ヒトゴロシ
ヒトゴロシ①
野神虚(ノガミ ソラ)は血の海の上を歩いていた。血の生臭い匂いが鼻を刺激する。思わず顔をしかめて下を向くが、自分の足元には砕け散った家族の肉の破片が生々しくのびている。
何度嘔吐しただろうか。いくら死んだ人間に失礼だとはいえ、この光景は6歳には耐え難い光景だった。
家族が殺された。ひとりのこらず目の前で殺された。
虚は何も言えずにただ強ばった表情で眺めていた。目の前で狂乱する家族がカンパニーの手によって人間の形をなくしていく。最後にはもう耳をつんざく悲鳴も聞こえなくなり、ただ死んだ魚のような眼をして血と泡をふいているだけだった。
26世紀の日本は酷く残酷なものだった。
カンパニーの組成である。
カンパニーは家族一組あたりの所持金が-40000を超えると満10歳以上の人間は命を落とされるというものであった。この制度は25世紀に起きた戦争以来日本を持続できるようにと国民の平和の為に制定されたものらしいが、実際はどうだろう。
今ここに、血みどろになりながら地を這う少年がいるのだ。
野上虚は行く宛もなく夜の町をふらついていた。
路地裏に入り、ゴミ箱を漁る。
中には、オートミールの残飯が残っていた。虚は手に取り、無心に無情に食べ続ける。
食べ終わり、残ったプラスチックの容器を再びゴミ箱へ戻しまた歩き続ける。
6歳といっても、物心は十分についている。だから、家族が何にどうされてどうなったかも全て分かっているのだ。ただ、孤独感が強すぎて夢と現実の境界線が掴めきれていないだけだ。
3㌔ほど歩いただろうか。
また路地裏に入りゴミ箱を漁る。
今度はラザニアの残りを食べていた。すると、何者かから声がかかった。
「君?大丈夫?どこから来たの??」
見た目14歳ほどの顔立ちの整った少女だった。
「....」
虚は顔の向きは変えずに目だけで彼女を見据える。
「お腹へってるの??」
「....」
虚はラザニアを食べるのをやめ、眼を伏せる。
「そっか..。おいで、おいしいご飯食べさせてあげる」
虚が行動を起こす前に彼女は虚を抱き抱えて自分の家らしき、ケーキの並んだガラス張りの建物へ連れ込んだ。虚は抱かれながら彼女の背中をぺしぺしと叩くが、彼女は「ふふっ」と笑うだけで母親と話を進める。
話を聞いた母親は、人がよさそうに笑い、
「なら、先にお風呂に入っておいで。すぐできるから」
と言った。彼女ははーい、と語尾を伸ばして虚を風呂場へ運ぶ。
虚は綺麗な真っ白の脱衣場をキョロキョロしながら、彼女に服などを脱がせてもらっていた。その時、彼女の眼がほんの一瞬、見開かれる。
虚の足が、くるぶし辺りまで真っ赤な鮮血で染まっているのだ。足だけでなく、よくみると顔、服、太股なども血が細かく飛び散っている。
彼女の眼が変わったのを虚は気づいていない様子なので、彼女は作業を続けた。
ヒトゴロシ