相方

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 「相方」という言葉の使われ方は現在にとっては多種に及ぶ。自分のパートナーと呼ぶ人を指したり、仕事上の相手を指したりと幅が広い言葉である。
 今回の「相方」は、あくまで仕事上の相方である。それ以上でもそれ以下でもないことを前もって述べておきたい。

 思えば、相方である彼と私は中学から大学まで同じ学校にいた。むろん、相方にとっては私と同じ地元の大学は不本意だったのだろうが。そして、ずっと同じ塾にいた。それゆえ、大学に合格した際、塾長は定食屋で合格祝いをしながら、二人に同じ仕事を任せた。

 同じ学校だったとはいえ、文系と理系、話したことはほぼないに近い。ただ、共通することは、二人が「ベテラン」だったということだった。要は、同じ塾にしつこく残り続け、さらに地元に残り続けるということでバイトを頼むにはうってつけだったのだ。

 私たちはただ仕事をこなした。二人が共通で働くということは当初はなかったのだが、業務を拡大していくにつれてアルバイトの形態も変わり、共通で勤務するということも出てきた。
 
 大学生をたくさん集め、小学生から高校生まで対象の個別指導を開始したころ、同時に集合授業の担当を任されることがあった。相手は中学生。緊張しやすい性格の私に、相方は缶コーヒーを差し出してくれた。そのことが非常に印象に残っている。むろん、私には集合授業の担当は務まらず、すぐに外された。缶コーヒー代も授業後にしっかり百二十円請求されたのも相方らしい記憶である。

 時間がある時にはスタッフの人たちと飲み会に行ったり、夜中まで喫茶店でダベッたり、共通の友人と飲み会をしたりと相方とは大学二年では仕事をしながら遊んでいた。

 大学三年になると、相方が仕事に来る機会が減ってきていると感じた。自分も大学の授業等が忙しくなり始めてきたが、仕事だけは週二~三で続けていた。今考えると、他大学の大学院への進学の準備をしていたのだろうか。学部が違うと学内で会うこともない。必要がなければメールもしない。相方何をする人ぞ、となってしまった。

 そして、私も結果的に大学院に進学することとなったが、その時にはすでに相方とは音信不通となっていた。果たして、現在何をしているのか、それすらもわからない。連絡先もわからなくなっているため、連絡もできないし、する必要もない。

 ただ、缶コーヒーのエピソード、あれはいまだに忘れられない。
その時に、「相方」という言葉がぴったりかな、と感じた。
ただ、やはり仕事上の「相方」であり、それ以上でもそれ以下でもない相方なのである。

相方

相方

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-24

Copyrighted
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