魔法のランプ

 古びた我が家でくつろいでいると小包が来た。
 足の踏み場も無い自室に持って行き、足でスペースを作って座る。蹴られた本が、本棚から溢れ出している本と混ざり合う。
 誰が来るわけでもない男の部屋ってのはこんなもんよ。
 小包を開けてみると、カレーを入れる容器のような物と手紙が入っていた。手紙はカーター君からだ。
「君に凄いプレゼントをするよ。なんと魔法のランプだ。この中には魔神が入っていて願い事をかなえてくれるはずなんだ。どんな魔神かは出してみないとわからないけどね。とにかく栓を抜いてみなよ」
 カーター君は神秘主義者でオカルトマニア、いつも私を奇妙な世界に引き込もうとする。栓を抜いて花瓶にでも使ってやるか。ランプの先端にはめ込んである栓を掴んで引っぱってみた。意外と固い。ムキになって引っぱる。緩んできたぞ。
 すっぽ~ん……モア~ン
 なんだ、なんだ、ピンク色の煙が出てきたぞ。煙は周囲に広がり、そして一点に収束して人の姿になった。魔神だ! 魔神が出てきたぞ! 魔神らしき者は澄んだ声で話し始めた。
「よくぞ開放してくれた! 600年も待ち焦がれたぞよ! わらわを魔神と思うておるな、その通りじゃ。わらわはそちら人間どもが言うところの魔神じゃ、ジーンと呼んでくれ」
 その魔神はうら若き乙女だった。透き通るような白い肌に漆黒の髪、重要な所をかろうじて隠しているだけのすけすけの衣裳ときらびやかな装飾品、そしてとびっきりの美少女だ。だがしかし太っている、ボーリングのピンを連想させる体躯だ。魔神ってこうなのか? ジーンは私を見据えて言う。
「では早速三つの願いを言うぞ! 御馳走をたらふく食べたい! スマートになりたい! 彼氏が欲しい!」
 ちょっと待て! なんか変だぞ! こやつボケの才能があるのか? 突っ込まねば。
「あのう、願いをかなえるのは魔神の仕事ではないですか?」
「わらわもこのランプに封印された直後はそのつもりじゃった。でもいくら待っても誰も開放してくれぬ。長く待たせたのじゃから、わらわの願いをかなえてもらおうと思っても当然じゃろ」
 うわ、ワガママ女だ、こんなのとは付き合いきれないぞ。
「付き合いきれないとはなんじゃ!」ジーンは軽く腕を振るう。すると指先から小さい炎の竜巻が発生して私の大事な蔵書に襲いかかる! 燃え盛るエロ本の数々!
「やめて~、なんでも言う事聞きますから、やめて~」
「わかればよいのじゃ!」ジーンはそう言って指をパチンと鳴らす。すると燃えたはずのエロ本が元に戻っている。
 しょうがない、願いをかなえてやるか。まずは御馳走か……ちょっと待てよ、御馳走たらふく食べてスマートになりたいって願いはあまりにもワガママだぞ。
 回転寿司にでも行ってみるか、そうだ、そうしよう、寿司ならヘルシーだし100円のなら安上がりだし。
 あまりにも目立つ格好のジーンに私のジャンパーを着せて帽子をかぶせて回転寿司に行く。圧倒的に怪しいジーンだが、店の誰もが見て見ぬふりをしてくれて助かった。かかわっちゃ危険な変態だと思われていそうだな。実際そうだが。
「誰がかかわっちゃ危険な変態じゃ!」ジーンが可愛い瞳で睨みつけてきた。こやつもしや人の心を読んでいるのか?
「その通りじゃ! やっと気付いたか、頭悪いのう」殴りたい……いや嘘です、殴りたくなんてないです、はい。
 回転寿司のシステムを説明するとジーンは簡単に理解し、どんどん皿を取って食べ始める。
 チョコケーキ、プリン、チーズケーキ、ジュース、ショートケーキ、チョコケーキ、プリン、プリン……。
 こやつ寿司屋に来て寿司食わないのか。それじゃなんのために寿司屋に来たんだか分からんぞ……って言うか、太るのばっかり食べているじゃないか。ああもう御馳走は終了。後ろ髪引かれるジーンを引っぱって公園に行く。
 スマートになるには運動しかないよな。公園内を走りまわって減量することを提案してみた。
「走りまわればよいのじゃな」
 ジーンは意気揚揚と走り始めた。さすがは魔神、凄まじい早さで走る。まだ加速している、まだまだ加速している、姿が見えなくなってきた、強風が吹き荒れ始めたぞ、なんと竜巻発生!
「やめろ~! 走るの中止!」
「なんじゃ、もう終りか」
 ジーンは走るのをやめて歩いて来た。その姿は見違えるようにスマートになっていた。可愛いぞ、凄く可愛いじゃないか。スマートになったジーンはスタイルも抜群なのだった。意外と簡単に二つ目の願いもクリアできたな。
 最後は彼氏か、魔神につりあう男なんているかな?
「彼氏が欲しいって言うけど人間でいいの?」
「人間の殿方がいいのじゃ。人間の殿方を味わってみたいのじゃ」ジーンはそう言って頬を赤らめるのだった。味わってみたいとはストレートな物言いだな。
 私が名乗り出てみようかな。でもちょっと恐い気もするし。そうだ、カーター君を紹介しよう。オカルトマニアのカーター君とならいいカップルになれるかも。もったいない気もするけど。
 ジーンにカーター君を紹介して、カーター君には極上の彼女を紹介したと電話する。気が合いそうな二人だ。いい事をして気持ちがいいな。ジーンは私に一礼して言う。
「そなたには世話になったな。そなたを味わってみたかったのじゃがまあよいわ。我等魔神は慣わしとして交わった後、男は女に精を吸い尽されて血肉もすすられるのじゃ! カーターとやらの味が楽しみじゃ! ではさらばじゃ!」
 ふう、危ないところだった、危うく食われるところだったわけだ。
 そしてジーンは稲妻のような早さで疾走する、カーター君の家の方に! 危うしカーター君。
 しばらくしてカーター君から電話がかかってきた「助けて、たす……」

魔法のランプ

魔法のランプ

ギャグです。手垢のついたネタですが。 自己評価☆☆

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-19

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