エヴェレットの多世界解釈
彼と私の、5年目の話。
「もしかしたら、私たちが恋人同士ではない。なんて世界も存在するのかしら。」
隣に座る君が唐突に呟く。休日の夕方に流れるバラエティを見ていた僕は、画面に固定されていた視線をゆっくりと彼女の方へ向けた。
「エヴェレットの多世界解釈?」
「あら、知ってたのね。」
彼女の台詞をかみ砕きつつ、脳内で答えを検索した結果はどうやら正解だったらしい。学生時代に読書家だった自分を、思わぬところで誉めたたえた。
「いきなりどうしたんだ?」
「別にいきなりではないわ。さっきから考えていたんだもの。」
「……例え、僕たちの間柄が他人だという世界が存在していても。きっといつかは結ばれるさ。
それ程までには、君のことが好きなんだけど?」
「そういう臭い台詞は嬉しいと喜ぶべきなのだろうけど、少しは年齢を考えてくれる?」
視線だけを合わせたままの、意味のない会話。終息した会話にクスリとお互い笑いあって、どちらともなくそっと顔を近づけた。
後から思い出したことだが、今日は彼女と出会って5年目の記念日だった。
エヴェレットの多世界解釈
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