氷の魔法使いと眠る君
ここ最近、氷事件という事件がはやっている。その事件の犯人は・・・。
頭の良い男子生徒と頭の悪い女子生徒がこの事件を大きく騒がせることになる。
氷の魔法使い
ここ最近、人や物すべてが氷らされるという事件が新聞の一面に広がっている。『夏の暑い日になぜ氷る!?』などと。
俺はその新聞をぐちゃぐちゃに丸めてから、パンをくわえて外へ出た。俺は夜風 吹雪(よかぜ ふぶき)。中学3年生で自分で言うのもあれだが、頭がいい。いつもテストでは満点が当たり前。親は俺が永遠の眠りをプレゼントした。
「吹雪!聞いてる?」
「どわっ!一条!?」
俺は食べてるパンを噴出した。彼女は一条 春(いちじょう はる)。頭がすごく悪くて、俺にやたらかまってくる謎の女だ。
「また、私の話聞いてなかったでしょ!」
「お前の話はオチがない。聞くだけ無駄だ。それに、俺にかまってきて何が楽しい?」
一条が顎に手を当てて、考える。考えるだけ無駄な気もするが、あえて言わないでおこう。あとからめんどくさいことになるのはごめんだ。
「私、吹雪が一人でいるとこを見ると、心配なんだ」
「どうして?」
いつもより、真面目な答えが返ってきて、つい質問攻めになってしまう。
「吹雪の目が冷たいから、何か起こりそうで怖いの・・・」
一条が俯きながら答える。やっぱりめんどくさいと思いながらも、俺は一条の頭を撫でた。一条がきょとんとした顔で俺のことを見てくるが、あえてそこは触れないでおこう。
「心配するな。俺はお前とちがって、頭がいい。変なことはしないさ」
「ホント?」
「・・・あぁ・・・多分な・・・」
俺たちが学校に着くと、俺たちの教室の前に多くの人が集まっていた。
「春!!夜風さん!!大変だよ!!」
一条の友達であろう女子生徒が俺たちのもとにやってきた。俺たちはその女子生徒に手を引っ張られて、俺の机の前に着くと、俺の机の上に新聞がたくさん置いてあった。その新聞の共通点と言ったら、あの氷事件・・・。
「誰がこんないじめを?」
一条がつぶやいた。そこにチャライ男子生徒がやってきて
「夜風吹雪、お前が氷事件の犯人だろ?」と逃げ腰の状態で言ってきた。
「・・・・・・」
俺は何も言えなかった。この事件の犯人はまぎれもなくこの俺なのだから・・・。
「吹雪!なんとか言ってよ!」
一条が俺の制服の袖を引っ張りながら、訴えてきた。周りからも「そうだ!そうだ!」と言ってくるやつもいる。俺はこの場から逃げた。一条の前でバレることを恐れたからだろう。
ガラッ
俺は理科準備室へ逃げた。ここは薬品のにおいがきつくて、苦手な生徒も多いが俺は好きだった。
「吹雪!」
後ろから声が聞こえた。追っかけてきたのか・・・。
「違うよね!?吹雪がそんなひどいことするはずないもん!」
一条がゆっくり俺に向かって歩いてくる音が聞こえる。
「来るな一条」
「なんで!?」
「もう俺は自分で自分のことを抑えられない」
「何言って・・・」
「すまない・・・」
俺は一条のほうに右手を突き出して、彼女を氷らせてしまった。
眠る君
「一条!!」
我に返った俺は目の前で氷っている一条の名をひたすら呼んだ。だが、彼女はびくともしない。
「俺は何やってるんだ!!」
氷っている彼女をたたきながら俺は声がかれるまで叫んだ。
しばらくして、先生や生徒がここにやってきて、彼女を家まで届けていつもどおりに授業が始まった。いつもと違うところは二つあった。ひとつは、俺が授業に集中してないこと。そしてもう一つは、周りから恐怖の目で見られるようになったてこと。
俺は一条が一緒にいない下校に少し寂しさを覚えながら、寄り道せずに帰った。
「ただいま」
誰もいない家に一言。親は氷っていて、永遠の眠りについている。
「一条・・・」
俺はベッドにダイブしてからつぶやいた。彼女の存在は俺には大きすぎた。いつも笑顔で接してくれるし、たまにご飯も作ってくれた。彼女は頭は悪かったが、俺には持ってないものすべて持っていた。
「一条・・・春・・・」
俺はそのまま眠りにおちた。
俺は今日少し遅刻して行こうと思い、また寝ようとしたその時ピンポーンとインターホンがなった。
「誰だよ・・・」
仕方なくドアを開けるとそこには、
「一条・・・」がいた。
「何?まだ寝てたの?遅刻するよ!」
「なんで・・・生きているんだ・・・」
「いやいや、勝手に殺さないでよ!!確かに私は昨日氷っていたけど、生きてるし」
「なんで?」
俺はつぶやくようにして言った。
生きている君と眠ったままの君
俺はひとつ仮説を立てた。彼女は光か炎の魔法使いではないかと。
「それはないか・・・」
「何言ってるの?早く準備してよね、じゃないと私まで遅刻しちゃうから」
「あ・・・あぁ・・・」
俺は急いで着替えた。そして一条と学校へ行った。
学校に着くと、やはりみんなは一条が生きていることを不思議がっていた。俺は女子生徒と話している一条をじっと見た。
「なぜ生きている・・・」
整理しよう。俺は一条を氷らせた。けど、一条は生きていた。つまり・・・どういうことだ?氷らされた人は寒さによって凍死するはずだ。死ぬ前に、誰かが溶かしたのか?いやありえない。あの氷は何があっても溶けない仕組みになっているはずだ。今まで天才科学者たちが、テレビで氷の中の人を助けようと、いろいろな薬品を氷にかけているのを見たことがあるが、溶けているところは見たことない。
「吹雪!何考えてるの?」
一条が俺のところに来た。
「一条のことを考えてた」
あ・・・言ってから気がついた。今のはあきらかに誤解を招く大胆な言葉だった。
「あの・・・これはだな・・・」
「分かってる。どうして生きているかってことについてでしょ?何か分かった?」
「分からない・・・」
「じゃあ今日私の家に来てくれない?」
俺はよくわからないまま、頷いた。
久しぶりに一条の家に来た。シンプルのデザインの家だ。
「私の部屋に来て」
なぜが一条の表情がよくない。何があったかも聞けないまま一条の部屋の前に着いた。一条がゆっくりドアを開けるとそこには、氷ったままの一条がいた。
心の記憶と躰の記憶
一条が二人・・・?どういうことだ?
「私を助けて!」
「お前は誰だよ」
「一条春。こっちも一条春」
意味が分からない・・・。この世に同じ人間が二人もいるはずがない。この世の断りが破られている!?
「待て、お前の身に何があった?」
「朝起きたら、私の前で私が倒れていたの」
情報が少なすぎる・・・。
「お前も魔法使いなのか?」
「違うよ。魔法使いって迷信でしょ?」
いやいや、ここに魔法使いいますけど!?
「朝起きてから、何か変わったことは?」
「吹雪がおかしいってこと以外はなんにも・・・」
それはほっといてください。
「あっ・・・そういえば・・・」
「どうした?」
「氷っている私って太陽にかざすと消えるんだよね」
何言ってるんだ?太陽にかざすと消える?・・・・・・待てよ、この前本で読んだもので、これに近いものがあった気がする。
「俺とお前が初めて会ったところは、どこでしょう」
「吹雪?何言ってるの?」
「いいから答えろ」
「うーん・・・思い出せない」
やっぱりな。あいつは頭がかなり悪いが、記憶力はいいはずだ。たしか人には心の記憶と躰の記憶があるという。心の記憶はすべての記憶を管理し、躰の記憶は心の記憶の手助けぐらいの記憶しか刻まれていない。つまり、今俺としゃべっているのは、少しだけ記憶のある体だけ。悪い言い方をすれば抜け殻ということだ。この二人がうまくリンクすれば、やっと一人の一条春になる。でもどうやってする?
「何考えてるの?」
「いいから黙ってくれ」
「うん・・・」
ベタなやり方でいけば、この抜け殻のほうにキ・・・出来ない!他の方法はないのか!俺は頭を抱えて悩んだ。
「ねぇ、私は王子様のキスで目覚めたりしないのかな?」
「ゴホッゴホッ」
俺がさっきまで考えていたことをあっさり言われてしまい、勢いよくむせた。
「我ながら良い考えじゃない!?」
一条が胸を張って言ってくる。
「ち・・・ちなみにお前の考える王子様って誰だ?」
一条がモジモジしながら顔を赤らめる。
「ふ・・・吹雪かな・・・」
「・・・俺!?」
俺は声が裏返った。とてもうれしいがその半面、モテる一条の王子様が俺だと思うと変な気持ちになる。
「吹雪になら、キスされてもいいよ」
「なっ何言ってるんだ!?俺をからかうな!」
「からかってないよ!だって私、吹雪のこと好きなんだもん」
「本当にいいのか?」
一条の頷くのを見て、俺は一条の肩に手を置いて、顔を近づけた。
やがて魔法使いのキスで君は目覚める
俺の唇と一条の唇が重なった。ゆっくり目を開けるとそこには、一条が光っていた。
「王子様の魔法は存在するんだね」
一条が俺にほほ笑む。
「そうみたいだな。またあとで会おうな」
「ありがとう・・・吹雪」
一条が消え、氷からメキッという音が聞こえた。氷が砕けて、中から本当の一条が出てきた。俺は一条を抱きかかえた。
「おかえり」
俺が言うと、一条が目を少し開けて、「ただいま」と返した。
あれから、一条は高熱を出して会えなかったが、何回か電話でやり取りはした。
そして、やっと一条が回復した。
「吹雪!おはよ!」
「はいはい、おはよう」
俺が軽く答えると、腕をからませてくる。
「歩きにくいだろ」
「いいじゃん!付き合っているんだから!」
そう、俺と一条は付き合うことになった。
「お前も変わってるよな」
「どこが?」
「俺は氷事件の犯人で、お前を殺そうとしたんだぞ」
「でも吹雪のキスのおかげで、生きかえったし、氷事件も薄々消えてきてるじゃん」
氷らされた人は生きかえらないけど、一条の氷が砕けたときに、他に氷らされていた人の氷も砕けたらしい。そして俺は、あの日から魔法が使えなくなった。
「あっ・・・吹雪が準備遅いから遅刻しそうじゃん!」
「ホントだ。じゃあ走るからつかまれよ」
俺は一条を抱き抱えると、学校へ走り出した。
氷の魔法使いと眠る君