小説への駄目出し集 1
なし 作
蛸 編
ある小説賞の選評より、駄目出しの部分を集めてみました。
ある小説賞の選評から
ある小説賞の選評より、駄目出しの部分を集めてみました。
「残念ながら語られる物語があまりにもありきたりであり、せっかくの描写が生かされてはいない。三姉妹の物語を繋ぐ母親の秘密にしても、とうてい読者を納得させるものではなく、ひとつの物語としての完結性が弱い。」
「設定は面白いのだが、描写が粗雑であるために、読者にリアリティを感じさせることができない。少し緩めの文章もそれに輪をかけている。キャラクター設定もつくりもの感を禁じ得ない。いろいろと提示されるモチーフも最後まで回収されることなく、思いつきの段階を出ていない。ひとつの作品として読者に届けるためには、緻密で誠実な構成が求められる。」
「話を急ごうとするあまり、肝心の主人公のキャラクターに奥行きがなく、読者から登場人物に感情移入をして読むという楽しみを奪っている。連作短編の場合はまず主要に登場する人物たちのキャラクターづけが重要である。如何に魅力的な人物をつくりあげるか、そのあたりにももう少し腐心して欲しい。」
「時代考証や花火についてはかなり調べられていて、読者はその知識にひきつけられはするが、主人公の心情の変わりようにはいまひとつ納得がいかない。それはきっかけとなる大きな出来事がないということに由来するが、どうも作者は人物を大胆に動かす描写が苦手なようにも思える。物語の設定にもそもそも無理があるという意見も出た。」
「展開はありがちではあるが、素直な文体には好感が持てる。しかし読者は物語の最後で、急に作者から恋愛小説と宣言されたような印象を受ける。恋愛小説として成り立たせるならば、少なくとも物語の中盤でお互いを意識し合うなどもう少し伏線や小道具を配するなどの工夫が欲しかった。」
「設定はきわめて今日的で面白い。ただ文字通りゲームのようであり、会話を多用した文章で物語はあわただしく進む。設定が設定のため、もとより登場人物たちに深みを望むべくもないが、物語中にいじめや恋愛を盛り込むからにはきちんとした心理描写も必要となる。」
「設定や道具立てに読者の興味をひく工夫はされているが、いかんせん短編であるため人物の内部に深く立ち入る物語とはならない。連作短編は長編を書く力がないのではと判断されるので、正直言って不利であると述べておく。」
「意外な展開を遂げるのだが、それについては唐突な感じは否めなく、読者はやや戸惑いを覚えるだろう。近親者を愛する主人公の心の内がきちんと書かれていればと惜しむ声もあった。文章も描写も最終選考に残った作品の中では優れていただけに残念である。」
小説への駄目出し集 1