闇の世界

世界は四本の足で支えられている。
二人でいたら、その柱は四本で翼は四枚。
物質形状の支配者の数。
その均衡が保たれないと、奴等が現れる。

 黄金色の彫刻が施された四角い鏡。ベルベットの布が壁に掛けられ、その前に置かれている。普段は曇ったすり硝子のようだが、全てを現すことの出来る魔法の鏡。
波打つ水面のようにゆらゆらと、滲んで溶けた色に映り込んだり、全てが手に取るように姿を現したりと不思議に変化する鏡。悪霊や超自然的な力は、鏡に映りこむことはない。それは、ここにいるから。鏡の向こうの世界。同じようだけれど、世界は逆さまに創られ、鏡がその扉となっている。扉から扉へと、奴等は自由に飛び立つことができる。
「今宵も、沢山集めたいものだ。」
鏡を見つめながら、呟く声が鈴虫の羽音のように空気を震わせる。月の光のようにぼんやりとした銀色の髪は針のように真っ直ぐで、漆黒の闇のような胸元の開いた服からは、透き通るような白い細い棒切れみたいな腕を覗かせる。

 鏡には、人間が座っている映像が映っている。一人で居る事に満たされない人間。感動も感情も考え方全てが半分で、支える柱が二本の不安定な魂は、奴等の好む味と香りに満たされている。いつか来ないかもしれない幻想に浸かり、かりそめの感情に心を奪われ過去に生きている回想の達人。純粋すぎているのかもしれない。もしくは、過去を七色の薔薇の光に変え、想い出を復活させる儀式をしているのかもしれない。そんな人間の魂はねっとりとしていて、血で染まる程の紅の玉。サキュバス達の獲物。奴等は狩りをしないと、背中から体が朽ち果て、喉は焼け付くように乾くという。魔法の鏡から、いつも世界の様子を伺っている。

 今宵も沢山のサキュバスが、群青色の空に黄金色の粉を撒き散らしながら飛び立って行った。朽ち果て、汚れた背中をコウモリのような翼で隠しながら、彼らの元に舞い降りる。それは、心を奪われそうな感情とぬくもりの感覚。幻想の翼は、彼らの現実も過去も喰らいつくしている。グロスをたっぷり塗ったようなつやつやの唇は、桃色の芋虫のようにぬめぬめと動き、彼らの額にそっと口付け、闇の刻印は存在を露にする。少しずつ毎日、現実も未来も奪われ、もっともっと過去に浸かり、奴等を待つ体になっていくのだろう。夢と妄想の代償は、青白い体と陰った瞳を見ればきっと想像が付く。サキュバスの朽ちた体はその紅の魂の雫で、また艶やかで健康的な輝きを取り戻すのだろう。そうやって、夢や幻の世界に入り込みそっと手に入れている。

闇の世界

闇の世界

世界は四本の足で支えられている。 二人でいたら、その柱は四本で翼は四枚。 物質形状の支配者の数。 その均衡が保たれないと、奴等が現れる。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-07-19

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted