セレブ・ママズ・ベッドルーム
♪1
「ねえねえ亜沙子さん、すごいこと聞いちゃった」
摩耶がストローを口から外して悪戯っぽい目をしながら声を低くした。
・・・この悪戯っぽい眼つきに男は参るんだろうな、と亜沙子は思う。
「なあに、すごいことって?」
「あのねえ・・・吉沢さんのことなんだけど」
「吉沢さん?」
ああ、あの人のことか・・・。吉沢さんというのは同じスイミングクラブにいた仲間であった。一ヶ月ほど前に亡くなった人だ。
「坊ちゃんと事故で亡くなったのよね」
「表向きはね」
フフフ・・・と摩耶は意味ありげに含み笑いしながらグラスの中の氷をストローでかき回した。
「事故じゃないの?車の事故だって聞いてるけど」
「違うのよ。心中なのよ」
摩耶が身を乗り出して声をさらに低めた。
「親子心中なのよ。それも事故なんかじゃなくてホテルのベッドの上で」
「ええ~っ!」
亜沙子はあまりのことに空いた口がふさがらなかった。
「でも、どうして麻耶さんがそんなこと知ってるの?」
摩耶はにんまりと優越的な笑みを浮かべながら
「あたしの弟、警察官なんだぁ。それで耳に入ってきたわけ。だから誰にも言っちゃ駄目よ。弟がたまたま担当してたみたいね。横浜のホテルだったそうよ」
「でも、どうして心中なんか・・・」
なんで旦那さんだけ残して・・・いったいどんな悩みがあったんだろう?亜沙子は割り切れない気持ちがした。優しげでおとなしいタイプだった吉沢さんの顔が目に浮かんだ。
「そう、不思議でしょ?お金にも困ってなさそうだったし、家族三人うまくいってるようだったしね」
「その顔は理由を知ってそうな顔ね」
「フフ・・・吉沢さんの奥さん、妊娠してたそうよ」
「妊娠?」
「どこかの誰かの子どもがお腹にいたのよ」
「ご主人じゃないってことね。不倫してたのねぇ・・・すごく真面目そうに見えたけど」
「まだわかんない?」
摩耶があからさまにからかうような声で笑った。
「え、どういうこと?」
亜沙子はわけがわからず、首をひねってみせた。
「妊娠してて、ホテルで心中したとしたら・・・」
「あ!」
亜沙子は思わず声をあげた。
「え?ウソ!まさか!・・・・・息子さんと?」
「その、まさか、なのよ」
たしかに、もしそうだとするとすべてのことがジグソーパズルのようにぴったりと当てはまる。
亜沙子は衝撃で胸がどきどきしてきた。吉沢さんと息子の翔太君の顔が交互に浮かんできた。
「吉沢さん、高校生の翔太君と近親相姦してたらしいのよ」
近親相姦という言葉がひどく衝撃的に聞こえた。
亜沙子は寒気のような感じがして鳥肌がたってきた。
「まだあるのよ」
摩耶が感情の昂ぶりを抑えるような低い声をかすれさせながら続ける。
「二人はね・・・ベッドの中で抱き合って、繋がって発見されたそうよ。しかも全裸で」
「凄いわね」
亜沙子は思わず口を右手で覆った。
「女性の方の膣からは若い男の体液が検出されたんだって・・・・」
そこまで言わなくてもいいわ・・・亜沙子は思った。
「そう、なにかやりきれない感じがするわねえ。どうしてそんなことになっちゃったのかしら?」
実の息子とそんなふうな関係になってしまうなんて、いったい何故なんだろう?
おとなしく優しげだった吉沢さんの顔が思い出された。
「吉沢さんが欲求不満で息子さんに手を出したのか、息子さんが・・・あの年齢の男の子ってしたい盛りだから。吉沢さんって美人というほどじゃないけどけっこう色っぽかったものね」
ねっとりと薄暗い寝室で絡み合っている男と女の姿が想像された。
「でも、ふつうしないよね?」
その想像を振り払うように亜沙子は同意を求めた。
「でも、けっこうあるらしいわよ。母親と息子って。
思春期の男の子って身近な年上の女に女を感じるらしいわ。母親も例外じゃないのよ。母親の方では男だと思ってなくても、息子はやりたい盛りでしょ」
「やりたい盛り・・・かぁ」
亜沙子は自分の息子のことを言われているような気がして不愉快になった。
彼女の一人息子の昇は高校二年生、16歳だった。
ヒゲも生えたりしているが、彼女には幼稚園や小学校に通っていた頃となんら変わることはなく感じられた。
「お宅の息子さん、昇くん、いくつだっけ?」
「16かな。高二だから・・・まだ子供よ」
「そうかなあ・・・・たまに会うけど大人っぽくなったわよ。彼女はいるの?」
「いないんじゃない。晩生みたいだし」
「母親としてはそのほうが安心かもね。でも、年齢的にはやりたい盛りよ」
「変なこといわないでよ」
「あら、あの年頃は毎晩自分でやってるみたいよ」
「やってるって・・・自慰ってこと?」
「そうオナニー。あなただってやったでしょ?高校生のころは」
「やあねえ・・・でも、毎晩なんてしてないわ」
「男の子は女と違ってすぐ溜まっちゃうのよ。昇君だって絶対やってるわよ」
「決めつけないでよ。どの子もしてるんでしょ?」
「オナニーくらいわね。でもセックスとなるとまだでしょうね」
「それは絶対ないわよ」
「あら、随分信頼してるのね。あたしはウチの娘まったく信頼してないよ。
昇くんまじめそうだもんね。でも、そういう子って、悪い年増女に遊ばれやすいかもね」
亜沙子は、昇がなにか不潔な手でいじられているように思えた。
「摩耶さんみたいな女に気をつけさせなくっちゃあね」
ちょっと逆襲してみた。摩耶は愉快そうに大笑いし
「あら、昇くんだったらあたし筆おろししてあげるわ。歓んで」
亜沙子は摩耶の露出した胸の谷間とミニスカートから伸びた綺麗な脚を見ながら、この人なら、本当に昇を食べちゃうかもしれない、と不安を覚えた。
セレブ・ママズ・ベッドルーム