アスファルト

懐かしい匂いに起因して昔の思い出が蘇る。

独特な、懐かしい匂い。

都会の夏は過ごしにくい。
ジメッとした、肌に纏わり付くような独特な暑さがある。
顎に伝い落ちた汗を拭う。
Yシャツの中は汗でベタついていて気持ちが悪い。
「なんとかならないのか、この暑さは」
心の声が口からついてでた。
近くにある自販機で冷たい缶コーヒーを買い一気に飲み干す。
ぽつり。不意に足元に水滴が落ちる。
見上げると、いつの間にか黒い雲が空を覆っていた。
ついさっきまで、肌を刺すような陽射しが照っていたというのに。
そんな事を思っているうちに、雨脚は次第に強くなってきた。
小走りで近くのカフェのテラスへ逃げ込む。
空はバケツをひっくり返したかのように水滴を地上へ落とす。
みるみるうちに、アスファルトを黒く染める。
「こんな悪戯をして!」
不意に幼い頃の記憶が蘇る。
あれは、小学生の夏の頃だろうか。

俺の母はとても優しく穏やかな人であり、なかなか母離れができなかったほどだ。
しかし、父という人はとても厳しい人で、子供の悪戯でも決して許さない人だった。
そのため俺は、悪戯もしない、喧嘩もしない良い子でいるようにつとめた。
だが、あの日。
あの夏の日に人生で初めて悪戯をした。
なぜ、やろうと思ったのか。
夏の暑さがそうさせたのかは分からないが、俺は野菜を冷やしていた桶をひっくり返した。
アスファルトに広がっていく黒いしみ。
転がっていく野菜を呆然と見つめていた。
そこに父がやってきて、いの一番に平手打ちをされた。
「こんな悪戯をして!どういうことだ!?」
鬼の形相で叱りつける父に、俺はただ泣きながらごめんなさいと言い続けるしかできなかった。
「片付けておけ」
静かに言うと父はその場を去った。
ぽつり。泣きながら野菜を桶に戻していると、夕立が降ってきた。
5分程だろうか。
野菜を戻し終え雨の中、呆然と立っていると母がタオルを持って家から出てきた。
雨でずぶ濡れになっている俺を抱きかかえると、タオルで優しく頭を拭いた。
何故だか無償に情けなくなり、しゃくりあげながら泣いた。
母は俺の頬に触れ
「痛かったね。もう、やっちゃダメよ?」
と言い、俺を抱きしめた。
いつの間にか雨はやんでいて、辺りには夏特有の、雨上がりのアスファルトの濡れた匂いが漂っていた。

気がつくと雨はやんでいた。
カフェのテラスから出て、空を見上げる。
先程までの暗雲は嘘のように晴れ渡っていた。
ふわりと懐かしい匂いが漂う。
夏の雨上がり、あの夏と同じアスファルト濡れた匂いが。

アスファルト

母の日があったのと、最近雨上がりにアスファルトの濡れた匂いが漂うので。
この匂いを嗅ぐと夏が近いなーとしみじみ思います。
そして肝心な文章は全然まとまらず、ダメダメです。すみません。

アスファルト

短編小説です。夏が近づくと楽しみの一つでもあるんです。この匂いが。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-19

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