなの、最早監獄ではない。刑務所ではない。
あそこは____地獄だ。
そんな、殴り合う大人達の中で、死なずに、傷を負わずに、犯されずに済んだのは、奇跡なのだろう。
そう、おもう。
思うのだ。
だからこそ、神様がくれた、たった一度のチャンス____無駄にはしない。
そう思っていると、少しして、壊音シンが来た。
シンと俺は同じ牢屋ということもあり、すぐに仲良くなった。
そしてある日、俺はとうとうシンに脱走計画を打ち明けたのだった。
だが、正直に言って、あれは博打だった。
俺は内心ビクビクしていた。
看守にチクられたら殺される。
罪人にバレたら口止めの代わりに犯される。
だが、シンは俺の計画に乗ってくれた。
そして、脱走して今に至る。
「はっ、はっ、はっ……!」
「もうここまでくれば大丈夫だよ、リス……!」
「そ、そうか……もう、大丈夫か……」
安心した途端、身体中の力が一気に抜け、俺は壁に倒れるようにもたれかかる。
シンはそんな俺の事を支えつつ、話しかけてくる。
「大丈夫……リス……?」
「あ、あぁ。大丈夫だ……。それより、脱走計画その二だ……」
「二?」
「その二……家の持ち主を殺して、必要なものを奪う……」
2
「こ、こ……?」
「あぁ。ここだ。恐らく一人暮らしだろうしな」
深夜。
大抵の人は寝る時間である。
俺は、用意しておいた針金を鍵穴に差し込むと揺する。
すぐに鍵は開いた。
全く……不用心だな。
チェーンがされていない。まぁ、こちらにとっては好都合だ。
「いいか、シン。まず俺が入るから、お前は後ろから鉄パイプをどこかにぶつけないようにゆっくり来い。それから、もし俺が危険な目に遭ったらお前は逃げろ」
「で、でも____それじゃ、リスが……」
「二人とも死ぬより一人でも生き残った方がいいだろ」
そういうと、俺は何かを言いたげなシンを尻目にこっそりと玄関に侵入した。
足音を消すために玄関で靴を脱いで、近くにあった靴箱に手を添えながら上がると、暗闇の中を鉄パイプ片手に進む。
そして、俺は後悔する。
何故深夜の暗闇の中玄関や靴箱の位置がどこかわかったのか。
答えは一つ。
誰かが電気を付けていたのだ。
気づいた時には遅かった。
マズイ、このままじゃシンまでやられる____!
「シン、逃げ____」
「ごめんね」
そう耳元で囁かれたかと思うと、次の瞬間、鉄パイプを持っていた右腕に激痛。
「ぐっ……!」
どうやら腕を折られたらしい。そして、しゃがみ込もうとした俺の背中をさらに誰かの手が押した。
俺は押されるがままに前に顔から倒れる。
その時、倒れた角度的に俺はギリギリ見る事ができた。
いつもはニコニコヘラヘラしているシンの、無表情を。
シンはダッシュで俺の腕をへし折った男の所まで一瞬で間合いを詰めると、そのまま男の顔めがけて鉄パイプを振り下ろす。だが、そのパイプは寸前で金属バットによって阻まれた。
金属音が響く。
「軽い攻撃だなぁ」
そんな声が聞こえたかと思うと、今度はシンの右腕が折れた。
ボキリと。
呆気なく、儚なく、へし折れた。
シンは悲鳴を上げようとしたが、その前に男の手刀がシンの首を打ち、シンは気を失った。
そして俺も、痛みで気を失った。
気が付く。
朝日が俺の顔を照らす。
何かを調理する音がすぐそばから聞こえる____
「ってどこだよ!!」
監獄なら朝から朝日は見えない。
外なら何かを調理する音は聞こえ無い。ならば……
まさか、腕をへし折った男の家か!?
俺はすぐに起き上がる。
が、腕を柵にぶつけてしまい、すぐにベッドに倒れる。
ベッドが軋む音を聞いて来たのか、男はコンロの火を消してからこちらに来た。
「起きたのかい?えっと……」
「リ、リスだ。狂喜乱舞の狂に音色の音、リストカットのリスだ」
「リスちゃんだね!」
「ぶっ!」
思わず吹いてしまった。
何せ、ちゃん付けなんてされたことがなかったからな。
俺は、頬が紅潮するのを感じながら言う。
「リスでいい……」
「おっけ、リスちゃん!」
もういいや。
「ちなみに俺の名前は偽音イミっていうんだ。腕折ってゴメンね」
「なにサラッと謝ってんだ死ね。しょぼい虫歯の痛みで死ね」
「しょっぼ」
そう言って、イミはケラケラと笑う。
つーか、何でこいつは俺らを生かしてるんだ?
まさか____。
「俺を拷問してもなにも話さねーぞ」
「へ?」
む、違ったか……。ならば、俺にえっちなことをする気か!?
この外道……!
「え、えっちな事をしても、お前を殺すからな!」
「うん?」
あ、あれ?これも違うのか?なら「じゃあ一体なんで俺を生かしているんだ!?」
と、そんなやり取りをしていると、突然何かが地面に落ちる音がした。
どずんって感じだ。
そしてそのあとから痛がる声。
この声は____!
「シ、シン!?イミ貴様シンに何をした!?」
「いや、何もしてないんだけど……」
イミは苦笑いをしながら言う。
とにかく、話はこの目で安否を確認してからだ。
俺は先程ぶつけた腕の痛みを堪えて立ち上がると、歩いて声のした方へ向かう。
だが、ギプスでバランスを崩して倒れ____無かった。
みると、左肩をイミが担いでくれていた。
「ちょ、ちょっと躓きかけただけだ!」
そう言って、イミの腕を振り払う。
俺のクールキャラがことごとくイミにぶっ壊されている気がする。気のせいだろうか。
……気のせいじゃねーな。
そして、シンの寝ている部屋に行く。
そこには____
「ってー……」
シンが寝ていたソファから落ちていた。
馬鹿だろこいつ。
俺以外にマトモな奴は居ないのだろうか。
「つか、何で俺らを警察に突き出さないんだ?俺らは不法侵入したんだぞ?」
我ながら、理由がないと納得できないこの性格は面倒だな。
どうせ、こき使われたり、ヤクザに売られたり、どの道酷い未来しか待っていないんだろうなと、俺は諦め掛けたが、イミの言葉はそれらすべてを覆した。
「だってほら、俺も君たちと同じ殺人鬼だし。何人も人を
殺して
殺して
殺して
殺して
殺し尽くして、しかも脱走した俺が通報できるわけないだろ?つまりそう言う事」
そういうと、ポケットからタバコを出して火を付ける。
「タバコ、いる?」
「いや、俺吸わねぇし。まず未成年だし」
まぁ、殺人鬼が法律を守ると言うのもおかしな話だが。
「それよりイミ、俺言ったか?俺たちが殺人____」
「おーい二人とも、僕の存在忘れてません?」
シンが俺らの会話に割って入る。
……すっかり忘れてた。
「それよりお腹空かない?ご飯食べる?」
「し、仕方ないから食べてやる……」
「僕の存在<朝御飯なの!?」
不協和音
生とは何か。
死とは何か。