家族 〜癇癪と憂鬱と〜 その3

亜由美さんのことは僕にとってはどうだっていい。だた・・・ただ、母さんには絶対に知られたくなかった。

亜由美さんは、母や父が帰ってくると全く普通だった。
全く普通で僕の方がおろおろしてしまう。
すぐに4人での夕食が始まった。
ただ、イライラしていて、誰かにあたりたかっただけかもしれない。
少しほっとしていると、
「おでこ・・・どうしたの?赤くなってる・・・。」
母さんは僕のおでこにすぐ気がついた。
僕はドキッとして、顔を上げた。亜由美さんがこちらを見ている。どうしよう・・・。なんて言えばいい?
「・・・転んだ・・・。」
言った後で僕はもう少しましな言い訳をすればよかったと思った。普通転んで頭を打つだろうか?肘や膝を擦りむいたならともかく・・・。変に思われたかな。だんだん食欲がなくなってきた。
「さすが、男の子。元気だな。」
父さんが満足そうにそう言った。僕は思わず父さんを見つめる。・・・。
父さんは美味しそうに母さんの料理を食べていた。

「ごちそうさま。」
僕は二階へ行き、部屋のベッドに横になった。まったく今日は疲れた。僕が半分眠りかけたとき、誰かが部屋に入ってくる気配がした。
「あんたねぇ。」
亜由美さんがこっちへ来る。どうしてこんなにコロコロと変われるのだろう?
「転んだって、あんた、私のことかばったの?」
亜由美さんの声は一階に聞こえないようにか静かで低かった。その分、怒鳴られるよりよっぽど怖い。おなかの下のあたりがぎゅっと縮こまるのを感じながら、僕はぶっきらぼうに言った。
「別に・・・。」
亜由美さんのことは僕にとってはどうだっていい。だた・・・ただ、母さんには絶対に知られたくなかった。母さんはやっと幸せを手に入れたんだ。心配かけちゃいけないんだ。
亜由美さんの手が飛んできた。
バシッ
もろに僕の頬に当たった。頬がだんだん熱くなる。
「何なんだよ!何をそんなにイライラしてるんだよっ!!」
僕は思わず叫んだ。その声に驚いてかすぐに父さんがやってきた。
「どうしたんんだ?一体?」
「兄弟喧嘩よ。」
亜由美さんは元に戻っている。そしてそのまま部屋を出て行った。父さんは僕の顔を見ながら苦笑いしている。
「ぶたれたか。」
父さんは自分がぶたれたみたいに顔をしかめながら、自分の頬をさすって、部屋の鏡をちらっと見た。いつの間にか僕は片方だけおたふく風邪のような顔になっていた。
「・・・母さんには・・・言わないで・・・。」
僕が泣きたいのをこらえながら言うと
「男の子が女の子に負けたなんて、格好つかないもんなぁ。母さん、今お風呂に入ってるから。来たのが俺でよかったなぁ。」
と、父さんは笑いながら部屋を後にした。出て行くときに
「仲良くしろよ。」
と念を押すように言って。僕が何かした訳じゃないのに。父さんがドアを閉めたと同時に僕はベッドにうずくまって泣いた。

家族 〜癇癪と憂鬱と〜 その3

家族 〜癇癪と憂鬱と〜 その3

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-16

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted