時を越えて

すんまそん。 人( ̄ω ̄;)
特に無いです

 遠い昔、田舎の小さな町の小さな海岸で二人の幼い少年と少女が遊んでいた。二人は小学校の友達だった。入学してすぐに出来た友達だ。
 空は徐々に赤みを帯びてきて、辺りは暗くなりつつある。しかし少年たちは構いもせずに遊んでいる。ただ一心に《今》と言う時間を有意義に使って。少年は走り回り、少女は歌う。その顔は二人ともにとても楽しそうだった。無垢な笑顔と笑い声。聞いている側も自然と笑みを零してしまいそうな、そんな優しいものだった。
 しかし時間はいづれ来てしまう。どんなに足掻いても、どんなに拒んでも、やがては来てしまう。気が付けば空はすっかり朱色に染まり、夕焼けが前面を埋めつくしていた。
 もうどれくらいの時間遊んでいたのか、それすらも分からない程の時間が経っていた。
 やがて少年の親が海岸に降りてくる。しかし少女の親は降りてくるどころか姿さえ見当たらない。
 そして少年は親と共に海岸を後にすることとなる。名残惜しそうに海岸から海を見渡す少年と、さっさと帰ろうとする親。そして複雑な面持ちで少年を見送る少女。多種多様な表情が伺えた。
「……またあえる、よね?」
 少女は今にも泣き出しそうな顔で少年を見つめる。必死に涙を堪えてなるだけの平然を装った。しかし感情までは隠せない。少女の目尻には少しの涙が溜まっていた。
「またあえるよ」
 少年は笑顔で返す。それは少女を悲しませないための笑顔でもあり、自分の悲しみを隠すための笑顔でもあった。
「ほら、行くわよ。それじゃまたね、お嬢ちゃん」
 少年の親は申し訳なさそうに少女に別れを告げる。理由は簡単だった。もうこれから先少年は少女に会えなくなるのだ。つまり少年は親の都合によってこの小さな町を出て行く事になっていたのだ。親はその事を少年と少女に伝えていた。故に申し訳なさが溢れてくるのだ。少年に対しても、少女に対しても。それに、入学して五ヶ月で引越しと言う事にも。
 少年は手を引かれ海岸から少し離れたところに停まっている車へ向かう。少年は本格的に別れを実感し始めた。
「……まってるから! ずっとここでまってるからっ!」
 少女はとうとう目尻に溜まった涙を溢して叫んだ。
「ぜったい! おれはぜったいここにもどってくるから! やくそくだっ!」
 それを言うと少年は車に乗ってしまう。少年たちにとって、たった車のドアという鉄の塊で仕切られた数メートルがとてつもなく遠い距離に感じた。
 そして車は出発してしまう。少年は窓を開けてずっと少女のいる海岸を見つめて、少女はずっと車の窓から覗く少年を見ていた。それから間もなく少年の乗った車は夕日と共に見えなくなっていった。


 ピピピピッと耳をつく目覚ましの電子音が鳴り、俺は目を覚ます。開きかけのカーテンから春の陽気と日の光が燦燦と差し込む。ついでに小鳥でも鳴いていてくれると優雅な朝といえるんだが。まぁ……その辺は高望みし過ぎってモンだ。
 俺はさっきから五月蝿い目覚ましを止めて布団から這い出る。……まだ眠いぞ畜生。
 なんて寝言を――別に今は寝てないけど――言ってる場合じゃない。俺は高校生であり、ここで二度寝なんてしたら遅刻してしまう。遅刻していちいち怒られるのもイヤだ。内申にも響くしね。
「さて、朝飯だな」
 布団から出てクローゼットに向かい、掛けてあった制服に手を伸ばす。白をベースとしたブレザーで黒と黄色のラインが入った制服だ。少し派手なような感じもするけど地味なのよりは良いか。うん。
 俺はさっさと制服に着替え、まだ寝起きの頭で部屋のドアを開ける。それから覚束無い足取りでリビングまで向かう。
「あら、今日は遅いのね。遅刻しちゃうわよ?」
「そう思うなら声かけて下さいよ伯母さん。俺朝弱いんですから」
「そうね?。今度から気をつけておくわ?」
 そう言って台所で朝ごはんを作ってくれているのは、母さんのお姉さん、つまり俺の伯母にあたる人だ。何故伯母さんにお世話になっているかというと、訳あって小学校の頃少しだけ住んでいたところに俺一人だけ移ってきたのだ。父さんは仕事で赴任中、母さんは海外出張となったもんだから俺は伯母さんに預けられたのだ。何でも一人暮らしさせるだけの金を工面できそうに無いらしい。しかし残念な事にあまりここでの思い出が無い。何かとても大切な約束をしたような……そんな気もしなくもない。
「今日は入学式ですから早めに帰れると思います」
 考えても仕方ないと割り切って、俺は運ばれてきたトーストと目玉焼きを頬張りながら日程を伝える。
「あら、じゃあ今日はあたし仕事だから鍵持って行ってちょうだいな」
 少し驚いたように右手で口元を押さえる。反応がいちいち大げさなのはこの人のデフォルト。
「分かりました」
 素っ気無く短く答えると伯母さんは自分の身支度に取り組んだ。……なんだか申し訳ないな。メシまで作ってもらってその上部屋まで貸してくれて。
 そんな事思いつつ食事を終えて登校する支度をする。適当に必要なものをカバンに放り込む。そして玄関に向かいキチンと揃えられた靴を履き、学校へと向かった。
 この日から俺の波乱万丈な生活が始まった。

時を越えて

前作は一応アレで終了のつもりで書かせて頂きました。
どうも続くような感じにしてしまったのですが続きません。
今回からは続くと思います。

時を越えて

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-07-20

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